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[ファンファーレ。鳴り響く勇ましい音。
花吹雪のような色とりどりの光、花の形をした弾幕。
彩られた青空。BF乗り達への祝福。
クロノの黒毛に覆われた手が両脇のパネルに触れると、コックピット内に縦横のラインが走る。ラインで区切られた無数の矩形。それらが半回転し、前面から後方へ潮が引くように周囲の光景が現れた。
クロノの目が、一瞬和らぐ。
思い出すのは、宇宙海賊を討伐し、ラントへ凱旋した時の花。
優しい思い出は、しかし、痛み。]
行くぞ。
メテログラフト。
[既に浮いて停止していたラント製BFは、音もなく事前動作もなく上昇した。]
[一年ほど前、町のBigFire修理工場の面々が、町に現れたごろつきと小競り合いになったことがあった。
その際にごろつきの一人が修理中のBigFireを罵倒しつつ食べ物をぶっかけ、それを見ていた工場の面々が派手にキレて、その後は……まあ想像に固くないだろう。大乱闘であった。
少女は隅っこの方で事の成り行きをうかがっていることしかできなかった。心の中でごろつき達に憤慨しつつも、修理工場の面々を助けに入ることはできなかった。
だって女の子だもん。男どもの大乱闘に入れるわけないじゃん。
要するに格納庫では、青年のセリフと一年前の出来事が結びつき、青年もごろつき達と同じことをしたという推測に至ったのだった。
だけど、あの青年は、あの時のごろつき達とは違う気がする。
BigFire乗りであるという点で明らかに違うのだが、それ以外にも、何かが]
―戦闘空域・中央上限高度―
『このワインダーを避けられねぇ奴は、そこまでだぜ!』
[チャンピオン特権の広域通信が、そんな声を届ける。うるさいなぁ、こちらは乗り物酔いでそれどころでは…]
『ニーナ。避けて』
[直後、友人から入った通信で、やっと我に返った。
機動酔いして青ざめた顔を下方に振り向ければ、その目に反撃の撃ち返し弾が映る。
回避を―――そう考えるが、酔った頭で機動がふらつく。
否、そうでなくとも、単純な機動力に乏しいこの機体では、あの数の誘導弾幕は交わせない]
…ッ
フヅキ、フルムーンにエネルギー供給を。同時にコメットをスタンバイ。ひきつけて切り抜けるであります…
[そうは告げるものの、上手くいくかどうかは五分といったところ。Red Wolfのスペックは把握していたつもりだったが、予想よりも立て直しが早すぎる。
立て続けに負荷の強い制限機動を連発した状況では、避け切れるかどうか…]
[そして現在――]
―― 戦闘空域/南西エリア/上限高度域 ――
[天球儀が、空に浮かんでいる。
眼下…中央エリアには、蜂蜜に殺到する蟻や羽虫達のように、真紅の機体に殺到する Big Fire の姿 ――。]
[距離があれば難はない。
近接距離で放たれれば回避が難しい弾であっても、遠距離であれば避ける事は決して難しい事ではない。
最小限の動きで、クロノはメテログラフトを動かした。
その合間合間に、メテログラフトは青白い光に度々包まれている。近くで見れば、髪の毛程の弾幕を360度周囲に向けて放射しているのが分かるだろう。あまりに細い為、発射の瞬間の光しか見えないのだ。
が、それに殺傷力はない。機体の皮膚感覚に優れており分かったとしても、埃があたったのと同じ程度の感触だろう。]
!?マリアさっ…ウィリー殿!!!
