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旅人が最後に足を踏み入れた場所。
旅人の故郷。誰も旅人を覚えていなかった。
旅人は旅人だから、そこは旅人の帰るべき場所ではなかった。
旅人は自分の旅して来た所を子供達に面白可笑しく語った。
やがて子供達にとって旅人がいる事は当たり前になった。
やがて大人たちにとって旅人がいる事は当たり前になった。
どうやらこのなかには、むらびとが1にん、じんろーが2にん、きょーめいしゃが16にんいるみたい。
[片付けても片付けても埃とガラクタしか出てこない物置]
ゴミ箱だな…
これ、物置ごと燃やしちまえばいいんじゃねーの…
[ぶつぶつ言いながらも片づけを続行していると、一冊の使い込まれた手帳が目についた]
なんだこれ?
[手にとって埃をはたくと、一向に終わりそうにない掃除への嫌気も手伝ってか、少年は気まぐれに手帳を開いた]
旅人は村人になった。
村人が几帳面に残してきた旅の記録。
それだけが村人の過去の証。
今、一人の少年が村人の過去を覗いている。
●
こんな所に…
目の前に現れた無機質な白い外観の建造物に、思わず呟いていた。
おおよそ人など訪れそうにない荒野にこんな建物が。
それとも、これが建てられた時にはこの辺りも町として栄えていたと言う事だろうか?
中に入ろうと扉に手をかけたが…重かった。
ぬおおおおお、と誰かに見られていたら軽く笑われそうな気合の声を上げながら分厚い扉との激戦を制し中へと足を踏み入れた。疲れた。
■
目が覚めると、ひとつの大きな部屋の中にいた。
頭を振って、寝入る直前のことを思い出す。
…そうだ。荒野を旅し、日も暮れて疲れていたところ、珍しくも有り難く建造物を見つけたため、裏戸口と思われる小さな扉を通り、この部屋に足を踏み入れたのだった。
人の気配がしないというのに妙に綺麗でからっぽなこの部屋で、座り込んだままうとうととしていたらしい。
扉を眺める。
その向こうは今、昼だろうか、夜だろうか。
どのくらい眠ってしまったのだろう。
視線を反対側の、建物の奥部へと続くてあろう扉に移す。
そしてこの建物は、どんな建物だろうか。
何にせよ行動を起こすために、私は立ち上がった。
●
―ギィィィッ―
扉を開けると大きな音に驚いた
「こんな立て付けが悪い上に大きな音が鳴る扉なんてご近所様に迷惑じゃないか!いい加減にしろ」
旅人は義憤に駆られると一層使命感を露わにして前に進んで行った
すると目の前にはどこかで見たような事がある人物が倒れているのだった
「お、お前は…」
■
立ち上がり、扉を開けて奥へと進む。
廊下の窓からは、柔らかな光が無人の建物を照らしている。
その陽射しは温かいので、きっと朝なのであろう。
私は長い廊下を進み、適当な部屋を見つけると、好奇心の赴くままにその扉を開けた。
■
扉を開けると、そこには…
かつて人が食事をしていた場所だと分かる程度のものがあった。
…が、人の気配は相変わらずだった。
「あぁ…何も食べてなかったな。何かあったっけ?」
そう言うと私は、旅のお供であるカバンの中を調べ始めた―――
●
「…見なかったことにしよう。」
流石に倒れたままだと可哀想なので、一旦、建物の外まで出て、穴を掘って、埋めてあげることにした。
土の中から何か呻き声のようなものが聞こえてきたような気がしたが、何も聞こえないフリをして、再び建物の中へと戻っていった。
●
「ズボッ」
立ち去ろうとした後ろから妙な音が聞こえた。
―スタスタスタ―
私は足を早めた。
しかし後ろからの足音はそれを越えてどんどん早く、大きくなっていき・・・
―ドーン!―
「何すんだよっ!」
●
怒気を含んだ声に恐る恐る振り返ると、つい今に埋めたはずの人が仁王立ちしていた。
「なっ・・・・・!?」
驚いて言葉を失っていると、相手が先に口を開いた。
「こ・ろ・す・き・か」
●
「ああ、殺す気さ。」
溜め息を付きながら私はそこのゾンビに向かって言った。
「何で!?」
何を今更言っているんだろうか、こいつは。
「今までお前が私にしてきた数々の所業、忘れたとは言わせない。」
●
「あ、あれはお前のことを思って・・・」
ゾンビは言う
しかし、私にとっては迷惑なことでしかないのだ
「あんたは私が殺した。いい加減安らかに眠ってくれないか・・・兄さん」
私は以前は兄と呼んでいた、今はただの腐敗臭のする肉の塊に言い放った
●
「行間で倒されるなんて、弱くなったな。」
と、訳の分からないことを言いつつ、
私は再び建物の中に足を入れた。
しばらく歩くと、広場のような場所に出た。
そこには子供の遊び道具が散乱していたが、肝心の子供がいない。
●
で子供の気配だけはする。
遙か昔に遊んでいた子供の残滓なのか、みえない子供がいるのかは、わからない。
ただ、残されていた遊び道具だけが、不思議な存在感を放っていた。
するとその中から何かがこっちを見つめていることに気が付いた。
そこに目をやると、
●
懐から拳銃を取り出し、「かつて兄と呼んでいた輩」の頭を躊躇いも無く打ち抜いた。
二度と復活できないように、死体も塵一つ残らないように燃やしておいた。
「兄さん、安らかに眠ってくれ。」
てか、もう出てこないで下さい、お願いします、と心の中で呟きつつ、再び建物の探索に戻った。
●
・・・の顔が大きく書いてある肖像画だった。
「不気味なもん飾りやがって」
兄が、この孤児院に人がいたころの院長だったのは知っていたが、
こんな悪趣味なものが飾っているとは知らなかった。
絵に蹴りを一発入れると、後ろから物音がした。
振り向くと、そこには小さな人形が倒れていた。
「気のせいか・・・」
立ち去ろうとしたその時、その後ろから声がした。
「ちょい待ちなよ、そこのキミィ」
■
かばんには、塩気のないパンと水、それから最後に立ち寄った村で
手に入れることが出来た干し肉が入っていた。
何はともあれ、腹が減っては戦は出来ぬ。
