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あ、いや、……。
[ふと感じた違和感を、上手く言葉にすることが出来ず]
考え事してる風だったから。
体調、大丈夫?
[先ずは病弱な彼女の身を気遣うけれど。
でも其処で引くことが出来なかったのは、色んな意味で残された時間が多くないことを知っていたから]
―――…何か、気づいたこととか、あった?
[体調を心配する言葉に、大丈夫と返すけれどもやせこけた頬のその顔色は青ざめて]
気がついた、こと。
[呟くと、完成間近の手元のリネンに目を落とす、イライダのための―]
水車小屋、いかない?
[実際のところあまり調子はよくない…この騒動に心労が募る。
誰かに聞いてほしかった]
[顔色の悪い彼女を心配する眼差しは本心から。
ただ、本の僅かに、相手を人狼か否か見極めようとする気持ちが混じってはいたけれど]
……………。
[彼女の手にした布を見て、思う。アナスタシアの顔に布をかけてやったのは、きっとこの人なのだ]
うん。いいよ。
寒いから気をつけて。
[水車小屋へという提案に頷き、ゆっくりと立ち上がる。具合の悪い彼女を気遣うように、手を差しだした。
窓の外には既に暗くなり掛けている。何処かから再び、狼の遠吠えが聞こえた気がした]
― 食堂→水車小屋内部 ―
[イヴァンの気遣いに礼を述べ、そっと目立たないように移動する]
ふふ、どうしてかしら、この宿に来てから、何かが狂いだしたよう。
[いえ、あの幼い日が始まりだったのかもしれないとは胸中にとどめる]
…夢を、みるわ。
[端的すぎて伝わりはしないだろう言葉を落とす。
遠吠えに耳を澄ます]
―水車小屋内部―
この村は変わらないよ。……何も。
[それは18歳の青年が語るにしては、深い重みを持って響く言葉。
彼は見つめ続けてきた。何年も、何十年も、否、それよりも更に、遥か昔から。
―――…冷気に閉ざされたこの村を。
彼女が心中で呟いた言葉も思い出も、知る術もなく]
夢……。
それは、どんな、……ゆめ?
[静かな小屋の中、遠い獣の声だけが響く。
そっと息をのめば、僅かに緊張した空気が彼女に伝わるだろうか]
変わらない、か。
人は変わっても、営みは続いても、そうね、この村は変わらないのかもしれない。
[その言葉は彼女の胸にも重く響き、目の前の青年に初めてあうかのように感じてふと視線を正す]
不思議な夢なら、昔からみたわ。
あの子も知らないことだけれど。
[目の前の青年の言葉に宿った緊張に、彼が人狼の可能性もあるのだと思い至って身を堅くする]
だけど、それはこんなに夜毎じゃなかった。
誰か別の人の過去の情景、たとえばそれはマーシャの。
[探るような視線は隠せなかったけれど、それでも告げたのはすぐそばの食堂に人の気配があるから]
ここにきて最初の夜は…。
[躊躇いに言葉をきるものの、泣き笑いのような表情で告げる]
アナスタシアさん…。
[断片であることは今までと変わらず、けれど誰の過去であるかは判断できるほどに鮮明な]
これだけじゃ何ともいえないでしょう?
