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遥か昔か、遠くの未来か
知れずに埋もれた名も無き神話
それはそこらにありふれた
運命に背きし愚かな話
彼らは一体、どの様な選択を持ってその道を進んで行くのか―――
1人目、物語の導き手 アリス がやってきました。
―――さぁ、物語の始まり
物語の歯車は、もう止まらない……
カーテンコールといきましょう?
[導き手たる少女は、暗闇の中へと消えていった]
村の設定が変更されました。
村の設定が変更されました。
村の設定が変更されました。
2人目、サラ・ミラー がやってきました。
言い訳は聞きたくないわ。
[コツ、コツと机を叩く音。
苛立っていることを通話の相手に知らせる。]
法律が邪魔ならなんとかする方法を考えればいいだけじゃないかしら。
[私たちは、そうして大きくなってきたのだから。]
なんとかできるだけの力をあなたには持たせているはずだし、それだけの能力をあなたが持っていると思ったから、このプロジェクトをあなたに任せているの。意味は分かるかしら。
…そう。それならいいの。期待してるわよ。
[右手を振って、通話を切る。]
もう、古い世界観は必要ないのよ。
[私たちが次の世界観になるのだから。
席を立つ。次の予定が迫っている。]
[複合企業Endeavour。
この十数年の間に急速に成長し、世界を席巻した企業だ。
その扱う分野は多岐にわたる。
金融、エネルギー、ライフラインまで――
今やEndeavourは国家の中枢にも食い込み、Endeavourに真っ向から異を唱えられる勢力はもはやほとんど存在しない。
異を唱えEndeavourから攻撃を受けた国は分裂し、あるいは解体され、あるいは消滅した。
「真っ当なやり方」だけで成長したわけではもちろんない。
だが、その成長の基幹となったのは政治力や違法行為・脱法行為をものともしない姿勢ではなく、その卓越した技術力にあった。
その象徴こそ、Humanic Mobile――HMである。]
[「ヒト型ロボット」。
SFやアニメの中にのみあったそれをいとも簡単に現世に送り出し、その圧倒的な能力で様々な機械を脇役へ押しやったのが、Endeavourであり、開発者兼経営者として名を馳せるサラ・ミラーその人であった。
(当時は)うら若き女性であり、また有色人種でもあった彼女だが、逆風に晒される間もないほどのスピードで次々と革新的な技術を世に送り出したことで、Endeavourは急速に肥大化していった。
やがて技術力と生産力を独占していったことで、Endeavourは今の姿になった。
フィクサーとすら呼ばれない。
彼らは、支配者であった。]
…探索は進んでいるの。
[廊下を歩きながら、近付いてきた部下の男に、振り返ることなく話しかける。
もちろん、例の「未知のHM」のことだ。]
「何も見付かりません。あれの解析の結果も「よく分からない」のままです。取っ掛かりがありません」
言い訳は聞きたくない…と言いたいところだけど、それは技術面の問題もあることね。どこかの企業が作ったものなのか、うちの企業のものを改造したのか、それとも…
「それとも、の先は聞きたくないですな」
まったくね。とりあえずこのまま人員を増やすわ。
アレが何であっても、私たちにとって都合のいいものではないもの。
[部下が下がっていく。]
[未知のHM。
ベースメタル採掘現場の奥深くで発見された、「HMのような形をした何か」である。
Endeavourの技術の粋、サラの他には何人も立ち入りが許されてすらいない研究所で、その解析は進められた。
その結果は、「不明」――
発見された地層は遥か過去の年代のものであり、そんな時代にこんなものがあるはずはない。
だが、HMを充実した形で作れるのはEndeavourだけで、ましてEndeavourにとって未知の技術が使われているようなHMが存在しているわけはない。]
ふう。
[溜息。頭痛の種は絶えない。
この後は会議だ。
今でこそ、自分には失礼な輩は潰せるだけの力がある。
だが、敵ばかりを増やしてもどうしようもない。
他人とは、うまく共存すればいいのだ。
お互いが少しずつ幸せになるように…]
ふふ。
[不敵に笑い、自分の戦場へと歩を進めた。]
3人目、フィリップ・ミラー がやってきました。
−帝都大学校舎内・第1203教室−
[多くの生徒がいるにも関わらず静まり返った室内に、チョークで黒板を叩く音が鳴り響く。大きな黒板には、『自己統制システム理論』についての論文の一節が書かれていた。
部屋の外には『理学部生物学科 気象生態学U 講師:フィリップ・ミラー助教授』と書かれている。
