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そのために―――
[ふわりと、“機体”が揺らぐ。 追撃の弾幕があろうとも、重荷を捨てた自分に対応し、捉えるのには時間がかかるだろう。―――その時間は与えない]
あなたに邪魔されている時間はないのです。
“兵装丙点火・機体制動に兵装乙の使用承認・目標・敵機”
[既に“完全に”機体と一体となった体が動き、まだるっこしいコード入力を省いて一気に加速する。先刻の突撃と比べてさえ比べるべくもない速度で、翼の折れたクヴォルフィリアに迫る]
コード―――
[その回転する三重環が、七つの光球を生み出した]
セブンスムーン!!!
[黒い機体の直近から、七つの光球、そのすべてから光がほとばしる。光はやがて収束して、一つの光の柱となって辺りを照らし出した――]
[稲妻がリトルアースを焦がす。
しかしその後、凄まじい速度で組み変わっていくソレを見た]
…ほぅ。
イイ声じゃないか。
堕ちる星の煌きにならないといいがね。
[地に堕ちていくドラゴンを傍目に、男は呟く]
[相手が今までとは比べ物にならないスピードで弾幕を回避していく。
荒れ狂う海面を読み、波に乗るサーファーのように]
だがな。
そう簡単にはいかないって事を痛感するんだな。
…パージ。シュート。
[男は装甲を除去し、その八つの欠片は辺りに発射された。
その装甲の影になるように、八つの黒い矢が同空域に行き渡る
八つの装甲のうち七つは七つの光球に。
もう一つは姿の変わったソレに向かって発射される。
光の柱は装甲を巻き込み、大きな爆風を生む。
その爆風に乗り、烏羽は駆け上がる]
[発射された一つの装甲は黒い弾丸となってリトルアースに向かう。
今のリトルアースより一回り小さいくらいの装甲が、黒い矢と共に襲う]
そしても一つッ。
[烏羽の翼も、その傷ついている翼のほうで叩きつけるように体当たりをしかける]
…っ
簡単にいくなどと…っ!!
[…少しだけ思っていたことは否めない。すでに翼に穴を開け、そこに持ってきて全開の砲撃。しのがれるとは、思っていなかった。
―――集中、しなくては。目の前の相手を倒さなければ、その先にあるすべてに繋がらない。今は、目前に全力を傾けろ―――]
フルムーン!
[自らを狙って飛来する装甲を。そして黒い矢弾を月の光で迎え撃つ。生じる爆風は後方への噴射が抑える。
―――そこに飛び込んでくるアラート。たった今撃ち砕いた装甲の後方から、その影を貫くように飛来する巨大質量]
―――ムーンフォールっ!!
[ソレを迎え撃つように、たった今発生させた手の内の光球を撃ち放つ。先刻男が口にした言葉どおり、もう、簡単にいくとは思わない。ムーンフォールを交わすか、砕くか、撃ち貫いての砲撃か。そのすべてに対応しようと、空中に浮かんだ身一つで身構える]
[七つの光球、そして無茶な体当たり。
翼にかかる負荷はとっくに限界を超えていた
それでも繋いでいられたのは、ゴードンや、目の前の相手のように気力が機体を凌駕したのだろう]
静かに燃えるってのも、悪くない。
行くぞ、フィリア。
[相手の生み出した光球が、左の翼を根元から打ち砕く。
だが勢いは止まらず、そのまま折れた翼が
リトルアースの視界を防ぐように飛んでいく]
チッッ。
機体の制御が、うまくいかない…が。
シュート。
[残った片方の翼のヴォルレイから生み出された光弾が三発。
正確に穴を通すように、反対側からは一発の弾に見えるような弾道を描き、折れた翼に空いた穴を通過していった]
無茶苦茶なっ…!
[想定はすべて外れ。放った光球は交わされることも砕かれることもなしに敵機の傷ついた翼をもぎ取った。けれど黒い影は止まらない。
損傷した自らの機体の、その折れた翼さえも武器とする強かさに内心で舌を巻く。でも、だからといって負けてはいられないのだ]
…回避を?
いえ―――
[視界を塞がれる形となり、一瞬の躊躇が生まれる。敵機の回避を前提とした二段構え、自分がやって、相手がやらない道理はない。交わすべきか、それとも…その一瞬の隙を突こうとでもするかのように、ほんのわずかな間隙を通す精密な射撃が、放たれているのが見える。
回避は間に合わない。いや、間に合ったところであの機体は黒い光で吸い寄せることだって考えられる。
それならば、こたえはひとつ。迎え撃つ]
セブンスムーン―――
[ふたたび三重環が七つの光球を生む。それら光球を指揮するように両の手が踊り、紡がれるように光球が収束し、新たな一つの巨大な光源を作り出す]
―――キング・アンゴルモア!!
