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― 夏の野山 ―
[藪の中へと分け入り、今日の「収穫」を摘んでいく。
野草ときのこ。そして、木の実。
その藪の中、飛ばしてしまった春の名残の野いちごが
今にも潰れてしまいそうになっているのを見つけた]
どうしよう………。
[成熟しすぎた赤はきっと一日も持たない。
渡すなら今日。けれど……
夏草の薫りを漂わせたミズキを、きっとハルは嫌がるだろう]
― 朝・鏡の部屋 ―
[陽が昇ってからかなりの時を経ても、
起き上がる気配を見せない。
今日の分の『星』は昨夜のうちにできていた。
食べ物ではないから出来たてか否かにこだわる素振りも見せず、
ビンの中にまとめて入れてテーブルの上に鎮座させている。
一言で言うとそれは――「旗」だった。
細く短い棒にくっついているさまざまな色の紙に、
さまざまな色の星が描かれている。手書きと分かる不恰好さで]
………んん。
[寝返り。
眠る時も外さない右腕のブレスレットが、シーツと触れ合って透明な音を立てた]
それとも。
“誰も来ない”という事実にも蓋をして
独りでお花畑で笑うのかしら。
[どちらにせよ。
独りで残す事はできない。
彼女に手を繋げる相手がいれば。
ここまで頑なにあの季節に留まりはしないだろう。
誰かの出迎えがあれば彼女は戻ってくるのだろうか?
だけど。
自分は現実で待つ者にはなれないと、そうも思っている。
あの医師に。
近い内に話す事にしよう、そう思考に決着をつけた]
[もぞり、体を動かす。
翼が痛い。
下を見下ろした。
ぱたぱたと足を動かす。
翼の付け根が引っ張られてやっぱり痛い。
でも仕方がないから。
そのまま更に無理矢理翼を引っ張った]
― →森の中 ―
[結局野いちごは摘み切って、
自分用の、散策中のおやつにした。
43回目にして勝利してしまって以降、
リヴリアとは通りすがる程度しか会っていない。
あのとき撫でてくるリヴリアがやけに嬉しそうだったから、
気恥ずかしさを覚えた――とは、理由にはならないけれど……
薄情を責めて、夢の中に出てきたのだろうか。
そんなことを考えながら、
ぼんやりと野山の端まで辿り着けば]
[『生まれてきた意味』……
そう問われたとき直感した。
『ああ、この子はきっと止まっていたのだろう』…と。
そして、少し似ていると思ったことも理解する。
『きっとこの子も知っている子なのだろう。己を』…と]
キミは燃えさかる火なのだね。
太陽より産み落とされた火の欠片。おひさまの子だ。
燃え上がり 輝いて
総てを照らす
……そしていつかは尽きるのだろう?
ああ、それは素晴らしい生き様だ。
ボクには出来ない生き方だ。
ボクは好きだよ。そういうキミの生き方は。
そうだねぇ。ならばボクは見ていよう。
キミの生き様を。生きた証が無ではないことを。
キミが生きたその瞬間を。
邪魔はしないよ。させないよ。
精一杯生き抜いて、そして飛んで行くといい。
だからね……
[天に伸ばす手を、拒まれなければ携えるだろう]
イカロスにはなるんじゃないよ。
キミはおひさまの子だけれど、太陽じゃない。
[彼女が太陽ならば、原始の闇より永劫とも思える刻を輝くこともできるのだろう。
希望であり絶望であり続けることもできるのだろう。
けれど、彼女自身が言うとおり、激しく燃えて
消えていくのだろう。]
ああ、ボクが見ていると言っても、
別にキミはボクは見なくてもいいよ。
こう見えて恥ずかしがり屋なのでね。
キミのように眩しい子に見つめられたら照れてしまうよ。
そうだねぇ。ボクが先に行くようなら
少しの間でいい。寒い冬を他の子が凌げるように
暖をとってあげるといいさ。寒い北風に凍えぬように。
その間に、ボクは朽ちていこうじゃないか。
ボクの生まれてきた理由はね。おひさまの子
……腐って朽ちるためだよ。
[カラカラと仮面は嗤う
似たところもあるけれど、彼女と私はまるでちがう。
彼女が燃え尽きるように生を謳歌することを望んでいるけれど、
私は腐り熟して朽ちていきたいのだろう。未練が腐り堕ちるまで] *
[ぺっとり汗で前髪が額に張り付く。
あと少しで抜け出せる、そう思って力を入れようとした時]
――ミズ、キ?
[声が聞こえて顔を上げた]
――……ひっかかった、の。
した、あぶない、から。
[引っかかったまま、花水木を見下ろした]
― 海の見える食事風景 ―
[シンはなんと言ったか。
その話はまた後にしよう。
ともあれ、道化師は立ち上がる。]
……そういえば、感想を欲していたけれど、
感想がほしいなら、
他者を探して振舞ったりはしないのかい?
せっかく美味しいのに、余らすのはもったいなかろう?
[鳴らない鐘がついた杖で、軽く床をつく。
さて、それにはどう答えが返ったか?
そうして道化師はふらり、その場を後にして]
[自分が少女であることを忘れないための予防線。
甘い甘い、お菓子のような女の子。]
冬も、・・・好き。
[暖かさが尊いものだと感じ取れるから。
仮面の手を、ぎゅっと握り締めて
見晴らしのいい丘を抜ける。]
おなか・・・・・。
[夢の世界。
空腹をいうことを意識したことはなかった。
そう思った途端、空腹に襲われる。
きゅう、と小さな音がおなかから鳴った。]
う……。
[くしゃりと顔を歪めて。
傾いでいく体、花水木はきっと小鳥を見捨てないのだろう。
籔が鳴る音、意を決して]
――……っ。
[外れかかっていた左翼をぐいと曲げる。
それと同時に枝から滑り落ちながら。
誤って肘や膝がぶつかってしまわないように。
肩から下へ落下するように体を傾がせて、
両手をぎゅっと胸に抱くようにして花水木の腕の中へ、落ちる]
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