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……琴座のベガと言えば、ね。
ベニは、北極星って知ってるかな。
いつも北の空に動かず輝いて見える、空の目印にもなる星なんだけど。
[何故動かずに見えるのかとか、探し方だとか。星の話なら、山ほど浮かぶ。]
遠い遠い、そのまた昔。
琴座のベガが、北極星だった頃があったんだよ。
……そして。
遠い遠い、ずっと先の未来。
ベガはまた、北極星になるんだ。
[廻り回って、いつの日か。そう、希望を抱いた。
……結局、北極星と同じ。
自分はその“いつか”を、見届けられないのかもしれないけれど。]
……こんな話ばかりでゴメンね、ベニ。
退屈だったら、列車の中を見てきてもいいんだよ?
ボクは……まだもう少し、此処に居るから。
[ふと。自分ばかりが話しているのに気が付いて、苦笑を浮かべて、ベニへと問い掛ける。
かたん、ことん。
小さな揺れと、金属の擦れる微かな気配を伴奏に。列車は思いを乗せ、進む**]
あたしとおねえちゃんは、双子の姉妹で、生まれる前からずっと一緒だった。
あたしは、おねえちゃんのこと、ぜんぶ知ってる。
好きなことも、嫌いなことも。
・・・でもね、おねえちゃんはあたしのこと、なんにも知らないんだ。
妹がいたことも、ね・・・
あたしは、“生きて”生まれることができなかったからーー
おねえちゃんには心臓に病気があって、無事に生まれるかわからないって言われてたんだって。
でも、実際に生きて生まれられなかったのは、おねえちゃんじゃなくて、あたしの方だった。
生まれたときには、息してなくて。
蘇生も不可能で。
けど、心臓だけは、まだ生きてた。
だから、あたしの心臓は、おねえちゃんの身体の中に移された。
そうすれば、おねえちゃんも、あたしも、生きていられるから。
そしておねえちゃんは、毎日薬を飲むことと、ときどき病院で検査を受ける以外は、ごく普通に育っていった。
あたしも、おねえちゃんの中で一緒に生きて、一緒に育った。
楽しいときも、悲しいときも、ずっと一緒だった。
あたしとおねえちゃんは、ふたりでひとつ。
あたしのものは、おねえちゃんのもので、おねえちゃんのものは、あたしのもの。
そう思ってた。
パパとママは、心臓のことを世間に知られたくなくて、おねえちゃんにも、あたしのことを隠した。
生まれる前につけてくれた「ニイナ」って名前も、妹がいたことすらも、なかったことにして、おねえちゃんの中にある心臓は、どこかの誰かからもらったものなんだよってことになって・・・
誰も、あたしを見ていない。
誰も、名前を呼んでくれない。
視線はあたしの方を向いてるのに、見られているのはおねえちゃん。
呼びかけられる名前は、いつもおねえちゃんの「レイナ」って名前。
しかたないって、思おうとしたよ。
こうして、おねえちゃんの中で生きられるだけで、幸せなんだって。
・・・だけど、ちょっとずつ、耐えられなくなって。
ある日、とうとう爆発しちゃった・・・
その日、おねえちゃんは校舎の裏に呼び出された。
同じクラスの、男の子。
学校の制服はブレザーだけど、転校生だから学ランを着てて、ちょっと目立ってた。
その子は、「好きです」っておねえちゃんに伝えた。
おねえちゃんも、その子を好きなんだってことは知ってた。
だって、その子を見たとき、その子と話すとき、ドキドキするのは、あたしの心臓だから。
当然、結果は大成功。
喜んであげられたらよかったけど、
あたしは喜べなくて・・・
ずるい。
そう思っちゃった。
おねえちゃんは、あたしの心臓で生きてるのに、あたしは何も持ってない。
おねえちゃんは欲しいものをぜんぶ手に入れられる。
パパも、ママも、友達も、好きな人も。
どうして?
ずるい。
そう思ったら、急に心臓が暴れ出して・・・
そのあとは、覚えてない。
・・・気がついたら、ここにいた。*
[全てを話し終えると、ニイナは黙ってうつむいた。
こんな話を聞かされて、ウルはどう思うのだろう。
反応を見るのが怖くて、顔を上げることができなかった。
しかし、話せてよかった。
そう思ったのも、また事実。]**
ふ、え?
[カロラ女の子だったんだ、と問われれば>>1:97びくりと肩が震えた。手にしたカップの中で、自分の同様と同調するようにミルクが揺れる。
なんで気づいたんだろう、とカロラを凝視したところでミナの反応>>2:106は、逆に馴染んだものでほっとしてしまったような。
大概が自分を女の子だとは思わないし、女の子だと知った時は驚き目を見開かれるのが常だったから]
うん。
[目を見開く青年へはこくん、と頷くとえへへと悪戯っぽく笑う。
間違えられるのは慣れっこだったし敢えて間違えられるようにしているのだから、相手が間違えたことを気にしないようにと]
この方が、男の子に見えるかな、って思って。
[髪を切った理由は本当にただそれだけの。
上には二人の姉。跡継ぎの男の子を切望されていたのに女の子だったから。
女の子であることを責められる理不尽を、大人にぶつけるにはまだ子供過ぎて。
気にしないでいるには幼い頃から繰り返される言葉は鋭すぎた]
[戸惑うようなシャロの反応に>>18、笑顔は絶やさぬまま。
その動揺が手にしたミルクに伝わるのを見て少し目を伏せる]
……驚かせてしまったかな。
ごめんね、変なことを聞いて。
声と、仕草と、あとは――ちょうど、君くらいの妹がいるから。
男の子に?
……そうなんだ。ずっと、ずっと、小さな頃から、その髪型だったのかな。すごく馴染んでいて、似合っている。
可愛いよ。
[お世辞ではなく、そう思う。
だけど、ミナに向けた悪戯っぽい顔は、どこか無理をしているようにも見えて。男の子に見せようとしている理由には触れぬまま、ただ、可愛くなっていいんだよと、穏やかな笑顔で彼女を見た**]
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