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[川辺の草むらにて、白狐は午睡から目覚めたようでした。
一つ欠伸をかみ殺して、いつもの青年の姿へと変わります。
散り行く櫻に背を預け、漆塗りの見事な竜笛を取りいだしました。]
それにしても。
これのあるじは、何処にいらっしゃるのでしょうね。
対なるものは、共にあらねば寂しかろうて。
[笛の嘆きを慰めるが如く、そろりと口を寄せ息を吹き込みました。
流れる川のせせらぎを琴とし、笛の調べは流れて行きます。
習った事のない出鱈目ですから、何処で聞いたとも知れない曲となったでしょう。
いつしか、散りゆく櫻の花びらすらも、その調べに舞いはじめるでしょう。
いえいえ、それすらも…あやかしの見せる一時の夢かもしれません。]
[直垂に袴を膝丈で裁断したような衣服を纏い、昨晩通った道を歩く。短く刈られた髪は、道行く者に奇異に映るかも知れず、それでも当人は気にする風でもなく]
なんだ? 何か、あったのか?
ああ出入りが多いと、今晩は無理だなぁ。
[昨晩入り込んだ邸を遠目に見つめて、近くに座り込んでいた老人に何があったのかを尋ね、答えを得るとやがて引き返した]
[──後刻。
おとこは物言わぬ侍女たちに傅かれて、乱れた狩衣から衣を改めていた。
陰陽寮に出勤するにもこの頃は簡易な狩衣で済まそうとするこの男が、きっちりと衣冠を纏っているのは何を予期してのことか。
女房装束の女が庇まで出て見送るのに、]
留守中に人が尋ねてくるやも知れぬ。
その折は、直ちに知らせるように。
[と言い置いて屋敷を出る。
卑官ゆえ牛車の類も許されぬが、何かと物騒な昨今、下人の一人も連れ歩かぬのも奇妙ではある。
とまれ、ふらりと大路に歩み出た。]
[足を向けたわけでもなく、通りがかった邸の前で、値踏みでもするかの様に塀の中へと視線を送り]
でっかい屋敷だな。確かここは九条の……。
狙うには、でかすぎる。
[中に見える寝殿をみながらぐるぐると屋敷を囲む道を歩く。見れば物乞いの子に見えなくもなかったが、来ている衣服は上物で]
[近衛府に馬を走らせ、検非違使へと使いと検分改めを要求する。
して気になるのはそこにあった銀と翡翠紐の男の二人と赤毛の青年の妙な気配。陰陽師と言っていた。銀の男、キツネとは真か?]
……気は進まぬが…仕方あるまいか。
[陰陽寮へも使いを走らせる。了解を得られれば同行求め、なくとも事の次第寮へも伝わるだろう*]
[やがて東の門まで来ると、通り過ぎながらこそりと中を覗く]
(窺うなら、夜だな)
[通り過ぎると、足早に駆けていく。駆けながら、それでも目線は辺りの様子を確かめるように]
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