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がんばるねぇ。
[見ていたところ、サイラスの足の速さは常人の域を出ない、といったところであったように思う。
そのサイラスが、こちらの滞空時間のうちに家の中を登ってこようとするのは生半のことではないだろう。
ならばこちらも、手をこまねいているわけにはいかない。
サイラスの到達までの間に、ロサをくるくると回し、可能な限り、空中に散った水気を集める。
とはいえ、サイラスの推測は正しい。
一気に拡散した水蒸気を掻き集めるには時間がかかるし、こちらもすでに大技を二つ使ったあと。
質量を武器にできるほどの水は、集められない。
しかしまぁ、それと引き換えにロギの熱風をやり過ごすことができたのだから御の字だろう]
うむ、出迎えご苦労。
[落下する時間の中、横合いからユミルを繰り出すサイラスに、大真面目な顔をして軽口を叩く。
繰り出される棍棒の唸りは凶暴なほどの重量を示し、一撃加えられれば致命的なのだと否応なしに示している。
受けるわけにはいかない。
連接棍の間接は、こちらが受けに回れば、その防御の手をたやすくかいくぐる。
空中で体を捻り、反転して頭を下に。サイラスが上ってくるまでの間に集めた水の一部を足元、つまりは上方に集め、パラで留める。
ぱしゃんっと蹴って落下の速度を増し、横なぎに振るわれるユミルを下方にかいくぐる]
ふッ!!
[たった今くるりと反転した勢いをそのままに、自らの上方を抜けていくユミルの先端へ、内部に水を溜め込んだロサをぶつけ、加速させる。
連接棍の扱いが難しいとされるのは、ひとえにその関節の挙動に難儀するからだ。
攻撃のために振るった先端を、さらに叩いて加速させれば、その勢いを止めるのは使用者であるサイラス自身にとっても難しいだろう。
追撃はあったか否か。
いつでも空中で跳躍できるようロサとパラに意識を集中させて、サイラスの挙動に集中する。
そして、かなうならば加速した落下の勢いそのままに、地上へ。
自らの着地には、先刻叩きつけた水を集め、クッションにすれば問題ないだろう。
問題は、サイラスがどう追いついてくるか。
屋上から跳躍して追って来たならば、着込んだ金属鎧、背負った重量武具、そして巨漢である自身の体重が生み出す衝撃を支えきれず、先刻スルトに叩かれ、ひび割れた地面は崩落を引き起こすだろう。
階段を走って追ってくるならばその間に再び、多少なりと水を集めておくことができる。
さて、サイラスはどうするか。そこに、意識を集中させた**]
[男の持つ竜器は、さきほど起こした爆風で熱され、高温になっている。
あの爆風は水を吹き飛ばすことも目的だったが、竜器に熱を孕ますためでもあった。
そうでなければ術を発動させても威力が半減する。
ジミーとの戦いの時には大盾をあたためる準備ができたのだが、今回はてっとりばやく爆風ですませた。]
ひひっ。
[こちらに気づいて声をかけてくるグレダ>>73に得意げに笑みを返すが、連接棍をふるう手によどみはない。
反転してよけたグレダは、連接棍の先端である打撃部をねらってデッキブラシで叩くが、その瞬間を狙って術を発動させる。]
『ユミルの』……『癇癪』っ!
[十分に熱せられた連接棍は“溶岩流”の名にふさわしく、打撃部と鎖部分がどろりと赤く溶けた。
あやしく揺らめくマグマは、とたん、どっ!と勢い良く噴いてリーチをのばす。
その勢いは、かんしゃくを起こしてわめき叫ぶ巨人族のよう。
ちょうど接していたデッキブラシはマグマにからめとられ、内部の水をあっというまに熱す。
金属製であるならば、あっというまにデッキブラシ全体もマグマと同じ温度に至るだろう。
そして、ぐんにゃりと溶けるだろうか。薄ければ薄いほど元の形を保てない。
男の魔法の有効時間は、例によって一瞬である。
打撃部にデッキブラシを接合させたまま、鎖はもとの長さへ。]
うおおおおおっ!
[それでも連接棍の軌道は変わり、男はつられてバランスを崩す。
屋根の上から、先ほど自分でひびを入れた地面の上へ。]
ぶっこわれちまえええええっ!
