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[死者のために、自分にできることがあるとは思わない。
積極的に騒ぎに加わろうとも思わない。
ただ、なにも知らずにいることはいやだった。
もしもミハイルが起きてきたなら、アナスタシアの思い出話でも問いかけたかもしれない]
[友人の血肉に胎の中の赤子が喜ぶのが判る。
そっと、下腹を撫ぜて。謳うは子守唄]
ねむれ、ねむれ……ははのみむねで
ねむれ、ねむれ……血肉を喰らって骨までしゃぶりつくして
……ふふふ。
あたいの可愛い子。ナースチャがそんなにお気に召したのかい?
さあ、今日は誰をお前のために喰らおうか。
誰が良いと、思う……?
[愛しげにさすりながら、
女は今日の獲物――<<ナタリー>>について考える]
同族食いはぱっとしないね。
変な物を食べれば、胃がおかしくなってしまうよ。
……悪食な子だね。
[ナタリーが自分と同じ存在である事は、
彼女から感じる人と違う気配で判っていた。
だけど自分から接触する事はない。
女が求めるのは同族ではなくて。
胎の子のための餌だけなのだから―――]
他の子で、我慢しておくれ。
そうそう、<<ドラガノフ>>なんてどうだい?
美味しそうだろう?
[部屋の中、ひそひそと。
子と語らう母の愉しげな声は、暫く続いていた*]
―回想―
[イヴァンが自室に下がるのにあわせて>>1:184上、彼女も腰を上げただろう。
あかされた話には少しも触れぬままに、どかぎここちない会話が交わされる]
ありがとう。
[部屋の前まで送ってくれた相手に礼を言う]
イヴァンも気をつけて、ね。
[一体なにを気をつければいいんだろうとは、彼女自身疑問だったけれど。
パタンと扉が閉まったなら、一つため息をついてベッドに倒れ込む。
しばらくするとのろのろと起きあがり、アナスタシアのための刺繍をほどこしはじめる。
どこか後ろめたさと、彼女の悲しみへの共感を込めて。
夜も更けたなら、眠りへと誘われる]
― 昨夜:ロストヴァ家・マリーヤside―
[ダークブラウンの髪に深い蒼の瞳の少女の両親へと詰め寄る声が響く]
姉さんが療養にいったなんて、やっぱり嘘!
昨日みたいにごまかされないんだから。
[宥める母親の言葉をはねのけるように]
…イヴァンもいないし、確かめた訳じゃないけどロラン兄さんの姿も見かけないわ。
[ロランの父親は閉鎖的で、直接確認にいっても相手にされないのは分かっていた]
こんな、人狼の噂が広がってるときに、おかしいじゃない。
ほかにも、姿が見えない人、いる。
[唇を噛みしめて、いらだちを押さえきれないかのようにくしゃくしゃと髪をかき回す]
[お前が気にする事じゃないとの父親の言葉には、きっとにらみつける]
…姉さんが心配じゃないの?
それでも親?
[糾弾する響きに懇願が混じる]
ねぇ、お願い、何か知ってるんでしょう?
[口をつぐむ両親の姿に、悔し涙が光る]
もう、いい。
[サーシャの部屋に飛び込むけれど、昨日ひっかき回した姉の部屋に手がかりはなく。
裁縫道具といった愛用の品が持ち出されていることから、自らの意志で出て行ったのだろうと、昨日は無理矢理自分を納得させたのだけれど]
[姉の部屋に閉じこもったまま、いつもサーシャのいた窓際から外を眺める。
マーシャと愛しげに呼びかけててくれる、声が、聞こえた気がした――]
姉さん、どこ…。
[いつしかそのまま夜はふけて――]
― 第一幕・了 ―
―昨日・夜の村道―
[霧がかり暗闇に覆われた村道。けれど歩む足取りは慣れたもので、迷いは無い]
人狼、か……。
[ぼそりと呟く。ミハイルは、確かに「いる」と言っていた。そしてそれは、間違いのないことだと思う。
何故なら]
……………………。
[ふと足をとめた。
いつの間にか青年の周りを取り囲むように、動物の群れが輪をなしている。何かを訴えるように、まるで通せんぼするみたいに、動かない。無数の瞳は、青年の姿をした何かを見つめている]
森におかえり。僕は大丈夫。
人狼なんかに、やられたりはしないから。
[あくまで穏やかに告げる。その言葉に嘘は無い。
冷たい風が吹き抜けて、コートの首元に仕舞っていたマフラーが外れて靡いた]
[やがて観念したように、青年を囲んでいた気配が還っていく。其れを何処か遠い目で見守りながら、ぼんやりと思う]
(………別の何かに、殺されてしまうかもしれないけどね)
[一度顔を伏せ、再び歩き出す]
(それでも、「あの子」は宿に居続けるのだろうから)
[やはり足取りに、迷いは無く]
(だったら僕は、彼女のそばに居たい)
[転々とした足跡は、宿へとまっすぐ伸びて行った**]
"居る事になった者"に対して、俺から簡単な話をしておく。
[外からの人が消え、亡骸が運び出され、宿の扉が閉ざされた後、
人が集まれば、...は予め決められていた事のように話し出す]
本当に人狼の襲撃か、それに見せかけた殺人かはわからない。
[実際は"いる"のだろう。最初から老父の様子は
ロランよりも詳しく識っているようだった]
アナスタシアがここで人狼に食べられたように殺された。
俺たちが泊まっているこの宿で。
[虚しさと莫迦らしいを意識の底に沈めながら、口を開く]
村の方ではこの宿にいた俺たちと、
第一発見者のミハイルの中に人狼がいると看做すことにした。
村の全員を人狼容疑者にする訳にはいかない、そんな判断だろう。
(元々、その為に集められたのだから――)
既に村の者は、俺達を人狼容疑をかけられた
可愛そうな被害者ではなく、
自分達まで容疑者、被害者にしかねない災厄と見ている。
[村人個人個人の内心はどうあれ、
過激で軽率で無責任な声ほど大きくなるし、
煽動する者が存在すれば当然勢いはそちらに流される]
俺たちの中から人狼を見つけるまでは、
宿の外には出られないと思ってくれていい。
無理に出たら恐らく――
宿の外に居る皆は、昨日までの村の皆とは別人となり、
その者は人狼として扱われ、命はないと覚悟してくれ。
[噂に踊らされ、人が死ぬ。疑う事で、人が死ぬ。
どこにでもある話だった。
それがこの村でも行われるだけに過ぎない]
俺たちに与えられた時間はあまりないと思ってくれ。
人狼を見つけられずに長引いた場合、
この宿ごと、火をかけることが検討されている。
[判断するのが父だけならば、今日にも火をかけていることだろう。
薪を大量に用意させていたのは、最初からその心算もあったに違いない]
人狼と共に死ぬか、
人狼を見つけて生き残りに賭けるかは、
その方法も含めて、皆で考えて決めてくれ。
この事に関して、俺は主導的立場をとる気はない。
資格もないかもしれないしな。
[そう言ってから、少しだけ間を置いた]
怨むのなら、この状況でアナスタシアを殺した思慮のない者を怨め。
村を恨むなとは言わない。
ただ、生き延びたとしても死んだとしても村を、赦して欲しい。
これは俺の我侭だ。聞かなくても全く構わない。以上だ。
[これが最後の仕事だと、心の中で*区切りをつけて*]
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