[収束された光源は荒れ狂ううねりとなって、すべての光弾を呑み込んだ]
[黒い鳥が墜ちていく。最期まであざ笑うかのような笑みを死仮面に貼り付けて。
彼は、誰の味方でもないと言った。
そして、立ちはだかった。
…なぜだろう、と、疑問が過ぎる。黒い鳥が最後に見せた、あの執念とも取れる常軌を逸したような機動と、攻撃。どれも、ただ理由なく立ちはだかったとは思えなかったけれど―――
…それでも。戦い、墜したのは自分だ。この期に及んで、それを問うたところで答えはない。
ただ、落ちていく黒鳥に、敬礼を送り、見送る。ほんの一瞬の間。
次の瞬間には、機体となり、星となった体は彗星の尾を引いて空を切り裂いて行った。目指すは、黒騎士。決着をつけるために、なんとしても、たどり着かなくてはならない相手だった。
そしてそれは、あるいは友だちのために]
…あと三機だったのにな。
[落ちていく。
片翼はもげ、気流を掴む事も出来ずに落ちていく。
男は冷静に、それを眺めながら呟く]
まあ、俺には王者なんて肩書きは似合わない。
そういう事で、許してくれないか。
[しかし、死仮面は黒い光を放ち、烏羽を覆った**]
――中央エリア/高層――
[機体の周囲を取り巻く赤い光の膜はやがて消失した。ナサニエルの機体は空には既に無い。シャノン機によって撃墜され、墜落していく姿を少女の瞳ははっきりと捉えていた]
あと……3機、ね。
[離れた空域で戦闘を繰り広げるユージーンとニーナの両機。
そして、つい今しがた現れたシャノンの『サンダーエース』。
と、なれば――]
じゃあ、次は私がお相手するわ。“Old Replica”さん。
[迷いを押し殺し、オレンジと黒に彩色された機へと翔ける。
『禍珠』が何であれ、『ウィルアトゥワ』を墜落させた発動要因が何であれ、今は考えるべきではない、と自分に言い聞かせた]
勝って……あれを手に入れて……そうすれば、っ!
[接近に気づいたか、サンダーエースが急加速。黒騎士の近接攻撃範囲から逃れ、後方へと弾幕を展開してきた]
[オレンジ色の翼の上でターレットが旋回し、砲塔が少女の機を狙う。連続して打ち出されたのは徹甲弾の雨。三本の射線が二組、交差する弾幕となって自由な機動を制限した]
つ、これじゃ近づけない……!
『禍珠』、は……使えるの……?
[先刻の不調。通常の弾幕さえ形成できなかった異変。
回路が断裂しているなら、起動する筈もない]
――中央エリア/高層→低層――
[悩む間に、弾幕のパターンが変化していく。
右、左と振られるワインダーの動き。
止むを得ず、一気に機体を降下させた]
――中央エリア/低層――
[離脱する『アンギャルド』を見送り、『サンダーエース』は高空で背面飛行に移行。半円を描いて降下へと移った。
一気に速度を増して降下する、“スプリットS”と呼ばれる機動]
……速さそのもの、じゃ、追いつけないか。
じゃあ、駄目でもなんでも、使うしかないじゃない。
[見る間にその姿を拡大するオレンジと黒の機体。その機首に装備された兵装が、エネルギー充填の光を纏わせていた]
[黒い光に包まれて浮く烏羽。
東空域の下層にて留まる黒い光に覆われた死仮面]
まだ…、まだ高みを目指すというのか。
俺もヘタれたな。
[男は機体の状態をチェックする。
戦えるとは言いがたい状態ではあった。
ただの的になる可能性もある。
それでも、男は高みを目指す]
もっと、高く。
[黒い光に覆われた烏羽は、ゆっくりと高度を上げていった]
[左手首へと視線を投げる。
埋め込まれた銀色の、鈍い輝き。
それが何であるか、確たる記憶は無い。
けれど感じられる、どこか深いところでの繋がり]
――応えて。
“あたし”の――“私”の中の、記憶。
あの声は、何なの? この球体は――『禍珠』は。
どうして わたしは ここに いるの?
[鼓動がどくん、と大きく聞こえた。
球体に温かみのある赤が点り、消えた。
流れ込む感覚、自分自身が機体と一体になったような]
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