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無頼 陣 は キャスター に投票した。
ゲームマスター は キャスター に投票した。
監督者 ルーサー は キャスター に投票した。
メイド セリア は キャスター に投票した。
姫倉 達生 は キャスター に投票した。
望月 胡蝶 は キャスター に投票した。
メイアル・ユーリ は キャスター に投票した。
ライダー は キャスター に投票した。
滝川 志乃 は キャスター に投票した。
キャスター は ゲームマスター に投票した。(ランダム投票)
ランサー は キャスター に投票した。
ラナ ヴラニェシュ は キャスター に投票した。
バーサーカー は キャスター に投票した。
セイバー は キャスター に投票した。
キャスター は村人達の手により処刑された。
次の日の朝、メイアル・ユーリ が無残な姿で発見された。
P.ランサー は立ち去りました。
P.バーサーカー は立ち去りました。
P.アサシン は立ち去りました。
現在の生存者は、無頼 陣、ゲームマスター、監督者 ルーサー、メイド セリア、姫倉 達生、望月 胡蝶、ライダー、滝川 志乃、ランサー、ラナ ヴラニェシュ、バーサーカー、セイバー の 12 名。
― →朝・南ブロック / 姫倉拠点 ―
[滝川をホテルまで送り届けて拠点まで帰ると、もう空は白み、陽を覗かせていた。
ただひたすらオフィスで待ちぼうけをした一日。
…今までのどの時間より、時計の音を聞いた。
雪駄を脱ごうと座り込み、――指先から力が抜けた。
下ろした腰が重い。…伸ばした腕が重い。]
…。ちょっとな。
[じっとしていると、「大丈夫か?」との問いが聞こえた。
なじみのある足音。加藤がやってきたらしい。
――どうやらずっと待ってくれていたようだ。
久方振りに自分以外の声を聞いたような気がして、ほんの少しだけ微笑んだ。]
[「姐さんは一緒やないんですか?」]
…自分の国に帰った。
[「…はあ。そら、また急ですね」]
元々、ここは……あいつの家とちゃうしな。
あいつには、あいつの帰るべき場所があった。
…って言うことやろうな。…多分。
[「…。分かりました。若い衆には、伝えときます」]
おおきに。加藤。
そうしてくれると、助かる。
[廊下の奥へ去ろうとした足が、止まる。
気配がこちらを見ている気がして、振り返った。]
? 何や…?
[加藤は何かを言いかけて、閉じた。]
…。気になることがあるんやったら、言い。
[暫くの沈黙。
結局、加藤は「いえ」と呟き、首を横に振った。]
[自分の部屋で眠る気にも、エウロパの部屋を片付ける気にもなれなかった。どちらへ向かっても、積もる静寂に押しつぶされそうな予感がした。
何も伝えられない。何からも伝わってこない。
――過去と、今。
二つの死を想起させる気配には、触れまいと、足は歩く。
それでも、辿り着いたのは結局、朝の静けさが降りる庭。
日課のように瞑想をし、…大体毎日のようにエウロパがその中心に立って、そこへ朝食の報せを行いに来た場所。]
…。
[手近に雪駄がなかったので、そのまま庭へと降りた。
刀も、傘も、酒瓶の籠も、装備したままだ。]
[中心に立ち、空を仰いだ。
もう、じきに見る見る青くなるであろう秋の空。
…今はまだ、青と呼ぶには程遠い白い空。
彼女がそうしていたように、立ち尽くす。
何も聞こえない場所。
――目を瞑ると微かに、風に流される雲の音が聞こえた。]
[瞑想する。
高く飛ぶ空は、雲をどこへ流して行くのか。
白い空は、いつ頃から陽光を受けて青く変わるのか。
これから自分がどこへ行くべきなのか。
今、自分はどこに立っているのか。
――姫倉の魔術師は、まず自己を確立しなければならない。
その時々の自己を、見失ってはならない。]
[最後に父とした会話はどんなものだっただろう。
最後に、カリンとした会話はどんなものだっただろう。
最後に、ファフにどんな言葉をかけたのだったか。
最後にエウロパは、どんな表情をしていたのだったか。
瞑想の狭間に、今は亡き人達へ、伝えたかったことを纏めた。
いつだったか父が亡くなった日。
過去にたった一度だけ行った、長い、長い瞑想。
――父に受けた恩と、謝罪を込めて。
何が出来るのかと――何を引き継いでいけるのかと。
考え、出した結論が、…姫倉の家を継ぐことだった。]
[ 『だけど――家族にまた、逢いたかった。』
『其々の人生を、歩いたあとだから。あの頃には、戻れない。』
『だから――強いていえば、願いは。
天高きオリュンポスの神々に、乱されないで。
もういちど、生きてみたい――かな。』]
[遺された言葉と、伝えたかった言葉。
二つを絡み合わせ、積み上げていく。
もう、この世にはいない彼らの。
――彼女のために、何が出来るのか。
静かに目を閉じ、風の音を聞く。]
−回想・昨夜 Pアサシン死亡後−
・・・・・・最後はちょっと危なかったね。
まあ、結果オーライ。ハサンは勝手に僕のエンジェル・ハイロウを使っちゃうから邪魔だったし。
[ハサンが消滅した後、無頼の姿はイカロスに戻った。
少しだけ羽を伸ばすと、輝きながら空に浮き上がる]
そういえば言ってたね。所詮僕は前回の聖杯戦争の敗者だって。
次に戦ったら、スカアハごときに負けはしないよ・・・・・・ははははははは!
[敗因はマスターの魔力枯渇。そしてスカアハのゲイボルグの能力に対する油断。次は無い。
ただしあの時スカアハは”エンジェル・ハイロウ”の唯一の弱点に気づいていたはず。そして彼女にはそれを突くだけの技量がある]
まあ、きっと楽しい戦いになるだろうね。
[そして、掌握したエウロパを見下ろす]
やあ、エウロパ。
いや・・・・・・”ライダー・オルタナティヴ”
僕の軍門に下った気分はどうだい?
[にやり、と口元が緩む]
最初は違和感あると思うけど・・・・・・すぐ慣れて、よくなると思うよ。
[しかし、令呪1つに無理やり2つの契約はさすがに無理がある。ナルキッソスが魔力を抑止してくれているようだが、ライダーとの契約はひどく不安定なものになっているようだ]
・・・・・・あのナルシストも結構気が利くじゃないか。無頼の事だけは他人事じゃないなんて、思ったよりセンチメンタルな部分もあるんだね。意外だよ。
[バーサーカーが令呪を奪うのを目撃する。令呪は光と消え、また魔力のパスが太くなった感覚が強まる]
ふうん、僕を倒すってのか。
同じ聖杯と繋がったもの同士なのに、仲良く出来ないみたいだね、バーサーカー。
僕に勝てると思っているなら、かかってくればいい。
あの聖人のカタキとかそんなつまらない理由で戦いたいんだったら、ね。
・・・・・・ 君の破壊衝動に期待してるよ。
[エウロパに振り向き]
おい、ライダー・オルタナティヴ。
その汚い牛で僕を連れていくんだ。
無頼の拠点へ、ね。
[そう指示すると、黄金の牛の背中に降り立ち、忍神町のほうへ移動するように指示した**++]
―中央ブロック・ホテルパシフィック―
(ずきり)
[ふいに頭が痛み、目を覚ます。
痛んだ部分を触ると、ガーゼのような手触りと、少しだけ周囲より膨らんでいる皮膚の感触。
ぼんやりと昨夜の記憶を探る。]
ああ……転んだんですね…。
[むくりとベッドに身体を起こすと、再度襲ってくる痛みに顔をしかめながら、もそもそとベッドから降りる。]
―海草・昨晩―
全く……油断するからよ。
[たぶん、こいつ足元掬われてコケるタイプに違いない。
何故だろう。強いはずなのに、小物臭がする。
愉しげなイカロスの言葉には、小さく肩を]
――あなたの軍門じゃなくて、無頼のだけどね。
[いや、まあ。その辺がどうなっているのかは知らないが。
連れていけという命令には、どこか逆らえないものを感じるのも確かだ]
[そういえば、何故ホテルに居るのだろうか。
ランサーに会ったら聞いてみようと思い、すっかり彼の定位置である窓際の椅子の所まで歩く。
こちらの足音に気付いてか、振り向いた顔を見た途端
『ぷちっ』 ]
……どこ行ってたんですかーーっっ!!!
[足元にあった紙袋を投げつけた。]
生きて帰ってきたからいいってもんじゃありませんよっ!!
貴方、怪我も治りきってなかったでしょう!!!
[奇怪な布地がバラバラとそこら中に散らばり落ちる中、機関銃のように昨日の不満を捲くし立てる。
ある程度出し尽くした所で、ぜーはーと肩で息をしていると、そっちこそ何があったんだ、と逆に聞かれた。]
……私は、その……
[そこで、はっと気付いたようにランサーに向き直る。]
そういえば、誰が私をここまで運んでくれたんですか?
[ランサーが淡々と、姫倉がホテルまで運んでくれた事を伝えてくれる。]
……姫倉さんが……そうですか。
[ああ、と答えながら、ランサーの表情に、どこか引っ掛かる何かがあった。
不思議に思って少しだけ首を傾げる。
少しだけ間があって、気のせいかもしれませんが―と前置きをしてから、姫倉の様子がどこかおかしかったらしい事を告げた。]
……何かあったんでしょうか。
[そうぽつりと呟くも、それに対して答えを出せる者は、その場には居なかった。]
―南ブロック/望月邸―
[昨晩は戦闘を回避したおかげか、魔力は順調に回復していた。
夢も見ることはなかったが、酷く寝苦しかったのは覚えている。
招かれたところにしか訪問できないという奇妙な特性を持つセイバーに、解放したのは望月邸の離れ座敷と食卓のあるリビング]
異端、か……。
魔術師なぞ既に人間からしたら異端じゃし、
その魔術師の中でも魔術協会のルールから外れると
異端狩りの対象となる……。
聖堂教会も、大義名分掲げて異端狩りをする機関じゃし。
[魔術師と異端の関係は、根深い。
ニュース番組を見る習慣のない望月邸、今テレビが映しているのは念願の「乙!出店茶屋」だった。
ついつい、画面から目が離せなくなりながらも、手元は昨晩潰した小太刀の代わりの忍者刀を研ぐのに忙しい。
一つ砥いでは、愛しい愛しいあの人のため。ふふふ、と暗い笑いが漏れる]
いえ……なんていいますかね。
どうもその、姫倉さんの様子がおかしかったんで。
気のせいなら良いんですが。
ありゃぁ、結構深刻な雰囲気だったって話で。
[ふぅむ、と腕を組んで唸る。
別段気にするべき事じゃないのかもしれないが、
どうも何かがひっかかる。]
人は皆違う。同じ者がない故に、平等なんてことは有り得ぬ。
じゃが、そのまま野放図では混沌として獣と同じじゃ。
秩序を――ルールを作り、それに当て嵌まらぬものを排除する。
それは、種として生き残るための智慧で、
そうして人類は今の繁栄を築いてきた。
秩序と異端は切り離せぬ。
異端のない世界は……全てを認めてしもうたら。
原始の混沌に還るだけじゃろうな。
[国家の駒である自分もまた、「忍術は国家を安平にして大敵悪党を滅ぼす術なり」と戦国の世から掲げられてきた理念の下、人間社会に関わっている。それが善いことだと信じて、己を殺し名もなき道具になりさがる]
まあ、そこまで壮大な話、
議論しても答えなど出ぬじゃろうな。
……目先のささやかな幸せを追って、何が悪いのじゃ。
犠牲を払うと決めた瞬間、自身が犠牲となる覚悟もする。
その責任を果たせる範囲が、己の自由の檻の広さじゃ。
[不穏な電波を発していたか、食卓の下でちゃんと帰って来ていた猫がか細く鳴いた]
―教会へ―
[秋の木漏れ日が射す中。セイバーの希望で教会へと足を運ぶ。やはり、ジュリアの遺体のことが気になるらしい]
そういえば、ナルキッソスの術に対抗するには、
姫倉が「なにかある」か「なにかない」のかを
突き止めねばならぬのう。分かったところで、
真似できぬもののような気がするが……。残るは鏡作戦か……。
そういえば、姫倉といえば、
[サーヴァントと、本気で何かあったらしい、もしかしたら消滅したかも知れないと。憶測に過ぎないが、セイバーに伝えておいた]
サーヴァントを失ったマスターとあれば、
令呪を剥ぎに、バーサーカーが来るかも知れぬのう。
[撒き餌になって貰うか、などと真顔で呟く。
秋空の下、錦紗に銀杏の葉が散る着物、その隣を歩くセイバーには結局和装を強要できず、普段の黒尽くめである。
和装も案外渋みが出て似合いそうなのに、と不服だったが。
まあ全裸で召喚されたことの方が珍事だったのだと、はるか昔のように思えるつい数日前の出来事を、懐古*していた*]
………。
[黙ってランサーの言葉を聞いていた。
本人が特に何かを言っていたわけではないのだから、放っておけばいいだけの話だろう。
助けを求められたわけでもない。
そもそも、先日、自分は姫倉に向かって何と言っただろう。
――けれど]
………馬鹿って、伝染するものなんですかねぇ…
[腰に手を当てて、はーーーーー、と長く息を吐く。
それから受話器を取って、フロントに電話をした。]
― 南ブロック / 姫倉拠点 ―
[瞑想を終えた。滞っていた風が過ぎ去って行く。]
…ふう。
[辺りは明るくなったばかり。戦争の時間ではない。
出歩いても、そう大きな問題はないだろう。
身支度を――整えるほどのものもなかったので、さっさと縁側に戻った。土を払い、玄関の方へ。
途中で黒服に会えば「ちょっと行ってくる」とだけ告げた。
「殴りこみですか?」と訊ねられたので首を振った。
…なるほど。今の格好は殴りこみに見えなくもない。
息をついて、雪駄を履き、玄関を出た。]
―北ブロック・オフィス「ヒメクラ」前―
[エントランスにタクシーを呼び、行き先を告げるとランサーと共に乗り込んだ。
投げつけた服の山の中から、自分で適当にチョイスして、ちゃっかりとさほど特徴の無い黒の開襟シャツとジーンズを履いている。]
……そのシャツには、金のラメのベストを合わせるはずでしたのに…
[隣に向かってそうぶつぶつ恨み言を言っていると、見慣れた建物の前に着く。
そこで降ろしてもらうと、オフィスから少し離れた場所でしばし考える。
先日は、何やら大騒ぎにさせてしまった。
どこか他の場所で会う方がいいだろうか。]
― →南ブロック / 商店街→ ―
[人が賑わい始めた商店街。いつもと変わらない風景。
一時の聖杯戦争参加者とのエンカウント率は異常だった。
だが、今日は特に誰かと出会う気配もない。]
…滝川さん、大丈夫やったんかな。
[昨夜エンカウントした一人を思い出す。
このまま向かえば中央ブロックに差し掛かるが――さて。]
…。
[視界の端に、いつかの酒屋が目に入った。
続いて見えるのは、書店。
そのまま通り過ぎた。]
―中央ブロック/ホテル前→北ブロック/ヒメクラ前―
さぁ、伝染るかどうかは知りませんがね。
俺ぁ小難しい奴より馬鹿の方が好きですなぁ。
[溜息と共に出た言葉。
それには、笑いながらそう返した。
服に関しては自分で選んだ方が早いとサッサと選んでしまう。
何か文句が聞こえたが、そんな事は知ったこっちゃない。
そのまま一緒に、目的地へと向かう。]
― →北ブロック ―
[ここ数日とは違い、最短ルートを通ったせいだろう。
道程、崩壊した廃ビルが見えた。
傘を揺らしながら、暫しそれを見つめた後、オフィスの方へ。
帯刀に、宙に浮いている酒瓶、そして蛇の目傘。
そんなスタイルを目にしても、このブロックの人々は振り返らない。姫倉も日常の一つに埋没しながら――以前は心地よいと感じたそれを振り払うように、前へ進んだ。
やがて見えてくるのは、]
……あん?
[オフィス、のはずだったのだが。
その前に、つい昨日の夜に見た人影がいた。]
…。
[瞬き、目を細めた。]
…。帰りに会いに行こうと思てたし。ええか。
[止めていた歩みを、もう一度踏み出す。
そうして「ヒメクラ」前までたどり着けば、少し離れた場所で何やら考えている風の滝川の横に立った。]
…。
[じっと見つめてみる。
…隣の怖い格好の人は、いつもの如くとして。
とりあえず、気付くまで待ってみた。]
―― 教会へ ――
[紳士の嗜みは絶対である。
服装については頑なな態度を示したが、キナガシとやらには心を惹かれたのも事実。
だがもしも万が一にもその姿でクルスニクに出会ったらどうなるか。
その内心を押し殺し無言で銀杭を雨あられと降らせるであろう天敵たる存在の姿を思い浮かべ、不憫な思いをさせてはならんと首を振った。
閑話休題。]
対抗出来ないのであれば全力で逃げるも一手。撤退も時には必要であるぞ。
[むしろその想いを爆発させた方が話は早いかとも思いながら、契約主の呟きに提案を乗せた。
そして続いた姫倉についての情報とバーサーカーへの撒き餌という案。]
ふぅむ。なかなかの妙案であるな。ならば早速、かっさらって来るであるかね。
[賛同を返した辺りで、通りの向こうの教会が目に入った。]
―北ブロック・オフィス「ヒメクラ」前―
[オフィスのドアを開けてしまおうかと一歩を踏み出した時、横から声がして、振り返る。]
姫倉さん…
[その存在に驚く。
何故こんなに近くに来るまで気付けなかったのだろう。
相手からは、確かに魔力の波を感じているのに。
思わず、そっと下腹を押さえた。]
……ええと。
昨夜のお礼を、と思いまして……。
[少しだけ怪訝な色を浮かべたが、まずはお礼をと思い、ぺこりと頭を下げた。]
運んで下さって、ありがとうございました。
―まだ回想―
[黎明の空を背に。忍神町に向け、曙の光から逃げるように、飛んでいると。
イカロスが、降りて拾っていけ、と。地上を指した。
その仕草が偉そうで、なんだか腹が立ったので、いきなり急降下してやった。くすくす]
こんにちは。
[挨拶を返す。表情は、いつものにこやかなものではなく、静かな笑み。
お辞儀をした。]
いや、……その様子やと、無事やったみたいで。
良かったです。
[滝川の表情が、晴れやかではない。
少し、眼を閉じた。]
ええとですね、丁度俺も滝川さんらに用がありまして、会いに行こうと思ってたんですけど…。
…滝川さんは?
[彼女も、何か用があってきたのだろうか。
瞬いた。]
やぁ、姫倉さん。
[志乃が振り返れば、それに習い。
視界に姫倉を認めると、軽く頭を下げた。]
昨日は、うちの嬢が世話になりまして。
今日は改めて礼をと、そういう話で。
―西ブロック/教会前―
しかし、己を滅ぼすものと分かっておって
教会に行きたがるなんて、
おぬし「も」マゾいのう。
[止むを得ずであって、行きたくて行ってるわけではなかろうが。
ちなみに一人目は言わずもがな、雷嫌いの誰かさんである]
撤退な。八組目に至っては、じゃあマスターを狙うか、
というわけにもいかんから複雑じゃ。
袋叩きくらいしか対抗策が思いつかぬのもまた事実。
[滝川から答が返るより先に、ホンダから答が返ってきた。
滝川の理由は違うのかもしれないが、頷く。]
…ああ、なるほど。
それは、入れ違いというか、なんと言うか。
[オフィスに臨時休業を伝えた帰り、自分も寄るつもりだった。]
…。
[続けて何かを言おうとしたが。
上手くいつもの口八丁は出なかった。
苦笑いをして、誤魔化しておく。]
[まるで保護者のような英霊の物言いに、むっとして横を見上げた。]
用が…?
[それを聞いて、少しだけ考えた後、重い口を開いた。]
……失礼ですけど、姫倉さん、何かあったんじゃないですか?
その……
[少しだけ言いにくそうに呟き、下腹をそっと擦った。]
私の令呪が貴方に対して、以前のように反応していません…。
…。
[揺れていた傘が、僅かに制止する。
目は少し細め、ゆっくりと閉じる。]
あー…。
俺の用件も、それに類したもんでして。
[困ったように、苦笑い――を浮かべられたかどうかは、自信がない。
閉じていた目を開き、まっすぐ見返して、言った。]
――単刀直入に言いますと。
同盟の解消をお願いと、詫びに行くつもりでした。
………。
[さ迷わせかけた視線。
自分で頬を一つぺちと叩き、首を振った。
再度、まっすぐ見据え]
詳しい顛末は知りませんが…。
昨夜、ライダーとの繋がりが消えました。
……俺とライダーは、脱落した。
言うことですね。
[告げた声は、とても静かだった。]
……。
[繋がりが消えた、との声に、黙って相手の顔を見つめる。]
……それで。
[抑揚の無い声で、言葉を続ける。]
貴方は、どうするつもりですか。
色々考えたんですけどね。
俺はこんなちゃらんぽらんですけど。
……あいつを喚んだんも、やっぱ俺ですし。
…理由はともかく、一回、死んだ人間引っ張り回す目的で喚んだんですから。
消えたからはい、次、言うんは、ちゃうんとちゃうかって。
心配やら愚痴やら、ようさん溜め込ませましたし。
あいつに、相応の筋は通そうとは思います。
じゃあ、どうするんか言われたら――。
…情けないけど、想い汲めるほどあいつのこと知らんのです。
どうしたらええんやら、今のとこは、――さっぱり。
………そうですか。
なら、勝手にすればいい。
[顔に浮かんだ微笑は、たやすことなくいつもと同じ物だったが、よく見ると目だけは笑っていなかった。]
…以前に、貴方の願い事は何かと尋ねた事がありましたが…
聞かなくて良かったです。
こんな事で、簡単に脱落と言ってしまえる程度のものだったのなら。
これは、「戦争」です。
誰かの命が失われる可能性も、わかっていて参加したのではないのですか?
