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ナヴィ、ですか?
[カインの呟くように提案された名前をこちらも確認するように呟いて]
ナヴィ、……ナヴィ。
うんっ、良い名前ですね!この子の名前、ナヴィにしましょうか。
[気に入ったらしく、自分のことのようにぱっと顔を明るくして黒猫に問いかけるように目を向ける。
黒猫は気に入った、というように首を小さく頷かせた]
気に入って貰えたんなら、気合入れて考えた甲斐があった。
[一人と一匹の悪くない雰囲気に笑うと、咥え煙草がぴこり、上を向いた。]
あまり長居しても何だし、そろそろお暇しようかね。
[もう残っていないカップを飲むふりをする。
彼女の視線が黒猫に向かう隙に、代金を乾いたその中へ、音のならぬよう滑らせてから席を立つ。]
茶ぁ、ごちそーさん。
また来るよ。
[来たのは、どうやら人手のほうだったらしい。
起こさないと怪我の有無は分からないのだけれど…]
いや、多分怪我人じゃなくて病人だ。
起こせないんで怪我の有無は分からないが、
少なくとも見える範囲には外傷は見当たらない。
[カウンターのすぐ近くまで行けば、座り込んで右手を挙げている隻腕の男が見えるだろう。
最も、その前に調理場で倒れているマスターが見えるかもしれないが。]
[この村に医療の心得がある者が、後どれ程いるのか。
自分だって碌な知識がある訳ではない。
ただ、前任の司祭の手当てを見よう見まねで行ううちに、
多少は慣れて手が動くようにはなった。
…けれど、それでも、大半は"手遅れ"なのだ]
ナデージュさんが、異変を知らせてくれたんだ。
[カウンターへ近づきながら、自分を落ち着かせるように呟く。
日を追うにつれて、増えていく死の数。
物資不足は分かっていたが、
それでも出来る限りは敬意をもって弔ってきた。
今ではすっかり異国の娘の薬屋の常連だ。
死人の為に貴重な薬を求める自分の姿は、
彼女にはどう映っているのだろう]
[そして男の目がとらえたのは、
此方へ声をかける青年と、倒れ伏す酒屋の主人の姿]
――――――…マスター、嗚呼。
[緩く目を見開くと、調理場の方へ足を向ける。
そっと抱き起せば、酷く浅い呼吸が感じ取れた]
君が見ていてくれたのか。
…ありがとう。
[目の前の青年に礼を告げる。
そのとき漸く、彼が隻腕であることに気がついた。
だが、今は触れず]
奥の部屋にベッドがあった筈だ。其処まで運ぼう。
エラリー君、手を貸してくれるか。
[助けを借りつつ、酒屋の主人を安全な場所へ]
せいぞんせんりゃく……?
あと、せいりせいとんは、だいじ。
だとおもう。
[感情こもらぬ口調でそう呟くも、
本人がどうでもいい、といっているのを聞けば、素直に頷いた>>100]
うん。
パースって、よぶ。
[そうして告げる。
覚えていられる限りは続く、決め事を]
[苦笑が、深まる。>>101
相手の内心知らず、“こわれちゃった”ことに同意が得られたことを素直に嬉しがる]
さかば、いくんだ?
つかれたから、ぼくはおるすばんでいいや。
…あ、でも――、
[歩み寄るパースを見上げながら、背後、小瓶のある辺りをちょいと指差して、
そのまま言うべき言葉をなくしてぼんやりと立ちつくす。
――あの呪符は何のために作ったもの、だったか]
……。
[頭に置かれた手の感触と言葉が、空白に染み、
目を細めて二、三度頷いた]
そまつにするのは、だめ。
こわれたものも、なおせば。
…また、つかえるようになる。
[それから呼び止められなければ、薬屋を後に。
常連であるもう一つの店、何でも屋へと向かおうと、さほど離れていない距離を、灰色の空の下歩き出す。]
もしかして、前倒しで作ってくれたの?
ありがとう、スー。恩にきるよ……
……。
ははあ、どうして作ったのか忘れたんだね。
私はあの小瓶が欲しいな。いいかい?