[落ちざま、連接棍をぐいとつりあげるように動かし、
打撃部と、くっついたままのデッキブラシを背後の家の壁にたたきつけた。
いまだグレダがデッキブラシを握っていたままでも、手加減をせずに彼女ごと。
男が落ちる勢いはとまらず、背中から地面へと落ちる。]
[だが、先ほど地を叩いて分かったことがある。
ここには地下道があるのだ。]
うおってって……寝てる暇はねえっ!
[背中から地下道へ落ちるが、痛みも無視して立ち上がり、大盾を構えて連接棍を引き戻す。
天上は男の頭すれすれの高さだ。
おそらくは大きな町の再現なのだろう、侵略者から民を守るために、煉瓦づくりの頑丈な家が並んでいるのだ。
そしてこの地下道は、水路をひくための工事に使ったり、いざという時の逃げ道にもなる。
相手は耳が良いのだ、さんざん叫んでうるさがられたから分かっている。
おちてきた瓦礫を拾って投げながら地下道を移動すれば、硬質な音が会場中に響き渡る。]
[っっっぱぁん!!]
[音にしてしまえば軽いもの。けれど、その内実は、赤熱して溶けたロサが弾け飛んだ音だ。
水蒸気爆発>>70>>65>>20。
金属さえ急激に溶解するほどの高温にさらされた水は、爆発的に気体となって衝撃を巻き起こす。
しかも、先刻の抑えるものがなにもなかった、広い空間での爆発とは訳が違う。
ロサの内部で限界まで高められた内圧が、ロサの溶解とともに一気に弾け飛ぶ。
その衝撃は同時に溶解していたユミルをも巻き込んだものとなっただろうし、さらに同時に、溶解したロサの、溶けたその破片が散弾のように高温の蒸気とともに周囲へと襲い掛かることにも繋がった]
……っぅっ!!
[気づいた瞬間に手を離し、距離を置くことに専念すればよかったのかもしれない。
けれど、できなかった。ほとんど無意識の働きといっていい。言葉にしてしまえば、たった一言。
ロサを手放すのが、惜しかったのだ]
うっ…くっ…つぅっ…!
[サイラスとユミルの確認まではできなかった。とっさに自らの急所を爆発から守っただけで精一杯。
ロサが比較的薄く作られていたために、散弾となって飛び散った破片が小さくて済んだことが不幸中の幸いだったと言えるだろう。
体中あちこちに裂傷を作り、ロサを握っていた両の手の平にやけどを作りながら、それでもまだ体は動く。戦いは続けられる]
…くッ!!
[ガツンと拳が叩いたのは、密に詰まった石の壁。
辺りを見回してみれば、先刻のレンガの町並みからは景色が一変している。サイラスの姿も見えない。
サイラスの起こした崩落に巻き込まれた結果、地下道へと落ち込んだらしい]
なに、やってんだいアタシは…!
[どのような攻撃であっても対応できる。その自負は確信めいたものだったはずなのに、蓋を開けてみれば慢心に相違なかった。
その結果、ロサを失い、サイラスまでをも危険に晒した。ほんとうにまったく、なんてザマ]
[ごっ!]
[腰からパラを引き抜き、自らの額にぶつけるようにして、合わせる。
留める力を持つパラが、逆立った今の気持ちを静めるように。
分かっている。パラの魔力はそうした効用のあるものではない。まじないのようなものだ。けれど、それは同時にミルファークの作った竜器でもある。
背で待つ者、この場に立たせてくれた者を思い出す。
今はなにに縋ってでも冷静さを取り戻さなくてはならない。
これ以上の無様を、見せるわけにはいかないのだから]
…ッし、まだまだ。こっから取り返すよ。
[言葉にしてみれば、同時に熱を持っていた頭が冷めていく。
手の平と、全身の裂傷が痛む。
甘んじて受け入れなくてはならない。それは、ロサを失った痛みだ。 無駄にしないためにも、負けるわけにはいかない]
…どうする?
