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次の日の朝、自警団長 ヘクター が無残な姿で発見された。
噂は現実だった。血塗られた定めに従う魔物“人狼”は、確かにこの中にいるのだ。
非力な人間が人狼に対抗するため、村人たちは一つのルールを定めた。投票により怪しい者を処刑していこうと。罪のない者を処刑してしまう事もあるだろうが、それも村のためにはやむを得ないと……。
現在の生存者は、青木さん(弱)、森主 空、森主 苺、火浦 真、石原 裕三郎、安土 メイ、倖田 久美、中御門 早綾、水鳥 あきな、川田 花子 の 10 名。
魅力的だなんて…わたくし、そんなこと言われたのは初めてですわ。
わたくし、ここに来るまでは同じ年頃の男性に会ったことが余りありませんでしたの。
ですから、いろいろなものが珍しくって。
ああ…ここが離棟、ですのね。
覗いても宜しいかしら?
[中を覗く。物音は聞こえてこないようだった]
…こんなところで。花子様が教えてくださる、とおっしゃってたのですけど。
あきなさんは、ここを利用されたことはあるのですか?
[のほほんと*聞いた*]
・村内時間
翌日にしてもらってOKです。
もちろん前日に遣り残したことがあれば処理をしてもらっても構いません
今後人が多い間は48時間ですが4日目辺りから24時間になる予定です
更新時間が24時間延長されました。
また、構内の各所に以下の文章が掲示されています。
『本日から一週間後を恋愛単位考査日とします。
各人はその日に規定の用紙に必要事項を記入し、
今学期の恋愛について提出してください。
この内容をもって、今学期の恋愛の単位の可否を決定します。
*これは卒業必須単位ですので、
まだ修得していない人は気をつけてください。』
必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
倖田久美には学業がわからぬ。倖田久美は、只の学生である。ハリセンを叩き、モップとなって遊んで来た。けれども空腹に対しては、人一倍に敏感であった。
この春未明倖田久美は村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此の大学にやって来た。倖田久美には父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。倖田久美は、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、いろいろおかしい。
先ず、売店の品々を買い集め、それから大学の大路をぶらぶら食べ歩こう。売店のパンは美味しい。その売店を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく食べなかったのだから、買って食べるのが楽しみである。歩いているうちに倖田久美は、大学の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、別棟の暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、大学全体が、やけに寂しい。のんきな倖田久美も、だんだん不安になって来た。路で逢った女学生をつかまえて、何かあったのか、昼に此の別棟に来たときは、売店は賑やかであった筈だが、と質問した。女学生は、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて女教諭に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。女教諭は答えなかった。倖田久美は両手で女教諭のからだをゆすぶって質問を重ねた。女教諭は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「売店は、すでに閉まっています。」
「なぜ閉まったのだ。」
「売り物がない、というのですが、誰もそんな、買い占めた覚えは居りませぬ。」
「たくさんのパンが売り切れたのか。」
「はい、はじめはチョコチップメロンパンを。それから、チョココロネを。それから、ホワイトデニッシュショコラを。それから、ヤマ○キ春のパン祭りを。それから、賢靴のアレキス様を。」
「おどろいた。売店は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。パンを、売る事が出来ぬ、というのです。このごろは、人気の惣菜パンをも、品薄になり、少しく派手な暮しをしている者には、ひとりずつ学食へ向かえと命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
聞いて、倖田久美は激怒した。「呆れた売店だ。生かして置けぬ。」
倖田久美は、単純な女であった。のそのそ売店にはいって行った。たちまち彼女は、宿直の女教諭に捕縛された。調べられて、倖田久美の懐中からはええい面倒だ飛ばせ飛ばせ。
倖田久美は生徒指導室から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。倖田久美は跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、開店の刻限までには十分間に合う。
さて、倖田久美は、ぶるんと両腕を大きく振って、矢の如く走り出た。
私は、今日、パンを食べる。食べる為に走るのだ。美味しい菓子パンを食べつくす為に走るのだ。売店の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。
そうして、私は食べる。若い時から名誉を守れ。さらば、空腹。若い倖田久美は、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、倖田久美の足は、はたと、とまった。
見よ、私の腹を。きのうの空腹で腹の虫は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に即ち腹が減りすぎた。
彼女は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、パンは残らず売店に浚われて影なく、売り子の姿も見えない。
空腹はいよいよ、ふくれ上り、底無し沼のようになっている。倖田久美は廊下にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う腹を! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に夜明け時です。あれが登ってしまわぬうちに、売店に行き着くことが出来なかったら、この佳い腹が、私のために死ぬのです。」
空腹は、倖田久美の叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今は倖田久美も覚悟した。飯を探すより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 空腹にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。倖田久美は、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、なんの話だかとにかくわからないが、倖田久美はついに力尽き果てた。
―別棟 カフェテリア―
………。
[憮然とした表情でバナナジュースを飲む少女の顔には、無数の絆創膏。]
……今日こそは糞鳥の息の根を止めて、焼き鳥にしてやるデス…。
[ズーーーッとストローで一気に飲み干すと、グラスの氷がかろやかな音をたてた。]
[ストローを口にくわえて軽く上下させると、雫がテーブルの上に落ちる。]
はわっ
[慌てて、テーブルの上に置いてあった紙をどかした。
幸い、紙は濡れてはいなかったけれど。
手に持った紙の文章を見て、少しだけ眉が下がる。]
むー…
恋愛単位 かぁ…。
[大きな溜息を吐くと、テーブルの上に頬をつけて寝転がった。]
―正門付近―
[倖田久美がメロスと化している頃、青木さんは
様々な告知のなされる掲示板を眺めていた。
朝方、もう一度掲示板の前にやってくると
やはり変わらない一つの紙が増えていた。
見間違えではなかったらしい。]
ふう。
厄介な事になったな。
[人混みを避けつつ、ホームである図書室へ向かうべく
別棟へと足を向けた。]
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