それがまさか自分の身に降りかかるとは思っていなかったのですか?
前者ならば、貴方は大馬鹿者だし、後者ならば、甘いとしか言いようが無い。
そんな心構えなら、最初から参加なさらないでください。
……死んでいった方々にも、失礼です。
[そう一息に言うと、長く深い溜息をついて、自分の足元を見た。]
…ごめんなさい。
………失礼します。
[短くそれだけ告げて、小さく頭を下げると、踵を返して*歩いて行った*]
……。
[突然の凄い剣幕で捲くし立てる。
その様子を見守り、更には何処かへ去っていく己の主をその場で見送れば、溜息を一つ。]
ったく、面倒ですな。
それで姫倉さん、あんたはどうしたいんで?
[捲くし立て、去っていく滝川の背を見る。
…自分の性分は、自分が一番、よく知っている。
きっと我慢出来るだろうと思った。
きっと、耐えていけるだろうと思った。
それでも、一番近かったエウロパの死を感じた時。
昔と、今。
自分の奥底に繋がった糸が、絡まってしまった。
父の死と、エウロパの死。
抑えていたものが一気に崩壊した――気がした。]
―――俺の願い、か…。
[彼女がどんな心を持っていたのかは知らないが。
父の言葉と同じように。
彼女の願いは、今もここにしまってある。
そして、割り切れない、数多の約束も。]
[滝川の言葉が、遅れて身に染み入り。
忠勝の言葉は、するりと絡まった糸を解く。
聴き終え、心にしまい終えれば。
本田忠勝へ向けたのは、――いつもの笑顔。
…よりも、ほんの少しだけ、不敵。]
ホンダさん。
俺、アホですから。
これからのことなんかさっぱりですけど――うん。
[彼女を失ったからと言って。
死の怯えに立ち返ったからと言って。
しまってある数多を、棄てて逃げる理由にはならない。]
ちょっと、やることが出来ました。
……。滝川さんにも、礼言うといて下さい。
[まだ「ここ」では死ねない。
求める理想があるのなら、より強く。
それが、最初に教わった魔術の基礎ではなかったか。]
―― 教会・遺体安置所 ――
[くすぶった塵のような煙を出しながら、案内された部屋へと入る。
寝かされ、シーツを被せられたジュリアの亡骸。
蒼白い瞼は閉ざされたまま、開く事はない。]
………………。
[シーツを捲る。
胸元には黒く広がる血の染み。
衣装の一部は破かれており。晒されているのは令呪と共に表皮を剥がされた無惨なもの。]
………………………。
[薄暗がりの灯りの中。つば広の帽子の下の表情は見えない。]
[眺めていたのはさほど長い時間ではなかったが――]
………礼を言う。
[亡骸にシーツを被せ。監督者に短く挨拶をすると、安置所を出て教会を後にした。]
―――承知しましたわ。
ま、暫くは機嫌が悪いかもしれませんがね。
[姫倉の様子。
眼に再び灯る光を認めてから、ククと笑い踵を返す。]
嗚呼、姫倉さん。
さっき同盟は破棄って言ってましたが……。
難儀な事に、俺は変に賢い奴よりも阿呆が好きでしてね。
あんたが、阿呆な奴でいるなら―――。
[オフィスから、何本か入った通りを歩いていると、後ろからランサーの気配がする。]
……。
英霊を失う悲しみは……私にだって…
[そこから先の言葉は溜息に変えて。
すべてを振り払うかのように、くるりと勢い良く振り向いた。]
…おう。
多分、俺はずっとこのまんまで行くでしょうし。
[自分の心根はきっと変わらない。
後は、耐えられるか、耐えられないかの違いで。
笑ったまま、そう呟く。
誰にも届かなくても、言葉にしてしまえば力は宿る。]
ほなら、…また。
[立ち去る忠勝へ、頭を下げて、見送った。]
忠勝さん !
[英霊に向かって、一言。]
…別に、最初からライダー組の戦闘力を当てにしていた訳じゃないですから、何にも条件変わってないですからね!
[それだけ言うと、決まり悪げにぷい、とそっぽを向いた。]
[追いつけば、突然叫ばれる。
何がなんだかといった感じではあるが……。
まぁいいか、と。
そっぽを向いた志乃の頭を、ぽんと軽く叩く。]
嗚呼、解ってますわ。
嬢は俺の力だけを頼りにしてりゃいいって話で。
[そういえば、と。
同盟の理由を改めて考えれば、
たしか理由は嬢の魔力と魔術の問題だったはずだ。]
むしろ、嬢の方はいいんで?
[そちらは別に良いのかと思い、疑問を口にする。]
― 北ブロック / オフィス「ヒメクラ」前 ―
おー…っし。
[両手で頬を叩いた。小気味良い音が鳴った。]
いますぐ練り歩いてどうこうはならんやろし。
猫とか犬ちゃうんやから。
[ぶつぶつと独り言。
戦力がその辺にほいほい落ちていたら、聖杯のシステムなんて必要ないだろう。そもそも奇跡に頼って戦争を行う魔術師達の戦争なのだ。
そうそう奇跡が落ちていてもらっては困る。
それは、自分の手で叶えるものだ。
横取りなどさせて堪るか。]
『姫倉の魔術は全て、攻撃の為だけにある。
お前がお前の目標を信じるならなおのこと。
邪魔する者は皆、どいつもこいつも打ち砕け。
後悔やら躊躇いやらは、後で良い。
…尤も、お前は極道にも魔術師にも向かん。
俺としては、反対したいとこやけど――』
[始まりに教わった言葉を、思い出す。
歩みを進めるべく、一歩を踏み出した。]
[頭をぽむ、と叩かれれば、勢いよく頭を振ってそれを振りほどき。]
…魔術ですか?それは…
[そこで言葉を切ると、足元に転がっていた木の枝を拾う。]
もう、頂きましたから。
[ふ、と目を閉じると、そっと枝を片手でなぞり、そのまま枝の終わりから空をなぞる。
その枝を、忠勝の方に向けると、枝の先は体にまで届いてないのに、服がごく小さい穴の形に凹んだ。
不可視の枝先。]
ずっと……感覚が掴めなかったんですけどね…。
[そう言って、僅かに微笑んだ。]
― 西ブロック / 霊光院 ―
[石段を昇る。
ここの空気だけは、いつもと変わらない空ろなもの。
けれど、今日は少しだけ違った。
空高く鳥が舞い、取り囲む林がざわざわと唸る。]
また怒られるかもしれんけど――
[もう怒る相手はいないが、何となく、「またですか」的な顔で呆れられるのが目に見えた。
抑えきれず、笑う。]
…ま、俺はこれしか知らんしな。
[望月だったか。「体を痛めつけても」云々と言っていた。
とは言え、自分に必要なものは前から明らかだった。
自分の不甲斐なさに泣きを見るなら、ひたすらに。]
―――よし。
これが終わったら、また新しい酒瓶置いて…と。
[庭にたどり着けば、隅の、浮いたままの的を視界に納める。
そして大きく息を吸った。]
―――…。
[目を瞑る。
空ろな気配の漂うこの場所にも、色んな音が聞こえる。
――ゆっくりと、確かめるように、試すように。
使い古した蛇の目の傘に魔力を*通し始めた*。]
ほう……これが姫倉さんの。
[自分の体に、何かが触れている感覚。
ある意味、自分の蜻蛉切に似ている物だ。
あれも、刃の周囲に30cm程の防御不可の不可視の刃が発生している宝具。
そんなことを思った時、ふと気に成ることが一つ。]
そういや嬢。
その相手から魔力や魔術を奪うヤツですがね。
英霊からも、奪えるんで?
―朝・忍神町/無頼拠点―
[3人乗りはきつかった。イカロスもナルキッソスも不平不満を垂れ流す。
黙れ愚民、文句があるなら降りなさい。
……とは、思うだけで口には出さなかった]
――ふうん……こんなところに、隠れてたのね。
[道理で、捉えられないときがあったわけだ。
流石に隣町までは、天の猟犬の知覚も及ばない]
―朝・忍神町/無頼拠点―
はあ・・・・・・あの牛の乗り心地は最悪だなあ。
せめて複座くらいつけておいてよ。
[案の定文句ばかりいっている。現在でもまらイカロスのまま]
まあ簡単な謎解きだろうね。よく考えれば無頼は前回の戦争勝者なわけらからその拠点は忍神町にあったに決まっている。
[眠そうな顔で背伸びをしながら]
バリケードも立派な結界なのさ。第三者にとって「侵入が出来ない」という暗示を与えて人目を遠ざける。魔術なんてそんなもんさ。同じ結果が得られるならば効率が良いほうがいいっていう話だねー・・・・・・
[ふあああああ、とあくびを一つ]
英霊から、ですか?
[難しい顔で空を睨んでから、忠勝の問に答える。]
…おそらくは無理でしょうね。
相手の魔術にもよりますが、英霊の力は桁違いですから、私の身体の方が対応できません。
それに、……英霊に、あのような事が出来る隙が生まれるとは思えませんし。
[言ってから、顔を真っ赤に染めた。]
―回想・昨晩―
[何処か控えめに、その声が扉の向こうから投げられた時には、
既に眠りの淵を行ったり来たりを繰り返していて――
どうやら、あれから随分時間が経っているのだと言う事は何と無しに理解した。
ユーリと、エラトが。…その内容を咀嚼した頃に、漸く意識は覚醒する。
一寸、其の言葉にそ知らぬフリをする事も考えたが――目の前のトナカイに
灰銀はゆるりと瞬いて、漸くその身体を寝台から起こした。]
…うん、判ってる。 ――プランサー、おいで。
[お前の主人が、待ってる。
そう寝台に共に転がっていた馴鹿に告げる。
理解しているとばかり、即座に駆け寄ってきた
掌程のトナカイを拾い上げて、漸く部屋の扉を開けた。]
[戦いの場が、漸く視界に入る場所まで来た頃、飛び込んできた光景に眉を寄せる。
太陽を模したと言っても信ずるに値する程の、炎の塊。
崩れ折り消えていく白い仮面の男と、膝を折るエラト。ユーリ。
そして、]
――…あれは、
[先まで、牽制するように放たれていた雷、 その先、遠目に捕らえた姿。
何故、彼女がここに…否、手を貸しているのか。
令呪を辿っても、マスターの気配はユーリと、あの男のものしか捕まらない。
彼女のマスターである筈の、…ヒメクラの指示とは、思い難い。
どういうことかと、独り言に近い問いを零す。
サーヴァントから、聖杯の糸を通じて絆の輪郭を捉えたと聞けば
何事かを考えるかの様に――無言のまま、口を閉ざした。]
ふむ、そんなもんですかい。
しかし恐らく、ね。
[まぁ、英霊相手に試す機会等皆無だろう。
やらなければ、実際どうなるかわからない。]
あれですな、一度アネさんにでも頼んで試させてもらうべきでしたな。
[顔を真っ赤にする様子を見れば、
いつかの手を握った時に反応を思い出した。
どうもこの嬢は、かなりの初心らしい。]
[エラトが消えていくその瞬間に、――近くに寄ることも出来ずに、
遠巻きの位置で、抱えていた馴鹿をそっと足元に下ろした。
この距離ならば――主人が消えたのも見て、自力で後を追うことも出来るだろうと
――地面へ置いたトナカイから視線を上げた、その一寸。
己から、魔力が引き出される感覚。 拘束されるユーリの姿が其処にはあった。]
ユーリ、…ッ!
[…例えばその時。
最後まで、ユーリが令呪を手放す意思を見せなければ――
自分とて何としてでも止めていた。己の令呪を更に消費してでも、其れこそ。
けれど、あげる、と。その言葉に静止の声は喉に引っかかった。
「聖杯が、本来より多くの願いを叶えるだけの力を得ようと」
――あの男の声が脳裏から、離れない。 …必要だと、思ってしまった。]
[一度。 其れも共闘していた彼らの。
其れを奪うことを「必要だ」と思った時点で――咎める事など。
もう、出来る筈が なく。
ふと、足元に擦り寄る 温かな。 ゆると、視線を落とす。
そこにいた、姿に。灰銀を見開いた。]
――…、プランサー、 何で。
[馴鹿の主人であるサーヴァントは、消えてしまった。
他の子も同様に ならばこの紫の子も、そうだと思っていた のに。
ただ一度だけ、何かを詫びる様に小さく鳴き声を上げて見上げる小さな其れへ、
躊躇いがちに、手を伸ばす。 そっと、抱え上げた。]
…、…行こう、セムルク。
――ユーリを、運ばなきゃ。
[令呪の光が消えるのを見つめながら、その背に投げる言葉は、酷く静かに。
この場所に置いておく訳にも行かない。
せめて、 せめて教会まで。――それが、今自分に出来るせめてもの事だったから。
もう、何も言わなかった。 否、いえなかった。
令呪を奪うことを寛容するのであれば、…間接的にであれ、
あの男に、手を貸すことになるのだとしても。
――理解っている。これは「戦争」だ。
親しい人だろうが、そうでなかろうが。負ければ、消える。
…理想を振り翳すだけでは勝ち抜けないと ずっと、わかっていた。
ならば、]
[大あくびに目をこすりながらも、なんのかのと丁寧に。
昨晩の形相からは想像もつかない、邪気のない年相応の顔。
正直、慰みものにされるくらいは、覚悟していたのだが。
……なんだか、割に馴れた感がある。いや、単に情緒不安定なだけなのかも]
……まあ、盲点ってことね。ゆっくり休むには、適当だわ。
ちなみに、あなた……というか、ブライが休むあいだ、私は何をしていれば良いの?
[大人しく寝ているのも、面白くない。
聖杯から流れる魔力の質がそうさせるのか、なんだかとっても行動的な気分が満ちていた]
……いずれ敵になるのがわかってて、力を分け与えてくれる人なんて、姫倉さんくらいだと思いますよ。
[そう言って苦笑する。
そもそも、あの人は、敵という概念があるのかどうかもわからない、が。
まあ、女性相手なら何とか可能ではある。気持ちの上では。]
―朝・拠点―
[あの後、意識の無いユーリを教会へ預けて、拠点へと戻る。
小さな紫と一緒に寝台に潜り込んで、目覚めはやはり恨めしい程宜しかった。
冷蔵庫を開けると、前にエラトが作ってくれたものが残っていた。
少しだけ沈黙して、けれど有難くそれを頂くことにする。
…感傷に浸って、逆に食物傷ませたらすごく、怒られそうだったから。
トナカイのご飯は、買ってあげた苔玉がまだ残っていたから、それで。
…ずっと手乗りサイズなんだろうか。
食費を考えれば、それは大変有難いけれども。
漸く晴れ間が見えてきた空も、少しだけ風は冷たかったから
V字ネックの白い長袖Tシャツに、半ズボン。…暫く考えてニーソックスも履いた。
髪は首元で二つに結って、ニット帽を被る。なんだか、すっかり秋らしい格好になった。]
ま、姫倉さんは甘いですからな。
その甘さが覚悟の上に成り立ってるってぇんなら、
俺としちゃ、良いとは思いますがね。
[覚悟の無い甘さ。
心地好いだろうソレは……。
いつしか、全てを不幸とする。]
とりあえずは、この話題はどっかに置いておきますかね。
別に、今は必要じゃねぇって話で。
[さて、ならばどうするか。
この後の行動を尋ねる様に、視線を志乃へ。]
[忠勝の言葉には、ただ笑みだけを返す。]
そうですねぇ…
たっちんの服のコーディネートを……
[途端に嫌そうな顔をした忠勝に、くすくすと笑う。]
まあ、それは冗談ですが…。
ちょっと教会にお願いをしたい事がありまして…。行ってこようと思います。
さてと・・・・・・
[眠そうに目をこすりながら]
無頼も疲れたみたいだし、僕は休むとするよ・・・・・・あ、寝る前にコカコーラとコンソメダブルパンチだけ口にいれて・・・・・・
[と言って布団が敷かれている部屋にとぼとぼと歩いていき、結局口いっぱいにコンソメダブルパンチをほおばった状態で布団にダイブする]
んー、そんなの知らないよお。
もし暇だったらさ、羽をマッサージしてくれないかなあ。
酷使したからもう凝っちゃって凝っちゃって。
[もしゃもしゃ]
―― 東ブロック/樹那病院 ――
[さて、教会を出てみれば「行かねばならぬ場所がある」という胡蝶に連れられてやってきたのは樹那病院。
「しばらく待っておれ」と言って病院に入った契約主が持って来たのは如何なるコネを使ったのかの人工血液パックの山だった。]
………いや、あのな、胡蝶殿よ。
[ドラキュラだからって別に血液しか受け付けない訳では…という説明を聞く耳持ってもらえぬ様子。さあ、飲むのじゃ!とさっそくひとつ手渡される。]
…赤くないぞ。
[「なんと言うても人工モノじゃからのう!」]
…しょっぱい。
[「我が儘を言うでない!」]
それ以前にだな、我が輩これで魔力は回復しないであるぞ。
[「がびーん!」]
教会、ですかい?
[行ってくる、という事は一人で行きたいのだろう。
停戦地帯ではあるし、今は昼だ。
人通りの多い場所さえ選ぶ…もしくは車での移動ならば心配もあるまい。
そう考え、志乃の言葉を許容する。]
わかりました。
それじゃ俺もちぃっと気になる事があるんで、少し出歩かせてもらいますわ。
今の時間なら大丈夫とは思いますが……、
何かあったら、直ぐにでも呼んでくれりゃいいって話で。
[血を吸うというのはその人間の生命力をいただくという事であり、人という器の外にある時点で魔力の糧となるべくもない。そんな説明もそこそこのうちに「ならばトマトジュースでも飲んでおるがよいわー!」と逃げられた。]
あー…。
[なんともしようがない。ひとまず走り去った胡蝶は追うとして、その前に投げつけられたトマトジュースをちょいと一口。]
こ………これはイケるである!
[日本ならではのドラキュラ概念。]
・・・・・・なあに、黙って僕の顔なんか眺めて。きもいんだけど。
[もしゃもしゃ]
あーなるほど。つまり僕がエウロパの事を手篭めにするとかそんなの想像して興奮してたんだ。とんだ変態だね。
[もしゃもしゃ]
だけど御生憎様。僕大天使だから。
言ってること、わかる?
[前戦争ではマスターの経済力を利用して散々贅沢をこなしてきたイカロスは、この2000年前後の日本において人間が食す味の濃い菓子や飲料が好物となっていた。
特にしっくりくるのはコンソメダブルパンチ。風呂桶一杯にコンソメダブルパンチを敷き詰めてクロールしたいくらいだ]
―東ブロック/樹那病院―
ちっ、お手軽に魔力増強作戦は失敗であったか。
というか同じ血なのに贅沢言うでない。
[ちなみに、セイバーが鰻を食べていたことなどすっぱり忘れ、食事全部輸血パックで済ませる気だった。横着である]
トマトジュース……で、よいのか。
まあビタミンは豊富じゃし、健康には良さそうじゃが。
[果たして英霊に、ドラキュラに、そこまで健康管理をする必要はあるのか。謎だ。
ちなみに輸血パックは勿論ナース服で忍び込んでしこたま調達してきました]
[ショルダーバックを肩から提げて、小物入れと、手鏡と。
最後に、その中へトナカイを摘んで入れる。…ギリギリまで苔玉から離れなかった。
が、どうやら放っておくと際限なく食べる様だったのでここは心を鬼にして引き剥がした。
…彼の元にいつか戻ったとき、ぶくぶくになっていてはあまりに申し訳無いし。]
出かけてくる。 ――…ん、買い物袋取りに。
[どこへ、と問われて少し悩んだ末。
昨日、買い物に行って結局、裏路地に残してきてしまった其れを告げる。
まぁ、流石に丸一日放置した食物類を使う勇気は無いけれども、
あの中には洗剤やらの日用品も入っていた。丸ごと見捨てるには勿体無い。
…其れを言えば、いつ無頼と接触したのか等知る所になるのは目に見えていたが。
その上でついて来なくていい、そう告げたら、案の定というか押し問答になった。
――ここ数日、まともに会話をしていない上に昨夜はあんな態のまま。
渋ったものの、結局折れる事になったのは自分の方だった。
…確かに、あの場所へ一人戻るのは――あまり、気が進まないのもあったけれども。]
[寝転んで、ばらばらと破片をこぼしながら、ポテチを頬張る英霊。
なんという駄目天使。某ラブやんもびっくりだ]
はいはい……興奮はしてないけど。
要は、神の使徒だから、そんな不真面目なことはしない、と。
不真面目な神もたくさんいたけどね。
[天使。キリスト教とかいう新興宗教が信じる神が従えるものらしい。
少なくとも――オリュンポスにおわす神々に、そういう存在がいたという知識はない。
まあ、いいか。息を吐く。
神の血縁で、ある一時代の最高神と愛を交わしたからと、所詮は人間。知らないことは幾らでもある]
ああ、そこそこ。うーはー!肩甲骨に響くね!!
[悶えながら]
って、それで仮にも神性がある人間なの?
性別ないでしょ、っていってるの。
よし、血液が駄目なら買出しに行くぞ。
[タバスコとか豆板醤とか赤いモノを中心に。
令呪という首輪がついたセイバーを無理矢理従えて、商店街へ繰り出した]
我が輩、どうしてこうなったであるか………。
[契約主の後をついて歩きながら遠いお空に己が運命を嘆いた。あれ、運命は受け入れるものじゃなかったかヴラド・ドラキュリア。]
――……性別が、ない?
