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(ふむ……どうしたものか。)
[ 何事もなかった筈もない。
だが、シャーロットはそれを隠そうとしている。
常の時ならば、話を合わせ誤魔化された振りをする。しかし……]
あるわけない、という言葉が聞こえたんでね。
[ 言って、シャーロットをじっと見詰める。]
……最初にここを見に入った時から、君の様子は尋常じゃない。良ければ…話を聞かせてもらえるかな?
見るだけ…でしたらかまいませんがのう?
実は以前にこの人形によからぬ感情を持った者もおりましてな。
主人はそういったものをそれはそれは嫌うのですじゃよ。
穢さなければご自由に。
淫靡でございますかの。
ほっほ、そんな表現をされる方は初めてじゃよ。ナサニエル様。
…さも淫靡でありましょうな。
それはすでに花散らした人形でございますれば。
[老人の目が細く歪む。その意味、ナサニエルは気付くかどうか]
[ひとしきり展示室の人形を見終わるとふぃ、と一つため息を。
どれも確かにすばらしい。素人目にもそれはわかる。造形、表現どれをとっても一級品だ。しかしこの気味の悪さは何なのか。
まるで人形の視線はすべて自分に注がれているようで。その恨めしげな視線は自分が「仕事」を終わらせた時に感じる視線そのもの。
リアルすぎるのだ、何もかも]
…シスター、眠そうだなぁ。休んだ方がいいんじゃね?
[わざと気遣うふりをして、彼女に部屋へ帰るように促した。地下室を探索するのに人がいるのは流石に面倒だから]
「あるわけない、という言葉が聞こえたんでね。」
(やっぱり、全て聞かれた……)
[シャーロットは、自分を真っ直ぐと見つめるハーヴェイを直視できず、視線を落とした。
再び、沈黙の時が流れる――。]
何も…ないですよ。
[そう一言だけ、口を開く。
その言葉を紡ぎだすのに、どれだけの時間を要しただろうか。
ふと、シャーロットは気づく。]
(そういえば、ハーヴェイさん、以前この部屋に入ってる筈。
もし、自分と似た人形を見てるのなら、何か言ってもおかしくない…?)
ハーヴェイさん、この部屋に入るの、初めてじゃないですよね。
何か、気になった人形とか…ありませんでしたか…?
[''あれ''を、見てる筈はない。
''あれ''は、存在しないのだから――。
そう自分に言い聞かせたシャーロットであったが、何か引っかかるものがあるが故に、ハーヴェイに問うたのであろう。
シャーロットは、視線をハーヴェイに戻すと、その反応を待っていた。]
[老執事の言葉は、元々演劇の中にいた青年には謎かけのような美しいものに聞こえたかもしれない]
よからぬ感情…ですか?
クククっ、それもわかるような気がいたしますがねぇ。
ピグマリオン…いえいえ、なんでもありません。
ご自由に、というと…?
[断りなくとも、材質に興味はあったのだが、ともかくこちらの人形師の気分を損ねないようにと]
あぁ、召使いのように捉えて差し支えないのでしょうか?
とりあえず、当方の荷物を運んでいただけるのかな。
こちらのお嬢さんに…
[そういって自分のよこしまな考えを誤魔化した。
けれども、やはり目が彼女の方へといってしまう。
淫靡…と彼が見たのは、彼女の少し開いた口から見える小さな歯の事だったのだが]
気になった人形か…特にこれが、というのは無かったな。
[ 展示室の入り口に立ち、中を覗き込む。]
うん、素晴らしい出来栄えのものばかりだとは思うけど、特に気を引かれるものはないね。
シャーロット、君はどうだったんだい? 何かあった…それとも、あるような気がした?
[ 精神的に不安定になっているように見えるシャーロットを少しでも落ち着かせようと、ゆっくりとした穏やかな口調でそう訪ね返す。]
ほっほっ、ピグマリオンがなぜガラテアを作りましたかの?
現実に失望したからでございましょうに。
理想とするものに何を抱くか、でございますかな。
主人の胸中、執事風情がなにゆえ知りましょうか。
そのメイドは召使でございます。
それ以上の感情は無用でございますぞ?
ゆめゆめお忘れ召されるな。
ふふふ…
[なるほど、と心の中だけで呟いて]
そうですね、お側でお使えしている、あなた様がご存知ないのに、当方のような旅人には、とうていアーヴァイン氏のお心など…
とはいえ、人形が作家の心を表すという言葉も真実だと思っておりますよ。
[メイド人形に関しては、釘を刺されたものだから、内心ではどう思っていたことだろう。しかし、それを表に出すことはせず]
ふふふ…かしこまりました。
いえ、当方はこの人形目当てで立ち寄った訳ではありませんので。そう、どちらかといえば、舞台装置的な…大掛かりな自動人形を拝見したいと思ったのですよ。
まさか…人形に懸想など…
[と目を伏せながら答えて、老執事へ了解の意を表した]
(やっぱり、''あれ''はなかったんだわ。)
[そう思うと、シャーロットは小さく笑みを浮かべる。
まるで、自分を嘲笑うかのように――。]
ちょっと、探していた人形があったんです。
でも、ここにはないみたい……
[一度目にした事は、敢えて言わなかった。
隠そうとしたのか、それとも、シャーロットの中では''見てない''ものとしてるのか。]
……ハーヴェイさん。
まだ、ここにいますか…?
私は、部屋に戻ろうかと思ってるんですが。
[部屋の中、風が吹き込む訳もなく。
カタカタカラカラ音聞こゆるは何ゆえか。
笑い声のように響く音。
空はすでに墨色に。窓の水滴は雨を教えるか。
老人、少し目を細め]
機械人形でございますか…。ならば明日にでも地下をあけましょうか。大型の人形はすべて下にありましてな。
ほっほっほ、貴方様のような方にお見せすると…少し心配でございますぞ。いや、私としてはぜひご覧いただきたいがの。
[冗談めかすその声。真意はいかほどか]
人形も人に会えれば歓びましょう程に。
[ステラを部屋に無理やり帰すと、先ほど目をつけた地下室の入口へ向かう。ご丁寧にわかりにくいようになってはいるが俺の目はごまかせない]
さて、お宝拝見といきますかね。
[ドアに手をかけると重いが施錠の感覚はない。この不用心さだとハズレか?と内心舌打ちしたくなったが、様子からして展示室の延長、ビンゴのようで]
[老執事の言葉に返した笑みは芝居ではなく本心からであったろう]
そうですか…地下に…自動人形が…!
それはありがたい!
[心配という言葉には苦笑を隠しながら]
なにを心配していらっしゃる?
ははは…大丈夫ですよ、先ほどおっしゃっていたことは。
[早く会いたいのは山々だったが、ここは我慢をして]
人形が歓んで迎えてくれるのであれば…それは身に余る光栄です。少なくとも当方にとっては、ね。
ええと…明日というと…こちらには泊めていただけるのでしょうか?当方持ち合わせもあまりございませんけれど、別に馬小屋でも納屋でもあれば、そちらでも構わないのですが…
[人形にさえ会えれば、と、心の中で付け加えた]
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