[首を傾げて尋ねて、小瓶を己のポケットにしまうつもりで手に取る。]
[弱り切った酒場の主人を寝台に寝かせて。
…だけど、出来るのはそれだけだった。
か細い呼吸は今にも止まりそうだ。
酒場の主人の手を握り、頬を濡らした布で拭うが、
ほとんど反応はなかった]
(――――――…死の前兆の呼吸をしている)
[救う方法など分からないままに、
余計な知識ばかりが経験で身についてしまった。
男の瞳に映るのは、悲しみと諦めの色]
あなたも、先にいってしまうのか。
[思わず零れた小さな声。
それがあまりに不用意であることに気づき、目を伏せた]
[スーの頭を撫でてから、サスペンダーで止められたズボンのポケットに手を伸ばして新品の包帯とハンカチを取り出す。]
壊れたものを直せば、使えるようになるよね。
この私のポケットだって、君が穴あけを繕ってくれたんだよ。
忘れてたって良いさ。何度だって言うからね。
だって、君ったら、ついでに変な呪符をつないで、このポケットを私の部屋のちいさな棚とつなげてしまったんだもの。
[ふふ、と笑いながらスーの汚れた包帯をといて、ふわふわとハンカチで汚れた箇所をぬぐってから白い包帯を巻いていく。
古い童謡をハミングしながら、しっぽを揺らした。]
[大きく手を振るドワイトさんの姿に、わたしは大きな動作で頷き返します。
あの仕草で伝わったようです、よかったです。
だからといって、安心はできないのですが。
足の速度は緩めません。
あまり遠くまで来ていないので、数度の曲がり角を曲がればもう、そこは見慣れた景色でした。
わたしの家の扉を少しすぎた頃(酒場までは、もうほんの少しだけを歩きます)、
建物と建物の間で何かが動いた気がしました。
至る所で、枝や屋根に積もった灰が落ちたりしているのですが、どうもそういうわけではないようです。
私は足を止めて、じっと路地裏の向こうを見つめます。
紙屑やがらくたが積まれた路地裏ですが、誰か、いるように思いました。]
[がらくたの中に埋まるようにしているその姿は、大人の姿よりも幾分か小柄に見えます。
このご時世ですので、あまり大きな体格の人も見なくなりましたが。
その誰かに声をかけることはできなかったので、わたしは大きく地面を踏み鳴らしました。
一歩、大きく踏み出します。
また一歩、大きく踏み出します。
わたしはここにいます、今貴方に近づこうとしています。
そんなアピールだったのですが、伝わっているでしょうか。
歩く度に、その姿はびくり、びくりと反応していたので、音が聞こえないわけではなさそうでした。]
見てただけしかしてないんだが、な。
[治療することも、助け起こす事も出来なかった。
ただ、見て生きていることを確認しただけで。
…それだけしかして居ない身には、礼の言葉は痛かった。]
・・・体温の低下を抑えて、
気道を確保すれば最低限の延命にはなる。
最も、それ以上の対処は医者頼みだが。
[諦めたような言葉に対して、静かに己の思考を告げて。
…実行したとしても、結局「延命」でしかないのだが。]
[何歩歩いた頃でしょう。
その姿の側まで来れば、わたしはその誰かさんの体にかかっていた、古い新聞紙を取り払いました。
わたしを見上げるその姿は、子供でした。
ひどく怯えているようにも見えます。
ですが口の端はふるふると震え、笑いを堪えているようにも見えます。]
「ナデージュさん」
[たしかにその子供は言いました。
わたしが歌をうたわなくなってから自発的に向かうのは、酒場か教会くらいのものです。
ということは、恐らく教会の子供でしょう。
教会で少しばかり手伝いをした時に、見かけた覚えがあります。]
[彼は小さな声で途切れ途切れに話します。
もうすぐ届くのだと。
もうすぐ自分はそれに飲まれるのだと。
飲まれる事は怖くない、寧ろ楽しみですらあると。
けれど、そのせいで誰かを傷つけたくないと。
だいたい、そんなような事を口にしていたでしょうか。
わたしはといえば、何と返していいかわからずに、そっとケープを脱いで、その体にかけてあげる事しかできませんでした。
そっとその傍に跪きます。
片方の手のひらをそっと、うずくまり、震える姿に差し伸べます。
わたしの手を取ってくれたその右手は、既にニンゲンの肌ではありませんでした。]
[わたしはその手を引き立ち上がります。
きっとこの子ももう先は長くないのでしょう。
わたしたちを襲う魔物と化して、ニンゲンの姿とは遠ざかって。
それがとても、悲しかったです。
繋いだ掌は震えていました。
だからわたしはそっと握り返しました。
ひとまずは酒場まで行こうと、わたしと彼とで路地裏を出ます。
マスターの事も、心配です。]
一番寂しいのは誰にも顧みられないことさ。
…少なくとも私は、そう思っている。
[相手の呟きにかけた言葉は、慰めではなく本心だった。
そして、諦めを口にしてしまった己に対する彼の声に、
はっとして顔をあげる]
そう。 …そうだね。
フロアにある毛布を持って来よう。
彼女が到着するまでは、せめて。
[ナデージュのことを娘のようだと語っていた、
マスターの笑顔を思い返す。
気道を確保するために軽く顎を持ち上げ固定し、
身体を温める為の作業をこなす。
その最中、隻腕の青年へ、ぽつりぽつりと語りかけた]
[暫く歩けば酒場に着きます。
ドアに取り付けられた古いベルが、来客を告げるようにからんからん、と、錆びた音を響かせました。
わたしよりも先に着いているだろう二人は、そして先にマスターを見ていてくれたあの人はどこにいたでしょうか。
わたしは客席に彼を座らせると、掌を彼に向けてここにいるように、と、合図しました。]
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