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―――――――…。
[寝てばかりいるのも、それはそれで心配なのだけど。
困ったような笑顔を浮かべて、友人を見る。
パンはそのまま受け取って、棚へと仕舞った]
あの日の空は、何処までも続いているようだったね。
見下ろす村も、森も、湖も、…輝いて見えた。
[自分に絵が描けたら、
或いはエラリーのように文を綴れたら、
あの景色を残せたのに。
想い出は、空と同じ青い色をした男の瞳の中だけに]
[羽に触れたのは何気ない思いからだったのだが]
………!?
[強張る友人の姿に、
此方もつられたように身を強張らせた]
ご、ごめん。…痛かったかい。
[反射的に謝罪の言葉を口にしたまま、しばし呆然として。
やがて我に返れば、反省したように俯いた]
傘は、貸してきてしまった。
うちに残っているのは、壊れたものだけだよ。
ローブを羽織れば大丈夫。
[引き出しから少し厚手のローブを取出し羽織る。
フードも被ればそれなりに灰を防げる]
なまじ土地としては広かったから、
広がれば魔物に対処しきれず集まれば頻繁に物資不足。
それで一部は外に流れて、その内でこの村に来たのが俺だったのさ。
物資不足で流れた連中だから、特に纏まろうともしなかったしな。
[ちびりと一口ソーダを飲んで、相手の言葉にくすりと笑う。]
…何か有ったりするのなら、きっと他にも人が来てたさ。
まぁ、俺が来た時より危なくて単に来れなかったのかもしれないが。
[少なくとも、昔に比べて今の森は確実に危険度が増している。
変異植物達は、枯れるより増える方が遥かに速いのだから。]
いや痛くはない。
大丈夫。
───貸した?
おまえは本当に……
[お人好しだ、と言いかけて、小さく笑って首を振る。
ローブを羽織るのを見れば、自分も、薄い外套を頭から被った。
厚手のものは、羽が邪魔で羽織れない。]
今は少し、風が落ち着いているな。
行こうか。
[外に出る為に開ける扉は、なるべく細く。
家の中に、余計な灰が入らないように。]
[扉を開ける友人の言葉に頷いて]
――…本当だ。それに、朝よりは少し暖かい。
[外に出て、地を踏みしめれば灰が舞う。
教会の裏手には簡易で作った孤児たちの墓があり、
その傍らに裏庭が作られていた。
かつては丁寧に世話された花達が賑わいを見せていた場所。
今でも世話をしてはいるが、
この灰を取り除くことなど出来る筈もなく…]
何だか懐かしいね。
花を植えた時のことを、思い出すよ。
[友人と二人で連れだって歩いていると、
ふと小さな人影に気づいた]
おや。
嗚呼、スーか。
[近づいて行けば、
それは小さな道具屋さんであったと分かる]
どうしたんだい。
遊びに来てくれたのかな。
[身をかがめて、目線を合わせて尋ねてみる]
良ければ、裏庭を一緒に見ていかないかい。
食事がまだなら、パンとスープもある。
少し作りすぎてしまったみたいなんだ。
[誘いの言葉をかけつつ、のんびりと返事を待つ**]
[教会裏手にある墓が、ここまで数を増やしたのは、最近になってからのこと。
ランスも何度か、孤児の埋葬を手伝った。
中には、それなりに親しくなっていた子もいた。
今はもう、花すら供えてやれぬ墓。
出来ることといえば、時折、灰を払ってやるくらい。]
そうだな。
たしか、おれはこの辺に植えたはずだ。
[色彩を失った灰色の庭、その一角を指差して。]
どうした?
[何かに気付いた風なドワイトに、つられるようにして同じ方を振り返る。]
スー。
なんだ、そんなところにいないで、中へ入ってくれば良かったのに。
[友に続いて歩み寄り、屈まず、立ったままで声をかける。]
……おれとドワイトで、前に庭に花を植えた。
今年もそろそろ芽が出ていないか、これから見に行くところだ。
[グレイフェザーは長寿であり、また短命でもある。
成人してからの期間が長く、もし天寿を全うすることができたなら、人間の倍は生きることができる。
だが多くの者が、若くして命を落とす。
原因は、病や怪我の治癒力の低さ。
たとえば、人間であれば3日も眠れば治るような風邪が、彼らにとっては重病なのである。
ランスも、過去に何度か、病で命を落としかけた。
特に───あれは、何年前だったろう。
流行り病で、生死の境を1週間ほど彷徨った。
わざわざ森まで来てくれた医者も、もう駄目だろうと匙を投げた。
自分でも、もう駄目だろうと思っていた。
だが、ランスは奇跡的に回復した。]
[会話の合間に、のんびりと紫煙を吐き、グラスを傾ける。
ちらりとナデージュへと視線を向ければ、彼女の表情は先ほどよりも明るくなったかに思えた。
窓の外の灰さえなければ、ただただ、緩やかな時間でしかない**]
[トロイの住処であった北にも通信仲間はいたが、噂が流れ始める少し前にやりとりが途絶えたきりだった。
最期に届いた手紙。
そんな手紙が今、己の部屋の隅に積み上げられていた。
それらの手紙は総じて宛名がなく
開けば同じ文字ばかりが刻まれる。]
[”手紙狂い”たちは、郵便屋で扱えない手紙を運ぶのが仕事だ。
その手紙は、往々にして多くの秘密を孕んでいる。
だからこそ、知らない方が都合がいいから、教えられていないことがある。
預かった手紙はまず、各地の仲間に届き、彼を仲介としてその手紙の宛名を持つ者へと届けられる。
けれどもし、届けようのない宛名の無い手紙が届いたら。
送り先である"手紙狂い”へ、
送り主である”手紙狂い”からの、最期を告げる印。
刻まれる言葉は、世界で一番美しいと教えられた、それだけ。]
[お菓子なんて見たのは何時ぶりでしょう。
酒場にはこういった子供向けのものは置いていませんでしたし、
教会のお菓子は子供のもの、わたしが手に取れるものではありません。
だから、少しだけ、新鮮な気持ちでした。
わたしは立ち上がり、ケープを羽織ります。
両の人差し指を胸元で十字にクロスさせると、ぺこりと頭を下げました。
教会に行ってきます、と、そういう意味のつもりなのですが。
マスターを、きちんと弔ってあげなくてはなりません。
わたしの半端な鎮魂歌では、きっと、駄目だから。
ケープのフードを被れば、わたしは酒場から外に出ます。
からん、からん、と、鐘の音が鳴り響きました。**]
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