[ゼウスとヘラ、アレスとアフロディテなどの例を挙げるまでもなく、男神と女神がいるはずだ。
少なくとも、あの、私を拉致軟禁して婦女暴行致傷の挙句に三人産ませて他所の男に嫁がせた某主神は、男神だった。
たいへんにへんたいなご立派なものをお持ちだったし、しっかり、私も孕まされた。
いや、確かに、神はひとりで子を生すこともあるとは、寝物語に聞いたこともあるけど]
んー……判らないわね、残念ながら。
[どうも、根本的なところで、なにかが食い違っている気がする。
存在とか、そういったもののどこかが。だってそうだ。
イカロスは大工の息子で、神霊などではなかったはずだ。いや、無論、自分が知らないだけかもしれないが]
人生も運命も、なるようにしかならぬ。諦めろ。
[悲嘆に暮れるセイバーに、ぽむぽむとその背を慰めるように叩いた。しかし嘆かせている元凶の半分以上が自分にあることには、さっぱり気付いていない]
・・・・・・あっそ。まあいいか。
つまり、僕はダイダロスの息子ではなくて、元々はミノス王とミノタウロスの討伐という名目で天界の抗争に巻き込まれた天使兵長だったって事さ。
不意打ち受けて翼を失い、地上に落下した所をあの大工が拾ってこっそり育て。僕が落ちていた付近にちらばっていた僕の羽根をかき集めて作ったのが、有名なイカロスの翼だったんだよ。
[先程のあどけない表情が、少し冷たい顔つきになる]
[拠点を出て暫し、ひたすら無言で昨日辿った道を引き返す。
其の後を追うように、少し遅れてやはり無言でセムルクが着いてきた。
出来る限り人通りの多い商店街を抜けて、問題の路地直前で漸く曲がる。
人通りも少ない上に…流石に手を出す人も居なかったか、袋はまだ其処に落ちていた。
…玉ねぎやらじゃが芋やらは、まぁ良いとして――
レタス一玉はビニールに掛かっているが、…常温で一日放置したものは如何なのか。
流石に詳しくないが、生野菜は少々食す自信が無い。
…プランサーならば食べれるだろうか、とか考えたら思考を読まれたか、
ショルダーバッグの中からもっそい勢いで激突された。ごめんなさい。]
…うーん、流石に卵と牛乳は危ないよねー…。
[しゃがんだまま、中身の確認に勤しむ手が止まる。
令呪が伝える二つの気配に、ぱちりと瞬いた。]
あの大工はその翼で逃げ延びた。
でも僕は翼を手にいれたことで堕天のショックで失っていた記憶を取り戻した。
だから、その翼で天界へ戻ろうとしたんだよ。
そうしたら、太陽神に迎撃にあってあとは史実の通りさ。熱なんてもんじゃない、あれは裁きの一撃だ。復帰したての僕じゃ耐えられないさ。
死後、いろんな時代に呼び出された。そのときに聖書や文献を読みあさったよ。
僕の名前はどこにも書かれていない。僕の居場所にはミカエルって名前が書いてあった。
消されたんだよ。僕という存在は。天界から、ね。
―南ブロック/商店街―
[やたらと赤で染め上げられた買い物袋の中身。
サーヴァントの無言の抗議の目線が突き刺さる。
お約束なので赤ワインも購入しようとすると、案の定免許提示を求められて自尊心を傷つけられた]
なんじゃ、デコイを使うまでもなく、
出会えたではないか。
……ここのところ珍しく運が良すぎて、
後の反動が恐いのう。
[令呪が知らせる方を眺める。相変わらず、人の近寄らぬ目隠しが、本日はマスター連れ]
[ライダーの身体がエーテルの光に包まれていく]
余計なことばっかりしゃべっちゃったみたいだね。そろそろ引っ込むよ。
じゃあねエウロパ、また遊んであげるよ。
[そして、光は霧散しそこには横になる無頼の姿]
暫く顔を見なんだと思うたが、
まだ生きておったのじゃな。
[聖杯戦争ジョークというやつです。
いつ何時、誰が脱落するか分からない]
何をしておるのじゃ。
…………まさか、万引き?
[店脇の路地でビニール袋を漁っている後姿。怪しい]
――あの子を討伐?
[では、逃げおおせたダイダロスを追ったミノスが。
自分の許に帰ることなく、異国で果てたのも。天界とやらの意志なのか]
…………。
[ミカエル。それも、知らない名前だ。
太陽神は、判るが。遠矢射るアポロン・ポイボスか、ヘリオスか。違うかもしれない。
天界、天使。抗争。たぶん、神のあいだでも、色々とあるのだろう。
判らないが、ひとつ確実に判ることはある]
……苦労したのね。
[苦労などという一言で、済ませてよいものかも判らないが。
それ以外に、言葉の掛けようもなかった。
少しばつが悪そうに、姿を消して――いや、変えてゆくイカロス。
あとはただ、横たわるブライの姿だけ]
――…、
[視線を上げる。令呪の示す方へ灰銀を向けると、直ぐに相手は知れた。
一人は、…知っている。逢ったのは数える程しか無いが――カリンのマスターだった筈。
…そうして傍らに立つ(というか振り回されている)男へ視線を滑らせて、――はたと瞬いた。]
…セイバー?
[対峙した事のあるセムルクの言葉で、男が何かは知れたが――
口元へ手を添える。確かセイバーのマスターは、…令呪を剥がされた、筈。
…その人物と、別のマスターが共にいる。答えは、聞かずと知れた。]
―――、
[妙に気まずくて、僅かに視線を反らす。
…何か、相手の持つビニール袋な中身が妙に赤いのが気になった。]
―― 南ブロック/商店街 ――
[契約主が呟き眺める先を見て――切っ先を手に駆け出そうとする我が身をすんでのところで堪える。
令呪で縛られたのは、一般人に害なす行為。
敵を討とうとする過程において人が怪我をするについては大丈夫ではないかと思わなくもなかったが、しかし効果がある場合を考えれば無闇に仕掛ける訳にはいかない。]
………。
[それ以前に、両手には大量の買い物袋。]
ま。
――んびきなんてしてないよ!
ちゃんとお金払ったもん!
昨日!
[…若干時差が起こっているが、支払いは抜かり無い。一応。
流石に犯罪者にされてはたまらないと反射的に言葉を返した。]
…生きてたのは、お互い様ってとこかな。
――せっかくの再会に、素直に喜べないのは考えものだけど。
[がさりと袋を揺らして、向き直る。]
―南ブロック/商店街―
穴子さんとは初対面じゃったか。
[セイバーとの言葉に、こくりと一つ頷く。
余計な詮索をしてこないのは好ましい。
それとも、この少女は全て知っているからか]
セムにジュリアの件で用があるらしいぞ。
儂も聞きたい。
令呪を剥いで、何を企んでおるのかと。
[逸る殺気を感じて、手で制す。
場所を移動すれば、バーサーカーを攻撃すること自体には、咎める理由はないのだが]
では、何故そんな風にこそこそしておるのじゃ。
正当に買い求めたのであれば、
堂々として居らぬと、疑われるぞ?
[それが気不味さ故の言動とは知らずに、首を傾げる]
聖杯戦争中じゃからのう。
素直に喜ぶというよりは、まだくたばってなかったのか、
になりつつあるな。いや、称賛としてじゃよ?
――、もう二人にも知られてるんだ。
…アナゴさん?
[セイバーで、アナゴ?
寿司のネタとも魚の名とも、日曜アニメの以下略、とも知らない故に自然疑問が口に出た。
しかし次いだ令呪、の言葉に僅か眉を寄せる。
…あの場に居たのは、自分とオルグロス、姫倉――そして、ライダー。
漏洩の元は後者二人からだろう、…口止めをしている訳では無いから
なんら不思議ではないが、自然溜息が漏れた。]
“聖杯の恩恵”を得られるから――って言ったら、納得する?
[正解からは離れていない。寧ろ酷く核心の一つに触れている。
…それでも、何も知らなければ――意味は通じまい。
さて、何処から口にしたものか。]
こそこそ、と、言うか。
――食べられるか、検品中?
[昨日、落としてきちゃったから。とゴニョゴニョ。
傍から聞けば歯切れ悪いことこの上ないが、上手いこと説明が出来る自信もない。]
まぁ、そうか。
確実に減っている中で互いに残っているのは誉めるべきだよね。
…えーと、なんだっけ。こういう場合は「それでこそ、我が永遠の好敵手」…?
[暇時に見ていたテレビ番組の、変な日本知識がここ数日間でついた模様。]
[セイバーが自分でデュークを名乗る前に、「穴子さん」を滲透させようという包囲網作戦である]
聖杯の恩恵。……令呪で?
あー、それはあの八組目みたいな
裏ワザ的なものなのかのう。
[無意識に己の左腕を摩った。
今はセイバーと繋がっている、聖杯戦争の参加証]
少しばかり気になる行動じゃったからじゃろう、
姫倉嫁に聞いて、少しナルキッソスにも――訊ね……、
……たのじゃが。殺したい。
[ナルキッソスは禁止ワードにしておいた方がいいかも知れない。後遺症が酷かった。目が据わっている]
納得というかまあ、用途は何となく分かった気がするが。
ええと、サーヴァントを焼べるように、
令呪も聖杯の力として畜える、ということか?
そして、勝者となる前からその恩恵を如何なる手段かで
得ることができる、と……。
[難しい顔をして腕を組む。それってチートじゃん。と真っ先に言いそうになった。
勝者となる前から、聖杯の力を引き出すことができる者がいる。
代償だ何だと言っていた気がするが、それはナルキッソスたちが参戦していることと関係あるのだろうか等、思考は巡る]
ルナは、それを容認しておるのか?
[しっかり穴子さんでインプットされた。物覚えは良い方だ。]
――まぁ、そういう事かな。裏技か知らないけど。
…8組目は、聖杯の近くにいるよ。
[令呪を取り込んで得た魔力を、…彼らに限り、等しく分配される程には。
相手が無意識に触れる箇所に、僅かに灰銀を向けて、反らす。
――寛容はすれど、やはり積極的には許容出来ない。そう自覚する。]
ああ、成る程――…、
……、
[突然物騒な単語が出た。
余程気に食わなかったのか、と問うように
思わず視線はセイバーの方へ。なにがあった。]
― 西ブロック / 霊光院 ―
[決意をしても、すぐに修行の成果が出るわけではない。
10、20…作成し続けた見えない物品は、数えきれない。
作っては消し、作っては消し。
がむしゃらに続けた今までと、何ら変わらない、魔力の消費。]
――…、―――っ…
[額の汗を拭った。
秋だというのに、全身が熱い。
魔力を回し続けたせいだろう。]
……。
[軽く、頭を押さえる。
痛みはないが、脈打つような違和感は、未だに。]
――さぁ。…ただ、
「聖杯が、本来より多くの願いを叶えるだけの力を得ようとしている」
とか言ってたかな、…信憑性は保障しないけど。
ただ、恩恵があるのは――事実みたいだしね。
[サーヴァントの魔力は、其の度に確かに上がっている。
引き出された聖杯の力が、どのように作用するか――
勿論、それを口に出す気は毛頭無い。…優位なのは違いないのだから。
まぁ、チートなんだが。]
……、容認?何に?
――私が、戦争のルールを決めている訳じゃないもん。
許すも何も、ないよ。
[図星を突かれた。一度だけ瞬いて、らしい言葉を紡ぐ。]
聖杯の近く、か。
あれほど異端視するなとかほざいて、
きっちり抜け駆けはしておる、と。
[前回の勝者だからお目溢ししろとか当然の権利だとかいうのは、やっぱり違う気がする。
きっと彼等が手に入れた前回の聖杯と、忍神町の災厄は無関係ではないだろうし]
おぬしは、忍神町は見たことがあるか?
叶えたい願いが如何ほどのものかは知らぬが、
あやつらが勝利したら、今度は樹那町が二の舞になるかも知れぬ。
八組目のことに詳しいようじゃが。
おぬしは、あやつ等が勝ったら危険じゃとは思わぬか?
[ルナが何だかもごもご言訳しながら荷物の整理を終えるまで見守り]
……話が長くなりそうじゃったら、どこかで茶でもしばかんか。
立ち話にしてはちと入組みすぎておる。
無理にとは言わぬが、おぬしの方が八組目よりは話が通じ易い気がする。
本来より多くの願い……?
願いの許容量があったなどとは初耳じゃな。
何でも叶うから奇跡なのじゃと思うておった。
確かあやつも言っておったな。
聖杯は自らの役割から逸脱しない。
聖杯が多くの力を集めようと機能しているということは、
誰かがそれを願ったから……ではないか?
[それも、前回の勝者である可能性が高い。一つ一つ、頭の中でピースを嵌め込んでいく。漸く、再度聖杯戦争に参加してきた八組目の目的が、うっすら見えつつあった。]
そも、聖杯戦争のルール自体が勝手に決められたものじゃと
訴えておった気がするのう。まあ百歩譲ってそうじゃとして。
ルールの問題ではない、個人の感情としての話じゃよ。
魔術師としての矜持もあろう。儂もこやつと再契約する時には、
随分と葛藤したし……。
[眇めた視線を一度セイバーへ流し、それからまたルナに向き合った]
[何の手ごたえもないまま、時間が過ぎた。
途切れ途切れの息を整えながら、本堂前に座る。]
―――…んー…。
[本堂を振り返った。
そもそも「無限空間」は、限定されていない空間で使用することは出来ない。
出来ないというか、「どこに触れて魔術刻印を発動すれば良いのか」分からないというか。]
…こういうとこやったら出来んねんけどな。
[立ち上がり、そっと本堂に手を添える。
こういう建物であれば、外から壁に触れて、魔力を流す。
そうすればいつの間にか中身は増えたり、減ったりしている。
有限空間で使う座標理論とはまた違うのか。
そもそも掴めていないだけなのか。]
[もう一つの問題と言えば、魔力不足。
万全の態勢なら拠点のようなだだっ広い空間に仕立て上げることも出来るが、少し消費するとこれだ。
うんともすんとも。]
…ふぅ。
[息が整いはじめれば、再度立ち上がる。
夜に備えて、酒瓶を増やさなければなるまい。
サーヴァントがいないのだ。用心に越したことはなく。]
忍神町は、――私は直接見た訳じゃないけど。
…セムルクが見てきたのは、聞いた。
…あの人達が、勝ったら?
[――危険。その言葉を反芻する。
…自分はこの国の人間ではない。況してやこの町に愛着が有る訳でもない故に
薄情な話、其処までは至る事はなかったが――
確かに、得体が知れない。 それを思い出して眉を寄せる。
続いた言葉に、一度瞬いた。しばく、の意味が良く判らないとかくり首を傾いで
…何となく言葉のニュアンスを理解したと同時、驚愕とばかりに見開く。
胡蝶の顔を見て、セイバーの顔へ視線を移し、再び胡蝶を見やった。]
――…、意外。
令呪を奪ったって知ってるなら、もっと警戒してくると思ってた。
[特に元マスターの令呪を剥がされたサーヴァントからすれば
許容するに堪え難くもあるだろう。下げたビニール袋を握り直した。]
そう易々と奪わせはせぬよ。
まあ、穴子さんはそのことで腸煮えくり返っておるやも知れぬから、
セムを亡き者にしたいと息巻くのを止めはせぬが。
[基本的に、アーチャーにもそうであったが、英霊の気質を重んじる放任主義である。
"一般人の犠牲者"という一線を越えなければ、割りと何でも許容してしまうのだった]
儂の令呪は、そう易々と奪わせぬよ。警戒はしておる。
何のためにサーヴァントを連れておると思うておるんじゃ。
じゃがまあ、自ら差し出さぬ以上、
奪われた時は儂の力不足で、敗北なのじゃろうと思うておる。
魔術師の生命線じゃが、命を賭けずして聖杯戦争に臨む覚悟は問えまいて。
詳しくは知らないよ。あの人が、そう言ってたってだけ。
――私も、そう思ってたもん。
[人知を超えたあらゆる願望を叶える為のもの。…そう思っていた。
――元は、全て一つの願いだと。
…告げられたその言葉が、ふと、浮かんで 消える。
何故、今思い出したのか――判らないが。]
…私個人の感情を知って、おねーさんはどーするの。
許容してない、って言葉が返ったら、…説得出来るって考えた?
[向けられる視線を、真っ直ぐに返す。
例え答えが如何様であれ――意志を変える気は、無いと、伝わるか。]
― 南ブロック / 住宅街→ ―
[拠点に戻ると、山田がうるさかった。
「若! セーラー服どうしたんスか! セーラー服!」
などとのたまわっていた。勿論、スルーした。
適当に「染まっていない」酒瓶四本を選び、外へ。
今度は幽鬼のようになっている石川をスルーしつつ、外へ出た。
外は爽やかだった。
次は結界を築く場所を探すべく、歩き回る。
右には酒瓶三本。左には酒瓶四本。
手には傘で、腰には刀。懐には扇子に魔石。
…客観的に見れば大道芸人以外の何者でもない。
とりあえずぐるっと回ってみようかと、ふらふら。]
どうするというか。
おぬしの為人と、願いを知りたいと思うただけじゃよ。
ここまで生き延びておる時点で、
誰しも聖杯を手にする可能性はあるじゃろう。
止めろとは言わぬし、そんな権利もない。
ただ行為の責任を取るのは自身しか居らぬからな。
サーヴァントのしたことは、須くマスターにも圧し掛かる。
[肩が凝る、と苦笑して、漸く今朝包帯が取れたばかりの肩を回してみせた]
まあ、今の儂の目的は二つじゃな。
聖杯を手に入れること。
それが無理ならせめて、碌なことに使わなさそうな者には渡さぬこと。
―→南ブロック / 商店街 ―
[候補としては、駅前とか、戦争前に準備していた病院とか、霊光院とか。
しかし霊光院は人が来る可能性もあるし、病院に至っては迷惑をかけたばかりだ。よろしくないだろう。]
後は路地裏とか…公園とかかな。
[路地裏は、それなりに静かな空気の集る場所だ。
澄んだ空気には良質の魔力が集る。
ならば公園や、あの廃ビル跡ならば、どのような魔力が溜まるのだろう。
人通りを避けながら、歩く。――と。]
おっと。
[令呪の反応がもうないのを忘れていたから、遅れかけた。
前方に見知った顔が、一つ、二つ、三つ。
要は全員知っている。…人ごみに一旦戻り、物影に身を潜ませた。
少し前までは考えられない動き。
…何が違うかと言えば――言うに及ばず。]
……?
あのおっさんて…。
[確か、ジュリアと一緒にいたサーヴァントだったような。
首をかしげながら、黒衣の男達を陰ながら見つめた。]
[亡き者にしたいか、と言われれば敵同士である以上は当然だ。しかし、腸が煮えくり返っているかについては肩をすくめる。
バーサーカーが行なっている行動は聖杯戦争を勝ち抜くためにとった手段であり戦術である。それを批難するのはお門違いだ。
と、シンプルに考えているはずの自分の思考に首を傾げる部分があったような気もするが。
気のせいであると、特に考える事はなかった。]
[胡蝶の視線が、戻って行く。]
ふぅ…。
[どうやら危機は去ったらしい。
サーヴァントのいない自分が、彼らに会ったらどうなるかなど分からない。中にはあの、令呪剥ぎのサーヴァントもいる。
震えそうになる指先をぐっと握り締めて、息を吸う。]
すーはー
[いつでも逃げられるように何か括っておきたいところなのだが、魔力の動きで感知されたらそれはそれでまずい。
じっと我慢、我慢なのだ。
極道とスパイと魔術師は冷静さが求められる。
be cool. be cool.]
…まぁ、だよね。
さっきも言ってたけど――此処まで残るだけの面々だもん。
簡単に剥がせるだなんて欠片も思ってない。
…命の危険を覚悟の上で言ってるなら、別に異論は無いよ。
何処かのお店入ってゆっくり話すでも良いし。
[大事に守っててよ、と。易々と奪わせないと言い切る相手に、
かくんと僅かに首を傾いで呆気なく同意する。
…そう、長々と外で話す内容でないというのは、同意であったし
――互いに荷物も持っている身だ、急く事でなければ
立ち話も辛いだろうというのは、理解している。
…あと、ショルダーバッグの中のトナカイが、じれてる。
さっきから、腰骨にごんごん言ってる。]
……、聖杯を手に入れるのが無理なら、って。
仮定で話してると――本当に、手に入らなくなるよ。おねーさん。
[苦笑する相手の様子に、肩を竦める。
勿論、呆れや諌める心算も毛頭なく。唯の、冗談でしかないが。
…さっきから、妙に視線を感じたり
ブサイクな猫が通り過ぎたり、何だろう。
…と思わなくもないが、まぁ気のせいだろう。 私も猫触りたい。]
心配しなくても、責任は取るよ。――それがマスターだもん。
容認しようがしまいが、 事実、セムルクがした事に変わりは無いもの。
なら、相応の責任は取るって、決めてる。
―南ブロック/商店街―
今までも、死体以外であれば、
簡単に剥がせたとは思わぬがのう。
幾つ集めたかは知らぬが。
[首を傾げてみせる。口を割らないなら、無理に聞き出すつもりもない。
背はセイバーに任せ、先導して商店街内の小さなカフェへ。
途中ゴミ捨て場を探してみたが、猫の姿は見当たらず]
口にしたことが全部本当になるなら、
儂の願いなぞとっくに叶っておるじゃろうよ。
まあでも、儂の願いはそういうことじゃ。
魔術師による、一般人への負の影響を弱めたい。
起こったことは聖杯に縋るしかないが、
未然に防げるならそれもまた、叶えたい願いなのじゃよ。
[四つの人影はカフェへ入っていくようだ。
…凄い面子だと思ったが、呟かないことにした。
長く息を吐き、力を抜く。]
この調子やと無理かな。
[こういった建物が隣接している場所なら隠れる場所もある。
しかし廃ビルはそもそも立ち入れるかどうか不明だし、公園は焼け焦げて逃げる場所がない。]
手持ちでやるか。…心許ないけど。
[握っていた茶の酒瓶を籠に戻す。
そうして、元来た道を戻り始めた。]
――幾つか、知りたい?
