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[見下ろす先に深く抉れたコンクリートの床。
どこからが土であるのか、どこまでが灰色であるのか、仮面をつけていない人間であっても判別は難しかったに違いない。
左手には刃。
柄が己の掌のように吸い付く。
例え錯覚であったとしても、吸い付いた血の臭いは離れない。
幾度も殺し続け、屍の重みに耐えかねて欠けた刃。
その切っ先を――コンクリートへ叩き付けた。
廃工場の屋根に止まっていた鳥が一斉に飛び立つ。
穴の周りを壊して、壊して、壊して、砕けて出来た欠片を穴へと放り込む。どうやら周りを削って埋めてしまう作戦らしい。
仮面の下の表情は見えないが、しゃがんで作業を続ける姿は鬼気迫る何かがあるように*見えた。*]
―深夜 北ブロック・公園―
[自分よりも頭半分ほど高い位置にある青年の双眸を見つめ、彼の名を繰り返す。承諾の言葉と共に、魔法陣から踏み出した]
ナツカ、ヒジリ。わかりました。
魔術使いたる貴方を今世におけるマスターとして認め、聖杯との契約に於いてその意志に従うことを誓いましょう。
……私のクラス、ですか? この姿を見て想起いただける通り。
巨人ゴリアテと戦った折の如く、アーチャーの階級(クラス)を私は帯びています。
12人目、眞奈 みなみ がやってきました。
――早朝/自宅マンション(東ブロック)――
うぅー、わたし、死んじゃう! 死んじゃうよー!
[送迎の車で帰ってきたのは数分前。空は既にべっこう飴の色をして、鳥の囀りが時折聞こえる。下半身の倦怠感を引き摺って、ソファの上で瞼が重くなるままに――。その時、視界に朱色の蝋燭で描かれた魔法陣が映った。召還の儀式を終えなければ、今日を終える事は出来ない]
[体を起こし、カーテンを閉じる。彼女にとって本家からの命は絶対だった。聖杯戦争に参加すること。この日に召還の儀式を行うこと]
あーあぁ、知るのがあと二日早かったら仕事休めたのになー。
でも、今日やることなんて召還と、自己紹介くらいだし、早く終わらせちゃおう……。
[魔法陣の前に立つと、みなみの顔から砕けた表情がすっと落ちる。唇の端だけが微笑みの表情を作り、目を閉じて内部に描かれるイメージに魔力を通していく。安っぽい色をした朱色が、光を帯びて色の深みを増していく]
Ay Amour――
求めるものは貴方の口付け
Me muero por un beso tuyo
それで私の全てを委ねましょう
Tu eres mi vida
どうかその姿を、今此処に――
Solamente Tequiero
魔術師が、人間であることを忘れるな。
魔力を供給するためには休息をとることは大事だ。無尽蔵ではないのだから。
篭るつもりもない、永続的になどここは人が住む場所ではないからな。もとより承知している。身を隠し、魔力を蓄える場所としてここを選んだだけのこと。
……バーサーカー。もしかして穴を埋めてしまうだけとか、そういうことか。
[作業を始めたバーサーカーを、呆れたように見た。]
時間がかかるなら、自分で元に戻す。後十分で全部埋めてくれ。
[呆れた様子のまま、隅に置いたトランクへと、*腰を下ろした*]
[マスターを承認する言葉に安堵の表情を見せながら]
君が望むもの、僕が望むものそれぞれの為に契約成立ってことでいいかな。
名前はナツカでもヒジリでも呼びやすいように呼んでくれてかまわない。
ふむ、三騎士の一角アーチャーか、心強い。
[ゴリアテの話を聞いて少し考え込んで何かを思いついた表情をする]
そうか、あの石は君が投げた石だったんだな。
そしてそれ故に君はアーチャーなんだね。
[召喚の触媒となった石を指差した]
13人目、悪の皇帝 アサシン がやってきました。
悪の皇帝 アサシン は肩書きと名前を ジェラルド に変更しました。
ジェラルド は肩書きと名前を アサシン に変更しました。
――東ブロック マンション――
[涼やかな、美しい声の詠唱。それが進むにつれ、魔法陣のある場に影が収束していく]
[その儀式はしかし、その声にはまったくそぐわない、禍々しく、黒々しい召還だった]
[先ほどまで通っていた魔力が一段、また一段と勢いを弱める。光が収束し、体から出て行く魔力が繋がった先の何かに落ち着き、そして、彼女は目を開けた。そこに在るのは、一つの影。その存在から放たれる、カーテンの隙間から漏れ出る明りを掻き消すほどの闇]
……え、えーと。
その、は、はじめ、まして?
[声をかけられ、ゆらり、と影が蠢く。その視界に自らを召還した者を捕らえ、数秒、それは沈黙し――]
ゲラ……ゲラゲラゲラ。
[そして――その口が頬まで裂けたかと見えるほど、奇っ怪に笑った]
ひっ、
[そこにただ存在するだけに思えた影が動いた。僅かな安堵と、視線に得体の知れない恐怖を覚えた。再び口を開こうとした瞬間、マンションの一室に響く不気味な笑い声。思わず悲鳴を上げそうになり、口を手で覆った]
え、え、えっ! な、何?
お、驚かさないで……!
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――!
[女の慌てた声に、笑い声はいっそう高まる。狂ったように笑う影]
ボ……ゴン、ゴボ……
[突如、下卑た笑い声とは違う、不気味な音がした。影で構成されているのではと見紛う体躯……その肩口から泡のように、影色の人の頭が無数に湧き出す。見る間に巨人の腕のようなカタチを形成したそれらが一斉に口を開け、狂喜した]
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ――――――!
[その禍々しい腕が、女に向かって振り下ろされた]
[影から発せられる笑い声は高まり、後退し続ける足がリビングの壁で止まった。どうしたものかと思案した瞬間に、日常生活では決して聞くことのない奇怪な音が響く]
ちょ、ちょっと待っ、
[影はどんどんと形を変えて行く。数多の頭。巨大な腕。そしてそれが、振り下ろされる。避けようとして避けられるものでもなく、ただそのまま力が抜けその場にへたり込んだ。次いで来る衝撃に、近くの電話台が形を失っているのを目にする]
――っ!
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