[眉をしかめている暇もなく、弾幕は迫ってきて…そして、間に割って入った>>42。
迫る弾幕は相殺され、わずかに残った誘導弾なら、リトルアースの機動でもかわしきれる。
けれど、その代償にウィリーがいくらか被弾していたように見えるけれど…]
…今のはツケでお願い申し上げるであります…
[と、呟く声は、通信に乗せない。後々気にさせたくはないし、何より集中を乱させる訳にはいかない。
ただ、援護に出し惜しみはなしにしよう]
…フヅキ、弾幕兵装・甲ならびに丙を連結展開。
反動制御を乙に。
出力80・40。
ハイリミテッドコード・スターレイン スタンバイ
[赤い機体に群がる機体と、それに対する対処で上空に意識が向けられることは今のところないものと判断する。
二つの光輪が連結され、機体前面に展開される。そこからぽろぽろとまろび出るように射出されるのは、通常より大きく、ほとんど速度を持たない星型弾。
それが機体の周囲へと展開されて…]
――北西エリア・中空――
[波打つ弾の群れから抜け出し、交戦エリアから距離を取る。
少女の機体には幾つかの掠り傷。今の攻撃でシールドを突破したものが付けた痕だった]
大丈夫、中にまでは届いてない、ね。
『アンギャルド』、また、行くよ?
次は――これで。
[左手首の外側に右手を重ね、『禍珠』を突き出す形。
虹色のきらめきが躍動の度合いを増していく。
不意に、こめかみから頭の奥へずきりと痛みが走った]
……っ、つつぅっ!?
――北西エリア・中空――
[攻撃動作を中止し、防衛モードに切り替える。
その間、約5秒。
通常の乱戦ならば致命的な隙だったろう。殆どの機がゴードンを狙っていたからこそ間に合ったのかもしれない]
っ、これ……何。また、さっきみたいな、の?
[機体との動作リンクを一旦サスペンド。痛むこめかみを押さえながら、生体モニターを呼び出す。簡易診断の結果が報告され――そして、ある外部接続に気づいた]
……お爺さん達、かな?
―― 戦闘空域/南西エリア/上限高度域 ――
なるほど。把握した。
特定箇所の反射率、並びにエネルギー吸収効率。
[メテログラフト内でクロノは独白する。
現在、メテログラフトのバリアの稼動環数は半数にも満たない。時折現れる光弾や実弾を避ければ、この数の稼動数で間に合う。
天球儀の8つの環は、一番外側〜四番目までが稼動しており、環からは橙色の光を発生。環が通り過ぎた後には橙色の光が尾を引いている。その尾にも弾を弾く効果があるようだ。
そして、地上・空から見れば、現在天球儀半分より下部には雲のような煙のようなものが漂っているのも見える事だろう。]
[通信回線を開く。
だがそこに映っていたのはノイズと雑音のみ]
――え? まさか、故障――
[自問する間もなく、ノイズは球体スクリーンの全面に広がっていった]
[何者かの声が響く。今までに聞いたことの無い、女性の声]
▽ターゲットを選択しなさい▽
▽ターゲットを選択しなさい▽
▽ターゲットを選択しなさい▽
[混乱する少女をよそに、声は繰り返し響く]
……なん、なのっ、これ……
―南東エリア・最高高度―
FLAAAAAT OOOOOOUT!
[一息に、駆け上がる。誰よりも速く。
途中の疎らに飛んできた弾幕も、機動だけで問題無く回避出切るほどだったか。]
あー、やってるやってる。
ド真ん中で……派手だなぁ、しかもわちゃわちゃと居るし。
[機位が安定した所で、中央エリアに目を向ける。
全域放送にもあったが、王者の真赤な機体が暴れている。その上『チャンピオンは俺がやる』とばかりに相当数の機体が、雨霰と弾幕を撒いていた]
『ガトラル』、炸裂タイプで、コントロールスタンバイ。
[とりあえずは、消極的らしい。
ぶん、と中空に開かれたレーダーで、周囲を警戒しつつ。]
−北東エリア・中層−
[ゴードンのいるエリアでは、随分と派手な戦いが繰り広げられている。自分と同じように早速何体もの機体を落としている]
さすがはゴードン、私のライバルだ。
……ライバルはこうでないとな。
[ゴードンのアピールの声がこちらにも響いてくる]
ゴードン、覚悟っ!