ここの探索は、食事のあとでも遅くはないだろう。
そう思った私は、さっそく食事にありつこうと部屋の中央にあった
大きな食卓へと足を運んだ。
材質はマボガニーだろうか。
傷はおろか埃一つない艶やかな一枚板のテーブルが、天窓から零れ落ちる朝の日差しに照らされて柔らかな光沢を放っている。
…何か違和感を感じたが、空腹には勝てない。
手近にあった椅子を引いて腰掛け、カバンからパンを出そうとした…その時だった。
■
「おい、ワシの縄張りでなにしとるんじゃい!」
荒々しくドアを開けて現れたのは、みすぼらしい服装をした初老の男だった。
恐らくは浮浪者だろうか。
そうか、テーブルに埃ひとつなかったのはこの男が此処を住処にしていたからだったのか。
しかし、ここで探索を諦めて帰るわけにもいかない。
私は事態を収拾すべく、かばんのなかの「あれ」に手を伸ばした。
■
鞄の「あれ」をさっと引っ掴んで、浮浪者に突きつけた。
「な、なんじゃこのか弱い老人に暴力を―――」
ナイフや銃などを突きつけられたと思ったのか、泡を食った老人は、私の手に握られた物を見てぽかんと口をあけた。
「ささ、どうぞ一献!お近づきの印に!」
携帯している安酒の入った水筒だ。
悪人ではないようだし、穏便に平和的に解決できればそれに越した事はない。
これを撥ね除けられたら、いよいよ実力行使しかあるまい…と思いながら、相手の出方をうかがった。
●
辺りを見回したが、誰もいない…兄のせいで疲れているのだろう、と再び探索を再開しようとしたが…
「どこ見てるのさ、人の事を倒しておいて無視して立ち去るとか酷くない?」
…声は明らかに目の前にある小さい人形から聞こえてくる。
ゾンビはいるし、喋る人形はいるし…この孤児院、怖すぎる。
でも、よく見たら、この人形、凄く可愛い、というか私のタイプだ。
よし、今日から君は私の相棒だ、名前はあとで考えることにしよう。
偶然手に入れた可愛い人形に頬ずりしながら、私は再び探索に戻ることにした。
人形は何やら叫んでいるが、今の私にはこの人形の名前を考える方が大事なので、無視することにした。
■
「ワシに、酒をくれるのか?」
どうやら穏便に片付きそうだ、そう私は思った。困ったときは酒を提供する、これは小さいときに父から教わったことだった。事実、それでいくらかの修羅場を乗り越えてきたといっても過言ではない。
父のことについてあれこれ思案している間に、ふと老人のほうに顔をやった私は老人の様子がおかしいことに気づいた。なにかぶつぶつ呟いているように見える。
「どうかされましたか?」
「・・・う・・まされん・・・だま・・・」
心配になった私が顔を覗き込もうとした、そのときだった。40kgはありそうなマホガニーの机を蹴り飛ばしたのだ。
「・・・ワシはもう騙されん!!彼奴だけで十分だ!!」
●
「ん?ちょっと待て」
周りを見回すと他にもたくさんの人形が転がっていることに気づく。ここはまるで人形の墓場だ
「……人形で遊んだらちゃんと元の場所に戻しておきなさいとお母さんに習わなかったのだろうか?こんなに散らかして、親が見たら悲しむぞ!うおおおお!」
私は義憤に駆られると居ても立ってもいられなくなり
人形を地面に叩きつけて叫びながら走りだした
「うるさい奴だな…」
声のする方向を見るとそこにはある人物が立っていた
■
老人の様子に、思わず私は目を見開き、絶句した。
怒りに身悶えだした老人の体色がみるみる変化していき――
――獣人へと成ったのだ。
見たところ、老人は怒りに我を忘れているようだ。
この状態では何を言っても通じないだろう。
私は苦々しく舌打ちをし、ひとまずこの場を脱しようと思った。
■
「彼奴がすべて奪ったのだ・・・・
金も、地位も、名誉も・・・
彼奴さえいなければこんな姿になることはなかった・・・」
老人だったもの――獣人はうわごとのようにそう呟いていた。
私はその姿を哀れに思いながらもまずは獣人の注意をそらすべく、手に持っていた酒を思い切り獣人の顔に浴びせた。
「ウォオオオオオオ!」
この隙に扉からほかの部屋へ逃げよう、そう思ったが獣人の様子がおかしい。
ただの酒を浴びせただけでこれほどの叫び声を上げるものだろうか。
獣人の方を振り返ると、その体から煙のようなものが立ち上がっているのが見えた。
●
さようなら、兄さん
何度倒しても蘇る執念深さに半ば呆れつつ、私は銃口に手を掛け、別れの言葉を口にした。
そのときだった。
「やめろ!院長になにをするんだ!」
先ほど地面に叩きつけたはずの人形が、兄を庇うように立ちはだかっているではないか。
■
煙が立ち上る獣人をよく見ると、酒をかけた部分が爛れ焦げている…!私は悪心を覚えながらも、手に持った酒入りの水筒を見つめた。
酒に…弱いのか?聖水でもなんでもない、ただの酒だが…
「う、ぐううぅぅ、貴様、赦さない、赦さない、
彼奴の差し金か、赦さぬ、」
執拗に、彼奴という言葉を繰り返している。
何者だ?この獣人も、彼奴という奴も…。
私は水筒を構え、じりじりと扉に後ずさりながら、
「彼奴とは誰だ!?お前は何者なんだ!」
●
だかそれは空砲だった。実弾は入っていなかったのだ。
「兄さんが、院長?」
私は混乱した、私を裏切り、両親を殺した兄への憎悪は今も私の心に刻み込まれている。
その兄さんが、孤児院の院長をやっているのは知っていたが、それで私の憎しみは消えることはない。
すると、兄さんが私に向かって話しかけてきた。
●
「だが、死ぬ前に一つだけお前に言っておきたい事がある。私はお前の兄さんじゃない、姉さんなんだ。」
あまりにもの衝撃に、私は手に持っていた銃を落としてしまった。
●
「殺したじゃないか。何度も。」
そこで私はふと疑問に思った。
―なぜこいつは、生きている。
何度致命傷と言えるダメージを与えたことだろう。
というか、地面から這い上がって来た時点で気付くべきだったのではないか。
そうか。この兄さんはもう生きていないんだ。
なのに動いている。それはこの世に未練があるからじゃないのか?
