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― 誕生日>>337 ―
練習、してくれたんだ。嬉しい。
お母さんには悪いことしちゃったかな。
[にこにことケーキを食べながら、コーヒーを楽しむ。
と、隣から瞳を覗き込まれて。]
もちろん。
そろそろ僕もミサキの家族に挨拶したかったし、ね。
[きちんと礼節は守りたい。
ちゃんとした関係を続けるためにもそれは大事だというのはよくマムが言っていた。
この人と一緒にいたいのは、本気だったから。]
[プレゼント、と言われて、こてりと首をかしげる。
もう十分もらってるけどな。
でも、うん、ミサキがくれるというならもちろん喜んで。]
なんだろうな、たのしみ。
[食べ終わったら、きっと微笑みながら受け取るんだろう*]
― ある放課後のアリス ―
[隣から手を添えられ、その温もりが伝わってくれば――さすがに無下にはできず。
横並びのシートでも、その人のほうを向いて。]
あー……
えっと…
あたしには何も無い
美咲に比べたら全て劣る
だから妬んでた――それはそうなんだけど……
けど……あたし、自分が嫌いとかじゃないんだ
むしろ誰よりも自分大好き――ってことは知ってるか
梨花に自意識過剰って言われたけど、それが何だってのよ……あたしの体は自意識でできてんのっ!
だってさ……あたしには何にも無いんだもん
何も無いから…自分で自分を信じるしかできること無かったから
自分信じてさ、せめて前向いて立って歩き続けるぐらいしかできること無いじゃない?
…――だからあたしは、そう在れた
美咲が憧れるあたしに成れてた
もし、あたしに1つでもしっかりした拠りどころがあったら、あたしはそれに寄り添ってしまってたと思う
でも美咲がいてくれたから、美咲が何もかも頑張って上回って、あたしに何も無いと証明してくれたから
あたしは自分に何も無いって知ったし、だから、あたしでいられたんだ
だからね?
あたしは、美咲のおかげで成り立ってるって言ってもいい
だから、ずっと妬んではいたけど……それ以上に美咲にはずっと感謝してきてるの
[だから、ありがとう――と重ねられた手を握り返して。]
あたしが美咲の理想でなくなったのはごめん
でも、それは美咲があたしを追い抜いただけよ
……こうして初めて美咲に向かって話すことができたのは、あたしを抜いて行った美咲の姿が見えたからなんだと思う
あ、そうだ
言っとくけど、理想のあたしを創るのはいいことだからね?
美咲の中で、理想のあたしがずっといるのなら、ずっと美咲の前にいるのなら……ずっとそれに着いて行けばいいじゃん
それが美咲が得た武器なんだからさ、それで生徒会長務まるならあたしも光栄よ?
[と、人差し指を立てて見せてから――]
…でもっ
あたしは美咲に敵わないけど……美咲の中の理想のあたしに負けるのは我慢ならないから、あたしも成長して必ず抜き返してやるからね?
だって、美咲の理想にずっと収まったままのようなのが、美咲が憧れる久方霞なわけないじゃないっ!!
ふふっ…――でしょ?
[その指を、びしぃっと美咲に向けて、あのときから変わらぬ笑顔を見せた。]
だいたいさ…
こんなふうに言ってくれる美咲をさ、何があったって大好き以外になれるわけないじゃない?
…――そんなわけでさ、これからもよろしくね?
[と、両手を握り込んで、また笑って。]
せっかくだから言うけど……凌ってさ、その意味で、美咲によく似てる
何でもできるし、誰からも頼りにされるし、優しいし、顔もいいし――そりゃ神様扱いでも当然と思うわ
でも、凌に無いものだけあたしが持ってて、あたしが持ってるもの以外全部凌にはある
美咲とは背中向けてたからやりとり無かったけど……
凌は正面向いて立っててくれたから――あたしの全部をあげられて、凌の全部もらえてる
それがずっと毎日、繋がったままで――あたしの全部が惹かれてるんじゃ、そりゃ美咲の知らない顔だって見せてるわよねー……
[頬をかきたがったが両手が塞がっているので少しだけ目逸らし。]
…――あ、でも最近の凌のほうが空気も顔も全然違うでしょ?
