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かばんには、塩気のないパンと水、それから最後に立ち寄った村で
手に入れることが出来た干し肉が入っていた。
何はともあれ、腹が減っては戦は出来ぬ。
ここの探索は、食事のあとでも遅くはないだろう。
そう思った私は、さっそく食事にありつこうと部屋の中央にあった
大きな食卓へと足を運んだ。
材質はマボガニーだろうか。
傷はおろか埃一つない艶やかな一枚板のテーブルが、天窓から零れ落ちる朝の日差しに照らされて柔らかな光沢を放っている。
…何か違和感を感じたが、空腹には勝てない。
手近にあった椅子を引いて腰掛け、カバンからパンを出そうとした…その時だった。
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「おい、ワシの縄張りでなにしとるんじゃい!」
荒々しくドアを開けて現れたのは、みすぼらしい服装をした初老の男だった。
恐らくは浮浪者だろうか。
そうか、テーブルに埃ひとつなかったのはこの男が此処を住処にしていたからだったのか。
しかし、ここで探索を諦めて帰るわけにもいかない。
私は事態を収拾すべく、かばんのなかの「あれ」に手を伸ばした。
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鞄の「あれ」をさっと引っ掴んで、浮浪者に突きつけた。
「な、なんじゃこのか弱い老人に暴力を―――」
ナイフや銃などを突きつけられたと思ったのか、泡を食った老人は、私の手に握られた物を見てぽかんと口をあけた。
「ささ、どうぞ一献!お近づきの印に!」
携帯している安酒の入った水筒だ。
悪人ではないようだし、穏便に平和的に解決できればそれに越した事はない。
これを撥ね除けられたら、いよいよ実力行使しかあるまい…と思いながら、相手の出方をうかがった。
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辺りを見回したが、誰もいない…兄のせいで疲れているのだろう、と再び探索を再開しようとしたが…
「どこ見てるのさ、人の事を倒しておいて無視して立ち去るとか酷くない?」
…声は明らかに目の前にある小さい人形から聞こえてくる。
ゾンビはいるし、喋る人形はいるし…この孤児院、怖すぎる。
でも、よく見たら、この人形、凄く可愛い、というか私のタイプだ。
よし、今日から君は私の相棒だ、名前はあとで考えることにしよう。
偶然手に入れた可愛い人形に頬ずりしながら、私は再び探索に戻ることにした。
人形は何やら叫んでいるが、今の私にはこの人形の名前を考える方が大事なので、無視することにした。
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「ワシに、酒をくれるのか?」
どうやら穏便に片付きそうだ、そう私は思った。困ったときは酒を提供する、これは小さいときに父から教わったことだった。事実、それでいくらかの修羅場を乗り越えてきたといっても過言ではない。
父のことについてあれこれ思案している間に、ふと老人のほうに顔をやった私は老人の様子がおかしいことに気づいた。なにかぶつぶつ呟いているように見える。
「どうかされましたか?」
「・・・う・・まされん・・・だま・・・」
心配になった私が顔を覗き込もうとした、そのときだった。40kgはありそうなマホガニーの机を蹴り飛ばしたのだ。
「・・・ワシはもう騙されん!!彼奴だけで十分だ!!」
●
「ん?ちょっと待て」
周りを見回すと他にもたくさんの人形が転がっていることに気づく。ここはまるで人形の墓場だ
「……人形で遊んだらちゃんと元の場所に戻しておきなさいとお母さんに習わなかったのだろうか?こんなに散らかして、親が見たら悲しむぞ!うおおおお!」
私は義憤に駆られると居ても立ってもいられなくなり
人形を地面に叩きつけて叫びながら走りだした
「うるさい奴だな…」
声のする方向を見るとそこにはある人物が立っていた
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老人の様子に、思わず私は目を見開き、絶句した。
怒りに身悶えだした老人の体色がみるみる変化していき――
――獣人へと成ったのだ。
見たところ、老人は怒りに我を忘れているようだ。
この状態では何を言っても通じないだろう。
私は苦々しく舌打ちをし、ひとまずこの場を脱しようと思った。
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「彼奴がすべて奪ったのだ・・・・
金も、地位も、名誉も・・・
彼奴さえいなければこんな姿になることはなかった・・・」
老人だったもの――獣人はうわごとのようにそう呟いていた。
私はその姿を哀れに思いながらもまずは獣人の注意をそらすべく、手に持っていた酒を思い切り獣人の顔に浴びせた。
「ウォオオオオオオ!」
この隙に扉からほかの部屋へ逃げよう、そう思ったが獣人の様子がおかしい。
ただの酒を浴びせただけでこれほどの叫び声を上げるものだろうか。
獣人の方を振り返ると、その体から煙のようなものが立ち上がっているのが見えた。
●
さようなら、兄さん
何度倒しても蘇る執念深さに半ば呆れつつ、私は銃口に手を掛け、別れの言葉を口にした。
そのときだった。
「やめろ!院長になにをするんだ!」
先ほど地面に叩きつけたはずの人形が、兄を庇うように立ちはだかっているではないか。
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煙が立ち上る獣人をよく見ると、酒をかけた部分が爛れ焦げている…!私は悪心を覚えながらも、手に持った酒入りの水筒を見つめた。
酒に…弱いのか?聖水でもなんでもない、ただの酒だが…
「う、ぐううぅぅ、貴様、赦さない、赦さない、
彼奴の差し金か、赦さぬ、」
執拗に、彼奴という言葉を繰り返している。
何者だ?この獣人も、彼奴という奴も…。
私は水筒を構え、じりじりと扉に後ずさりながら、
「彼奴とは誰だ!?お前は何者なんだ!」
●
だかそれは空砲だった。実弾は入っていなかったのだ。
「兄さんが、院長?」
私は混乱した、私を裏切り、両親を殺した兄への憎悪は今も私の心に刻み込まれている。
その兄さんが、孤児院の院長をやっているのは知っていたが、それで私の憎しみは消えることはない。
すると、兄さんが私に向かって話しかけてきた。
●
「だが、死ぬ前に一つだけお前に言っておきたい事がある。私はお前の兄さんじゃない、姉さんなんだ。」
あまりにもの衝撃に、私は手に持っていた銃を落としてしまった。
●
「殺したじゃないか。何度も。」
そこで私はふと疑問に思った。
―なぜこいつは、生きている。
何度致命傷と言えるダメージを与えたことだろう。
というか、地面から這い上がって来た時点で気付くべきだったのではないか。
そうか。この兄さんはもう生きていないんだ。
なのに動いている。それはこの世に未練があるからじゃないのか?
私は兄さんに尋ねた。
「一体、何があったんだ。」
●
兄さんは少し眉を潜めると重々しく口を開いた。
「スナックのママに入れ込んでこのザマさ・・・」
二人の間に流れていた時が停止したのを感じた。
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「とぼけるなぁッ!!
これ…この酒は…紛れも無い、彼奴の身内である証拠!!!」
この酒は、確か前に立ち寄った町の、小さな酒場で主人に譲ってもらったものだった。
こじんまりとしていはいたが、とても雰囲気がよく、
私はそこの主人と打ち解けたのだった。
その町を出るという最後の晩に、
主人は、どこか遠い眼をしながら、この酒を…私に。
では――……。
あの主人が、この獣人と何か関係があるのだと言うのだろうか?
「ま、待ってくれ!落ちつくんだ!
この酒を私に譲ってくれた人は…罪を、償いたい。
……そう、呟いていた。」
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