私は兄さんに尋ねた。
「一体、何があったんだ。」
●
兄さんは少し眉を潜めると重々しく口を開いた。
「スナックのママに入れ込んでこのザマさ・・・」
二人の間に流れていた時が停止したのを感じた。
■
「とぼけるなぁッ!!
これ…この酒は…紛れも無い、彼奴の身内である証拠!!!」
この酒は、確か前に立ち寄った町の、小さな酒場で主人に譲ってもらったものだった。
こじんまりとしていはいたが、とても雰囲気がよく、
私はそこの主人と打ち解けたのだった。
その町を出るという最後の晩に、
主人は、どこか遠い眼をしながら、この酒を…私に。
では――……。
あの主人が、この獣人と何か関係があるのだと言うのだろうか?
「ま、待ってくれ!落ちつくんだ!
この酒を私に譲ってくれた人は…罪を、償いたい。
……そう、呟いていた。」
●
「スナックのママに入れ込んでこのザマさ・・・」
その言葉を聞いた瞬間、躊躇なく兄さんの頭を打ち抜いた。
そして、兄さん共々喋る人形を全て焼却して、私は再び建物の探索を再開する事にした。
●
「ひでぶっ」
・・・やはり死なない。とっとと成仏するなり地獄に落ちるなりすればいいのに。
このままだと孤児院から出ても付いてきそうな勢いなので、
どうにかちゃんとあの世に送ってやろうと考えた。(いろんな意味で)腐っても兄だし。
●
彼をあの世に送るにはどうしたらいいのか。
私は2秒ほど考えて無理だと判断すると。
撒くか。
私はそう思考するやいなや自分でも惚れ惚れするようなフォームでクラウチングスタートを切った。
■
「ほう・・・、罪を償いたいとな・・・、それほど罪を償いたくば、なぜ彼奴本人はここに来てくれんのか。」
その獣人は私を不信の目で見る。
●
「スナックのママに手を出す金があるならAKBのCDを買えよこの非国民が…」
私は義憤に駆られて兄を粛清すると達成感に声を上げながら走りだした
「廊下を走るんじゃあない!」
耳をつんざく怒号に体が強張る。振り返ってその人物を見た時私は驚いた
「お、お前は…」
●
またか。と私はため息を吐いたが、何かがおかしい。
兄さんがゾンビの如く復活してくるのはいいが、私はそれなりの距離を走った筈だ。
それなのに、新しい扉が見えるわけでもなければ窓の位置が変わったようにも思えない。
●
だがそれは幻だった。
兄をこの手にかけたことに後悔はしていない。
だが何度も何度も蘇る幻が、私を苦しめていたのだ。
今は兄のことは忘れよう。
そして、孤児院の探索に戻ることにした。
●
奇妙な感覚に首を傾げながら、
幻と。気のせいと。自分を納得させて、探索に戻ろうとした矢先、
いつの間には目に前に二人の子供が立っていた。
髪色こそ違うものの、顔立ちのよく似た二人はおそらく双子なのだろう。
キミ達は?
私が口を開くのと同時に女の子の方が「ねぇ、一人?」
と声を掛けてきた。
私が頷くと
「一人なんだ」
男の子の方がそう呟いて二人で何やらひそひそと、囁きあっている。「一人」「なら大丈夫」「よかった」
キミ達は?私が再度その質問を出すと「一人・・・なんでしょ?」
冷たい声と生気の感じられない瞳。
私が戸惑っている間に子供達は、笑いながら去っていった。
●
一人が、なんだって…?