教壇に立っているのは、若く浅黒い肌の男性。少なくとも日本人とは思えない風貌の彼だったが、チョークを置き、生徒の座るほうを振り返って講義を始めたその口からは流暢な日本語が生み出された]
1960年代、NASAに勤務していた気象学者アンドリュー・ワトソンが提唱した「自己統制システム」。地球があたかも1生命体であるかのように自然現象を自己統制・自己調節しており、人類が地球に対して自然介入を行なっている行為すら地球の大いなる意志の下行われているという理論だ。
あくまで気候や生物環境の相互作用に対して恒常性が認められての理論展開ではあるが、これはつまり地球を”神”と想定した合目的論であると当時の生物学者が反論、一転して眉唾ものの理論となってしまった。
しかしこの自己統制システムという理論は現在研究されている地球システム科学に大いに役立っている。我々も、生態学や気象学を研究する際にもっと地球規模での考察を行っていく必要がある。
またこの理論が成熟するならば、近い将来火星や地球と酷似した惑星の恒久的テラ・フォーミングも可能になると僕は考えている。
まあ、君たちがこの自己統制システムの神性を信じるかどうかはまた別の話だ。新興宗教の勧誘を受ける際は今日の講義の事は全て忘れてくれたほうが、僕の説明責任が問われることがなくなるので是非そうして貰いたいと言っておく。
[少しはにかみながら、最後にそう付け加える。教室はにわかに笑い声が湧き、その刹那終業の電子音が黒板上に設置されているモノラルスピーカーから流れた]
というわけで、今日はここまで。お疲れ様。
[そう言うと同時に生徒は起立し、一斉にフィリップへと礼をして退出の準備を始める。大学生達の浮いた雑談が部屋を埋め尽くし、フィリップもまた同じように資料をまとめる]
『フィリップ先生、質問があるんですけど』
[振り向くと、地味な風貌の女生徒が一人フィリップの前に立っていた]
先生、ではなくフィリップと呼んでくれと言わなかったかい。
『あ、すいません。その…フィリップ、さん』
何だい?
[少し笑顔を浮かべその女性の目を見つめる。眼鏡の奥に見えるその子の瞳は、わずかに怯えているように思えた]
『フィリップさんは、自己統制システム理論の神性をどうお考えなのですか?その、授業で説明されたお話ではなくて、個人的な見解というか』
どうしてそれを聞きたいんだい。
『生態系を研究していると、時々怖くなるんです。当たり前のように命が搾取されて、違う命に取り込まれて。まるで機械的に命が生まれて消えていっている気がして。人間もそうなんじゃないかって。もし自己統制システム理論が真理なら、生態系の研究のいきつく先は運命の改変を許さない方程式への到達なのではないかと』
成程…僕は自己統制システム理論の神性を個人的には支持している。いや、そうあって欲しいと望んでいるのかもしれない。君はそう思うかもしれないが、それは救いのない話かな。
僕はそう思わない。自己統制システム理論が真理であるならば、まさに言葉のとおり人間一人が1日に摂取する数千の命は間違いなく血となり肉となり、地球へと還元されていく。しかし、人間という個体群が他の個体群の生命を搾取する事でしか維持出来ず、それが人類が望んだ未来だとするなら、人類はこの地上の覇者となった時点で”罪深き勝者”でしか無くなってしまうからだ。
人類に救いがある答えとは、どちらだろうね。今のは僕の個人的な意見だと言う事を忘れないでいてくれ。真面目に研究するのは構わないが、もっと客観的な考え方を持ったほうがいい。また悩みがあれば僕の研究室に顔を出せばいい。
[そう告げると、思い悩んだ女性の肩をぽん、と叩き部屋を出て行く]
[授業を終え、フィリップは自分の研究室へと足を運んだ。研究室の表札には「理学部生物学科 気象生態学研究室」と書かれており、フィリップが部屋に入ると数名の大学生が挨拶を投げかけた。軽く返事をし、自分の席に着いて資料をまとめる]
[フィリップ・ミラー。
25歳にして帝都大学の助教授の席を獲得した若き学者である。
修士課程が終了し、助手ではなく助教授の席を即獲得した彼は、研究実績は勿論十分ではあるものの、帝都大学内に強いコネクションを所持しているのではないかと他の学生や教授達から噂されていた。
事実、彼はこの帝都大学へ出資しているとある企業と深い関係にあり、否定をする事は難しい。だが単身留学し帝都大学へと進学した彼は卒業するまで常に主席であり、また学会にて発表された”惑星の自己統制システムを利用した恒久的惑星テラ・フォーミング理論”は気象学会に大きな衝撃を与え、彼の名前は一躍有名となった。
結果現在の地位を表立って非難される事は殆ど無かった。
ただ、彼の佇まいは神秘的で、それに興味を持つ学生や教授もまた少なくはなかった]
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