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>>14>>15
……あのな、そんな言い方してねぇだろ?
あの時はまぁ、なぁ?
(「生で中出し云々」の言葉に慌てて反論する。ただ大筋は合っているのでどうにも歯切れが悪い。
ただ反応らしい反応があって、それに少しだけ安堵した)
どした?…大丈夫だって。そこまでヤワじゃねぇよ。
(思わぬ返事に苦笑して取りなす。逆に不安にさせたか、という焦りと同時にほんの少しその様子に嬉しくなる。
ひやりとした廊下を手を引いて急ぐ中、不意に自分がまだ祖国にいた頃の事を思い出す。武装闘争だのテロだのが多く、こうして右往左往して避難する事も珍しくはなかった。ただあの頃は子供だったが、今は違う。
何が起きてるかはさておき、せめてコイツは守れればな。そう思い、自分より小さな手を強く握った)
荷物はあらかた無事なようだな…。さて。
(部屋にも霜が降り、吐く息が白い。何故俺は常に半裸なのかと思いながら特に何も羽織る気はなく、荷物を改める。
タオの部屋に籠っていたのは誰もが知っており、その後ヤブラスが来た以外は誰も来ず。そして今はこんな有様だ。
状況は芳しくねぇんだろうなぁ、とタオに聞えない小声でぼやく。
荷物からレーションをいくつか取り出し、テーブルに並べる。「美味いもんじゃないが」と前置きしてタオに寄越す。猫は落ち着かずに辺りを嗅ぎまわっている。
次に何が起こるか、溜息を胡麻化しついでに大きく伸びをした)
(二階への階段の前で立ち止まる。上を見上げて躊躇った。
“これ以上行ってはいけない。”
頭のどこかで声がする。
“どうして…?”
“どうしても。”
その間にも冷気はどんどん広がっていく。ますます瞳が暗くよどむ。
“上は、ダメ。”
“何故?”
“上には、眠る彼がいる。”
“彼って?”
…――彼ッテ…?
激しい頭痛に襲われる。ワカラナイ。オモイダセナイ。)
がぁぁぁぁッ…!
(混乱する思考に咆哮をあげる。手近な壁を殴り付けると、大きな音と共に、穴が開いた。)
そろそろ回収にいくべきか…。何があったのかさっぱりわからん。
(自分の荷物をあらかた点検した後に、厄介な作業にかかる事に決める。差出人のわからない招待状から始まったこの一幕。何かしらの役と自分の趣味に使えるかと、あちこちにビデオカメラを設置していた。何が映っているかはわからないが、何らかの情報はあるだろうと)
ちょっと辺りを見てくるぜ。すぐに戻ってくるから、お前はここで猫見てろ。それと……俺以外に鍵は開けるな。反応もしねぇ方がいいかもな。
(そう声をかけ、返事を待たずに廊下に出る。
廊下は更に冷え冷えとしている。何故俺は半裸で出てきたのだろうと悔やんだが、とりあえずデータを回収するかと先を急いだ)
(遠くで咆哮が聞えた気がして一瞬振り返り、タオの言っていた人狼の話を思い出す。嫌なタイミングだなぁおい、と誰にともなく呟き、足を速めた)
はぁ…ッはぁ…ッ
(肩で息をする。むりやり、混乱する思考を消した。再び顔をあげる。)
…行かなきゃ。
(今度は一転して、行かなくてはならないと思う。無意識に、自分自身が凍りつく前に、温もりを欲したのかもしれない。
きし…
一段、足をかける。
また、一段。
一段。
ゆっくりゆっくり、上っていく。)
…!
(真ん中辺りでぴくりと反応し、耳を済ませた。扉が開き、閉まる音がした。それを確認すると、再び階段を上り出す。)
(部屋を慌しく出て行く背中を見送り、一旦はベッドの上に腰を下ろすも落ち着かない。
並べられたレーションを一瞥するも、とても手を付ける気になれない。気温は下がる一方で、ガラス窓は凍てつき白く曇っている。
そして、何よりも。
部屋を移動してくる間に、屋敷(?)にこれだけ異変が起こっているにも関わらず、誰にも出会わなかった事はおかしくはないか?
自分はここで大人しく待っているべきではなく、出て行った彼と合流して共に行動すべきではないだろうか)
出てきたのか?…──人狼。
(旅の途中、何度か見てきた人の姿をした獣。
ここへやってきたのも、付近に潜伏する人狼を探し出して欲しいと依頼されたからだ。
ただし、気温に影響を及ぼすほどの力を持つ者は見たことがない。
それはもう、獣を越えた妖しではないだろうか)
…やっぱり、別々に行動するんじゃなかった…!
(忌々しげに舌を打つと、部屋を飛び出し先に出た姿を探す。
霜が降りて白くなった床を踏みしめながら、その足は次第に早くなっていく。
不安に胸が押し潰されそうになりながら、声の限りに名を叫ぶ)
どこだッ?!…──スレシュ!!
(コツコツとブーツが凍った床を打つ音が響く。咆哮の後は自分の足音しか聴こえない。
うす暗く、氷と霜に覆われた此処は、生きている者の気配すら感じられなかった。訝しげに辺りを見回す。
廊下にびっしりとついた霜、そして薄い氷、人が通れば簡単に痕跡が残る筈の世界。それなのに何の跡もない)
――誰かいるか?
(誰にも会わずにまずはデータを回収したい、そう思っていた筈なのに。
ふとこの異様に冷え切った空間に向けて呼び掛ける。返事はない。
なんなんだ、一体ここは。そう呟き階段へと向かう)
(そこに突然、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
聞き違える筈もない、彼の声)
……タオ?
(危ねぇから部屋に置いてきたのに。そう思いながら、それより先に踵を返し、声の方向…部屋へ戻る道を駈ける。
どうか気付いたのが俺だけであってくれ。そう祈りながら)
そっちへ向かってる!黙って待ってろ!
(長い廊下をひた走る。先ほどまで一人で、いつ何処から何が出るかと半ば恐れながら進んだ通路。
だが今は自分の前に何が現れるよりも、彼に何かが起きる方が恐ろしい。駆けながら声を張り上げる)
……お前、待ってろって、言っただろ?
こんな非常事態にどうして部屋から出たんだ…馬鹿。
(角の向こうにヒトの影が見えた。ここ数日間共に過ごした、よく馴染んだ姿。
焦りで息を荒げ、霜を踏み崩してその前に立つ。
何かあったらどうするつもりだったんだ、そう怒鳴りつけようとしたのに。口からでたのは泣き笑いのような、なんとも情けない声だった)
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