二人以上の来訪者が居るとまずい理由でもあるのか、はたまた来て欲しくない人物がいるのか。そんな疑問が心中に去来したが、なんとなくこの場に留まるのが嫌で歩きだした。
すると、先ほどまで変わり映えの無かった廊下に1つの新しい扉が。
私はドアノブに手を伸ばした。
■
「それは…」
数瞬の躊躇いのあと、意を決して私は口を開いた。
「その人は…ここにくることは出来ない。
なぜならその人はもう、歩くことができないからだ」
…車椅子に乗った、あの初老の主人を脳裏に思い浮かべる。
いつも分厚い膝掛けをかけた、その足の膝から下がないことに
気づいたのは果たしていつだったか。
ある晩酒の勢いで冗談めかしてそのことを聞いたとき、
「ああ、これかね?昔このあたりで抗争があったときにちょっと、な。
だが、足の一、二本亡くした程度で人間死にはしないのさ」
「あの日、ワシらが本当に失ったのはな…『人の心』だよ」
…笑いながら、そう言葉を紡いだ主人のあの冷たい目を、おそらく私は忘れることはないだろう。
■
私がそのことを告げると、彼は愕然とした表情を見せた。
「そんな・・・復讐に身を焦がし、彼奴と戦って勝つために悪魔に魂を売り、この力を手に入れたのに・・・」
私は彼を哀れに思ったが、そう思ったところで何もしてやれることなどなかった。
「旅の方、身勝手なお願いだとは承知していますが、どうかあの悪魔を倒し、わしの魂を救ってくれませんか・・・
悪魔は敵を油断させるため、子供の姿をしております。恐らく、この孤児院の中にいるので、どうか・・・
ぐふっ」
そのとき、突然獣人が胸を押さえて苦しみだした。
その顔は見る見る青くなっていき、ついに床に崩れ落ちた。
そのとき、遠くの方で子供の笑い声が聞こえた、ような気がした。
『くすくす・・・』
●
その瞬間
ゾクリと寒気が走った
「1人」でないと危険だと言うのか? 本当に私は今1人なのか? 本当に?
扉をくぐる時、私は
ズチャリズチャリと
私以外の足音を確かに聞いた
●
勿論、実際に歌うはずなど無い。
「駄目だ、完全に疲れているな。この辺で一度休憩しよう。」
疲れている時はこれが一番だね、とMy水筒に入っている「ホットコーラ」を飲んで、気持ちを落ち着かせた。
30分程休憩をして、再び私は部屋の中へと入っていった。
●
私はただただ歌い続けた。
どんどん気分が高まってゆき、
ついには躍り始めた。
「へびーいろおーてーしょーん♪」
お世辞にも上手いとは言えない歌声が院内に響く。
そして歌い終えた後、私は溜め息を付きながら、こう言った。
「・・・疲れた」
当たり前である。
■
その笑い声は少年のようでも少女のようでもあり、また、その両方であるようにも聴こえた。
倒れた獣人に駆け寄り、その体を揺さぶる。
私の腕の中で、獣人はまるで眠っているようにも、既に助からないようにも見えた。
『魂を救って』彼はそう言った。まだ救える手立てがあるということなのだろうか。
「…悪魔……子供の、姿…」
彼の残した言葉が、真か嘘かはわからない。
それに従わねばならぬ義務もない。
それでも、行動に変換できるだけの、哀れみと義憤があった。
言われてみれば孤児院らしき食堂用の大きな長椅子に獣人を横たえ、鞄から引っ張りだした擦り切れた毛布をかけると、私は奥へ続く扉を開けた。
●
ヘビーローテンションで痛くなった喉を潤した私は、しばし休息を取ることにした。
この部屋は静かだ。私しかいない。
時計の音が鳴り響く。それに混じってまたしても足音が聞こえてきた。
「また兄の幻影か・・・」
無視して寝てしまおうか。そう思いつつも、入口に目をやると、そこにいたのは兄ではなく、髪をだらしなく伸ばした少女が立っていた。
■
「くすくす」
「くすくす」
「もぉ いいかぁい?」
「くすくすくす…………。」
奥へ進むにつれ、子供の笑い声は四方八方から反響してくる。
●
部屋を立ち去ろうとした時、ふと誰かに服の袖を掴まれたような気がして、恐る恐る振り返ると、先程見た少女が立っていた。
「ねぇ、何で一緒に歌ってくれないの。お兄ちゃん、さっき歌ってたよね、何で私と一緒に歌ってくれないの、一人で歌うより二人で歌った方が楽しいよ。」
・・・どうしよう。
●
歌ったら二度と戻れなくなる気がする。
だけど・・・
好きなんだ・・・この曲・・・・・・
歌いたい 歌っちゃダメだ
でも歌いたい いや歌っちゃダメだ
それでも歌いたい いや絶対歌っちゃダメだ
例えそれでも歌いたい・・・・・・・
■
四方から聞こえる声に耳を澄ませる。
くすくすと笑う声は楽しげなのだが、何故か私は恐怖を覚えた。
ポケットに忍ばせた御守り代わりのロザリオをそっと握りしめると、私は勇気を出して声のする方へと歩き出した。
●
ヘビーローテーション歌いたい、歌いたくない。
私は葛藤と戦っていた。
そしてふと見上げると、さっきの少女が目の前にいた。
少女はこちらを笑いながら見つめていた。
だが、その目は魚の死んだような、生気の無い目だった。
そして少女は話しかけた?
「ねぇ、私のこと誰だか知ってる?」
私は……。
■
声はしかし、確実に近づいていた。
握りしめたロザリオが、熱を持っているのがわかる。
――厭な、予感がした。
「子供の姿をした悪魔」……か。
本当は、こんなところ、早々に立ち去りたかった。
旅人としての私の勘が、「ここは危険だ」と
頭の中でシグナルを鳴らし続けている。
それでも私が前へ進むことを選択できたのは、
ひとえに、あの哀れな老人の為である。
●
母……?
