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……そのまま静かに暮らしていられたら。
何も、要らなかったのにな……。
[幸せだった時間は、あっという間に過ぎ去って。
運命を変えたのは、父親の元から訪れた、喪服のように真っ黒なスーツに身を包んだ男達の知らせ。]
…………少し、喉が渇いちゃった。
飲み物買ってくるけれど……ベニは何か飲むかい?
……いや、いいや。
ベニもおいでよ。飲み物でなくても、好きな物頼んでいいよ。
[立ち上がり、手をさしのべて。
その手が取られても取られなくとも、車内販売員の元へと向かった。
頼んだのは、温かい珈琲と……小さなチョコレートを、幾つか。]
大丈夫。
おねえちゃんならきっと、あたしがいなくても、自分の力で心臓を動かしてくれる。
[そう断言する顔は、どこか淋しげで、しかし、期待に満ちていた。]
おねえちゃんが生きて、これからも幸せに生きていてくれること。
それが、あたしの“しあわせ”
[シャロの言葉>>35を、ただ黙って聞く。
男の子を欲するお爺さんやお父さんの期待に応えようとして、お母さんにつらい思いをさせたくなくて。
それで男の子になろうとして……
きっと、たくさん傷ついたし、我慢もしてきたのだろう]
……シャロは、優しいね。
[しかし、思うことは多かれど、口をついたのはその一言。どうやら、ミナも同じ琴を感じたらしい>>45。
不意に、彼女がポケットを探り、何かを探し始めた。
どうやら『お母さんが作ってくれたお守り』が無くなってしまったらしい]
大切なものなんだね。
僕も手伝うよ、ミナ。
[スケッチブックを取り出すミナに告げ、シャロの返答を待った]
優しい、かな?
[少し首を傾げる。女の子だったらと言われるのがいやだった。
母が辛そうにしているのがいやだった。
そんな少女の自己防衛は優しいと言って良いのかどうか解らないけれど]
僕が男の子だったらみんなが笑ってくれると思ったの。
でも、見た目や言葉をそうしても男の子になれるわけじゃ、無かったから。
[それでも気がつけば意地のようなものが混ざって、意味が無いとわかりつつも女の子の自分に戻ることは出来なくなっていて。
だからこそ、作ってもらった女の子らしいそれはとても、大切で嬉しかったのに]
…あのね。
[渡されたスケッチブックと鉛筆で、描いたのは掌に載る程度の大きさの、花柄の小さな巾着袋。
縁の所にはレースがあしらわれ、紐はかわいらしいリボン。全体に色とりどりの小花があしらわれていて……]
お母さんが、作ってくれたの。僕はそれを追いかけて、いて。
[そして、崖から足を踏み外したんだ、と。]
……ああ、そうか……
[僕はもう死んでいるんだと、そこで気がついて。でもそれを口にして良いものかどうか解らなくて視線を彷徨わせる]
じゃあ、あたしも、行くね・・・
[立ち上がり、レナが出ていった客車の扉をちらりと見て、再びウルに向き直る。]
・・・あ、これ。
[ずっと胸に抱えていた学ランをウルに差し出した。
はじめに見たときは怖かったけど、手放すとなると、なぜだか少し、さみしい気がした。
自分の存在を認めてくれた人が身に着けていたものだから、かもしれない。]
あたしも、話せてよかった。
名前を呼んでくれて、撫でてくれて、うれしかった。
絶対に手に入らないと思ってた、もう一つの“しあわせ”を手に入れられた。
・・・ありがとう。
[追いかけていた大切なもの。
貴方は貴方のまま、女の子で良いのと言う母の思い。
男の子になれたらお母さんが哀しい思いをしないと思っていたの。
伝えられなかった自分の思い。
そこに確かに幸せがあったのに、気づかないまま自分は、その幸せが詰まっているお守りを追いかけて、それを手放したらいけないと思って崖から落ちた。
高い崖を落下する速度は速くて捕まるものはなくて、もう僕はダメなのかな、と思ったのが覚えている最後。
それでも一緒に落ちていくお守りに手を伸ばして、指先が届いた、様に思えたのだけれど]
(―お母さん……ありがとう)
[母の想いに気づいたのは遅すぎたかもしれなかったけど]
これ、よかったら。
[上着から外したボタンを、彼女のほうに差し出す。
…どうしてこんなことをしようとおもったのかは、わからない。
ただ、なんとなく自分が彼女に受け取ってほしいと、
そんなふうに思ったから*]
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