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マイダ……。
生きていてくれたんだな……。
[胸元に感じる熱を、優しく抱きとめ、金色の髪をゆっくり撫でる。
ずいぶんと昔、そうしていたように。]
意識がないうちにやっておくのがポイントさ。
……起きてたら起きてたで抑えとくれよ。
[少年の死体を見て、昂揚していた。
目の前にいる誰かがあのように変じる前にできることをしておきたい。
その相手が拒まないならば。
――否、拒んだとしても。
女は進んで手を伸ばす。]
ん……
[移した寝台の先、女は手際よく治療の準備をしていた。どうやら彼女には医療の心得があるらしい。
ずしりと身体が重たくなるのを感じる。緊張から開放されたのか、男の背を重力が引いた]
それじゃあ、お任せします
[ぼそぼそと呟いて、大きな身体をセルマに譲った]
[ランスの胸元に縋り付く。
ぽろぽろと零れる涙はランスの胸元に染み込むだろうか。
彼が言っていることは分からないけれど、
溢れる涙はほんもの。
言葉にならないから、きゅっと服を握って。
ランスが撫でる太陽色の髪には、装飾品一つもなく。
撫でられてゆくにつれ、あたたかいものが胸に広がった。]
思い出せなくて、
ごめんなさい。
あなたのこと、思い出せなくて、ごめんなさい。
[浮かぶ情景はあるのに。
ランスの胸の中で、言の葉をぽつりぽつり零す。]
[――しゃらり。
ふつうの状態ならば好奇心をかき立てられるその音にもやはり、振り返らない。
何かを諦めるように閉ざしかけた瞳が、]
――…っ。
[見開かれる。
抱き締められていると、分かったから>>64]
は、…はなし、て。
[ぴくり、と肩が跳ね上がり、嫌がる子のように首を左右に振る。
けれどそれも、ナデージュが掠れた声で“だいじょうぶ”と告げるまでのこと>>65]
[それは、色付く記憶の中の綺麗な声とは違っていたけれど。
身体に染み渡って荒れたこころを落ち着かせてくれる、そんな声だった]
………。
[だらり、と左手が下がり床に落ちた。
赤く染まった顔の右半分があらわになる]
お、っと?
[受け取ろうとしたそれが、やや強引にポケットに押し込まれた。
しわくちゃになってしまうのでは、とお節介が過ぎるが、本人は気にしていないようなので、こちらも気にしないでおくことにする。]
楽しみ、か。
[何が書いてあるのか、今すぐ目の前で中身を読んでやろうかという悪戯心を押し込めて、指先の煙草を再び口元へと持っていく。]
それじゃあ……どーする。
[それは、まだこの廃屋を探すかとか、まだこの近い姿勢で居るべきかとか、色々に向けて。]
―――――――…。
……。
[意識が遠い]
―――…。
[傷の手当てをされている、気がする。
どうして自分は怪我を負っているのだろう。
此処は戦場だろうか。
薄らと目を開けば、空には煤けた星空が。
…否、それは、灰を被ったステンドグラス]
今日は星がきれいだ。
[うわ言のようなそんな声は、エラリーに届いただろうか]
ありがとう。
[そこで再び意識は途切れ、目を閉じる。
そのまま礼拝堂から運ばれた男の身体は、
寝台へと横たわることとなる。
虚ろな意識の中、
セルマとエラリーの声がぼんやりと耳に届く]
[離してと言う懇願の声なんて、聞こえませんでした。
わたしに見えるのは、血を流して震えているスーさんだけ。
わたしに聞こえるのは、耳元で鳴る髪飾りの触れ合う音だけ。
血に濡れたスーさんの右手を、そっと片方の手で取りました。
細くて、小さな手でした。]
………だいじょう ぶ だから
[そっと、隠されていた顔に、自分の顔を近づけます。
こつり、と、額と額を触れ合わせて。
わたしの顔の左半分の包帯が、赤く染まります。
包帯越しに滲みた赤色は、わたしの灰化した皮膚に触れます。
じんわりとした痛みに、そっと目を伏せました。]
…………
[大丈夫です。
スーさんの"痛み"に比べたら、全然、なんてことないのです。]
――っ
[セルマが忙しげに治療を施す中、うわ言のように、呟かれた言葉。反射的に上を見る。常ならぬ程に俊敏な動きだった。
けれど、そこにあるのは灰と埃をかぶったステンドグラスだけ。
星空など、随分と長いこと見ていない]
――、――
[まるで言い遺すかのような例の言葉に、男は表情を硬くし、司祭を覗きこんだ。大柄な男の身体が、影を作る]
さっき言っただろう、俺は"諦めた"んだって。
[主体性の無さの理由を述べ、ゆるいという評価には、へらりと笑って見せる。]
うん? 帰りは任せるって、どんな方法で――……っーう!
[尋ねられ、引いてきている背中の具合を確認するように、腰を曲げてみれば。
走った痛みに、固まった。
とはいえ、動けない程ではない。
少し休むか湿布でも貼れば、よりマシになる程度。]
[トロイと名乗る研究者に尋ねたかったことは、
沢山あったが。
一番聞きたかったのは、
魔物化の進行を食い止める方法だった。
少しでも何か、可能性があるならば。
例えば腕を切り落としてでも、可能性があるならばと。
救いたかった孤児の子は、既に死してしまったが]
――――――――〜〜〜ッ。
[ぼんやりとした思考は、強い痛みで遮られた。
セルマが傷口を処置してくれているのだろうか。
顔を顰めてから、男は再び薄く目を開ける]
嗚呼、 ああ…。 びっくりした。
すまないね、なんだか情けない。
エラリー君、と。セルマさんか。
ろくな歓迎も、できないで。
[何処か覚束ないまま、二人へ謝罪を。
男を覗き込んでいる青年の顔が、丁度狭い視界へ入る]
…なんて顔をしてるんだい。
私は、大丈夫。
[笑顔を作ろうとして、苦笑になった]
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