私の母は兄さんに殺された。
この目の前にいる少女は、私を母と呼んでいる。
「母?」
私は思わず問い返した。
「そう、貴方の思い出から生まれた、貴方の心に宿る母親」
少女はそう答えた。
「貴方は寂しがってるのよ、さぁ、私の元に帰りなさい」
少女がそういうと、周りの風景が真っ白に染まっていった
この空間には、私と少女しかいない。
●
「大島優子の天下はもうすぐ終わる。その時こそ…」
私はハッと我に返った。この少女は何かを企んでいる
このままでは…
私はポケットからあるものを取り出した
●
これであの女の頭に綺麗な花を咲かせてやるッ!
そう思ったとき背後から轟音がした
少女は表情を強張らせる
「なっ?RPG!?」
チッ、他にも敵がいたか?どうする…
●
私は咄嗟に少女を抱き寄せ、少女のこめかみに銃口を当てながら叫んだ。
「動くな、これ以上近づくとこの女の命は無いぞ」
母と名乗る少女を盾にして、この危機を乗り切る事にした。
■
さらに奥に進むと、目の前に扉が現れる。
見たところ、どうやら勉強部屋らしい。
扉をあけようとするも、恐怖感が邪魔するのか、扉は動かない。
■
さらに力を込めて、扉を開けようとする。
びくともしない。
どうやらこの扉はロックされているらしい。
とはいえ鍵らしきものは見当たらない・・・。
それでは内側から鍵を掛けているのか・・・。
はたまた不思議な力で開けられなくしているのか・・・?
「むぅ・・・。」
と思案していると、扉に紙が貼られているのが目に入る・・・、
●
私は走った、ひたすら走った。そして息も切れ切れになった刹那、少女の姿は忽然と消えていた。
少女、いや、少女のいたはずの場所を見てみると、少女の服だけが落ちていた。
「今のは、一体なんだったんだろう」
気を取り直し、孤児院の探索を続けることにした。
■
上を見上げるとまたもや張り紙と・・・、レバーらしきものがぶら下がっている。
このレバーを下げると扉が開く仕組みなのか・・・?
●
夢?いや私の英雄願望の表れか…
「なかなかいい感じだったな、おっと?」
妄想で体力を使った私は小腹が空いている事に気づいた
「調理場を探そう。腹が減ってはいくさは出来ぬ…ってねぇ!」
テンションの高い私は一番近い襖を勢いよくガラッと開けるとそこは…
●
「よく来たわね、ここは現世と魔界のちょうど境界線のようなもの。もし貴方がここの結界を破ろうとするならば国家認定陰陽師である私が相手になるわ」
くっ、凄いオーラだ
やはり国家の陰陽師ともなれば福利厚生が充実してるのだろうか?それは許せない!
ここは…
■
さてレバーを引こうとなったところで私は思い至る。私は身長が残念な程しかないことに。それだけが幼少期からのトラウマであった。相撲で誰にも負けないようにする為には筋肉を鍛えればいい。村一番の物知りになるためには人一倍努力して勉学に励めばいい。しかし、背丈だけはどうにもならなかった。
「どうしようかな!!!」腹立ち紛れに大声を出してみる。あたりにイス等踏み台になるものは見あたらなかった。
そこで私は思い出す。食卓の机がある部屋に置いてきた、獣人の存在を。
■
この場から立ち去ろうとすると、あたりから
「えー、もう帰っちゃうのー。」
「つまんないやー。」
「ああ、やっぱり今回も駄目だったよ・・・。」
「このいくじなしー!!」
「くすくす・・・」
子供らしき笑い声とも罵声ともつかない声が響いてくる。
その声を振り切るようにあの部屋に戻っていった。
■
獣人が倒れていた筈の部屋に戻ってみたが、その部屋には誰ひとりとして残っていなかった。
代わりに残されていたのは、一枚の紙きれ。
私は、その紙切れを手に取った。
それは、多少汚れで見辛くなっているものの、どうやらこの建物の地図の一部であるようだ。
裏には「おまえさん、このまえ」と書かれている。
これは一体どのような意味なのだろう。
何かしらの暗号なのだろうか。
●
「もう面倒だからお前も来いよ、一緒に行こうぜ。」
国家認定陰陽師の手を掴んで、一緒に部屋を抜け出した。
こうして、俺達の愛の逃避行が始まった。
●
「待って、貴方に渡したいものがあるの」
そういうと母は手提げのバッグからあるものを取りだしたのだ
「これは……」
母は頷いた
「そう、これはふくやの明太子よ。貴方が好きだったね」
自分でも忘れてた事を母は覚えていてくれたのだ!
私はしばらく涙が止まらなかった
■
この建物の地図らしきものを手に入れたのはいいが、
このままではあのレバーを引く事が出来ない。
「仕方がない、あの椅子を踏み台に使うか・・・」
部屋に置かれていたマボガニーの椅子を持って行く事にした。
忽然と消えた獣人・・・。
あの地図に書かれていた暗号・・・。
私には色々と引っかかるものがあるが・・・、
とにかく先に進まねばならない・・・。
■
身長が低い私でも、力比べなら負けない。椅子を片手に持って軽々優雅に運んでいく私・・・そんなイメージを持って椅子に手をかけた。
「ふんっ・・・むっ・・・」
仕方ないので押して歩くことにした。
私はレバーのある部屋に戻ってきた。出たときと同じ声が部屋の奥から聞こえてくる。
■
「ふぅ、これで…届くかな。」
私は椅子の上に登って少し背伸びをした。
…
………あと少し、ほんの数センチ足りない。
今ほど自分の背丈の低さを恨めしいと思ったことはない。
例の声に笑われてる気さえしてしまう。
あぁ…足場は不安定だがジャンプをすれば届きそうだ。
――――さぁ、どうしよう?飛ぶか?