[其れを伝えれば――必然的に、脱落したマスターの数も知れる。
その中には、死体もあったし。
既にサーヴァントを失った者や、自ら差しだした者がいる。
幸か不幸か、恐らく大きな徒労を掛けては、いない。
……、其れを語ろうとは、思わないけれど。
先導して歩く背を追う様にして、入ったのは小さなカフェ。
和服に、西洋人に、オッサンに、目隠し。
…何この組み合わせ。 とかちょっと思わなくもない。
店員もさぞかしギョッとしただろう。 素知らぬふりをしたけれど。]
立派な、 願いだね。
[アイスミルクティーを頼みながら。
胡蝶の話す其れには、たった一言返した。
――其れこそ、セムルクや、 8組目の願いに似ているとも 思う。]
…、随分、過大評価されてる? 私。
[判らないって言ったら、どうするのか。
向けられる視線には、僅かに首を傾いで灰銀を細める。
そうして一寸の沈黙。 …はぁ、と一つ。溜息を零した。
観念したかのようにも、見えるか。]
…、別に、あの人たちの考え方に賛同して
――令呪を奪ってる訳じゃない。少なくとも、私はね。
あの8組目に、聖杯を渡す心算は無いよ。
8組目が退場するまで胡蝶殿と我が輩に危害を加えない。というのであれば休戦の協定を結ぶ事も考えるであるぞ。
[我関せずという顔をしたままに。やってきたチョコパフェをナイフとフォークで食しながらさらりとそれだけ口にした。]
差し支えなければ。
現在何騎残っておるのか、儂等は知らぬしのう。
そういえば、昨晩は姫倉のサーヴァントに何かあったようじゃな。
恐らくは消滅か……。
[注文した小倉パフェの生クリームを掬う。
ちょっとお茶どころでなく、がっつり甘味だった]
立派じゃろうか?
随分と曖昧で不平等な願いじゃと思うよ。
もしも叶うのであれば、それは既に違う世界な気がするしのう。
結局は、魔術師という生業の上での、自分勝手な罪滅ぼしじゃ。
まあ、世界を支配したいとか、山ほど犠牲を払って自分の欲望だけ
叶えよう、という類でないことは、知っておいて貰えれば良い。
[最初は、逆説的に魔術師なんていなくなれば、とも考えていた。
けれどそれが願った世界かというと、違和感が拭えず。
実際、未だ迷いは晴れない。いつかアーチャーにも、その弱さを指摘された]
── 南ブロック:カフェ ──
[立ち話の途中。ハインリヒにとって意外だったのは、ラナが自身の現状を受け入れつつある、或いは受け入れなくてはと努めている事。令呪や聖杯について、バーサーカーよりも先に胡蝶と話す様子に、今までは語られなかったラナの言葉を耳に刻みたいと、沈黙を選んだ。
商店街での立ち話を経て、カフェに入る。]
言いたいことは穴子さんが言ってくれたな。
つまりはそういうことじゃ。
聖杯の恩恵まで蒙っておるらしい八組目には、
恐らくどう足掻いても儂等だけでは勝てぬ。
[それから、ルナの言葉におやと瞬いた]
ああそうか。同じ聖杯なのじゃったら、
あやつらも……ふむ、漸く複数のサーヴァントを使役できる
理由がはっきりしたのう。
賛同しておるのでなければ、ここらでさくっと
退場させておかぬか? そうすれば、おぬし等が
恩恵とやらも独り占めできるじゃろう。
最後にタイマンで八組目に勝てる自信があるならば、
無理にとは言わぬがのう。
―中央ブロック―
…………。
[何の因果か、ナルキッソスと街に出たが。
女の視線を集めるのは、判る。が、何故だろうか。
男の視線まで、私以上に集めているらしい。流石は魅了。しねばいいのに]
…………。
[ちなみに、私はあんまり効いていない。
本人に聞いたら、愛を知っていると効きにくいらしい。
まあ、子供も三人いるし。母の愛というやつだろう、たぶん。
単に、同じ令呪で契約されているせいかもしれないが。どうだろうか]
―西ブロック・教会前―
[ばたん、と車のドアを閉めると、石畳みの向こうに聳え立つ建物を見やる。
ここに来ると、どうしても重たい気持ちになるので、出来れば近寄りたくは無い場所だ。
ふぅ、と息を吐くと、こつこつと靴音を鳴らして敷地内に足を踏み入れる。]
― 南ブロック / 姫倉拠点 ―
[拠点にとんぼ返りする形になってしまった。
相変わらず山田がなんか騒いでいたが、スルーした。
…いやちょっとかわいそうなので、「うっさい」と言っておいた。何故か後ろにいた石川が喜んでいた。
意味が分からない。]
…まったく。
[相変わらずの光景。
それを諌める福井の拳骨も変わらず強烈だ。]
[ぎぃ、と音を立てて、入り口のドアを開く。
大理石の床は、石畳よりも高く硬質な靴音を立てて、建物の中に響き渡る。]
……こんにちは。
[奥から人影が現れれば、軽く会釈をする。]
本日は……お願いしたい事があって参りました。
[そして、どこからともなく現れる加藤も。]
?
[何を言うでもなく、ついてくる。]
…襦袢着替えるから、入ったあかんよ。
[言うと、さすがに自室の中までは入ってこなかった。]
…。
[いそいそと羽織紐を解き、羽織を脱ぐ。
次に長着へ手をかけて――紙戸の向こうに感じる気配。]
…。
[じっとそっちを見た。……やっぱり、いる。]
──…
のんびり同盟を組んで居られる程、
残っているかな。
逆に危険だとは思わないか……。
8組目と共通項が感じられる此方と休戦したら。
[昼間から酒を飲んでいる。紅い葡萄酒の入ったグラスがバーサーカーの手元にある。想うのは当然、キャスター組の事だ。]
―中央ブロック―
[志乃と別れた後、中央へと足を進める。
目的は、他の英霊との接触。
……ライダーが消滅した。
それは確実に、他の英霊が関わらなければ不可能な事だ。
もし消えたのならば、せめて相手が誰か。
そしてどのような最後を迎えたのか、せめて姫倉に伝えようと思ったからに他ならない。]
あーあ、本当に我ながら面倒な性格ですわ。
[こんな事、戦には完全に関係がない事だ。
それでも、まぁ……やりたくなった。
敵を探す序だと、そんな言い訳を口の中で呟く。]
[今朝がた、夢をみないはずのサーヴァントであるバーサーカーが、夢を見た。
月面に似た荒涼たる世界。
落下する黒い太陽。
世界の終わりを歩く夢を──。
そこには誰も居らず、誰も居ない。星の煌めきだけが眩しい。
聖杯の望む 終末の世界。]
[結局のところ。
令呪を剥ぐ行為など、相手は魔術師なのだから胡蝶だって同じ立場なら黙認しただろう。
サーヴァントの暴走という意味では、セイバーが一般人を吸血した行為の方が、許し難いくらいだ。
デラックス盛り状態だったパフェをあっという間に無残な姿に襲撃終了、ルナの答えを待つ]
…何や。急ぎの用か。
[長着を脱ぎながら、問いかける。
加藤は暫く沈黙した後、呟くように言った。]
『――。思い過ごしやったら、ええんですが。
何かまた、無茶なことしようとしてませんか』
[脱ぐ手が止まる。
…伊達に父の代から姫倉組にいるわけではないらしい。
だからこそ、一番信頼できる人なのだが。]
……よお分かったな。
『若は、変なこと仕出かそうとしとる時に限って無口です。
…悪知恵働かせる時の癖でしょうね』
休戦の約定が偽りであったならば諸共に倒すだけであるよ。
[バーサーカーの言葉には平然と。胸に下げたナプキンで口元のクリームをふきながら答えた。
パフェを食べたくなったのは何故だっただろうか。不意にこれだと思いメニューを指差したのだ。もしかしたら本当にパスを通じて何かが流れてきたのかもしれない。]
[そんな時に、丁度感じる気配。
その数は……二つ。]
こりゃ、早速当たったか?
[気配の方向に進んでいけば、遠巻きに何かを見やる人の群れ。
感じるものは、その中に。
仕方が無いと、その人込みを掻き分ければ……。]
な―――っ。
[もう居ないと、
そう伝えられた人物が。]
…、私の知る範囲で少なくとも、3人。
セイバー、…は、サーヴァントは残ってるけど。
アサシン、キャスター。 …それぞれのマスターの令呪は剥いでる。
[お茶どころか、がっつりと甘味を食す相手。
その何だか緑だったり…赤茶黒なつぶつぶだったり
謎なパフェを美味しそうに食べる様子を、少しだけ遠巻きに見た。
…日本の食文化になれていないと、どうもあまり、美味しそうに見えない。]
姫倉のおにーさんの?…嗚呼、
――おにーさんのサーヴァント、いなくなったね。
[彼の元から、であって――消滅はしていない、が。
しかし、サーヴァントのいないマスター。…嗚呼、覚えがある。
少し前の出来事を思い出して少し、眉を寄せた。
…事実、令呪は取りやすいんだろうな、と 少しだけ考えて。]
のんびり同盟なぞではないぞ。
一緒に八組目を倒さぬか。
それだけのことじゃ。
断られたら他をあたるだけじゃしな。
おぬし等があちらにつくと言うのであれば、
敵と見做すだけじゃ。容赦はせぬ。
それなりの利害を考慮した上じゃろうし、
どちらを選ぼうと咎めはせぬしそんな権利もない。
自己責任は、ちゃんと弁えておるようじゃからな。
[卓上に両肘に顎をのせながら]
…かもしらん。
[笑うと、紙戸の向こうの気配も、薄っすらと笑った。
気がした。]
頑張るつもりではあるけど、どうなるか分からん。
でも、ただでは死なんつもりや。
俺はしぶといし。
[加藤は何かを呟いたようだったが、上手く聞こえなかった。]
……ナルキッソス。
あなた、どうせ、お耽美系とか『花とゆめ』とか、そういう生命体でしょ?
不思議な掛け算的に、ブライとは――……
[聖杯の注ぐ黒い知識が、何かを口走らせかけたとき。
近付く英霊の気配が、ひとつ。
ナルキッソスと私の――私もよ!――美貌に惹かれて集まった人垣が、残念だ。
でなければ、二対一の好機だというのに。いや、ブライの魔力を二騎で分けているから、無意味だろうか?]
ああ――……、ランサー?
[『…ホンマに、随分と達政さんに似てきはりました。』]
――。自分では分からんな。
[『昔から頑固な人ではありましたけど、今ほどやありませんでした。…まあ、最近は珍しく迷ってはったみたいですけど。』]
…。まあ、ちょっとな。
[『……。なあ、若。私は若がちっこい時から知ってます。
正直言うて、…我々みたいな裏の世界におるには、不向きや思うてました。…それは今も変わってません。』]
…………。
[『せやけど、若は立派に姫倉の家を継いでみせました。
…たまに夜中に泣いてることもあるみたいですけど。』]
―――…………。
[数瞬、言葉を失う。
隣にいる人物、英霊だろう。
数日前の竜が出た夜、見かけた顔だ。
あの時と同じく、不思議と視線が其方に釣られ、
多少だが頭がふらつく感覚。
それを何とか押し止め、視線を再びライダーへ。]
……アンタ、消えたんじゃなかったのかい。
少なくとも俺は、そう聞いてたんですが、ね。
[『ただ、今でもちょっと思うんですよ。
若。……いや、姫さん。』]
―――その呼び方やめろて言うたやろ…。
[『…ほんなら、お嬢がええですか?』]
それもかなん。
[『昔と変わらず、強情なこって。』]
…うっさい。
あー。
キャスターってサンタさんとエウロパとどちらじゃろう。
[未だにライダーとキャスターだけが、どっちがどっちか分かってません。
それも、姫倉のおにーさんのくだりで、そちらがライダーだと解釈した。
トナカイに乗っていたけれど、ライダーではなかったのか。
じゃあエウロパはあの猟犬に乗るのかな、などととりとめなく考えながら。
サーヴァントを失ったマスターの情報に、セムルクがどう反応するか注視している]
[昼間の平和なこの日本の樹那町にあっても、何処か空虚な気持ちがひたひたと忍び込んでくるのは何故だろう。聖杯と糸で繋がった時間が長くなった所為もあるのかもしれない。
絶望を多くそそぎこまれ過ぎた聖杯の、破滅への願いを。
単なる願望機であったはずの聖杯が抱いてしまった死の願望を。
そのまま、叶えるのではなく、
塗り替えるだけの強い願いを──注ぎ込む事が出来る者は現れるのだろうか。]
[『―――彩香さん。
達生さんも死なんで、達政さんも死なんで。
普通に生きとったら、どんな子になったんでしょう。』]
あー………。
[『――まあ、今更大人しいお嬢なんざ。
全く以って想像出来ひんけど。』]
……。やかましい。だまれ。うっさい。
……消えてないわよ。ちゃんと、ここにいる。
それとも、身体が透けてたり、足がないように見える?
[いや、ある意味、幽霊ではあるのだが]
[――兄が死んだ時。父は泣いた。
私にはよく分からなかったが、二十歳になったら一緒に酒を呑みたいとか、色々仕込んで跡継ぎにするんやとか、そんなことを言っていた気がする。
兄さんは、私よりもずっとずっと優秀な人。
計算だって速かったし、かけっこだって一番だったし、近所の怖い犬から護ってくれたりもした。
…この魔術刻印だって、本当は。
あの人が受け継ぐはずだったものだ。]
そんなもん、見りゃわかりますわ。
俺が言ってるのはそういうことじゃねぇ。
[気を抜けば、意識がライダーからもう一人へと奪われる。
それでも、視線をライダーから外さぬように。
腕を組んで、まっすぐに見据えた。]
なんで、姫倉さんから令呪が消えたのに……
アンタがピンピンしてやがるんだって話で。
[父のことは好きだった。
でも、いつも父さんの目は、兄さんに向いている気がした。
そんな父さんが大好きで、…大嫌いだった。
酔っ払っている父さんは…どっちにしてもあまり好きじゃなかったけど、それでも色んな感情があったと思う。
――それでも。父さんも死に、何も伝えられなくなった。]
[父の墓の前で、二十歳の歳にお酒を呑んだ。
…何ともいえない味だった。好きにはなれそうもない。
兄の代わりになると言えば、父は魔術を教えてくれた。
…最後まで反対されたけど。
年頃になってからの刻印の移植は辛かったし、兄さんほど優秀ではなかったから、魔術も上手く使えなかったけど。
一つ一つ、父さんが遺していったものを消化していった。
あの人の恩に報いる為に、何が出来るだろうと。]
『―――俺の息子や。うちの組の跡継ぎになる。』
[父さんは。
兄さんのことを話す時、とてもうれしそうだった。
とても―――誇らしそうだった。]
話せば、長くなるけど……ううん。
まあ、私が元気なことだけに絞れば、単純な話よ。
[ランサーの、強い視線には。少し面白げに、微笑って]
マスターの令呪は、自分のサーヴァントを失うと消えるけど――、
私たちがこの世界に在るためには、誰の令呪でも構わない。
まあ、つまり、そういうことよね。
――動機が自分本位だろうと、
其れが、その他大勢の幸を願うものなら、立派だと思うよ?
…自分の過ちを、失くしたいだけよりは、よっぽど。
[一つ、溜息を零す。…と、セイバーからの言葉に、ぱちりと瞬いた。
提案の、意味も。利点も――判る。理解、しているけれども。]
向こうにつく心算は、無い。
けれど、――ゴメン。
「8組目を倒すまで」っていう約束は、…無理だよ。
既に、利害が一致している上で、向こうとの今の関係が成り立ってる。
[共闘と言えるのか、それすらも怪しい――酷く不安定な。
サーヴァントを複数持っていて、且つ突如令呪の繋がりを絶つような、相手。
…真っ向から対立するには、既に遅い位置。]
私自身、既に手を組めって言われてる。
…知って、手を組めと言われた上で、
令呪を 既に一つ奪ってる。
[決して応えては居ない。――けれども。
変わりがない。 既に、刃向うべき時は過ぎてしまった。]
――向こうの持つ「サーヴァント一体」
…其れを倒すまで、なら、協力出来るよ。
あと、少なくとも、昼の間は襲わない。――それは約束する。
[最後に羽織を羽織って、完成。
姫倉家の家紋が入った、黒い羽織。
重いはずのそれがふわりと翻る。
ゆっくりと袖を通した。]
ほなら加藤。――行ってくるさかい。
留守、頼んだ。
[『――ええ。いってらっしゃいませ。若。
お早いお帰りを、お待ちしとります。』]
[花とゆめ? 掛け算?]
確かに僕は花でもあるけど。
君とブライのおかげで僕は存在が危ういんだ。
耳元でまくし立てないでくれ。
[令呪を代償に得た力がなければ、いかに自分が存在を軽くしても、本当にブライは魔力の流れに抗えず壊れ、僕とこのライダーは消えていたかもしれない。]
博打をやってるんじゃ、ないんだぞ。こういうことをするなら、それ相応の準備をしておくべきだ。
[ぶちぶち。
不機嫌。]
[父さんと兄さんに買って貰った、赤い蛇の目傘。
もうくたくたのぼろぼろだ。
母さんに貰った、真っ白い扇子。
大事に使ったけど、紙は少し破けている。]
――後は酒瓶、と。
[いつものように。空間へ手を伸ばし、魔力を通す。
――緩やかに括られる空間の形は、籠。]
[――切った。その気はなかったが、そうなのかもしれない。
契約を切られたとき、解放されたという気分がどこかにあったことは、確かだった。
それに、かれの許に戻りたいとも、思ってはいなかった]
ええ……そうね、そうかもしれない。否定はしないわ。
[ほんの一瞬、苦笑が瞳に浮いて。次には、疲れた笑み]
――知ってる? 一緒にいて、疲れるひとは三つに分けられる。
自分のことしか考えてないひと。
自分のことを考えてないひと。
なにも考えてないひと。
この三つね。
あのひとは――
[さて、何を呟いたのだったか]
ああ、別に昼の間襲わぬ、とかは不要じゃよ。
休戦ではないのじゃから。
勿論、穴子さんが出来心で、八組目の前に
うっかりセムルクに牙を剥いてしまうやも知れぬし。
[ひらひらと気楽に手を振る。
そこは、常にサーヴァントを連れ歩いていれば最悪の場合は回避できること]
サーヴァント一体……まあ、それで手をうつとしよう。
加勢が得られると分かっただけで、話した価値はあった。
むこうにつく気がない、というか癪っぽいのも伝わったしのう。
[セイバーにも、それでいいなと目で問うて、席を立った。お会計]
[虚無に沈み込むがごとくバーサーカーの返答はゆっくりとしていて、声は重く低い。]
──…
キャスターは聖ニコラオスだった。
ヒメクラのサーヴァントは、
[言い掛けて、胡蝶の話ではヒメクラはまだ生きている、無頼に殺されていないのだと知る。では、あの男はライダーの令呪だけを繋ぎ変えたのか。嗚呼、無頼の力は確かに、そしてそれらと糸の繋がっている己は、]
おぞましいな。
ライダーは、今は無頼のサーヴァントだ。
[糸で繋がっているはずのナルキッソスの存在が、薄くしか感じられなくなった事に違和感を感じた事を思い出しつつ。]
嗚呼、そりゃさぞ疲れたでしょうな。
姫倉さんは、阿呆な御仁ですから……気苦労も耐えんかったでしょう。
[ライダーの言い分に、口元は少し笑う。
それでも、眼光は変わらず。]
別に、それに耐えろなんぞ俺が言える立場じゃありませんわ。
只、ね―――。
[思い出すのは、昨日の夜の表情。
そして、先程光を取り戻した、眼。]
それで、姫倉の兄さんが。
突然消えちまったアンタの事で、どんぐらい沈んじまったか。
アンタ、解ってますかい?
[本当はブライに説教でもかましてやりたかったのだが、消耗が激しいようだったのでライダーの方について嫌味を言っている。
…まあ、どうやらブライの魔力の運用はライダーとの間で天秤のようになっているらしい。
その辺について確かめるという意味でも、共に行動しておくのは悪いことではない。]
…こういうのは想定してなかったけど。
[サーヴァントと遭遇してしまったらしい。]
――…、ああ、そっか。
…じゃあ、少しだけ言いかえる。
昼の間は絶対、令呪を狙わない。 これで良い?
[ひらひらと手を振る相手に、小さく苦笑しながら、言葉を変える。
逆を返せば――夜に闘う事になれば。
ただ、命を守るだけでは足りないと、 その警告。
己のサーヴァントが首を傾ぐ様子に、一度瞬く。
異論は認めないとばかりに、灰銀を向けた。]
…其れなりに減ってはいるけれど。
――まだ、8組目には複数のサーヴァントがいる。
…ライダーのように、更に増やされる可能性もある。
[セムルクの告げた言葉を、肯定するように言葉を重ねる。
その勢力を減らすのは、…此方だって本来望ましいのだから。]
こんな事を言うのもあれだけど。 気をつけて。
は?
……契約解除……は双方の意志がなくともできるのか。
[バーサーカーの言葉に、思わず机を叩いた。
ら、周囲からすごい注目されたので、慌てて肩を竦めすごすご]
妻が離婚届を突きつけるかたちになったか、
それとも無理に契約を書き換えたとあれば……。
[自分も無頼と接触する時は気をつけなければ。
死に物狂いで手に入れたサーヴァントを奪われるなんて]
無頼陣は複数のサーヴァントを使う、
多重契約なぞ歯牙にもかけぬということか。
[ナルキッソスは、普通の魔力だと言いはしたが。聖杯の恩恵とやらが如何ほどかは分からない、強敵と想定しておくに越したことはない]
つく気はないとか、おぞましいとか言いながら、
それでも切れぬのは保身か、態のいいパシリ扱いじゃぞ?
