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―― 大会本部/格納庫 ――
[アルトキュムラスの機体が、特殊フィールドバリアに受け止められ、搭乗者は一時大会本部建物へ、機体は格納庫へと戻されていた。
アルトキュムラスの健闘、それを讃える拍手が上空では起こっていた。]
「ロジャー、墜ちちゃったね。」
[白兎の言葉に一つ頷く。
インターバル時における、アルトキュムラスの機体整備の補佐要請の不備の指摘。大会運営本部へ補佐要請がなされていない事、年齢が幼い事などからの見落としの可能性を知らされ、もしこの時間ロジャーのBigFireが空に在ったならば、一度グレンが向かうという話になっていた。]
[グレンは格納庫近くにある小型BFに向かう。
途中、誰かからグレンのスタッフ端末番号に連絡が来れば一緒に連れていくかもしれない。]
今から追加資材を届ける。
リトルアースの機体、兵装は現在の部品で補っている。
整備者の腕によるが、念のため、一部適合規格のない部品の代用より、本物《レプリカ》を持っていく。
先程、”本館”から届いた。
[”本館”、それは「大会」が行われている会場(エキシビション施設)から離れた所にある、BigFire学術協会によるBF博物館の事である。
本館施設は、BigFire関連の展示・保管の全てを一手に引き受けている地球最大のBF施設であり、其処から送られてきたものだ。
搬送に都合良い小型BigFireでピットに向かうと、整備中のニーナ、そしてリトルアースの所に行き、その旨を伝えて傍らに*資材を置いた。*]
[男は端末をいじりながら歩く。
目に入ったのは、センパイの記事]
あのセンパイがね。
[男は赤い光について考える。
センパイの機体は、最高速度ではクヴォルフィリア以上。
そして機体の大きさもある]
これは骨が折れるな。
さて、本当に骨が折れてるだろうセンパイを見舞うか。
[男は治療室に居るだろうマシマに、大会のスタッフに言付ける。【死ぬと寝覚が悪い。】
花を一緒にどうかと聞かれ、しぶとさの象徴のようなものを頼んで贈った。]
―― ピット ――
[白兎は、ピットの各ブースを見回している。
じ、と暫し特定の機体を見つめているようだが、その些細な行動は、小さな白兎の行動として特に目をひくものではない。
グレンはリトルアースから一旦離れると、搬送用BigFireから湯気の立っている餃子パンが29個入っている籠を持ってきた。]
大会スタッフのグレンです。
話は本部よりお聞きしました。
こちらは差し入れです。
「クヴォル」がコアに関わる声が聞こえるとか。
何かあれから分かりましたか?
[GRAVEの女史に余裕がある時を見計らい、切り出した。
「餃子の王子」――お前なんか、包んでやる――という宣伝文句で有名な、大会の協賛企業の一つだ。]
(>>24のつづき)
[地上は相変わらず平和だった。
ふと空を見上げると風船がふわふわと浮いていた。
空もまた、平和だ]
……あ。
もしかしてピットって空にしかない?
[だとしたら。
長いピットインの間に兵装交換等をできるくらいの人手があれば選手が地上に降りることも可能だが、兵装交換等を一人でやらなければならない場合、果たしてその選手は地上に降りてこられるかどうか]
……つまり、差し入れ作戦をしっかりと行うには、結局グレンさんの力を借りなければ駄目、ということだね。
[というわけでさっそく大会前に教えてもらったグレンのスタッフ端末番号に連絡をかけた]
もしもし、ダイアナです。ピットに行きたいんですけどどうすればいいですか?
……ええ、参加者に差し入れを持って行こうと思って。
[単刀直入だった]
[その時、リーダーが少女を追いかけてこちらに来るのが見えた]
……あと、修理工場に勤めている私の……仲間も一人、連れて行きたいんですけど、構いませんか?
[これからピットに行くと言えば、間違いなくついて行きたがるだろうから。
もっとも、グレンが駄目だと言ったならおとなしく引き下がってもらうつもりだ。
果たしてなんと答えたか]
……分かりました。それでは10分後に、格納庫で。
はい、女史にお世話になっていると。
地上に降りたら、是非食べに来て頂きたいと話してましたよ。
[にっこり笑い、伝言を伝えた。
大量に用意された高カロリーの餃子料理。
胃を弄った女史は顧客の一人でもあるのだろうか?
どちらにしても、全てがブラックホールに吸い込まれるように女史の胃に消えてゆく事は確かだろう。]
―― 大会本部/格納庫(少し前) ――
「――もしもし、ダイアナです。」
[連絡が入ったのは、搬送用小型BFに向かう少し前だった。]
分かった。
構わないが離陸は、5分後だ。急ぐんだ。
[ダイアナとリーダーが格納庫に来た時には、既に小型BFは準備を終えていた。
星が11個ある帽子で直ぐにグレンの所在は分かった事だろう。初めてBigFireに乗った時には、身に着けていたトレードマークの帽子だ。]
今から追加資材を届ける。
[そんな話を交わしながら上空へと向かう事となる。
滑らかに離陸したBFは程なくピットへ。]
――格納庫→ピット――
[ピットに向かう小型BigFire内では思っていたよりも会話がなかった。全力疾走して疲れていたせいかもしれない。
”本館”という言葉にリーダーが一瞬楽しげな表情を見せた。視線を向けると、「観光コースに入ってるんだ」と小声で返答。
なるほど、大会終了後も楽しい観光の時間が待っているのか。こちらは片付けの後すぐ撤収だというのに。
ピット到着後、リトルアースと呼ばれていた機体のそばに資材を置いて立ち去るグレンの後を追うことを少女はしなかった。なぜなら向かった先がGRAVEのブースだったからだ。
大会前に格納庫で因縁がついた男――ユージーンがいるかもしれないと思い近寄るのをためらったのだ。今は因縁を再燃させる気分ではない。
だから、熱心にリトルアースを整備する女性にそっと近付き、]
焼きそばはいかがですか?
