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[その時、ウェンディの瞳に正気が戻った。
アルコールに浮かされた虚ろな瞳の光が、意志を持ったエメラルドグリーンに変化する。ぬいぐるみを握る小さな手が震え、仮面を付けたエキストラの1人、中年の女性を射るように強く見詰めた。]
へえ、見物に来たんだ。
[小鳥のような可憐な声は低く低く響く。ウェンディは、小さなくちびるを舐める。凍りついた様にこわばった笑みが、法令線の見える年齢を感じさせる頬に浮かぶ。]
[男の指が女の細い顎に食い込んだ。
さして力を込めているようにも見えないが、それでも締め付ける力は万力のごとくに、顎の骨を軋ませる。
ニィと笑みを刻んだ唇の間から、驚くほど白い歯がこぼれた。
喉奥から、威嚇するような吐息が吐き出された。
それは、「闘わないのならば何の価値もない」と囁いているかのようであった。]
[腰からゆっくりとスカートの下に指を這わせ、中をまさぐる。]
[――カチャリ。
脚の付け値で無機質な音を立て、その手をゆっくりと上げる。
顎が軋む。凄い力だ、とキャロルは思ったのか、眉頭のあたりが微かに歪んだ。]
――……っ
[スカートの下から抜き出した銃を右手に携え、その銃口を男の胸元に突き付けた。]
馬鹿なことをすると――…こうよ?
勝負の舞台に上げる前に、イエス・キリストの元にご挨拶させてあげる……
[そのままウェンディはフラフラと歩き、近くに居たスタッフを呼び止めた。]
──ねえ、今から武器庫に案内して欲しいの。
手ぶらで連れて来られた参加者の為に、こっそりホテルの一室に色んな武器を用意してあるんでしょ。
はやくから、ホテルに入ってるんだもの。
それ位良いじゃない。
あたしなんて、子どもみたいなもの。
すごおく、弱いんだもの。ね?
[ふわりと妖精のように微笑み、ワンピースの裾を摘んで愛らしい少女だった名残を感じさせる動作で、スタッフの腕を取った。]
[暫くして、ウェンディは再びカジノに現れた。
出演者の印として馬鹿馬鹿しい不思議の国のアリスのコスチュームに身を包んだウェンディを眺める好奇の視線は無視して、華奢な足でカジノの中を、まるで誰かを探すように滑稽なまでに必死で走り回った。否、実際に彼女は滑稽なのだろうが。]
あたしがサインして、最初に入ったお金で見物に来て、ギャンブルに使う。新しいピカピカのそのドレスと言い、隣のその新しい男と言い、恥知らずも良いところね。
あたしが最初にデビューした時からそうだった。
最初に成長抑制剤を打った時もそうだった。
あたしがあんたの為にAVに出た時もそうだった。
親戚のおじさんとお金絡みで揉めた時もそうだったわね。
何処まで借金を作れば済むの?
何処まであたしから搾取すれば気が済むの?
この番組であたしが生き延びたって、また同じ事の繰り返しなんでしょう。あんたの腐れた血と、ヤクザとの契約と、雁字搦めのあたしが自由になる日なんて永遠に来ない。
[ウェンディは、うさぎのぬいぐるみを投げ捨てた。
よく見ると、そのうさぎは薄汚れ随分と古びていた。ちょうど彼女が本当に子どもだった頃から使い込まれて愛玩されていたもののように。]
[ぬいぐるみの中綿が赤いカーペットを汚す。
ぬいぐるみの腹を抉り、武器を彼女はカジノに持ち込んだのか。
銃声が続けて数発響いた。
後に残るは、至近距離で顔面を穴だらけにされた中年女性の遺体。飛び散った脳髄がバカラテーブルと、カードを汚す。
“ママ”と呼ばれた彼女の横に居た、愛人とおぼしき男が隣で失禁した。ウェンディはギラギラと焼け付く様な憎しみの瞳で、ただ死体を眺めている。男には目もくれない。ハァハァと獣の様に息があがり、銃を撃った反動で痛む肩を抑えた。それから──、]
さよなら、ママ。
[ウェンディが最期に味わったのは、こめかみに触れる冷たい金属の感触。最後の銃声。]
[不思議の国のアリスが軽い荷物──人形かなにかの様に床に倒れた。
気が付けば、アリスの隣、打ち捨てられたうさぎのぬいぐるみが真紅に*染まっていた*。]
元子役俳優 ウェンディ がいたような気がしたが、気のせいだったようだ……(元子役俳優 ウェンディは村を出ました)
[胸元に銃口を突きつけられていると言うのに、男の瞳は微塵も揺らぎはしなかった。
否、更に一層笑みが深くなった。またあの奇妙な熱意が、ゆっくりと瞳に浮かびつつあった。]
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