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――診療所/外――
待たせたな。
そんじゃあ………行くで。
[数刻後、男は黒緑色のコートに身を包み、
手提げ鞄をしっかり片手に持って外に出た。
行き先は海辺。
七色の斑色をした海は、誰かの視界を借りても尚この世ならざる光景として映る。
そこに雪華が映えたとしても何も変わらない。
そんな思いを抱えながら]
遅かったですね。
……さては腹巻き、つけてきたんですか。
あと、肝心のマフラーです。
[と、同行者が鞄を手にしていることに気付いた。]
荷物……どうしたんですか。
―浜辺―
飛ぶ……?
[寄せては返す波の音。空を飛べれば海も渡る事も出来ただろう。しかし人である自分には到底無理な話しだった。
機人を訝し気に見つめる]
………。
[本気なのかボケなのか計りかねる表情を見せた後、首を横に振った。
無論腹巻について、である]
あぁ、これは………気にすんな。
単なる保険や。
あ、待て、
[ためらいなく海辺へ歩き出した歳若い医療従事者のあとを早足で追う。
横に並びながら周囲をぐるりと見回し、]
ええか、万が一誰か襲ってきたら、わき目もふらずに逃げた方がええ………お互い、な。
[武器は持てどぎりぎりまで抜かぬ心積もり。
海辺に向かうまで、自分からあまり話は振らずに、ただ歩く]
襲うって、なにが――あ。
[口数の少なくなった男の様子を見て、黙り込む。
確かに、こんなご時世だ。
強盗めいたものがいることも知っていた。
ただ立場上、赤い十字の腕章が守ってくれているだけで。
警戒心が足りなかったのだな、と無言になった。]
――浜辺へ――
[ほどなくして相手は、
こんな時にのこのこ外を出歩くことの危険性に気付いたようだった。
男の思考で何より優先するのは自衛。
気まぐれで困っている者に手を貸すことはあるが、
困っているように見えた者が、実は困っていなかった過去もある以上、
心許せる状況というのは少ないのだ。過去も今も。
横を歩く歳若い医療従事者のことは結構信頼しており、
危険が迫ったら損得抜きで手を貸すこともやぶさかではない、けれど]
――浜辺――
あー、あんたやったんか………無事とはな。
[神父の姿を見かけて、少しばかり驚いた表情になる。
廃ビルの無法者の存在は知っている男、
出くわさずに済んだのだろうか、と思考を展開する。
神父の向かい側に、赫い眼の擬人の姿があれば、
そちらにもゆるりと目を向けて]
…………風邪引かんうちに終いにしな。
[神父(達)から少々距離を置いて、
片手をポケットに突っ込み、煙草のケースを取り出した]
……?
ええ、そうですよ。
[今も尚、傍らにある海のように七色に輝く瞳。目の前に居る機人の瞳の表面にうっすらと映り込んでいる。けれども、気付かない。集積体の汚染を受けてからは他者とは違った視界が広がっている。とても自分の都合の良い世界が。
機人の質問の意図が分からずに更に訝しんでみせる。勿論人だと肯定する。]
………。
[ 赫眼の水平ラインの奔流は既に停まり、オレンジ色の光は明滅ではなく灯ったままで、ジムゾンを見つめている。]
まだ、そうみたいですね。
[にっこり]
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