そのままでは、おぬし等と八組目が残っても、結果は見えておるな。
――知らない。私が、そんなことを気にする必要がある?
[――強制的に、断たれたのだと。
そう答えれば、なにかが変わったのだろうか?]
かれは、自分の好きなようにやるわ。
サーヴァントなんていてもいなくとも、変わらずにね。
[そう――なにも、変わらない。毀れた信頼が、戻ることはない。
それとも、そんなもの、初めから、なかったのかもしれない。そう思う。
強制されずとも、選択肢を示されれば、進んで同じ道を選んだだろう]
それにね、ランサー。
サーヴァントは、願いがあって召喚に応じる。私にだって、願いはある。
だから――感情のままに動く、勝つ気のないマスターには、従えない。
ま――、
無謀なことばかりする、マスターだったけど。
[くつくつと、笑みを]
敵になった、いまなら。
これまではただ、運が良かっただけだって。
きっちり、教えてあげられるのは、確かよね。
[ランサーの反応を確かめるように、視線を]
昼も夜も、狙ってくれて構わぬよ。
どちらかというと、一般人を巻込む戦闘を避ける、というのが
儂の一番の信条じゃし、わざわざ言わずともそれはおぬし等も同じであろう?
[ルナなりの譲歩だろう。律儀な魔術師だと柔く瞳を細める。
だから、すこし辛辣な物言いをした。
きっと彼女は分かっていて、自責の念に駆られているのだろうけれど]
できることなら、八組目と共に儂等を襲う、
という方を避けて欲しいのが本音じゃが、そこまでは望まぬ。
穴子さんは、火輪ほど正々堂々の戦闘に拘るタイプではなさそうじゃしな。
そうですかい。
……なら、俺から言う事ぁ何もありやせんな。
[確かにコレは戦、なら……勝てる方へと言うのは当然。
姫倉が甘いのも事実だ。
マスターが単身、英霊に対するなぞ阿呆のする事。
そもそも、勝てる訳がないのだ、存在の格が違う。
正気の沙汰じゃない、英霊が呆れても当然だ。
だが、それでも……。]
―――いや、一つだけありましたわ。
[コレは流石に、程がある。]
アンタは、姫倉の兄さんの知らない所で―――
[―――粋じゃねぇにも、程がある。]
−忍神町・無頼邸−
[ゆっくりと体を起こす。なぜか口の中がじゃりじゃりする。コンソメ味]
ぐっ、ぶふっ!!ぐぶぶぶぶっ!!!!!!
[近くにあったコーラのペットボトルを掴み流し込む。のどにつっかえたらしい]
ぷはあっ!!はあ、はあ、はあっ。
[あまり意識は無かったが、ライダーの仕業だろう。時々勝手に入れ替わりどこかに買出しにいっていたが、この菓子と甘ったるい炭酸飲料の買出しだったのかと軽く衝撃を受けた]
ナルキッソスと・・・・・・あとはライダーか。何処にいったんだ?
[近くに反応は無い。昨晩の戦闘で魔力をかなり消耗した。今ですらサーヴァント2体を維持している身、少なくとも今日については魔力は温存せざるを得ないだろう]
令呪はこれで3つ集まったか。俺とバーサーカーで2つ、残りは3つ、か。
[先は見えた。昨晩のような激戦を切り抜け、サーヴァントを失いながらも先には進めている]
――元々、そういうものでしょ。聖杯戦争って。
[鼻白んで、応えて。声を低く、ひとこと]
結局――……あなたみたいな純正の英雄には、判らないのよ。
ブライは勝つ気がないわけじゃないんだけど…
空回ることもあってね。
それこそ今回の件…君を従えたことは、「運が良かっただけ」に近いことだった。
運だけじゃあ、ないけど。
ところで、ランサーだっけ。
結局、何が言いたいの。
そのライダーのマスターが立ち上がれなくなるなら、結局その程度ってことじゃないか。
立ち上がるなら、自分でなんとかするだろう。
お門違いだと思うよ。
うちのマスターは…
絶望しても、立ち上がるだろう。
[ゆっくりと支度をする。
今までは敵だらけの状況だったが、現在の戦力は逆転しようとしている。
バーサーカー、ナルキッソス、ライダー・オルタナティヴにそして無頼本人。
対するサーヴァントは計算上2体。ならばもはや隠れる必要は無い。
魂砕きを背負い、無頼邸を後にする。ハサンを失った今、残念ながら無頼自身が徒歩で進まなければいけないが]
――…、うん。
[同じだろう、と。その問いに短く、こくりと頷いた。
…無関係の人を巻き込むのは、望まない。
辛辣な物言いも、今は――少しだけ。救われる気がした。
彼女の後を追う様にして、ようやく席を立つ。
さて幾らだろう。…アイスティーはパフェに比べれば然したるものではないが
如何せん、サーヴァントがアルコールを飲んでいる。 昼間から。]
…その、アナゴさんとは。
[完全に穴子さんで定着した。
何度かセイバーの方を見やって、かくんと首を傾ぐ。
――カリンとは大分印象が、異なる英霊だと思う。]
…――再契約するのに、躊躇したって言ってたね。
−東ブロック−
へっくしょい!!へっくしょい!!
[背筋がぞっとする。まるで普段他人に興味がないナルキッソスに微妙にほめられたような気味悪さ]
嗚呼、そうですな。
戦ってのはそういうもんだ。
ただね、純正なんて勝手に決めねぇでもらいますかい。
俺は一度も、自分を"英雄"だなんて思った事はねぇですわ。
[それだけ、破棄捨てる様にいえば。
言葉を発したもう一人の方へと視線を。]
嗚呼、アンタがあれかい?
なんだか周りが"イレギュラー"だとか呼んで、変に騒いでるやつですかい。
ああ、そうじゃな……。
[葡萄酒は神の血というし、さてセイバーは得意か苦手か。
その鮮やかな紅色に触発されて、表情を歪めた]
おぬしになら言うても構わぬか。
偉そうに説いた分、儂も……罪を抱えておることを。
儂と再契約をするまで、こやつは一般人を襲って魔力を補っておった。
止めさせるために、儂の魔力を差し出したも同然の契約じゃ。
これ以上被害者を出さぬため、そして儂が聖杯を手に入れたなら、
その犠牲者たちも救いたいと……。
[分かるか、と問う口元には、儚い笑み]
苦渋の選択じゃったよ。サーヴァントを失ったばかりじゃったしな。
じゃが……他に如何な選択肢があっても、儂は同じ道を選ぶじゃろう。
後悔はしておらぬ。全ては己の力不足の招いた結果じゃし、
届かぬものはある。が、聖杯に関してあそこで脱落する気はなかった。
会う人会う人に「イレギュラー」って言われるな。
君たち、何かそういう情報を交換して一致させるネットワークでも作っているのかい。
さぁねぇ、俺は他の奴がそう呼んでたってだけでね。
[不満そうに返答する、謎の英霊。
不思議と視線と意識は固定される、が。
原状ならば、少し頭がふらつきそうになる程度だ]
俺に言わせりゃ、戦にイレギュラーも糞もねぇって話ですがねぇ。
――……。
[そんなのものは、当たり前だ。
己を"英雄"と思っている人間など、
自我が、蛙のように膨れ上がった輩ばかりに違いない。
"英雄"とは、同時代の人々――あるいは、歴史が決めること]
(それでも――……)
[自分は、いかなる意味においても"英雄"ではない。
聖杯戦争の異常で、誤って喚ばれたかのような存在。
そこへ、あのマスターの言行。いや、判りはすまい。
槍の英霊は、恐らくきっと、何にも構わず、戦場を駆けるだけ]
ぬ……う。
[笑顔を真正面から見て、少したじろぐ。
恐らく、少し赤面もしているだろう。
……どうも、"自分の"様子がおかしい。
恐らく相手の技能か宝具……何かの影響か。]
嗚呼……、目の前に現れた敵にイチャモンつけてもしゃあねぇですわ。
例えルール違反だと騒いだって、誰も裁く奴なんざいねぇ訳で。
いや寧ろ、"居る"時点でそいつぁ認められてる事に他ならねぇ。
そんなら、黙って戦う他ねぇでしょうに。
−東ブロック・病院前−
・・・・・・
[病院の棟を外から見上げる。
数日前、ここで目覚めた。それまで3年間はここで眠っていた。
その3年前ではあの廃墟のような忍神町で聖杯を手に入れた]
嘘のようだな。
[気がつけば年も取っていた。一体何の為にそこまでして生きるのだろうか、時々そんな些細な事が崩壊する]
…そうだね。
本当なら、許されない事も あると思うけど。
そう決めた上で――後悔してないなら、いいんじゃない?
[語られる言葉に、一度ゆると瞬いた。
軽蔑など、出来る筈も無い。…する気も、無かった。]
…その立場にいたなら、私だって同じ事を選んでたと思うもん。
聖杯を手に入れる為に、サーヴァントを呼んだ。
そうして戦争をするって決めた7人が、――や、今回は8人か。
平等に起こした事の。…責任を取るって、そういう事でしょ。
[聖杯を、簡単に投げだせないのは承知の上。
それを罪だと言うのなら、其れも全員に等しい事だと 小さく、笑う。
それでも、その犠牲者を救いたいと願うのは
――やはり、目の前の彼女も、相当なお人好しだと思うのだ**]
――単純で、羨ましいわね。
存在しては、いけないもの。理から、外れたもの。
認めてはいけないものだから、人は、それを消すために戦う。
[浮かんだのは。存在を消されたといった、イカロスの言葉]
ま――……戦いのために戦うなら、違いはないのだろうけど。
…世界は常に、全てのものに、ただあるがままを望む視線を投げかけている。
「理」とは、それだけだ。
存在してはいけないもの。
それは人の心の中にある。
存在してはいけねぇとか、
理から外れてるとか……一体誰が決めるんで?
ただ、認めたくねぇだけでしょうに。
"存在して欲しくない"
人がそう思って、手前勝手に都合良く消そうとしてるだけですわ。
……ま、言っても仕方ねぇでしょうが。
俺はそうは思いませんがね。
人の数だけ、真実がある。
人の数だけ、世界がある。
そこに全体の真理、世界の意思なんてねぇですわ。
あるとすれば、自分という名の世界の中の、自分が決めた真実。
例え、俺以外の奴らが八組目を"イレギュラー"と呼び、さも当たり前の様に異端扱いしても……。
"俺"って世界にとっては只の敵で、それ以上でもそれ以外でもねぇ。
それは如何に他の奴が塗り替えようとも、染まりはしませんや。
[そう、何度も馬鹿といわれた。
戦場で殺した敵を弔う己の姿。
それでも、自分にとっては譲れない。染まらない。
死せば、敵も味方も無い。
残るは意思を残した骸のみ、それが己にとっての真理故。]
[気付けば、周りの人は更に増えていた。
このまま続ければ、拙い事になるかもしれない。
更に戦闘など、以ての外だ。
兵以外を戦に巻き込む等、粋ではない。]
少し、話が過ぎましたな。
今回はコレで失礼させてもらいますわ。
[踵を返せば、嗚呼、と謎の英霊に。]
アンタ、話を聞く所"イレギュラー"って呼ばれるのは嫌みたいで。
奇遇なことに、俺もそんな呼称は好きじゃねぇ。
って事で、一つ名前を教えちゃくれませんかい?
それはそれで、寂しいな。
人と交わり生まれるものを…
僕は信じていたかった。
僕の名はナルキッソス。
ゲームマスターのサーヴァント。
[引いてくれるなら、ありがたい。
ブライの魔力が安定するまでは。
…不安定な状態が、続くな。
苦笑。]
人と交わり生まれるもの、ね。
俺は小難しいことは良く解りませんが……。
それを人は
―――"愛"って、呼ぶんじゃねぇですかい?
俺は、ランサーのサーヴァント。
名は本多忠勝。
戦が続くならば、そのうちまた、巡り会いましょうや。
[それじゃ、と。
ランサーは再び振り返り、雑踏へと消えた*]
信じていたさ。
僕は、それを。
塗り潰された真実は闇になり。
無理に剥がされた真実は闇になり。
その真実を生むのも、また闇だ。
時に美しい光が差しても、
その闇が消えることはない。
−東エリア・病院−
こんな所にいても、仕方ないな。
[たとえ数日前とはいえ、過去は過去。今はまるで違う状況の中にいる。
ふう、とため息をつき、中央ブロックのほうへと歩き始めた]
― 南ブロック / 住宅街 ―
[粗方の酒瓶を詰め終える頃には、外は朱に染まっていた。
粗方と言っても、重量的な問題で12本が限界だったのだが。]
中身も入ってるしな…。
[呟きながら、歩く。
隣に誰もいない状態で、戦争の夜を歩くのは初めてだ。
確かに独りで抜け出すこともあったけど、それは――。]
…。ふう。やめ。
[頬を一発ぺちりと叩いた。
とりあえず、曲がり角に気をつけながら北上して行く。]
−中央ブロック周辺−
[当然気がついていないが、この近くでサーヴァントたちの会合が起きているようだが、まだ気がつかない。
そろそろ中央ブロックだろうか、といった所で周囲の風景を見回す。
ここを自分は戦場だと認識している。だが道行く人々はそうではない。
まるで蜃気楼のようだ。自分のおかれている状況と景色がまったく一致していない。
そんな奇妙な感覚に襲われる]
― 南ブロック / 商店街付近→中央ブロック付近―
あー…。
[人だかりもそぞろになり始めた商店街。
酒屋も、書店も、そろそろ暇そうにしているいつもの光景。
だが、今から抜けようとしている先はそうでもない。]
…何があるか分からんしな。
[立ち止まり、思案する。
このまま北上すれば、駅から出てきた、いわゆる帰宅ラッシュに巻き込まれてしまうだろう。
人だかりのあるところで誰かに発見され、尾行されでもしたら大変だ。とりあえずはどちらかに逸れることにする。]
…東かな。
[西は、ここ数日で「マスターとサーヴァントがよく集る場所」という認識が植えつけられていた。
あまり整備されていない道を通って、東の方へ。]
―→中央ブロック付近(東)―
[気を張ってみても、生来のぼけっとした空気は変えられない。…すれ違う人の方がまだしっかりしていると思う。
雪駄を鳴らしながら、具体的な目的地もなく歩く。]
あ。あれ美味そう。
[女の子がタイヤキを頬張っていた。視線で追ってしまった。
しかし、最後まで追うことは出来ない。]
―――っと。
[タイヤキ女子の向こう。
少し前出逢った彼。
とても日常に似つかわしくないはずなのに、今この瞬間はとても溶け込んでいるような「その人」がいた。]
…。
[立ち止まり、じっと見る。
蘇るのは、赤と黒に支配された公園の風景。
壊された緑と、灰色に歪む空の世界。
息吹も凍てつき、そして焼け付いたあの光景。]
――――。
[今ここででも、彼は戦闘を開始するだろうか。
少し、そんなことを考えて、]
……。おーい。
[向き直り、そちらへ近づきながら、声をかけた。]
・・・・・・
[自分の事を呼んだ声だったのか。それとも空耳か。
だが、かすかに令呪が疼いた。
振り向く。そこには確か・・・・・・あの公園で見かけた姿]
・・・・・・
[ただ黙って、姫倉を見つめる]
……。えーっと…。
[振り向いた、ということは声には気付いたらしい。
が、特に何かを言う様子も、行う様子もない。
一先ずは傘を握る力を緩め――るほど強く握っていなかった。]
兄さん。は。…えっと。
[兄さん、で途切れそうになったので、慌てて付け加えた。
どこかで聞いた名前を、必死に捻り出す。]
……名前。無頼さん…で合ってんのかな?
[胡蝶の言葉からの推測なので、訊ねる形となった。]
・・・・・・ 君の名は。
[近くに寄ると判る。その令呪の反応が薄いと言う事を。
令呪自体の共鳴は起きている。だがそこに魔力のつながりを感じない。
サーヴァントとの契約が切れているはず。
多分、彼がライダーのマスターだったのだろう。そううっすらと理解した]
俺は…。
[視線を彷徨わせる。
無頼に感じていることは、あの夜から変わらない。
今、こうして改めて相対してみると、よく分かる。
何のことはない。
あの夜、彼を助けようと近づいて、刺されそうになったのも。
自分が昔を思い出してしまったのは、この人が――。]
……。姫倉達生です。
[沈黙の末、表情を笑みに変えて、そう名乗った。]
一回殺しあった仲やのに、互いに名前も知らんて、妙な話ですね。…そうでもないんかな。
―――、怪我って言うか、体の具合、どないです?
[公園の時、ぼろぼろで槍に振り回されていた彼を思い出す。]
まだ本調子ではないな。無理をしているのは否定しない。
だが戦うには問題はない。
むしろ、君はどうなんだ。
[表情を変えず、そう問いただす]
そら良かった。
[笑ったまま、そう頷く。]
俺は…。
少なくとも、今ここで無頼さんに仕掛けられたら、正攻法では勝ち目ないやろうね。
まともに出会ったらすぐオシマイ、てな状況ですし。
そうか。
君はこの後どうするんだ。もう聖杯戦争には、参加しないのか。
[なら彼の令呪をここで奪うべきなのだろう。
だが不思議とそんな気分にはならなかった。
いずれそうなるのかもしれない。だが]
んー…。
…。
…。……。
…。今、辞めたら。
色んな人から継いだモン、全部無駄になる気がするんで。
このまま頑張る…かな。
[答えれば、ここで死ぬかもしれないとは分かっていた。
それでも――「似ている」彼に、嘘を出せなかった。
傘を握り直すことも、身構えることも、…しない。出来ない。]
継いだもの、か。
君をそれが拘束しているのか。
それとも、君はその継いだものの為に生きることを幸せだと思い、そしてそれを無駄にしたくないから、聖杯を手に入れたいのか。
[少し、遠くのほうを見つめる]
そんな些細な願いでもいいのかもしれないな。
だが、君はもうこの戦いから身を引くべきだ。
今の君では何も手に入りはしない。
…。
何や似たようなこと、滝川さんにも言われましたわ。
[目を閉じた。彼女は今も怒っているだろうか。]
でも――なあ、無頼さん。
俺、自分の幸せとか、拘束とか。
よく分からんのですよ。
[苦笑いを浮かべて、頭を掻いた。]
ただ、困ってる顔が見たない。
ただ、笑ってる顔が見たい。
――誰も彼もが笑ってられたら、どんなにええことかって。
もう知らん。
勝手にしろ、て言うてしまえたら楽なんやろうけど。
生憎とそれが俺の理想(ねがい)で――
――無頼さんやったら、諦められます?
もう無理や、手に入りはせんて分かったとしたら。
[初めは、…すごく適当な願いだった気がする。
姫倉の家を継いでも、父さんから継いだそれに、自分で何が遺せるだろうかと、何も遺せないんじゃないかと、不安になった。
だから――そう。
「姫倉の家には倉庫の奥に不老不死の薬が眠ってるぞ!」
って囁かれたら、…ちょっとは凄いもん遺せたかな?
とか。
…いいよね。不老不死って。響きかっこいいし。
その程度のものだった。]
別に悪いことではない。
そんな些細な幸せを願っても、俺は構わないと思っている。
だが、俺はそんな事を言っているわけではない。
今の君からは、執念や強固たる意志を感じない。
それを言っている。
君が言う”無理”とは一体何のことだ。
サーヴァントを失ったことか。それとも自分が非力だという事なのか。
強い者が勝つ。そういう世界かもしれない。
だが自分が強者ではないから諦めるというのなら、そもそも君は間違っている。
君から見て強い者は、すべからく足掻いている。それが良い事かどうかも判らないが、楽をして強くある存在などありはしない。
もし本当に君が聖杯をまだ望むなら、今この場で俺の令呪からサーヴァントを奪って見たらどうだ。
前戦争で生存したサーヴァント、キャスターだ。
今回の戦争でも彼の力は間違いなく別格だろう。
そして、俺は得てして魔術師として優秀なわけでもない。君にとっては好機以外の何者でもない。
……。それは分かってるけど。
[じっと、無頼陣を見返した。
…彼は、紛れもなく無頼陣なのだ。
それ以外の何者でもなく、ましてや――達兄などではない。
けれど。]
………。そやな。
[空で、くるりと鳥が輪を掻いた。
手に持っていた傘には、一向に力が入ることはない。
だって、彼は兄さんに似すぎている。
だから――]
俺はきっと君から見て歪んでいる存在なんだろう。
だが、俺はそれでもこの命を賭して手に入れたい未来がある。
ただ、それだけの理由でこの戦場に立っている。
・・・・・・磁星刀。
[切りかかってくる彼を目視した瞬間、彼の背中に背負われた巨大で特殊な鞘から5本の刀が飛び出す。
そして、彼を中心にくない2本と小太刀2本が地面に突き立つ。
そして1本の太刀は彼の両手へと納まり、そのまま姫倉の刀を受け流す]
陽極刀。
[そして太刀を右手だけで保持し、左手に引き寄せられるように小太刀が飛び込む。そのまま半身を翻し、姫倉の左脇へと飛び込むように小太刀のなぎ払いが襲い掛かる]
ちぇっ
[薙ぎ払いは弾かれ、明後日の方向へ軌道を。
連れて行かれそうになる体を何とか踏み留めれば、間髪入れず入ってくる小太刀。
魔力の気配。考えている暇は無い。]
あんたのどこが――
[後ろへ跳ね避け――少し遅い。脇を切った。
羽織がほんの少しだけ裂け、着地と同時に遅れて翻る。]
歪んでんのか、さっぱり俺にはわからんな。
歪んでる勝負やったら悪いけど、負けへんよ?