過去をのぞき見られるなんて、気味悪いだけ。
[もし決定的な場面を夢見たなら、人狼とはいえるかもしれないけれど、人であることを断定はできない気がした]
[視線を正す彼女に気づけば瞬いて、それから緩やかに目を細めた。それは、「いつもの」イヴァンの顔]
――――夢はね、教えてくれてるんだよ。
自分では気づかない大切なことを、教えてくれてるんだ。
父さんの受け売りだけどね。
[他人の過去の情景を夢に見るというサーシャ。
其れを聞けば、身体に走る緊張は更に強く。確かに決定的ではない。曖昧かもしれない。
けれど、…そう、彼女は間違いなく]
…………………。
[占い師だ、と。言いかけて、泣き笑いのような顔が目に留まった。
自分の能力に怯えているようにも見えた。其れに気づけば、なんだかすとんと、緊張感が抜け落ちて行って。
…後に残ったのは、得体の知れない哀しさだけだった]
………サーシャさん。
その夢は、イライダさんの言う「占い」なのだと、僕は思う。
人狼を探すための手がかりが、
僕たちには、あまりにも何もない。
でも、サーシャさんの夢なら、きっと役に立つと思う。
[彼女の言葉が本当か嘘か。それを判断する術など持ち合わせてはいないが。目の前に居る「占い師の子」へと、静かに語り掛ける]
気味悪くなんてないよ。…凄いことだ。
僕は守りたくても、それができないから。
僕は探したくても、それができないから。
サーシャさんのことが、羨ましい。
[そして同時に、恐ろしくもある。けれどそのことは、胸の内に仕舞って]
出来る限りで良いから、…人狼を、探してほしい。
多分、サーシャさんにしかできない。
[深く頭を下げる相手に、応えたくはあったけれど]
…だけど、誰の夢を見るかだなんて、私にはわからない。
[戸惑いにその目が揺れる]
できることがあるなら…と、そう願うけれど。
[頭をあげさせるように、そっとイヴァンの肩に手をかける]
私が、ほんとに占い師なのだとしたら、多分、イライダさんも人間だわ。
[今朝見た夢を思い返す―イライダに尋ねて、一致するのか確認するつもりだった。
彼女の父親が生きていた頃の――]
死ぬのなんて怖くなかったはずなのに、なんて皮肉。
あの子に看取られずに逝くのはこんなに怖い。
[イヴァンの顔を見つめる眼は、相変わらずわずかに焦点があってはいない]
[と、唐突に胸に痛みが走る。
両手で胸を押さえると、意識を失ってその場にくずおれる]
あ、まだ…だめなのに…。
[しばらくは乱れたままの脈は、徐々に正常に戻っていくだろう]
――――――……。
[頭を下げた体勢のまま、誰の夢を見るのか分からないとの言葉を聞けば、緩く目を開いた。つまり無自覚なまま、彼女に殺されてしまう可能性もあるということだ。
大きく一度瞬きをしてから、肩に乗せられる手に顔を上げた]
イライダさんは、人間。
[彼女の言葉を深く頭に刻み込む。誰が人狼で、誰が人間か。
相手が人狼だと知れれば、―――きっと殺すことにためらいなんてない、筈だ。その為にこの宿にとどまったのだから。
…大切な人が人狼である可能性なんて、欠片も考えてはいなかった]
死ぬのが怖いなんて、当たり前のことだよ。
マーシャはその言葉を聞いて、喜ぶかな。…悲しむかな。
[おそらくは、その両方だと思う。
姉思いの彼女もきっと今頃不安な夜を過ごしているのだろうと思えば、苦笑交じりに溜息が零れて]
――――――…ッ、サーシャさん!?
[ふと揺らめいた彼女の身体。反射的に身体は動き、崩れ落ちるサーシャを受け止めながら、床に膝を突く]
誰か、……
[人を呼ぼうと食堂へ視線を走らせるが、徐々に彼女の容態は落ち着いてきた様子で。ほっと安堵の息をつく]
ごめんね。疲れさせちゃったみたい。
温かい部屋に戻ろうか。
[その声は、彼女に届いていただろうか。
拒まれないのならば、軽いその体を抱き上げて水車小屋を後にする]
[―――――その、道すがら]
ねえ、サーシャさん。
「占い師」の力はね、人狼を見つけるだけじゃないんだよ。
…知ってるかい?
[ぼそりと零した声はあまりに小さく、夜の空気に吸いこまれてしまうだろう。発作の後で意識がぼんやりとしていた彼女の耳には、はっきりとは聞こえなかったかもしれない。
けれど彼女が問いなおしたとしても、寂しげに笑みを浮かべて「何でもない」と告げるだけ]
また、夜が来るね。
[霧がかる夜空を見つめながら、今度ははっきりと呟いた。
やがて食堂へ戻れば彼女を暖炉のそばへと連れて行く**]
― 宿・自室 ―
[...は、昼過ぎからずっとベッドの上でぼんやりと寝転びながら、天上を見つめていた]
結局、前向きな意志を見せていたのは、サーシャとイヴァンだけだったな。
[昼間の騒動後、残された面々の様子を思い出せばそんな感想しか出てこない]
(明朝の騒動からいきなり突きつけられて、即座に心を落ち着けて対処できる方がどうかしている)
[ミハイルはまるでアナスタシアを
悼んだような素振りを見せたが、それだけだった。
ドラガノフは怒りを隠さず、フィグネリアは涙に暮れ、
ナタリーは衝撃を乗り越えようし、
イライダは思案に耽っているようだった。
オリガはショックのあまり部屋で寝込んだまま姿すら見せない]
このまま無為に一日を過ごし、
もう一人あたり、誰かが人狼に殺されれば慌て出す、か。
[必要ならば関わるが、そうでない限りは、村人個人個人の判断、決意に水を差す気も邪魔をする気もない]
(その殺される誰かが、俺であってもそれはそれでいい)
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