●
いつの間にこんな部屋に来たんだろうか。
気がつけば、国家認定陰陽師バージョンの母さんもいなくなってるし。
例の如く、服だけ残っていたので、きっちりとそれを回収しておいた。
「お腹すいたな…」
何処かに食べれそうな物は無いだろうか、と部屋の中を探してみることにした。
■
今私にいるのは一握りの勇気。思えばいつも障害という名の壁を避けてきたように感じる。
「ふう・・・」
獣人から託された願いをもう一度思い返す。あの鋭利な瞳の奥に満ちていた・・・あれは悲しみと呼べばいいのだろうか。今こそ振り絞るべき。
そう、私は今大空に羽を伸ばす鳥になるのだ。
「えいっ!!・・・わあああああああ」
そんな心意気を嘲笑うかのように、椅子は無情にも倒れる。非常に痛い。だが・・・
「・・・開いた。」
小指がレバーにかかったらしい。ドアは重苦しい音を出して開いている。
その先に見えるのは、闇。
■
…
頭がぐわんぐわんしてきた。
先ほど椅子から落ちた時に頭を打ってしまったのか、
目の前に広がる闇に怖気づいたのかは私にも分からなかった、が。
「ふぅ…周りを照らせるものはない…かな?」
懐中電灯でも、蝋燭でも、…いやこの際太陽のような頭をしたおじさんでもいい。このままだと先に進めなさそうだ。
別に…暗いところが苦手な訳ではないが。むしろばっちこいだし。
と自分に言い訳しながら、私は辺りを見渡してみた。
■
なにか明かりがないかと勉強部屋の机の引き出しをあさっていると、
ペンライトを発見した。明かりとしては少し心もとないが、ないよりはましだろう。
「AKB」と謎の文字が刻まれているが、これは何か、組織の名前だったりするのだろうか。
ともかく、私はペンライトの光を頼りに暗闇の中へと足を踏み出すことにした。
●
店員と世間話などをしつつ、注文の品が出てくるのを待つ。
もしやこの店員って、この孤児院で会った中では
はじめての普通の人・・・?
私は、山口出身だという彼女を感慨深い思いで見つめた。
■
ふと、何か柔かいものを踏みつけたらしく、思わずびくりと飛びのいた。
足元へペンライトの灯りを当てると、薄汚れたぬいぐるみが転がっている。
ほ、っと安堵のため息をついて、
再び室内の探索を再開しようとした、その時――…
■
「痛いなぁ。
もぉもぉ、人をふんづけておいてごめんなさいもないの?」
足元から子供のような声が聞こえてきた。
思わずびくっとしながら、声のしたほうをペンライトで照らす。
「そんなに驚くことないじゃない。
ぼくだよぼく、さっきあなたがふんづけたの!」
先ほどのぬいぐるみが、ひょっこり起き上がって私を見上げていた。
どうやら先ほどの声の主はこのぬいぐるみのようだ。
「ねー、ごめんなさいは?
『悪いことしたらごめんなさいっていうんだよ』って
おとーさんやおかーさんや先生に教わらなかったの?(ぷんすこ)」
■
「いや…なんで人形がしゃべって…
えっ…いやいや…えーと…
…ご、ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
尋ねたいことはたくさんあったが、
可愛い声のぬいぐるみを刺激しないように
まずはとりあえず謝っておいた。
●
「はっ」
私は目を覚ました。こんなところにマク●ナルドがあるはずはない。
度重なる幻覚と疲労で、少し気を失っていたようだ。
そして自分の身の回りを確認したが、回収したはずの衣服が忽然と消えていた。
「あれは、全て幻だったのか?」
自然に言葉がこぼれた。そして起き上がろうとすると人の気配に気付く。
誰?
●
「ようやく目が覚めたね」「覚めたね」
あの時の双子のような少年と少女だった。
「ねぇ、今から面白いことがあるから、着いてきてよ」
私は寝ぼけた頭を覚ますために、ほっぺを両手で軽く叩き、後をついていった。
●
ついていく前に一言だけ言っておくことがあったので言っておこう。
「とりあえず何か食べさせて貰えないか。あとホットコーラのLサイズを一つ。」
●
「お、おいお前らちょっと待てって!」
先に進もうとする2人に声をかける
「私は寝すぎて腹が減っててな、何か食う所ないか?」
双子はお互いに顔を合わせると口を開いたのだった
●
「くすくす」
子供達はぞくっとする笑みを私に向けた。
「おなかがすいてるの?」「すいてるの?」
「一緒だね」
「でも私達は平気だよ」
「貴方は…一人だもんね」
くすくすと笑いながら子供達は歩いていく。
■
「怪我はないけどさぁ、綿とかでたらどうしてくれるわけー?謝って済むならケイサツいらない!」
ちょこんとその場に座り、腕を組んでぷんぷん怒っている。
よく見ると、うさぎのぬいぐるみのようだ。
「ええっと…あの、ごめん、なさい。
あの…あなた、なんですか?ぬいぐるみ…?」
あたふたしつつ何故ぬいぐるみが動いているのかと聴くと、ぬいぐるみは怪訝そうに、
「…なに?ぼくみたいなの、見たことないの?