[色んな奴に「もっと自分のことを」とか言われた気がする。
それでも、培った性格は変えられなかった。
右手刀の先に魔力を集中し、空間を括る。
作った形は――紐。伸びた先にあるのは背後の酒瓶。
刀を振るうと、見えない紐に括られた酒瓶は独り手に浮き、無頼の元へと飛んでいった。
ラベルの色は――茶。意味する属性は、「土」。]
[無言でその一連の行動を見据える。だが]
陽極刀!
[回転させるようにして、その酒瓶へと伸びた紐を・・・・・・切断した。
それと同時に大きく酒瓶の軌道上から逃れ]
陰極刀!
[左腕に今度は地面に突き刺さった小太刀を引き寄せる]
ふう。
[刀の先から手ごたえがなくなる。
どうやら直感任せに後ろへ飛んで正解だったらしい。
などと分析していると――風がざわついた。]
……ほう。
何か面白そうなことでもしてくれそうな目ですね。
[ただ彼の目を見る。――赤い充血。
公園で見た時のそれと同じか、それ以上の気配。
彼が歪んでいると称したのであろうその力は――しかし。]
…なるほどな。
[――表情は物怖じず。
笑顔でその眼光を受け止め、「邪魔な」刀を鞘に納めた。]
――ほら、遠慮なく来い。
あんたの一太刀や二太刀で壊れる程、
「私」は安く出来とらんさかいに。
[そうして両の手で、傘を構える。]
反極刀。
[もう一本のくないを手元に呼び寄せ、今度は無頼の足元に打ち込む。
引極刀とは真逆の、重力に対しての反発力がかかり始める]
[そして、引極刀から紐を切り空を舞う陽極刀、その陽極刀からは今空を舞う陰極刀、そしてそれとは別に引極刀を無頼の手甲を引きよせる力にそれを後押しする反極刀。そういう磁場が発生しようとしていた]
磁力・・・・・・発生。
[空をいまだに回転しながら舞う陽極刀は、突如姫倉を背後から襲いかかり、その陽極刀へと引き寄せられるように今度は正面から陰極刀が姫倉に襲い掛かる。
そして、その直後には人間の動体視力では到底補足出来ない速度と威力で、魂砕きを振りかざした無頼が姫倉へ襲い掛かる]
お、…
―――っく。
[傘を構えたまま、突っ立っていたからだろう。
無頼の行動に対処できず、何らかの布石であろうくないの投擲を許してしまった。――致命的な後手。
その代償は、数秒経たず知る。]
っは――…
[小柄な体に、重すぎる圧力。
――いつも操る空間の重さなど――同じくらいだ。
それが、一気に自分に圧し掛かってくる。
傘を強く握る。決して離さない。
膝は決して折らず、敵からは目を離さず。
終いには周囲からの飛刀――突っ込んでくる無頼。]
こいつは――
[躊躇う暇など後でいい。
屈みこむ形で、――全身の力を使って傘に繋がったものを引く。
刀が飛び交う遙か上空。
構えた傘から真っすぐ伸びたそこ。
待機していた一つの空間重圧。
形は――焼夷弾。
引極刀の重圧に逆らわず、墜落してくる。
その先にあるのは姫倉の足元。
そこに作られた砲弾型の空間圧。]
――――ッ!!!!!
[ぶっ飛ばせ――そう叫ぶ言葉も、掻き消される。
空から落ちてきた焼夷弾と、地に生えた砲弾。
二つは激突に、互いを括った魔力で互いを「破り」合う。
そうして両者から、外のもの全てを弾き飛ばすように溢れ出た――無差別に周囲を叩く多量の空間圧。
破裂から数秒も絶たない内に、姫倉の体もあっというまに飛ばされた。]
・・・・・・
[正面で爆発。どうやら彼は空間に魔力を通じて擬似的な道具化が可能なようだ。
空と地面に弾が見えた瞬間、彼は磁場を解除し、無頼の手甲は逆に反極刀と引き合い無頼は急ブレーキをかける。
体を反動が突き抜けるが、慣れている。
陽極刀と陰極刀は姫倉の能力で弾き飛ばされたようだが]
戻って来い。
[ゆっくりと磁場を形成する。そして彼を中心にまた小太刀とくないの合計4本が地面に突き刺さる]
面白い能力だが、俺にとってはそれ以上でもそれ以下でもない。
[ふう、と息を吐き、ゆっくりと構えを解く。
そして地面に刺さる刀を1本1本丁寧に抜き取り、鞘に納め始める]
ここまでだ。
[吹き飛んだ体。着地――は傘で地を擦ってどうにか。
片膝をつく形で、ブレーキをかける。
刀と無頼からは逃れた。
そうして次の空間を括ろうと――]
…あ?
[――変な言葉が聞こえた。]
ここまでて、お前。
[だが、紡ぐ前に投げかけられる、新たな問い。
その言葉が脳に届けば、はっと息を呑んだ。]
……。
[目を閉じる。
再び開いた時に浮かんだものは――やはり、笑み]
――ありますよ?
生業が生業ですし。ねえ。
[――それで、わんわんと泣いた夜もあった。
それでも、耐えて行けるだろうと、今も続けている。
…父にも加藤にも、「向いてない」とか言われたが。
今も何とか頑張っている。]
そうか。それならいい。
[そう言うと、姫倉に背を向け去ろうとする]
聖杯戦争から身を引くならそれでいいだろう。
もう会うこともあるまい。
……。相変わらずあんたのどこが歪んでんのか。
さっぱり分からんけど。
[構えた傘は解かない。
ただひたすらの魔力を、空間に巡らせて行く。]
身を引くだの、あんたまだそんなこと言うてはんの?
そら、あんたの能力に相性は悪いかもしれんが。
[傘から伸びる魔力をふっと解く。
次いで伸びたのは、もう片方の腕。
咄嗟に背後へ伸ばした紐は四本。]
相手の死ぬ気も見定められんかったら、大怪我やすまんよ。
…それとも、死ぬ気や分かってて莫迦にすんのが
[その内の一本は手繰り寄せ、酒瓶を持った。
残りの三本を無頼へ向け、放り投げる。]
あんたの流儀か、無頼――!!
言っておこう。このまま戦えば俺が負けるかもしれないだろう。
勝ったかもしれない。
だが、俺はこの戦いに意味を見出せなかった。それだけだ。
[手に握った反極刀を地面に突き立てる]
ひとつだけ忠告だ。君の技は優秀だし才能も認めよう。
それだけの魔術の習得にはそれ相応の時間と努力も裂いたのだろう。
だが派手なだけで隙だらけだ。その未熟な技では俺のような格下にすら後手に回るぞ。
[そう言って、大きく跳躍する。地面に刺さった反極刀も無頼の後を追って飛び去っていく]
な、にが―――…
[未熟であることなど分かっている。
元々の才能も兄ほどなければ、スタート地点で他の魔術師と大きく遅れている。
だがそれでも、――追いつこうと、追い越そうと。
ひたすらに回し続けた魔術なのだ。]
忠告や。この…、ッ…。
[展開し、押して、浮かせていた大量の木槌。
捕らえるのに必要ならと、トラバサミも浮かせた。
しかし――]
………。何が、格下や。ボケ。
[最初に割れ、地面に浸った酒。
そこで生まれていた地蔵に紐をくっつけ、去っていく無頼に放るくらいしか出来なかった。しかも途中で失速し、地に落ちる。]
[才能ある兄と、威厳ある父と。
どこか兄と似ている無頼と。
――届かないのだろうか、と思いかけ、首を振った。]
…諦めきれるか。んなもん。
[飛んで行った無頼を追って、走り出す。]
『・・・・・・お前は変な奴だ。
望むままなら、彼の令呪をそのまま奪えばいい。この私を呼び出してでも』
[空中で、スカアハが珍しく無頼へと令呪の中から囁きかけた]
彼なりの死ぬ気を受け取ったつもりだ。その上で俺は負けると判断したから逃げた。それだけだ。負け犬さ。
『じゃあ何であんな余計な事を言ったんだ』
・・・・・・本当の強さは、魔力や腕力じゃない。
俺が彼にそれを感じたならば、また剣を合わせよう。
『無頼という固体は、やはり歪だな』
それに、俺は固体で聖杯戦争に勝利しようとなどは思わない。
・・・・・・ナルキッソスがいるから、戦えるのだ。
[彼なりの信頼。
いつもどこにいるか判らず、適当なことを繰り返す不埒な英霊。
だがそれでもナルキッソスがいる戦場だからこそ勝利を確信出来る。
前戦争のキャスターチームとは、そういう二人であり、今でもそれは続いている。
こんな無頼でも、一人で戦っているわけではない。引き際もわきまえている]
[遠くに陽極刀を打ち込み、その方向へとまた引き寄せられる。
振り向くと姫倉の魔術の跡が見えたが、それを振り切るように*ビルの群れの中へと消えた*]
― 北ブロック周辺(東) ―
――…、……。
――…はぁ、――…っぅ…。
[展開したトラバサミと木槌、総数25。
しかし、無頼を捕らえることはなかった。
見失い、それでも追い付こうと走った。
結果――息を切らし、立ち止まる。]
……。悔しいけど。
無頼の言う通りやな。
[あんな時に、ライダーがいたら、と想う。
きっと彼女なら、自分の突進をカバーしてくれただろうし、引くべき時が来たなら、ひっぱたいてでも引き戻したに違いない。
――自分にはないものを持っていた英雄、エウロパ。
姫倉なりに、彼女を信頼していた。
無謀を彼女は怒りもしたが。
それは――お前がいるから出来たんだと。
喉から出かかって、…恥ずかしくて言えなかった。
…けれど、もう彼女はいない。伝えられない。]
[彼女がいなくなった時点で、勝率はゼロに近い。
でも。]
――、忠勝さん頼ったら、滝川さん、怒るやろか。
[ゼロではない。
傘を握り直す。酒瓶は残り9本。
懐の扇子と魔石も忘れず確かめた。
紋付き羽織を羽織直して、再び歩き出す。
――それでも、譲れないものはある。
例え自分に還るものではなくても。
強く望む――一つの魔法。]
[無頼に望む未来があると言うならば。
自分は彼「も」笑える未来を望む。
――出きるなら、彼女も。
自分の原点であり全てであり、…勝つと決めた理由。
誰にも譲らない。譲れない理想がある。
それを、勝ち進んだ先で掴む為なら、]
[それは、ただ、召還されたサーヴァントであるハインリヒ自身の希望が失われる事への恐怖とは異なる──胸に巣食う不可思議な感情の正体は分からないまま。
弄んでいたグラスを置き、ラナの灰銀の瞳を覗き込んだ。
心を侵していた闇に光が当たる。
それは月の光に似ている。]
大天使イカロスと名乗るサーヴァントは、
キャスターが自身の宝具を壊して
起こした──大爆発でも倒せなかった。
イカロスは無頼の他サーヴァントらしき男を身代わりにして逃げた。
宝具を壊すレベルの爆発が如何なものかは、
考えれば分かるだろう……。
そして、キャスターチーム脱落 だ。
策が浮かぶ前に“あれ《イカロス》”に正攻法で挑んで
自滅してくれるなと忠告しておく。
こちらは、後はエウロパとナルキッソスを除けば、
真名はおろか姿も知らん。
そちらは、他と対戦したりは?
[と、セイバーと胡蝶に問うたりもした。P.アーチャーの話は聞く事が出来たか否か。]
[最後に告げられた胡蝶の罪の告白>>198に、嗚呼と小さく十字を切る。セイバーを、目隠しの向こう側から少しだけ注視した。]
──憐れな子羊達を犠牲にしても、
地上に留まりたい願いがあった か。
その論理を拡大すると、
万人規模の人々、例えば町や国一つ、
そっくり犠牲にしても赦される願いが有る
と言う話になるな……。
[鼻孔を動かして、セイバーと対戦した時に感じた闇の気配を嗅ぎ取ろうとするような仕草。わらう。
と、ふと脳裏に浮かぶのは、おそらくランサーに該当する武人の願い。
最強と言われた自身がどこまで山をのぼれるか、真に目指し駆け抜ける事が、願いだ>>4:281>>4:282と言っていた。聖杯で叶えられる願いそのものは、誰かにくれてやっても良いのだと。胡蝶は、ランサーを如何想うのだろうか──と、首を傾けた。]
──……
願いは夫々だ。
[令呪を聖杯へそして魔力が分配されるの仕組みをラナが、胡蝶とセイバーに話した以上、彼等に対して、バーサーカーには前回戦争の聖杯と共鳴するような資質がある事を隠せないだろう。今はまだ、クラスと無頼達の荒唐無稽さに紛れて影に沈んでいる。
狂気を、破滅への願望の暗い炎を、まだ鎮火させてあるのは、おとこを召還したラナの存在と、既に居ないキャスターチームの二人の残した“何か”だった。
同盟者であったエラト達の仇を取る等、情念にながされる種の価値観はハインリヒは持たない。彼等が聖杯戦争の参加者である以上、彼等の敗北は単なる敗北にすぎない。ただ、関わりの中で、
──私は粛正された清らな秩序ある世界を望む。
清らでないものが世界に在る事を、認めさせかけていた**。]
―― 南ブロック/昼間のカフェ ――
[目隠しの英霊が話す、8組目が持つサーヴァントの情報に応えるかのようにP.アーチャー…生けるクルスニクについての話をする。
受けた情報の対価ではない。単純に、自分以外があれを倒す可能性を高めるのを最善手と思っただけだ。
銀杭の固有結界、白銀の巨獣。自分が相対した"天敵"の能力を要点のみ掻い摘んで説明する。そして。]
――だが本来、英霊であれば畏れる程の存在ではない。魔を倒す概念のみで構成された幻想種。それがクルスニクの本質だ。
善行を成し、人々に尊ばれる英霊を相手にしてその力を奮う事は出来まいよ。我が輩は事情があって少しばかり相性が悪かったりするがね。
[犠牲の赦される願い、と呟く姿には、些か冷めた視線を返した。]
戦争というのは、他国を犠牲にして自国の繁栄を願う行為であるよ。
我が輩は我が領民達のため戦で多くの人間の命を奪った。領地繁栄のため一部貴族の粛清も行なった。
人の血を啜った事も生前の我が輩についても、神へ贖罪をしようとは考えぬよ。我が輩は我が輩の出来る最良手を選んだ。それだけであるからな。
願いを叶えるという行為の本質など、こんなものではないのかね。
[その意味では、現在の契約主――胡蝶――とはまるで正反対の考えをしている事になるが………]
――然様、願いは其々だ。
[何故か饒舌に語ってみせた自分に、ふむ。と頷き。後は契約主が去るに続いた。]
― ―
『――彩香。今、何をした。』
「…え。なんも、してへんよ…?」
『…………。』
「変な夢は、見たけど…なんで?」
『………、ほうか。なら、ええ。』
「? おかしな父さん」
― 夜・北ブロック ―
[部屋の隅。転がっていた酒瓶に、窓からの陽が照っていた。
――最後にそんな光景を見て、夢は終わった。]
…。あー…。
[周りには、すっかり人がいなくなっていた。
横を見れば、夜でも仕事をまっとうする自販機。
その隣に設けられたベンチに、彩香は座りこけていた。
どうやら自分は眠っていたらしい、と気付く。
首をふるふると振るい、頬を一つ叩いた。]
[立てかけてあった傘を持ち、立ち上がる。
酒瓶は残り9本。
白が、茶、青が1本で、赤、黒、紫が2本ずつ。
1本の使い道はもう決まっているが、彼に言われた通り、思いつきでこれらを使っていては意味がない。]
夜やし、ホテルにはおらんやろし…。
[欠けたものの多い自分一人で勝てる相手ではない。
しかし――無頼…いや、無頼達に勝てなければ、先に進めないのは変わらない。体調が万全で無いのなら、叩くのは回復し切っていない今だ。
とにかく、数時間前に喧嘩別れした姿を探して*歩き出した*。]
―西ブロック・森林公園―
[教会から出た後、気付いたらここまで歩いて来ていた。
街灯も破壊され、荒野のようになった地は、歪な凹凸を月明かりに照らされ陰影を増し、この世の物では無い場所に立っているような気持ちにさせる。
じゃり、と足元の土を鳴らし、ゆっくりと月を見上げる。]
[『化け物』と呼ばれ、忌み嫌われてきた自分にも、灯りは平等に照らされる。
月は太陽よりも、柔らかく、暴きすぎず、そっと秘密を隠してくれるように。
眺めていた瞳を、ゆっくりと閉じる。]
……わかっていました。
[ぽつりと発せられた言葉は、そのまま闇に紛れた。]
[滝川の家に生まれ、人生を宿命付けられ、一族の力の糧と成り、死の形まで決められている。
ここに生れ落ちたからには、そのすべてを受け入れるのが運命――
そうやって、納得して、生きてきた。
けれど―]
…貴方は、愚かです。
[人の一生に出来る事なんて、たかがしれている。
早い内に自分の力量を見極め、可能とされるものだけを選択する。
それが正しくて、賢い生き方だ。
すべてを手に入れるなんて、出来ない。
その手に掴める物なんて、ごく僅かでしか無い。
選択して、他は切り捨てる。
それが出来ない者は、愚かだ。]
(ならば 何故―)
[頭の中から自分自身の声が響く。]
(何故 私は ここに居る の)
[一族の長として、力を継ぐものとして、無事にその使命をまっとうする時まで生き延びるのが、自分に課せられている事ではないのか。
何故、わざわざ自分の命を危険に晒すような戦いに身を投じたのか。
じっと、自分の右手を見る。]
………わかって、ました…。
本当は――
[虚空に、手を延ばす。
疲れたら 止まればいい
登れなければ 降りればいい
堕ちれば もっと早い
そんな風に、自分を納得させて、騙して――
けれど]
……こんなに、私は
[何もかもあきらめているようなふりをして
本当は貪欲で、何かを掴みたがっている――]
(行かないで――)
[幼い頃の、切実で純粋な願望。
それは今も この胸の中に
右手が確かに虚空の中に存在感のあるものを生み出す。
その感触を確かめると、目を開けた。]
― →西ブロック / 公園跡 ―
[ただひたすらに、夜の道を歩いた。
時折落ちる照明は道しるべ。まっすぐ歩くための。]
…。
[見比べ、照らされていない道へ進む。
停滞に満ちた闇の中を、彩香の足音が照らした。
やがて見えてきたのは――闇の終着点のような、公園。]
[一歩踏み込めば、そこは見えた程の闇ではない。
僅かな月明かりに照らされて、夜は懸命に息吹いている。
以前のような、時の止まった心地はしなかった。
そしてその中心にある人影は――]
…滝川さん。ここやったか。
[捜し求めていた、しっかりと地に立つ彼女の姿。]
―西ブロック・森林公園―
……。
[名を呼ばれ、振り向く。]
…姫倉さん。
[ああ、今なら わかる。
自分が彼に感じていたもの。
何もかも諦めた自分は、目の前の理想を追いかけようとする男に、
自分が捨ててきた物を持つ彼に
――嫉妬していたのだと。]
……なにか?
……。
[彼女の表情からは内にある者は、一見して知れない。
けれど、姫倉はじっと彼女の顔を見つめた。]
色々と前置きをしたいとこですけど…。
[目を閉じた。
思案するように、畳んだ傘をくるりと一度だけ回す。
何も彩られない夜に、鮮やかな赤の色が浮かんだ。]
俺、アホやから、不躾を承知でお願いします。
――無頼陣を倒すために、力、もう一回貸してください。
[目を瞑り、頭を下げた。]
………はっきり言うて、今度はホンマに。
返せるもんは、ありませんけど。
[頭を下げた姫倉を、無言で見つめる。]
…何を言ってらっしゃるのか、理解できないのですが。
[表情を変えずに、言葉を続けた。]
元々、そちらの力をお借りするような条件は無かったはずです。
同盟を結んだ時から、状況はまるで変わっていません。
ですから、――契約は今も変わらず有効ですが?
[淡々と、さも当然のように話した。]
―――、?