[やっぱり単刀直入にそう声をかけた――**]
[喧騒。慌しいピット内。
インターバルといえ、時間は限られている。
この時間内で何処まで機体の修理修復、敵機体に対しての対策がとる事が出来るかで結果が変わってくるのだ。
GRAVEブースから戻ってくると、ダイアナが、リトルアースの搭乗者と話をしているのが見えた――。*]
『早速ここまで壊してくれるとはねぇ、
くくっ、あんな男の挑発に乗ってたら機体が幾ら合っても足りねぇよ。見てみろ、突っ込んだ右翼なんて殆ど使い物にならねぇ。』
――うん。
[ピットに降りるが早いか、手早く機体の整備を始めて行く。
前回のピット時に整備していない所を。と思っていたのだろうが更に状態を悪くして戻ってきたせいか、おっちゃんは苦笑いだった]
『――ま、こっちは何とかするから、嬢ちゃんは休んどけ。』
……でも、機体が間にあわ――
『休むのも役割ってヤツだよ。それに疲れたままあんな飛び方されたんじゃどうしようもねぇ。
やりたい事も。あるんだろう?』**
―空中ピット・表層整備区画―
よいっ…しょ…と……ふぅ。
[開いていたリトルアースの表面ハッチのうち、整備の終わった箇所のクリップを止め、バイザーを上げて額を拭う。
これで修理の進捗は六割といったところ。残り時間を考慮するに、多少は余裕を持って整備を終えられるだろうか。そうなると、気にかかるのはやっぱり、分かれたまま合流できなかった二人のこと。もちろん、他にも懸案事項は山積みだったけれど…]
…フヅキ、ネットワーク回線の誘導だけお願いしてもよいでありますか?
その先は小官が自分で行いますので、フヅキは引き続き再計算ならびに設計作業を願うであります。
[即座に開かれた回線に“手”を伸ばし、情報の海から必要とする案件を探し出す。…“ウィルアトゥワ”と、“サンダーエース”の現在状況]
……ッッッ
[見つけ出したそこに、惨憺たる状況を見て取り、絶句する。
後悔が頭を真っ黒に塗り潰した。
“マリア”の様子から、こうなることは、予想できていたのに。なぜ、自分はあのとき、あの場を離れてしまったのだろう。
その思考だけがぐるんぐるんと頭の中を回り、どうしよう、どうしたら?と、掻き混ぜられた思考は同じ問いを繰り返す。
…自分に、なにができるだろう。共闘するなどと口にしながら、肝心のときにその場から離れ、危険にさらしてしまった自分が何を?]
『小官が墜ちるならばそれは小官の責任です。』
[いつか、ウィリーに告げた言葉を思い出す。そう、そのはずだった。だから、気にすることはない。…などと。
割り切ることなんてできそうもない。気がつけば、伸ばした手は、MiddanEdenのネットワークアドレスを手繰り寄せていた。モニターと称するそこに、かすかな残滓を見つけ、その“気配”を辿り、手繰り寄せ―――]
“―――ウィリアム…さん…?”
[声ではない声で、恐る恐る、呼びかけた。返答は、あったかどうか分からない。聞こえなかった。MiddanEdenの、おそらくは重要機密に当たるであろう“其処”は、幾重もの防壁に阻まれ、遠く、繋がりは細い。そのことに歯噛みしながら、その“手”を繰って、ナニカを紡ぎ上げる。
しばしの時を経て形を成したそれは、ほんのささやかなプログラムウィルス。
強引なナノマシンによる精神介入を感知したとき、正気を呼び戻そうと耳元で囁く程度の、弱弱しいそれ。
防壁の小さな穴を抜け、あるいは間違っても“ウィルアトゥワ”と“マリア”を修復する作業の手を妨害しないように、サイズを最小に抑えたそれは、気休めになるかどうかも分からない]
―― ピット ――
[長いピットインの時間がそろそろ終わる。
私はその間、ぼうっとまどろんで体と脳を休ませていた。
最後に注入されたナノマシンだけではなく、この大会用にチューニングされたナノマシンは多く私に注がれていた。ショーでも滅多にない長期戦は、休んでいる時にこそその消耗を私に自覚させる]
[もしその休息時間に誰かが私を訪ねてくるなら、私はいくつか言葉を交わしただろうし、オープン・クローズド問わず通信が来ても同様だ。……マリアはまだ整備中だったけれども]
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