[考える。先刻のサイラスの笑み。
手の内も分からないままに手を出した迂闊。
それは間違いないが、同時に、サイラスはそれを読んでいたともいえる。だからこその『自信』、だったのだろう。
『受けた上で返す』呼吸は、すでに読まれていると見たほうがいいのだろう。
やりようを変えなくてはならない]
………。
[考える。その耳に、サイラスの立てる瓦礫の騒音が響いてくる>>78。
居場所を知らせているのか、その逆にかく乱しているのか、あるいはもっと別の、次への布石か。
獣の耳を伏せる。
彼らの大声に耳を畳み、ミルファが怖がっていることに釘を刺しこそしたものの、うるさがったことはないのだ]
……。
[静かに佇み、瓦礫の立てる音の中に異変が混ざらないかどうかに畳んだ耳の内で神経を集中させる。
そして同時に、パラへと魔力を込めた。
ここは、地下道。そして、地下水路。
第一試合の滝壺において、流れ落ちるその水が尽きることがなかったように、流れる水は一定の流量を保ち、地下で流れていたらしい。
地表に現れたその一部が火山の爆風に吹き飛ばされても、地下にはまだ水が流れている。
その水を、塞き止める。
ロサを使って器用に集めるようにはいかない。
けれど、元来がその目的で作り上げられたパラは、直径にして5m程度の水を塞き止める魔力の力場ならば、たやすく作って見せる。
狭い地下水路を塞き止めるには、十分に過ぎた。
サイラスが、次の手を打つ音を聞くのが先か。
そのサイラスと直接出くわすのが先か。
あるいは、通路の一面が水に満たされるのが先か。
今はただ、水を留め、溜め込みながら、耳を澄ませる**]
ふぅ。
『グレダ殿は思った以上の、歴戦の戦士と見ました。
その彼女に対し力と本能、そして僅かな経験で立ち向かえる
サイラスもまた、立派な戦士です。』
うむ!
なにより…あれから一度も縮こまっていない。
どれだけ不利な形勢になろうとも、だ!
今姿が見えなくなったが、それでもあいつは
笑っているのだろう。
嬉しい事であり、有難い事ではないか!
[有難い。それは対戦相手のグレダに、ジミーに。
そして、それぞれの鍛冶師達に。
巨大な水球の襲来>>67そ寸での所で避け、ひと時姿を消した
相棒の動向を思いながらも、上空に跳ぶグレダの様子にも
注視する。]
『早い。』
階段を一段抜かしで走ったか?それとも…重りを外した効果か?
『ありえない話ではありませんね、彼なら。
気合で駆け上がってきた、を追加して下さい。』
[グレダの滞空する間に階下から一気に駆け上がったか、
相棒の姿が上から見え、>>69身を乗り出さん勢いで覗き込む。]
―――…そうだな。
もしやすると、どれも正解かも知れん。
『しかし、貴方も本当に意地悪ですよね。
扱い難いだろう連接棍を敢えて持たせるなど。』
言うな、スズメとて解っているのだろう?
扱い難くとも、扱いきれないものではない事くらい。
だからお前も不定形な溶岩流の性質を与えたのだろうに。
[グレダがその扱い難さを突いたか、連接棍の先端を叩いたのを
認め>>74ゆっくりと男は頷く。
慌てたり落ち着いたりと、こちらはこちらで忙しい。]
『まぁね。あっさりと扱いこなせるものよりも、苦悩しつつも
自分なりの使い方を見出してもらえるものを与える方が
私としては燃えますから。
まあ…ここまで扱うタイミングを計っているとは予想外
でしたけれど。』
[視線の先では、相棒の追撃。>>76二つめの魔法を発動させて
連接棍の長さを変えていた。]
[男は笑っていた。
デッキブラシが弾けとんで壊れ、男のふるった連接棍は家の壁を壊し、男の落ちた穴をふさいだ。
見えたのはそこまでだ。
グレダはどうなったのかは分からないが……
確信している。無事であると。]
─ 観戦席 ─
グレダ!
行って! そこ!
きゃあ! 避けて!
[届かないと分かっていても、叫ばずにいられなくて]
あっ、あっ!
[駆けまわる二人の戦士が、遠くなる。
障害物の多い地形は、戦いづらいだろうが、
観戦しづらくもあって]
[男は対人戦闘の経験が極端に少ない。
それはこの巨体と怪力のせいで、故郷の仲間たちから手合わせを避けられ続けたからだ。
「力だけのバカと戦っても仕方ない」―そう言われ続けた。
そうか、そりゃそうだよなあ、と。そう返事をするしか無かった。
それに男だって、邪竜以外のものに全力をふるう気にはなれなかった。
壊してしまうのでは、取り返しのつかないことになるのでは、と、無意識に恐れていたからだ。]
[だが、ジミーとの戦闘を経て理解した。
全力を出さないとこっちがやられる。本物の戦士は強い。手加減は不要。
それは男にとって、すごくうれしかったことだった。]
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