あなた、招かれたんじゃないの?」
●
「ホットコーラなんて、そんな趣味の悪い飲み物ないよ」
「ないよねー」
そんな無邪気で残酷な会話を聞きながら、
私は彼らについて行った。
行き着いた先の重々しい観音開きの扉を、二人が同時に押し開く。
扉の隙間から出てくる空気は、ぞっとするほど冷たく禍々しい。
「これは…処刑台?」
罪人の処刑につかう、首吊り処刑台というのだろうか。
そんな恐ろしい代物がまず目に入った。
■
何かに招かれてここへやってきた記憶は無い。
ましてや、喋って動くぬいぐるみなんて、
今まで、様々な地を旅してきた私でも初めて目にするものだった。
私は、ここに至るまでの簡単な経緯を目の前のぬいぐるみ語った。
「ふぅん……。
てことは、招かれたことにすら気付かなかった、ってことォ?
あなた、相当グズなのね?
そんなんで今までよく旅なんてしてこれたねー。
感心しちゃうよ。」
■
「まあ、あなたなんてあいつらの罠にひっかかってむいぐるみにされるのがオチよ。
あいつらのことだから今度はぬいぐるみじゃなくて輪ゴムにされても知らないわよ。
そうなりたくなかったら今すぐココから出なさいな。
まあ、ここから出られたらの話だけれど…。」
どうやらこのぬいぐるみもまた…私と同じ・・・。
●
何故処刑台が・・・
いや、それよりも・・・あの処刑台・・・
私は違和感を感じ、処刑台を近くで見ようとした
だがそれは成しえなかった
処刑台に感じた違和感
それは処刑台が「赤かった」のだ
いや、赤いだけではない
今もなお
ぴちゃん、ぴちゃん
と音を立てて滴る赤い液体が、その処刑台の禍々しさに拍車をかけていたのだ・・・
私は腰を抜かしてしまった
●
「「どうしたの?」」
双子は同時に口を開いた。
「「あー。怖いよね」」
「私達も」「ぼく達も」
「「怖かったもん」」
「「でも」」
「どうしてかな?」「どうしてだろ?」
「「おなかがすいてただけなのに…」」
この子達は何を言っているんだ。
声で、目で。
まるで、私を責めるように。
私はへたり込んだまま、子供と、処刑台に交互に視線を泳がせていた。
■
君……は、もしかして、私の心配をしてくれている、のかい?
ウサギのぬいぐるみをそっと抱きかかえて、尋ねてみた。
「なっ……!?グズでノロマなあなたの心配なんか
するはずないでしょっ!?
ぼくはただ…」
「もう、“あんな風”になるのを見たくないだけ。」
●
「ところで」「お腹。」
「空いてるんでしょ」「空いてるんだよね」
ここが血に染まった処刑台の目の前でなければ
双子の笑顔は文句のつけようも無い程愛らしいと思ったに違いない。
くっと上がった口角に、発達した犬歯―というより牙と呼ぶのが相応しいだろうか―を見つけてしまうことも無かっただろう。
だが
白い皿の上に無造作に置かれた人間の手首らしき物体は、
どうあがいても見間違いようがなかった。
■
あんな風…とは?
興味深そうに私が聞くと彼女はいたずらげに答えた。
「ひみつよ、ひみつ…そう簡単には教えないわ。
私が教えて…あげられるのは…ひとつ。
このまま…突き当りまで進…むと扉が3つある…わ。
真ん中の扉には…近づかないで…いいわね。」
…
ぬいぐるみをなでていると、
心なしか彼女の動きが鈍くなっているように感じた。
…私の気のせいだったらいいが。
●
お、お前たちは一体何者なんだ!?
私は私の半分も生きていないであろう子供たちに怯えている
私をどうするつもりなんだ!?
未だ立ち上がれない私には、叫ぶことでしか己の矜持を保つことができなかったのだ
「私達?「ぼく達?」
「「別に何もしないよ?」」
「「だけど・・・」」
「「あなたはなんで床を舐めてるの?」」
「くすくす」 「くすくす」
「「くすくすくすくす」」
●
子供に言われてハッとした
私は無意識に床を・・・
いや床に滴る赤い液体をすすっていたのだ
私の口の周りや衣服は真っ赤に染まっている
ちょうどあの処刑台と同じ色をしていただろう
■
あんな風…?
