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[巨きく丈夫な血色の翼。
両翼は薄く影を作りエステルを覆う。]
……………、ランス………。
[ランスがエステルに向き直る。
さんは、意識的に付けなかった。]
[暫くの間、スーさんと身を寄せ合うように抱きしめあっていましたが、そのうちに、こうしている場合ではないと気付きます。
今、暖かなスーさんと抱きしめ会う事はとても心地よいのですが、スーさんの傷を放置していいというわけではないのです。
わたしはスーさんから少しだけ身を離せば、指をそっと、赤色の右半分に伸ばします。
スーさんの包帯を摘み上げて、緩やかに首を傾げました。
交換しますか、と、声無く問います。
確か、マスターの部屋に簡単な医療用具を詰めた箱があったはずです。
マスターが忙しい時は「勝手に持って言っていい」とまで言われていたので、
その時の記憶が確かなら、ガーゼや包帯もちゃんとありました。
わたしも赤色に染まった包帯ではあまり外を出歩けませんし、スーさんが頷くようなら、道具箱を取りにマスターの部屋まで向かったでしょうか。]
[人間の欲望塗れた世界。
慈しみ合うのではなく憎しみ合う。
大地が穢れても何時か戻るのが普通だと思う。]
[代償もなく時間が過ぎれば全て元通りだなんてあると思う?]
[誰が世界を見護っていたのかしら?]
[誰が春に植物を芽吹かせ花を咲かせたのかしら?]
[誰が大地の恵みを齎していたのかしら?]
[暖かで、穏やかで、心地良い時間だった。
いつまた赤が滲み出るか、分からないのも忘れるくらい。
そんな、ぼやけた思考のまま、ナデージュがつまんでいるものを見て、
最初は同じように首をかしげていたけれど、
徐々に、すまないという気持ちを顔に出して、俯きがちになってしまう]
…だい、じょうぶ。
そんな、めずらしいことじゃないし。
ひとりで、できるし。
こわく、なんか……。
[帰ってからやる、と、たどたどしく伝えようとする言葉とは裏腹に、
小さな手はナデージュのケープの裾を掴んで離そうとしない]
………ごめん、なさい。
やっぱり、こわい。
[怖いものは色々あるけれど、
今は何よりもこの暖かさを失うのが怖くて]
おねがい。
まってるから。すぐ、もどってきて。
[――ぺこり。
軽く頭を下げる。
強情に思われた手はなだめすかさなくともするりとナデージュのケープから離れ、
代わりに自分の上着の裾を握りしめた**]
[欲望に塗れ、好き勝手に生きた癖にそれ以上を望み。]
[他者の希望の芽を奪い、踏み躙り、笑い。]
[自らの分不相応を齎せと、乞い願う。]
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