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[ ふわふわと水の空から落ちてきたのは、見知ったかお。
正確には、グエンは顔を知らないから、見知った姿。
明るいみどりのそばに下りた子は、慌てた様子。
グエンはそうっと近づいて、
杖の先で、その子をつつく。
隠れていた箇所には、ひとではない耳が生えている。
ぱちくり、数度、グエンはまたたきをした。]
[ 地面に降り立つとすぐ、木の周りを歩き回った。
ぐるぐる回って捜したけれど、全然どこにも見つからない。
ふと気がついて、木の上を見上げてみたけれど
やっぱりどこにも見あたらない]
そんな…………ひぁ!?
[ 途方にくれた、そのとき。
肩に、なにか硬いものがぶつかった。
あわてて振り向くと、そこには見知ったひとの姿]
あっ……
[ グエン、と呼ぶよりも早く、とっさに頭を抑えた。
問われると、慌てて口を開く]
わたし、帽子。
なくして、さがしてて。
帽子が、ないと、
ないと……
[ その先が続けられず、くちごもる。
頭を抑える手が伝える、どうぶつの毛の感触には、気づけない――気づきたくないまま]
[ グエンがおどろきのいろを見せたのはいっときだけ。
今、眼差しは、シェーフヒェンを見つめている。
髪に隠れされたひとみを覗くように。]
帽子。そう。
ないと、だめ?
たいせつな、ものかしら。
……。
帽子がなくても、耳があっても。
あなたは、あなた。
あなたは、わたしの知るシェーフヒェン。
それに、変わりはないけれど。
[目をそらしはしなかったけれど、怯えた視線をグエンに返す。
変わりない、と言われると、目を見開いて、まばたき二回]
でも、わたしは、
わたしは……
[声は、だんだんと小さくなった。
驚きの色は徐々にうすれ、どこか諦めたような表情に変わる。
そしてゆっくりと、頭から手を下ろし]
そう。
ひつじの、あなた。
あなたは、ひつじ。
そうだったのね。
かたちが嘘。
気持ちも嘘なのかしら。
いっしょにいたあなたは、
ぜんぶ、まぼろしだって、言う?
…指、つめたいな。
[まっくら森にも夜があるのか、一段と冷えた闇の中
吐く息の白さに、こどもははしゃいでヒグラシに纏わりついた。
のんびりと散歩でもするように、ゆっくりと歩いて。
目指すのはみずうみを越える長い橋]
[踏みしめた霜柱が足の下でさくさく折れる
そんなことすらも楽しくて、傍らの誰かをいちいち見上げてた。
一緒に歩くだけで、嬉しくて。
そんな嬉しい理由も、楽しい理由も、
どうしてなのか、もうとっくに気付いていたけれど。
どう伝えていいか、わからない。
尻尾があればいいのにな。
言葉は難しいけど、あれはとっても簡単だから。]
ほら、オマエにもあれが見える?
[指差す先に見えるもの、
みずうみから生まれる無数の蛍火をアーチに映し、
ガラスの橋はまっくらやみに、白く青く浮かび上がる]
…なあ、どっちが早く向うに着くか、競争しないか?
かけっこには、自信があるんだろ?
[ふふん、と挑発するように笑った**]
[>>14グエンの言葉に、ぶんぶんと、首を振って]
うそなんかじゃ、ない。絶対、ない。
……グエンは、ゆるしてくれるの?
森が叶えてくれた願いごとを、ずっと隠してたことを。
わたしには、本当の名前もない。
わたしはひつじ。群れのひつじ。個のない、ひつじ。
わたしは「わたし」であることも、嘘かもしれないのに。
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