[顔を上げた。瞬いた。]
…。えっと
[滝川の表情――が変わる様子はない。]
それは、つまり
ええよって言うことで、ずがッ
[身を乗り出して――何か見えないものに思いきり当たった。
全身を駆け抜ける麻痺。…顔をそむけ、頭を擦った。]
あいたた…
[不可視の壁にぶつかった姫倉を見て、慌てその存在を消す。
ふぅ、と一つ息を吐いてから、改めて向き直った。]
……そう言ったつもりですが。
[そう言うと、少しだけ決まり悪げに視線を反らした。]
……無頼には、私も借りがありますしね…
うう
[しゃがんで押さえていると和らいだ。
立ち上がる。
息を整えながら、逸らした視線を恐る恐る戻す。
――と。]
…。借り、ですか。
………どっかに吐き出したらすっきりすることやったら。
聴きますけど? …まあ、俺で良かったら、ですけど。
[じ、と視線を逸らした滝川を、まっすぐ見据える。]
…自分だけが苦しい立場でいればいい、と思っている大馬鹿者を、一発張り倒したいんです。
[顔に、少しだけ影のある笑みを浮かべ、そう呟く。]
そうする事で…残された人間が幸せになれると思ったら、大間違いだと。
[いつかの、道を歩く光景が脳裏に浮かぶ。]
…ああ。なるほど。
それであの人…
[無頼の言葉が、どこか――だった理由が何となく分かった。
滝川の、物憂げな笑みを確かめてから、一つ溜息を吐いた。
少なくとも、他人を笑顔にするというのは、相手に気付かせてはいけない。本当に幸せにしたかっただけなのなら、気を使わせるべきではない。
そんなもの、遺された当人が気まずいだけだろう。
一人苦しい立場にいる人間が見えているのに、享受した幸福に素直に笑顔になれる者がいたとしたら。
それは相当酷薄な人間か、もしくは――。
傘を少し、強く握った。]
分かりました。
…詳しい事情は分かりませんけど。
滝川さんが無頼を張り倒したい言うんやったら、
俺にも手伝わせてください。
……但し、俺もちょっとさっきまでとは違う理由で張り倒したくなったんで、出来れば俺の分も残しといてくれると助かります。
[そう言って、笑った。]
あら、早い者勝ちですよ。
[相手の笑いに合わせて、くすくすと笑う。]
ああ、一つだけ。
もし無頼と戦う事になっても、私を庇ったりはしないで下さい。
[そう言って目を瞑ると掌を空に浮かべ、透明の針のようなものを作り出し、自分に向かって思い切り刺す。]
ブ ン
[微かな音がし、透明な防御壁が発生すると、不可視の針を弾き飛ばした。]
…貴方が、眼前の物を薙ぎ払い、切り裂く剣だとするならば、私はあらゆる物からその身を守る盾です。
盾を庇って剣を折るようなことがあってはなりません。
各々、自分の役割を間違えないよう、肝に銘じておいてください。
私は女ですけど、…貴方と同じ、魔術師ですから。
俺、とろくさいから全部持ってかれてまうかも…
[しれへん、と言いかけて、止まった。
先程の空間を括る術とは違う、明らかに別の能力。
思わず、飛んで行った針の行方を追った。]
――。
[あれだけの防御結界を無詠唱。
…ならば、それだけの等価をどこかで支払っているはずだ。
それがどのようなものなのかは、見当もつかないが。]
―――了解。
[笑い返した。]
どっちにしても俺は、後ろから支援とか出来ひんので。
俺も、俺にやれることをやります。
ただ――あんまり、呆れんといてくださいね。
[冗談めかして、そう言った。
見上げれば、月が先ほどより明るく感じた。]
ほなら、行きましょか。
見つからんかったら――まあ、最悪二人ででも。
[まずはランサーを探さなければならない。
尤も、滝川と姫倉の魔術は両極だ。
それは互いに程よく欠点を補い合っていると言える。
彼がどこかへ出向いているようなら、二人で無頼を探して殴り込むことも可能だろうと考えながら、出口を目指して歩き出す。
何もなくなった公園に、一陣の息吹が吹き入った。]
―夜・中央ブロック/某ビル―
――……んー。ふんふんふーん。
[ナルキッソスとは別れ。
ひとり、料理を楽しみながら葡萄酒を傾ける。
この時代の料理は、なかなかに美味だった。食材が豊富なのだろう。
まあ、上質のオリーブさえあれば、基本的には問題ないのだけど。
そして、数刻。窓の外――夜の帳は、とうに落ちた]
……ああ。もう、こんな時間。
[――夜は、戦争の時間だ]
さて――……と。
[屋上の寒風が、酒精に火照った肌には、丁度良い。
ナルキッソスは言っていた。バーサーカーも"こちら側"だと。
なら、残るはセイバーとランサーのみ。
こちらは実質、四騎。たとえ、残る二騎が組んでいても――]
――圧倒的じゃない、私たち?
[酔ったような瞳が見据えるのは、闇夜。
いや、真実、酔っているのだろう。葡萄酒以外の、なにかにと]
さあ――……獲物はどこかしら、レラプス?
[傍らの天の猟犬に、優しく語りかけ、その力を解放する。
流れ込む、膨大な情報。幾つかの気配を、汲み上げる。
自分のマスター、英霊、魔術師。それに――……、]
ああ――……また、出歩いて。
[――知った気配のひとつに、感慨深げに、溜息を]
[あの愚かな元マスターは、まだ、戦争から降りる気はないらしい。
サーヴァントを失って尚、夜を出歩くことが、どれだけ危険か。
それは、オルグロスという実例を目の前にして知っているはずなのに。
なんという無謀。なんという傲慢。なんという愚昧。
なんという――、僥倖]
――あはははははは!! いいわいいわ!
教えてあげられる!! 自分が何をしているかを!!
[――狂笑が、闇に響いた]
[――はた、と。狂気が止んだ]
ああ――……でも、そうね。
ただ殺すだけじゃあ、つまらない。つまらないわね。
屋敷でも吹き飛ばしてあげようかしら。
それとも、カトーの首でも放ってやろうかしら?
[あの手の輩は、己が傷付くことを厭わない。
たとえ他人を守って死のうと、身勝手な満足を抱いて逝ける種類の人間だ。
なんでもかんでも――敵でさえも守ろうとする輩。
それが、己の身内を守れなかったと知ったときの顔、想像するだけで]
ああ、いいわ……それ、いいわ。ぞくぞくする。
[淫蕩な光が、瞳に満ちる。芯が、熱くなる]
ああ――でも駄目、カトーは男だわ。
それにそれに、そう、それだけじゃ足りない。きっと足りないわ。
[男という生き物は、女を守るものと思っている。
ならば女、打撃を与えるためには、女が必要だ]
ああ――あの娘たちがいいわ。うん、そうね、それがいい。
マスターを殺せば、ブライのためにもなるもの。そうしましょうそうしましょう。
[タキガワ、コチョウ、ルナ。残ったマスターは、折良く、女ばかり]
ルナ、あなたの瞳が曇るところが観たいわ、観たいわね。
腕を折って、足を折って、爪を一枚一枚剥がしていって、指を一本一本切り落としていって。
どこまでその輝きを保てるかしら?
内臓を引き摺り出して犬に喰わせても、保てるかしら?
コチョウは……彼女は痛みには強そうだけど、そうね。
そうそう、そうだった。カリンを喪って落ち込んでいたわね?
セイバーがいるわ、セイバーを殺しましょう。
コチョウを動けなくして、その目の前でセイバーを嬲ってやるの。じっくりじっくりじっくり!
泣いてコチョウが叫ぶ様が観たいわあ……。
タキガワは赦さない、だってあのランサーのマスターだもの。
両手両足を槍で縫いつけて、死ぬまで牡牛の相手をさせてやるわ。
ううん、死なせてもやらない。正気のうちはだめ。
毀れるまで犯しつくして、欲しいと懇願したらば、槍で貫き通してあげましょう。
股から口まで串刺しにして、そうね、町の真ん中に飾ってあげましょう!
あは……楽しみ、楽しみだわ!!
―回想/カフェ―
[無頼の有するサーヴァントの情報。
イカロスの名に、その神話の片鱗を思い出す。
イカロスの失墜は、空を飛ぶこと、全きものへの憧れと、警告を忘れた愚行の末と。
それは魔術師が魔法や起源を求める行為に似ているのかも知れない。
太陽の熱で翼の蝋が溶かされる、その逸話にまた過ぎった顔を、頭を振って掻き消した]
願いのために、民間人を犠牲にするなぞ、
儂が居る限りは絶対にさせぬ。
おぬしがそれを厭わぬならば、
儂はマスターとしてそれを御するまでじゃ。
[セムルクとの問答、セイバーの回答に心底嫌そうな顔をしてみせる。
きっとそれは、生きる時代が異なる故の、価値観の差なのだろうが]
力を欲するは、力なき者を守るためじゃ。
戦う力持たぬ者を犠牲にしていい理屈にはならぬ。
[自身は戦争に例えるならば一兵卒の身。戦う相手の命を奪い、同時に奪われる立場。
兵の犠牲は戦争にはつきものだが、兵が戦うのは背に庇う民草を守るため。
支配者の――王の理屈は分からない。須く、君主の首は無数の民の命を贖うためのもの、それは玉座の責任だ]
王の願いに振り回される時代は大変そうじゃのう。
まあ、それが国家という集合体が君主を戴かぬ現代でも、
事情は大差ないのやも知れぬが。
儂は個々の小さな幸せを、脅かしたくないだけじゃよ。
−中央ブロック上空あたり−
[姫倉との戦闘後、明確に追撃を振り払うためにイカロスへと変わった。
黄金の翼は黄金色の燐粉をふりまきながらも滑空している。
まるで散歩を楽しむように]
さて、と。とりあえず僕の予定としては今日もコカコーラとカルビーのコンソメダブルパンチを延々と買い足す仕事に戻る事になるのだ。
[いつもお世話になっている駅前のお菓子の町様を補足し、ビルの陰へと降りる。羽は畳み、懐には無頼の財布から抜いた1万円札が数枚。貨幣制度への理解が無いわけではないが、こんな紙切れがあんなパラダイスフーズに変わるというこの奇跡はやめられないとまらない。そしてまるで少年のような風貌でお菓子の町へと入っていく]
おじさーん、これでコンソメダブルパンチを買えるだけ。
えっ!?この店の在庫全部でもおつり来るの!?
すげー!この紙切れすげええええええ!!
[イカロスにとって既にコカコーラとカルビーポテトチップスコンソメダブルパンチは宝具となっていたが、さらにこの1万円札という貨幣も宝具になる事に決定した。
次回イカロスを呼び出した者は、その召還時に部屋一杯にあふれるコンソメダブルパンチとコーラとそして異国の紙幣の山の掃除からはじめる事になるだろう]
[そう言っていると、コンソメダブルパンチがダンボール箱で持ってこられた。さすがにこれはもてない。重さはいいとして大きさの問題だ]
うーん、困ったなあ。
[暫く考えながら]
あ、そうか!
少し駅前で食べてから買えればいいんだ!!
[なんという妙案。僕天才]
[店から出ればもう周囲は薄暗い。日没はどんどん早くなり、季節は冬へと向かう。
セムルクとラナとは逆向きに歩き出し、人気のない物陰で装束を改めた。
普段は目を惹く和装も、そちらを印象づけ、いざ潜入でOL等に扮しても気付かれ難くするための心理操作の面を含む。
そういった意味で、つくづく昼の自分は偽りに塗れている。魔術師としての自身の存在を、隠匿するための殻。星明かり瞬く夜に溶け、暗躍する]
火傷は治癒したし、魔力も良好。
さあ、――狩の時間じゃ。
[黒一色に身を包んだ主従が、夜に駆け出す]
[そして、よいしょ、よいしょとダンボールを駅前の噴水まで持っていき、噴水に腰掛ける。
ダンボールを明け、中からコンソメダブルパンチ。
1袋開き、ほうばりはじめる]
ダブルパンチってなんでダブルパンチなんだろうって思ってたけど、確かにダブルパンチだね。この名前つけた人は天才だ。
[地面につかない脚をばたつかせながら、ポテチを頬張り町行く人を観察する]
愚民は忙しそうだねー。
[ぴりぴりと、サーヴァントの反応。追っている反応とは違うが、近かった]
さて……誰かしら、ね……?
[視線をやった。噴水の傍でポテチの空き袋を量産中の子供がいた。視線を逸らした]
―中央ブロック/駅前―
[ああ、舞い戻って来てしまった。
あの人と運命の出遇い(笑)をしてしまった、この場所へ。
夜となり、奔々と飛沫を吹き上げることもなくなった、水鏡のような噴水。
胡蝶の目には映っていた乙女ピンク色に咲き誇る花々はなく、今はそこにスナック菓子を貪り食う男が一人。しかも足元にはダンボール箱一杯に同じものが。飽きないのだろうか]
…………。
[その姿から認めたくはないけれど、令呪は反応する。あれは敵だと]
[まあ……ある意味で微笑ましい。
小生意気で無邪気。なんというかまあ、サルペドンを思い出す。
気の強さと自負が災いして、長男とクレテの王座を争い敗れ、国を去ったが。
出来の悪い子ほどというが、まあ、末子でもあることだし、あれも可愛い子だった]
――……さて、と?
[イカロスは、まあ、恐らく私にも相手にも気付いているだろうが。
二騎で挑めば圧倒出来ようが、手助けをする気があるのかどうか、判らない。
下手をすると、ポテチを手に高みの見物という可能性もあり得るのが、まことに残念な天使様だった]
まあ、いいか――……。
・・・・・・
[令呪も反応しているようだ。多分サーヴァントも近くにいる。
だが彼の興味は]
この噴水、なんでコーラじゃないんだろう。
すいどーきょく、ってところに連絡すれば改善してくれるのかな。
泳ぎたい。
[無防備極まりなかった]
[敵?と思しき菓子まみれ。
ひとまず契約主にはあまり前に出ぬようにと手で制しながら切っ先を呼び出す。]
さて、仕掛けるのであるかね?
[ここでは何も知らぬ一般人に被害が出るぞと、いと甘き理想を願う契約主に問うた。]
[通勤帰りだろう、行き交う人々が居なければ、傍らのサーヴァントがエストックの柄を握るのを止める理由もなかった。
正攻法では攻略できぬと、バーサーカーに釘刺された相手が、正に眼前の彼であるとは結びつかず。
いっそ人質ならぬポテ質とればいいんじゃねとか考えた直後、]
もう一人……!?
[普通に考えればあれのマスターなのだろうが、未確認の者も多いだろう無頼のサーヴァントは、彼自身が変ずるのだと聞いている。
乙女の勘は、ナルキッソスでもないと告げているし、]
ランサーか、ライダーか……。
ライダーなら無頼側らしいし、分が悪いのう。
[該当する者の少なさに、聖杯戦争もそろそろ大詰めだと、身を潜めた植込みから周囲を窺った]
[堂々と、真名を叫ばれた。近くに敵がいるのに、なんたるちあ。
しかし、ここで無視したら、あの残念なお子様天使は叫んで暴れる気もする。
しかも何故か、間近に自動販売機があった。すごく、どうでもいい幸運だ。
諦めて、無言で硬貨を投入し、イカロスが今朝飲んでいた赤い缶をひとつ。
何か電子音がなって、またランプが点いた。当たり、とか書いてある。もうひとつ、買った]
――……はい。
[噴水に腰掛ける、イカロスの許へと。
疲れた顔で、二本のコーラ(+150ccな500cc缶)を差し出した。
ああ、きっと近くにいるはずの敵の視線が痛い。痛すぎる]
おおー!!なんたるミラクル!!
[街中で500mlしか手に入らないと思っていたのになんとさらにプラス容量。宝具に換算すればB+くらいいくに違いない]
なんていうジーザス!!サマー缶とは、もうサマーの神様に鞍替えするしかないね!!
[そういいながら片手を腰にあてごきゅごきゅ飲む。それはもうさわやかテイスティーに]
[余談だが、天使兵長の任についていた当時のイカロスは『もう○○の神様に鞍替えするしかないね!』というのを持ちギャグにしていた。
当然流行らなかった]
…………サーヴァントをパシリ扱いとは。
[似たようなことを自分もやっていたわけではあるが]
随分と俗世に染まった輩のようじゃのう。
もう一体はライダーか。
無論、戦うために場所を変えたいところであるが、
二対一でおぬしは大丈夫なのか?
[もしくは、先手必勝、固有結界でとっとと別世界に隔離してしまうという手もある。果たしてそれが、一般人を避け敵サーヴァントだけを引きずり込むという便利な使い方ができるのかは知らないが]
無頼が多重契約をしているという情報からすれば、
無理矢理増やしたライダー一騎を相手とするなら
姫倉がマスターであった時に比べ
儂等が有利じゃと思うのじゃが。
メタボ候補サーヴァントの得体が知れぬ。
[お菓子とコーラばかり食べてたら成人病になってしまう。と母親のような小言が頭を掠めた。まあ相手はサーヴァントなので、そこまで健康管理を徹底する必要はないのだろうが。
普段から恵まれた食生活を送っているお嬢様にも、時折ジャンクフードが無性に恋しくなってしまうことはある。あれは一種の麻薬だ]
どうしてその、口の中で爆発する飲物を、そんなに勢いよく飲めるのか理解に苦しむわ……。
[一回、飲んだが。実に恐ろしい飲物だった。破壊力は抜群といっていいだろう。
しかも、飲んだ後で鼻がつーんとするし、げっぷも出てしまう。淑女の敵である。
なんというか、宝具に換算すればB+くらい(ry]
――……て、いうか……気付いてる、のよね?
[疑わしい目を、イカロスに向けて。指先を、気配の感じる方向へ]
それで、エウロパこんな所で何やってんの?
[もしゃもしゃ]
もしかして、もう
[もしゃもしゃ]
英霊の一人とか二人とか
[ぷしゅーごきゅごきゅごきゅぷはー]
倒しちゃった感じ?
[がさごそがさごそばりっ]
[二対一で大丈夫かという問い掛けを鼻で笑う。]
このヴラド・ドラキュリア。見くびられては困るが………。
[敵たる2騎を睨みながら胸を張り。]
買いかぶられても困る。
[きっぱり言い切った。]
ん?何が?
ああ、あそこにいる令呪と英霊ね。
[もしゃもしゃもしゃ]
だって今僕コンソメダブルパンチ中だよ?
ただのパンチだったらいざしらず、ダブルだよ?
[もしゃもしゃもしゃ]
はっきり言って、それどころじゃないね僕は。
まあ、もしこのダブルパンチ達が人質にとられたらこの噴水広場を火の海にする覚悟はあるけど。
[もしゃもしゃもしゃ]
……堕ちたものじゃのう、
ゼウスにまで求愛された美貌の英霊が、
姫倉と離縁した先であんな我侭の世話係とは。
[一部始終を見守り、やるせなさを肺から吐き出した]
気苦労も絶えぬと見える。
……あそこにいるのを倒しちゃおうと思ってたら、あなたがコーラを買わせたのよ。
なに、その、ダブルパンチ中って。
あなたにパンチしたい気分で一杯だわ。
[筋力E−だけどね]
まあ、やる気がないなら、私だけでやるけど――……、
――ひとと喋るときは食べるのをやめなさい!
寡兵で大軍に挑むは愚策であるよ。
だが、やむなしとなれば知略尽力を用いて勝つ。
それが戦であるからには、なあ。
[嘲りさえもこもった笑み。被害には目を瞑れと言わんばかりの言葉と共に油断なく敵と…周囲の如何を確認。]
まあ、二騎相手では荷が重かろうな。
相手も仮にも英霊じゃし、油断せぬに越したことはない。
……もう、サーヴァントを失うのは御免じゃ。
[小さく漏らす本心に、瞳が翳る。
カルナが斃された後も、自身の不甲斐無さを責めることはあっても、泣くことも悲しむこともなかった。
幾ら近しく親しくあったものでも、戦場に身を置く者だし、英霊とは一度死した者たちだ。
きっと、名も知らぬ一般市民が巻き添えで死んだ方を涙する自身も、姫倉とは別の意味で壊れているのだろう]
日本のワビサビってもんが判ってないなエウロパは。
[ちなみにそのときイカロスはわさび味を思い出していた。あれは悪魔の悪戯だと思っている]
さすが、多勢のオスマン帝国相手に戦ってきた智将の言葉じゃな。
[敵軍の戦意を失わせたという、串刺しの骸の群。
後にドラキュラ公誕生の切掛けとなったであろうその行為、人道的に今の世では考えられないことであるが、当時の領民を守るための事情もあったのだろう。覇道を貫き通した男の横顔を一度見上げ、俯く。その心情は、名すら持たぬ間諜の立場からは、察することもできない]
[イカロスの反応に、頭を抑えた。
――なにがワビサビだ。このギリシア人め。あ、天界人か。いずれにせよ日本人じゃないはずだ]
はあ――……もういいわ。
ワビでもサビでもいいけど、そろそろ、始めるから。
そのポテチを気にしてる余裕はないから、自分で守ってよね。
[まあ――聖杯から新たな力を得た私が負ける要素はないのだ。
相手がランサーかセイバーかは判らないが、どちらでも、同じことだ]
――……いつまで隠れてるの、出てらっしゃい。
[イカロスから数歩離れ、気配のほうへと、視線を]
・・・・・・まったく、心の余裕がないなあエウロパは。
そんなんだから嫁ぎ先が見つからない挙句に絶対神に拉致監禁されちゃうんだよ。
[念のために言っておくけど、このダブルパンチは昨晩失った魔力の補填をする為なんだからね!と言おうと思ったが聞いてくれないのでそのまま食べ続ける。
昨晩倒したキャスターはキャスターで、倒すのに一苦労したのも間違いない。イカロスの戦闘力は計り知れないが、その分魔力の消費も莫大である。それは無頼だけではなくライダー自身にも疲労感として降りかかっている]
――……出てこないわね。
[ぽりぽり。首筋をかいた]
ええと――タキガワ? コチョウ? どちらかしら、まさかルナではないわね?
私、あなたに逢ったらどうしようかって、あなたのことを考えていたのに。
なのに、出てきてくれないの?
[誘うような微笑、柔らかに]
[数に優れる敵に対して姿を晒す必要などあるはずがない。]
ひとまずは様子見しつつ動くであるよ。
[幾つかの人影に紛れてその場から移動する事を提案。]
[少し、待った。反応は、ない。ただ、気配だけはまだ、そこにある]
そう――残念ね。とてもとても、残念ね。
それなら、私は、あなたに出てきてほしいから――……こうするわね?