それはどういうことだろうと、ぬいぐるみに聞こうとする。
と、それまでぷんぷん、と頭から湯気がたちそうな勢いで怒っていた
ぬいぐるみがしゅん、と力なくうなだれた。
よくよく気をつけてみれば、抱きかかえた小さな身体が小刻みに
震えている。
「…泣いて、いるのかい?」
私はぬいぐるみを抱き直すと、安心させるようにそっと頭を撫でた。
■
「…………き、やす…く、触らないでよ、グズ…っ」
憎まれ口を叩きながらも、ぬいぐるみは涙を流すことなく泣いていた。
私は、頭を撫でる手を止めることなく、ぬいぐるみが落ちつくまでそうしていた。
……ところが、不意に、ぬいぐるみがピタリと動きを止めたかと思うと、
意思を持って動いていたソレは、
魂が抜けたかのようにくたりとモノへと成っていた。
■
彼女は動かなくなってしまった。
私が何度も何度も何度も呼びかけても反応を返すことはなかった。
…つい数十秒前まで彼女は私とお話していたのに。
彼女の素の部分を見ることができた気がしたのに。
…
…
でも彼女は動かなくなってしまった。
あぁ…あの時感じた不安が現実になってしまったんだ。
私はしばらくその場に立ち尽くしたあと、
左手にぬいぐるみを右手にペンライトを装備して、
彼女が言っていた突き当たりの扉まで再び歩いてみることにした。
■
「…ぬいぐるみ、さん…?なんで…」
『くすくす…知らなかったぁ、ひとらしい人の心ってうさぎにも残るんだね、ふふ…そうと知ってたらもっともっと遊んであげたのに…』
笑い混じりの囁きが聞こえ、瞬時にライトを部屋の奥に向けると、光に照らされ、俯いて笑いを噛み殺す少年の姿が見えた気がした。
そして目があった瞬間、口が裂けたかのように歪に笑うと、私がなにか言う前に少年の姿はかき消えた。
私の腕の中で、物と化したぬいぐるみの耳がだらりと垂れた。私は部屋にひとりだった。
●
私は何を…
慌てて口を拭うと、手にはべっとりと赤い液体がついていて。
先ほどまでは感じなかった鉄の味が口の中に広がって。
子供達の嫌な笑い声が耳の中に広がって。
恐怖と混乱が頭の中に広がって。
私はその場から一目散に逃げ出した。
笑い声が小さくなって遠くなって消えた時、私は近くの壁に寄りかかって座り込んだ。
汗か血か分からないがベトベトの顔を袖で拭って、息を整えながら。私は少しずつ冷静さを取り戻していた。
私は何をしていたのか。何をしたらいいのか。どうすればいいのか。
今までも様々な危険な目にあってきた。それでも私はそれを潜り抜けて、今ここに座っている。
どうにか出来ない事は…無い筈だ。
■
私はおもむろにその魂の抜けたぬいぐるみを抱えて更に奥に進んだ。
せめてぬいぐるみだけでも救ってやりたいという義憤からだったのだろうか・・・。
そして私の目の前に、
左:青い扉、真ん中:黄色い扉、右:赤い扉
の三つの扉が立ちはだかった。
しかもよく見ると赤い扉だけ上にたらいが仕掛けられている・・・。
さらにそれぞれの扉にはまた紙が貼られていた。
■
青い扉には
『こちらが正解の扉です。』
黄色い扉には
『この先危険!近寄るな。』
赤い扉には
『この扉を開くとたらいが落ちます。』
と書かれている。
あからさまである。
■
ぬいぐるみの言葉を思い出す。
『真ん中の扉には近づかないで』
…根拠は無い。けれど、あの子の言葉は信用できるものだと、そう、私は思っていた。
逡巡の末、私は、赤い扉に手をかけた。
■
私は考える。相手、すなわち「招待者」は幾人もの人間を人形に変えるほどの力の持ち主なのだ。頭脳も相当切れるに違いないのではないだろうか。
黄色の扉はウサギのぬいぐるみが忠告してくれたこともあるから近づかないほうが賢明そうだ。だが、赤い扉はどうだろうか。こんな張り紙をみたら誰でも入りたくなくなる、それこそが罠ではないだろうか。
「ふふ・・・小賢しい。私がこんなトリックに騙されると思いますか?」
私は微笑みながら赤い扉を開ける。
タライが落ちてきた。
■
そう、ぬいぐるみの言葉、相手の思惑を探る智略、そういったものに考えを巡らせていた私は、すっかりとタライのことを忘れていた。
ガァーン、カァーン、カーン、カー…
タライは見事私の頭に命中し、ものすごい反響音をたてた。
目の前に色とりどりの星が散り、くらくらっときた私は、よろめいて2、3歩進む。
そこはもう、赤い扉の部屋の中だった。
なんだ私は、これじゃまるでバカみたいじゃないか…と思いつつ頭をさすり、顔をあげた私は思わぬ光景に息を飲んだ。
■
ピカピカと星が飛ぶ視界の中に映ったのは…
壁、床、天井、
一面に赤いクレヨンで文字が書かれた室内だった。
思い切りぶつけた頭も一気に覚めていくのが感じられた。
あっけに取られていると、背後でバタン、と
扉の閉まる音が聞こえ、はっと振り返って
ドアをガチャガチャ必死に弄っても、もうビクともしなかった。
■
私は間違った道を進んでしまったのだろうか。既に後悔し始めた私は、足元に小型のモニターがあるのを発見した。
ボタンが一つだけあり、「PLAY」と書かれている。何かいやな予感がした。
怖々と押してみる。すると画面が急に一面真っ赤になり、思わず投げ飛ばしてしまった。
流れる声はぬいぐるみが動かなくなった直後に聞いたものと同じだ。
「くすくす・・・ボクとゲームしよう?」
「ルールは簡単。この部屋から脱出するだけ。」
「ちゃんと、脱出できるようになってるよ?そうじゃなきゃ面白くないもん」
「色んな罠が仕掛けてるから気をつけてね?ま、気をつけても避けられないだろうけど。くすくす」
頭が真っ白になる。
「後、さっき青い部屋選んでたらどうなってたか見せてあげるね?」
■
モニターが青く切り替わる。おそらくこれが青い扉の部屋なのだろう。
モニターカメラの視点は、ちょうどその部屋に入ってきた人間視点で、
扉を背に、何も無い向こう側と左右の壁が見える。
一見すると何も無い、シンプルな青い部屋だ。
カメラはゆっくりと前に進み、部屋の中央辺りまで来たかと思うと、
ふっ、と視界が暗くなり
どちゃり。鈍い音がして、モニターの映像は真っ赤に戻った。
「……これがどういう意味なのかは自分で考えるんだね。
くす、さあ、制限時間は無限大だよ。でも、ぼやぼやしてると…
――あっという間にゲームオーバーさ。」
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