―東空域・中層―
[水晶竜の放つ弾幕から離れるように位置を変えて上を目指す。その間にこちらへと向かって来るBFも居るには居たが]
私達はまだ空の天辺を見ていないんです。
…ごめんなさい、
――Rainy Day『鉄砲雨』
[キュ、とパネルの上で鋭い線を描くと再び巻貝部分の外周が開き、今度は上方ではなく正面…自分に向かってくるBFへと一斉に放出される。
先程のレーザーよりも少々長い間隔で、また集束させたものを放ち、回避し切れずに動きを鈍らせたBFへは再度『鉄砲雨』を撃って落として行った。
外れたレーザーは赤い機体へと群がっているBF達の側を掠めて行ったかも知れない]
…出遅れてる、頑張らなきゃ。
[次々と赤い機体へと向かうBFを見上げ、一度現在居る中空域を見渡した。]
―― 戦闘空域/南西エリア/上限高度域 ――
[最初に放たれたニーナのばら撒き型の星散弾は、疎らな事と距離もあり、安定して避けられたようだった。次に放たれた中央エリアからのゴードンの弾幕。此方も、然程問題はない。]
掃討を開始する。
[ぼひゅ。
そんな音が相応しい。目の前に上がってきたBigFireに対し、メテログラフトは、大きい粒は3m〜2m、小さい粒は0.5m。大小様々な丸い粒の光弾を、30数個、目の前に吐き出した。天球儀より離れた所に、光が生まれたかと思うと、それが光弾に成長し、放たれたようだった。
鈍足のラント製BFに比べ、その初速は速い。
目の前で機体が光弾の集団に呑まれ、爆発し墜落、下層の特殊バリアフィールドに受け止められるのを見る事もなしに、クロノは淡々と告げる。]
――コクピット内――
[ノイズで埋め尽くされたスクリーンの中、少女の視野に過去の映像が映りこむ。それは今から数えて二十年以上前の光景。
実験惑星『ダレイオスIII』、A-7演習エリア。そこは、今現在のこの場と同様の、戦闘空域だった]
……あたし、……あれ……見たこと、ある……
[映像の中心にあったのは黒い機体。騎士を模した人型のそれは紛れもなく、少女が駆る『アンギャルド』そのもの。十数体のBF機体―いずれも人型だ―に対し、あるいは剣をふるい、あるいは弾幕を放ち、戦っていた]
……乗ってるのは……あたし?
[呟きと共に、ずきりと痛みの波が襲う。戦闘技術に関して言えば、映像の中の機体は今の少女自身よりも遥かに熟練しているように見えた。否――機体性能そのものが、段違いだった。高度な機動、攻撃、回避。そして何よりも違ったのは]
――ううん、でも、これ。わかる。
[不意に『アンギャルド』が上空へと飛翔、敵機から距離を取った。左手を下方に突き出し、何らかの力を収束させていく]
――あれは――
[機体の左手首、埋め込まれた球体が虹色の膜で覆われる。そして球面が輝き、赤い光が敵機それぞれへと襲い掛かった]
……あたし、だ……でも、っは、っ、
[赤光に包まれた機体は次々にくずおれるように倒れ、活動を停止していく。音も無く地表に降下していく、漆黒の騎士]
――あれは、使っちゃ、駄目、なのに。
[ゴードンのいる空域にゆっくりと機体を動かしていく。
ゆっくりと、というのは訳がある。
高速の移動であれば、不意を付かれた時の方向転換が厳しくなること。]
そして……。より多くのライバルを倒すことが出来るから、かな。
[不敵な笑みを浮かべ、ゴードンを狙おうとしている機体、自分を狙おうとしている機体を"銀色の炎"を使って撃墜していく]
私のスピードが遅いのにこいつは簡単に打ち落とせる、と思ったか。全く、BFの大会が楽しみなのはわかるが、ムードに浮き足立っている人間が生き残れるほど楽な世界じゃないぞ?
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