あたしも最初はさー、うわぁハルより難しい人間この世にいたんだ…とか思ってたもん
それがよ?それがよ?…
[なんて惚気けて見せたり。
ビターな香りはもうどこかに消え失せて、仲の良い甘くて涼やかな空気が包まれたところで]
おしっ、丸く収まったところでっ
美味しくパフェでも食べよっか!
……
…………
………………
甘っ〜〜〜〜〜〜〜っ!!
いったい誰よ!
こんな変なの頼もうって言ったのっ!!!
[なんて不条理な叫びとか。
そんなところまで含めて、結局はいつもと変わらない風景があった。**]
― おまけ ―
あ、ごめん
久方霞、一生の一度のお願いしていい?
そのザッハトルテ…あとで口直しに一口くれない?
[どれぐらい何も無いかと言えば、そんなのに一生賭けてもいいぐらい。**]
― クリスマスの日に ―
じゃあ父さん、母さん。サヤ送っていくから。
[玄関鍵閉めないでおいてねと言い残し
彼女を家まで送りに、一緒に来た道を戻って]
子供が恥ずかしくなる位にな。
久方のおじさんと蘭さんもそんな感じに
俺は見えるけど
……そうだなぁ。ともに白髪が生える頃になっても
ずーっと、仲良くできたらいいよな。
[そんな未来を想像して、小さく笑んで
そんな帰り道。玄関までもう少しといったところで]
サヤ。あのさ。
今日はありがとう。それと……
[と、差し出す紙袋
包装されたチャコールグレーの3WAYブランケットが
そこには入っている
荷物になるだろうし、と帰り道に渡そうと思っていて
クリスマスプレゼントとして、君に*]
──(回想)8/2 美咲と>>275─
女子会したね。入学してすぐくらいだったもんね。
乙女ゲーね。
[一緒に笑って]
美咲ちゃん、もう、恋愛マスター気どり?
わたしにしてみれば、まだまだ若葉マークだよ?
わたしの相談に乗るだなんて。
[そう言って、茶化して]
まあ、でも、それだけ言えるようになったなら、なによりだわ。わたしの方は、相談事より、惚気話の方が多くなると思うけどね!
[そう、わたしたちの時間は始まったばかり、これからだって、ずっと一緒のはず**]
── 誕生日 ──
[10月の空は、もうすっかり暗くなってて。
空には月と、星が1つ2つ。
流石に満点の星空とは行かなくて、山奥と住宅街の明るさの違いを目の当たりにした。
先程の公園まで、また歩いてくると、ベンチに座ろうと促して、2人でベンチに並んで腰かけた。]
さっきの話しの続きをしてもいい?
私は幼馴染のガキ大将でね?
よく3人をボコボコにしては泣かせてた。
弟とはしょっちゅう取っ組み合いの喧嘩とかしてね。
小学生の頃は、女の子の方が体格良いから。
……んでもある日、弟の背が私に並んでね。
弟が私に馬乗りになって殴った時、母が初めて強い声で怒って……
弟と2人で真剣に話してて。
それ以来、弟は絶対私を叩かなくなった。
今もしょっちゅう筋肉みせびらかして。
『叩いて来いよ!!』なんて煽るんだけど。
弟からの反撃は絶対無いの。
[小さく空を見て笑うけど、寂しそう。]
創慈も、ルウシェも。
どんどん背が伸びて、あっという間に私を追い越して。
力だって全然敵わなくなって。
2人から叩かれたことは、1回も無い。
たとえ冗談やお遊びでもね。
男の子達は背が伸びて力が強くなるのに。
私の体は丸みを帯びて、脂肪がついていって……。
全然違うものになっていくの。
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