[すっと、腕を掲げて。白い指を、ぱちりと鳴らした]
きっと出てこないのは、エウロパが生ぬるいからだね。
僕ならそうだなあ。
[刹那、あどけない少年の表情がぐにゃりと歪む]
この町の人間全部、人質にするかな。
君は一瞬でこの町を灰に出来るじゃないか。
[更に呼び掛けてくるライダーに返事をする必要などないとしながら場所を変える。
おびき寄せる訳ではない。気配を消し去る訳でもない。
ただ、ライダー達を中心に周回移動をするが如く。]
[イカロスの言葉には、小さく笑みを]
そうね、そうするわ――おいで、タロス。
[応じるように、咆哮がひとつ。
地面から、湧き出るように出現する巨体。その肩に、さっと乗って。
青銅巨人、タロス。その巨体が、町の只中に、完全に屹立すれば。
唖然としたように、見上げる数多の視線。
「映画の撮影か?」「ままー、にじうはちごうがいるー」などと呟く声。
晴れ渡った空の如くに純粋な笑顔で、それら有象無象のひしめく世界を見下ろした]
――これで、出てくる気になったかしら。
[隠れ移動し続けても離脱するのでなければ埒が明かない。
距離はまだ十分ある。木の合間から顔だけを覗かせて、二人へと]
胡蝶じゃ。
再三話しておるから知っておるじゃろう。
人目のある中、事を構える気はない。
儂をどうこうしたいなら、場所を変えぬか。
[はて、セイバーをどうこうでなく、マスターの方に執着を見せるとは意外。
再契約相手を探している様子ではないし、無頼とはうまくやっているのだろうか。
挑発的な笑顔も麗しいその英霊に、反対に消沈を隠すほど唖然としていた姫倉を思い出して、胸が痛んだ]
それと、買食いの行儀の悪さは英霊が聞いて呆れる。
郷に入りては何とやら、食事は定められた場所で、じゃ。
ゴミのポイ捨てなぞ以ての外じゃぞ。
いやあ、胡蝶殿。
[突如、出現した巨大ロボを見上げ。]
これは逃げるであるよ。
[何故か嬉しげに言えば契約主を抱え…幾許かの後に逃げ惑うであろう人混みに混ざった。]
……っ!
それが無頼の方針か。
[カルナが以前龍と対峙していたのを見たという、巨人が現れる。
夜とは言え、人波の途絶えぬ駅前で。
以前なら、姫倉がマスターであれば、決してなかったであろう行為]
残念じゃな。
おぬしも、人間を虫けらの如くにしか考えていない神と同じとは。
[セイバーに制されようと、その挑発は短気な胡蝶には効果的過ぎた。
何とか中心地から離れた西の方へ、誘導したいとは思うものの]
[あの学校横の林でも、こうしていればよかったのだ。
子供が巻き込まれたところで、なにほどのことがある?]
ああ――逢いたかったわ、コチョウ。ようやく、夜に逢えたわね?
[傍らの黒い英霊にも、ちらと視線を]
ああ……セイバー。
毎度毎度、やる気を失くさせて。悪いことをしたわね。
――ごめんなさい、今夜は満足させてあげるから、許してね?
――場所、ね。
やっぱり、あなたはそうね、コチョウ。考えていたとおりの女の子。
私、考えてたのね。
ずっとずっと――あなたがどんな声で啼くのかって。
どうやったら、一番よく啼いてくれるのかって。
それでね――こうすることにしたの。逃がさないんだから。
[くすりと微笑って。また一度。白い指を、ぱちりと鳴らした。
タロスの腕が、ゆっくりと、近くに停まっていた車を掴んで。
無造作に、それを、人混みのなかへと――投げ込んだ]
じゃが、あやつ等放っておけば
人を巻き込んで暴れ……、
ええい離せっ!
[抱えられて暴れる。
かと言って、集団を守る術もなく、応戦すれば被害は広まるばかりと分かってはいるけれど]
こ、の……!
[腹癒せに、抱えられたまま手裏剣を、巨像の肩で悠々自適のライダーへ向けて放った。
せめて、追い駆けてこいと]
さらばであるよー。
[話し掛けてきたライダーにそれだけ告げて、怒りを露わにする胡蝶を抱えたまま人混みに紛れ………。]
そぉいっ
[投げつけられた車を蹴り返した。]
[突如動き出した巨人兵が手荷物のように車を放って、何のアトラクションかと立ち止まっていた人々は蜂の巣突付いたような大騒ぎになる。
一般人に害為すことを令呪で禁じられたセイバー、これだけの人を守りながら戦うのは難しい。
せめてさっさとこの場から人が避難してしまえばいいのに。
逃げるセイバーは、その時間稼ぎをしているのだろうか]
儂のことはいい、
一人でも被害が少なくなるよう、
一刻も早くあやつを倒さねば……!
[噛んだ下唇から血が滲んだ。
甘いのは分かっている。戦局は、セイバーの方が余程理解しているだろう。
忿怒の燃える双眸は、彼女が見たかったという色に染まりゆく]
ふうん、マスターは血気盛んな生娘っぽいけど、あのサーヴァントは賢いね。ちょっと興味が沸いたな。
・・・・・・で、エウロパは追いかけないの?
[けっこうコンソメパンチが減ってきていた。とんでもない食事量]
[さらに幾らか人混みを掻き分け、そろそろ事態に気付いてきた民間人の中で声をあげる。]
ブルワァァァ!冗談じゃねえ、まだ死にたくないであるーーー!!
[その叫びが恐怖を波紋させる。茫然としていた人混みが人を慌て叫び怯え逃げ惑う。突き飛ばすもの転ぶものはぐれるもの泣き崩れるもの。その混乱の最中に胡蝶を放す。]
姿を出さぬよう、堪えるであるよ。
[伝えた言葉は、それだけに。]
[そうしてから。まるで話に聞くジャイアントロボとやらの如き巨人とその肩の美女を見上げれば。]
――ドラキュラなれば。
[美女の招きには応じるべきと、黒衣の姿が霧散する。]
待たせたであるよマドモワズェェゥル…!
[具現化するは美女の真上。切っ先をその首筋へと突き出した。]
[胡蝶の手から放たれる、異国の暗器。
至近なら、避けれはしないだろうが。
距離と高さがその勢いを大きく削いでいた。
ひょいと身体を傾けて、それを避け]
ふふ――お・か・え・し。
[主の意志に、巨人が応えた。
電柱を一本、引き抜いて。地面を滑らせるようにと。
跳ね転がる電柱は、運の悪い何人かを血の詰まった革袋に変えながら、胡蝶とセイバーへ]
――そうねえ。じゃあ、コチョウのリクエストどおり、追ってみましょうか。
[イカロスの言葉に、頷いて。
巨人を踏み出させる――逃げ惑う人々のなかへと。
紅い花が、幾つか咲いた]
― 西ブロック→ ―
[滝川を連れて、ランサーを捜す。
彼女が感じる令呪の繋がりを頼りに歩いた。
曲がり角が来る度に傘を握り直し、
一つの筋を抜ける度に酒瓶を確認し直し、
照明を潜る度に、腰での鍔鳴りを聞いた。]
…俺とライダーも大概やったけど。
滝川さんも、ようホンダさんとはぐれますね。
[少しだけ、笑う。
戦場へ向かう途中なのに、そんな冗談が言える自分に驚いた。
きっと心が定まり始めたお陰だろう。
彼がどれだけ兄に似ていようとも、否。
似ているからこそ、打ち倒す覚悟は出来ている。
それに――]
[飛び交う悲鳴と怒号、パニックを起こした群衆の中に取り残されて、悔しそうに顔を歪める]
堪えろ、じゃと……?
[それが正しいと分かっている。自分では、どう足掻いてもサーヴァントに勝てないことも。
なら、自分に今できることは何だ。
怒りに我を失いそうになりながら、必死に考える]
……蝶よ。
知らず現の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に現と為れるか。
昧き翅で現と夢の境目を惑わせよ。
蝶よ――――!
[髪飾りに触れ、闇を喚ぶ。飛び立つ無数の胡蝶の群に、逃げ送れた人々を隠して]
……逃げるのじゃ。
[腰を抜かした一人の女性を支え、駆け出した]
…? 何や、騒がしくなってきたな。
[中央ブロックへ近づくにつれ、夜がざわめいていた。
疎らに、しかし同じ方向から逃げてくる人々。
この先にいる者の正体は分からない。しかし]
―――…。
[添える程度に、胸を押さえた。
表情が変わる様子は、特にはない。]
[黒い英霊が、堂々と現れたかと思えば、霞みのように]
――消えた?
[大きく、首を傾げれば。
瞬間、首筋に、熱い感触が迸る。
白い肌に、赤い筋。ぱたぱたと垂れる紅は、あと数ミリ違えば、勢い良く噴き出し致命に達していただろう]
―中央ブロック・何処か―
[あれから、拠点に戻る気も起きず。
陽が安全に落ちるまで、外を出歩いていた。
教会へ行くという志乃の方へと言っても良かったのだが、
志乃にも、そして勿論姫倉にも……、
先程のライダーの事実を伝える気はおきず。
結果、一人でぶらぶらと歩くという行動になってしまった。]
なんだ、えらい向こうの方が騒がしいって話で。
[喧騒が聞こえる。
声の感じからして随分遠くだとは思うが、
それでも此処から聞こえるほどだ。
祭りか?とも思ったがそんな感じでもない。]
[慢心ではない。だが貫くが当然としていたがために目を見張る。
血の滴りし切っ先を構え直し、巨人の頭の上から声をかける。]
――幸運の女神であったかこぉれは失礼したである。
――あら、私は人間よ?
確かに神の血は混じってるけれど、あなたほど、人間離れしてないわ。
それにしても――女の柔肌を傷付けたのみならず。
王侯を見下ろすなんて……本当に失礼ね、あなた。
[首筋を抑えながら、命ずれば。
巨人は、蚊か蝿を払うかのような仕草で、頭上の異物へ、掌を]
― 西ブロック→中央ブロック ―
…たっちんは、戦いの事しか頭に無いですから…
[苦笑まじり、愚痴まじりでそう答える。
まあ、単独行動はお互い様なのだが。]
おそらく、こちらの方向だと思うのですが…
[不安気に行き先を指し示しながら、夜の街を歩く。]
(ずきり)
……。
[胸元の痛みを、そっと手で抑えた。]
[巨人の歩み、その一歩毎に地が震え断末魔が背に刺さる]
……っは、……何故、こんな……、
[理不尽が許されるのだろうか。
瞳は既に濡れていた。
これはフィクションでもCGでもない。
人の命が、呆気なく奪われ零れ落ちてしまう]
そこな若者、ぼさっとしておるでない。
……彼女を頼めるか。
[年の頃なら自分と同じくらいか。ハイヒールの足首を挫いたらしい女性を預け、巨人の進路が自身であることを確かめると、逃げるのを止めた。
姿を現すなとは言われたけれど。囮となるなら、人ごみでなく、人影のない方へ]
[傘を構えながら、歩む速度を落とし始めた。
逃げ惑う人々の中に、所々見える黒い闇。
若干の魔力を感じるが、それが何かまでは分からない。
まさか望月の魔術が覆い隠した人間などとは、露とも。]
――嫌な予感しかしませんね。
それだけ無頼さんがおる可能性も高い言うことですけど。
[ちら、と一度だけ滝川を振り返った。
止まる必要は、今のところはない。
先に進む意思を頷くことで伝えた。]
[外傷こそ無いものの、先程自分を刺したダメージは確実に残っている。]
(けして、気付かれてはならない)
[防御壁は100%攻撃を防げるわけでは無いと、知られればこの人はきっと、私を庇うだろう。
まして――
この力の源が、自身の命を糧にして成り立っている事を知ったら。]
……。
[ふぅ、と一つ息を吐くと、人のざわめく声が聞こえ、思わず顔を上げた。]
・・・・・・
[突如始まった戦闘、そして傷つくエウロパ]
僕の下僕のエウロパを傷つけるなんて、中々罪深いね。
[コンソメダブルパンチの8割を消費した状態で、すくっと立ち上がる。
表情が険しくなる]
[前を歩く姫倉が、先に行く意思を示す。
それにこくりと頷くと、下腹部の令呪をそっと服の上からなぞった。
いざとなったら、令呪を使ってランサーを呼ぶ。
そう心構えていた所、令呪がずきりと強い反応を示した。]
……っ!
待って、姫倉さん…
英霊が、…三人…!?
なに。仔細ない。
[不満を零すライダーを見下ろしたままに平然と。]
傍若無人な王族は地に屈伏される運命であるよ…っ
[払われた巨人の掌を跳んでやり過ごせば、またしても巨人の頭へと降り立った。]
[歩行を止めた巨人の頭上には、蝙蝠というよりは虫のように集る黒い靄が。
足を止めたのを幸いと、巨人の方へと疾駆する。
迂闊には近づけないが、これ以上人の居る方へは向かわせない。
その足元が赤黒く染まっているのを確認すると、ぎゅっと強く拳を握り締めた]
…三人?
[制止の声に、立ち止まる。
英霊が三人。それは何を意味していると言うのか。
――無謀と、命を賭す覚悟は違う。
このまま向かっても、英霊三人が敵なら死ぬだけだ。
彼女が得た情報を、まずは整理する必要があった。
――奇しくもそれは、以前のエウロパの役割。
それを今は、彼女が。
ああ、やはり――]
…単なる三つ巴か、あるいは。
[逃げ惑う人々。何人かは、赤い色を引き連れていた。
――血、か。怪我をしているのだろうか。
目を細め、…過ぎ行くそれを少し、見た。]
この騒ぎやと、戦闘になっとる可能性が高い。
となると人気のないとこで戦ってたはずやのに、ここに移動してきてしもたか、あるいは。
人気があることも気にせんとおっぱじめたか。
[前者なら、ただの戦い。
後者なら――以前の公園を、嫌が応でも想起させる。
判断を問うように、滝川を見た。]
……随分と、身軽ね。
剣の英霊なら、正々堂々、真正面から来るものと思ったけど。
[応じて、小さく舌を打った。
こうやって懐に張り付かれては、あまりに面倒だ。
タロスの膂力は並みの英霊など問題にしないが、自分の頭を全力で殴らせるわけにもいかない]
それなら――……これで、どう?
[喚んだのは、忠実な猟犬。
いかに無頼経由で聖杯の魔力を得ているとはいえ、白き牡牛とタロスの同時使用は、それなりの負担になる。
より効率的な手があるのだから、そちらを選べば済むことだ]
行きなさい、レラプス――コチョウの腕くらい、奪っておいで。
[背を撫でれば、ひとこえ鳴いて。巨人の体表を、駆け降りる。
胡蝶の身のこなしは、魔術師とも思えぬものだったが。
さて、天の猟犬とはどちらが速いのか]
[危急の事態に、平和ボケした日本人はその醜さを、身勝手さを露呈する。
他人を突き飛ばし、我先にと逃げ惑う人々。
夜の駅前、子供と老人が少ないのがせめてもの幸いか。
中には稀に、怪我人を運ぼうとしている者もいるようだが]
…………ッ、
[己の命を賭してまで、守る価値のあるものだろうか。
過去には、疑問を感じたこともあった。
それでも、ああそれでも。
小さな幸せを求めて、営まれる人々の暮らしを、壊す者の横暴を許すわけにはいかない]
…おそらく、――後者でしょう。
[気配は、人々が逃げてくる方向から動こうとしていない。
偶然巻き込んだなら、これだけの騒ぎを起こしたら場所を変えるなりしそうなものだ。
ちら、と傍らの姫倉を見る。]
――でしょうね。俺も同感です、志乃さん。
[こちらを見る滝川を、不敵に笑い、頷き返す。
どうして笑っているのか――ああ、分かりきっている。]
…考えてることなんか一つですよ。
いかに無頼を引きずり出して、殴り倒すか。
こんなとこで戦ったら、「俺が」巻き込んでしまいますし。
…ってわけで、ちょいカバー任せてええですか。
場合によっては撤退する必要も出るかもしれませんし。
[後は現場判断だ、と言わんばかりに歩みを再開しようとする。]
薄まれ、紛れよ空気の如く。蝶の如く、空を舞う身体為る。
[加速の呪を口の中で呟いたところで、巨人の肩から何かが落ちたように見えた。
塊は目を凝らすまでもなく、ぐんぐん此方へ近づいてくる。
獣のようだ。一直線の道路に撒菱を撒きながら、乗り捨てられた乗用車の合間を横切った]
――あの狗かッ!
[嗅覚の鋭さは言わずもがな、魔力の探知機能も備えているらしい猟犬を撒ける自信は半々。
ならば迎え撃つまでと忍者刀を引き抜いた。
毒の塗り込まれた鋭利な刃は、月明かりを吸い込む玄]
えっ?
[歩き出そうとする姫倉に、瞬く。
英霊は三人だと、告げたはずの言葉が聞こえなかったのだろうか。
それとも――]
…「俺が」?
[何か、彼は奥の手を隠し持っているのだろうか。
ただの無謀ならば、後ろから殴り倒してでも止めなければならない。
判断をしかねて、眉根を寄せて姫倉を見る。]
[近づくにつれ、気配は確かに。
まだ騒ぎの中心へとはつかないが、
周りの逃げ惑う人々の声で大体の状況はわかる。
戦っているのだ、それも周りを巻き込んで。]
―――チッ
[何処の馬鹿だと、舌打ちをする。
戦は、兵は死ぬものだ。
逆に言えば、兵以外が死ぬ必要はない。
自然、足は早く。]
[天の猟犬は、ただ駆けた。
彼女を襲う人間を、殺したことはあったが。
人間を襲えと命じられたのは、初めてだった。
――彼女がどこか変わってしまったことに、気付いてはいた。
それでも、己に向けられる愛情には、変化はなかった。
彼女は、護るべき存在であることに、違いはなかった。
大神に、そう命じられたのみならず。
彼女はいつでも、優しい笑顔で頭を撫でてくれたから。
――だから。
怪しく光る刃を構え、毅然として在る少女へと。
死角にも回らず、横にも跳ばず、ただ一直線に]
[新たに呼ばれた獣は己の身を守るためでなく。]
これは参った。戦い方を知っているではないか。
[夜空を仰ぐようにして。]
では致し方あるまい。早々に――消してくれようか!
[切っ先を閃かせライダーと同じ足場へと飛び込めば、左の手刀がその胸を貫かんと低く唸りをあげた。]
少なくとも――。無頼を他と分断は確実に出来ます。
それこそ、固有結界でも出さん限り覆しは出来んでしょう。
[無頼なら持っていても、何らおかしくない。
だが――今は不思議と、負ける気が全くしなかった。
夕刻と、今と、どのような違いがあるというのか。
それは笑みもこぼれようというもの。]
…まあ、「使い方」はついさっき思い出したんですけど。
[上手くいったら拍手喝采。
彼が自分の願いで、戦場に立つように。
「俺」は「私」の願いのために、彼を倒すのだ。
願いが間違ってるだの、些細だのちっぽけだの。
他人に拘束されているだの自分の意思がないだの――。
まるで全ての絶望を背負った神様か何かのよう。
――それでも、負ける気がしないのはなぜだろう。]
[巨人の頭から、肩へ。言葉どおりに、殺気を漲らせるセイバー。
剣の英霊と、斬り合いなど出来るはずもない。それでいい。
レラプスが胡蝶を追うあいだ、自分が殺られなければいいのだ]
そう簡単には――!
[言うなり、巨人の肩から身を躍らせた。勿論、自殺する気は更々ない。
タロスの手が動き、新たな足場となって、己を掌に包み込む。そうして]
――わひゃぁぁぁぁぁぁっ!?
[ぽーーーーん、と。空高く、青銅の巨人は美貌の英霊を放りあげ。
己の身体に纏わりつく英霊を焦がさんと、己の表面を灼熱させた。
宝具としての発動がなくとも、体表の温度だけならば、如何様にでも操れる。
何故なら、タロスの全身に流れるは、燃える神血。
かつて、数多の船に抱き着いて焼いたのも、神血あればこそだ]
……。
[じっと姫倉を見つめる。
これだけ言うのだから、彼には何か算段があるのだろう。
いや、そう信じるしか――無いではないか。
それくらい、彼の物言いは堂々と自信に満ち溢れていた。
一度だけ、深く長い溜息を吐いてから、小さく肩を竦める。]
……わかりました、お任せします。
ただし、危険だと思ったら、貴方の判断を待たずに勝手に動きますので。
[獰猛な牙を隠そうともせぬ獣に向かって走る。
私邸に潜る類の任務であれば、番犬対策もとるのだが、聖杯戦争中はその思考は抜け落ちていた。
ライダーが猟犬を連れていたのは見ていたのに。そのライダーと無頼が契約したと聞いたのは、今日の昼だったし、間に合わない。
双方、勢いを殺さぬまま跳躍する。
刹那の交差]
犬っころと侮ってはならぬな、
さすがは英霊のペットじゃ。
[懐に飛び込んできた牙を弾く刀。
薄皮一枚すら剥ぐことはできず、二撃。
刀で口を封じたまま、その胴目掛けて蹴りを叩き込む]
ええ。背中は任せました。
――俺がアホなことしだしたら、宜しくお願いします。
[言って、騒ぎの方へと近づく。
志乃を振り返ることはしない。]
―――…。
[彼女の力も、自分の力も。
そして彼女が相応のリスクを負っているであろうことも、何となくは分かっている。けれど、今は躊躇っている暇などない。
躊躇うなど後でいい――そう心を定め、踏み込んだ先に。]
[初めに見えたものは、巨大な影。
夜であったためか、一瞬何であるか分からなかった。
その頭部の周辺でちらつく、二つの影。
足元の付近で、ちらつく影。犬と、女。
――過ぎって消えたのは、公園の夜。
否、数日ではあったが、共に駆け抜けた夜だったか。
天高く放り上げられる――なんだか間抜けな声。]
[傘を握り締めたまま。立ち止まった。
胸を探れど、輝きが戻っている様子はない。
周りには幾つもの赤。
巨人の足にまとわりつく、赤。
破砕した車は地面に突っ込み、焼けていた。
全ての光景に、目を細めた。]
[地に足を着くは一瞬。
怯まず飛び掛ってくる獣に僅か反応が遅れた。
振り向きざま刀で払おうとした時には既に、その牙が得物を噛み千切っている]
く――!!
[破れた布と皮膚の感触。火傷の痕となった肩に重ねられる赤い線]
―樹那町/上空1300m―
[某テレビ局のロゴが描かれた、ヘリが一機。]
『また樹那町で何かあったのか?』
『巨人がまた出た、とかなんとか……』
『バカバカしい。そんなもので取材ヘリを飛ばすなんて――!?』
[パイロットは、絶句した。それもそうだ。
泡を吹いて目を回す、女神にも紛う美女が。闇夜の空に、浮いていた。
丁度、放り上げられたボールが、空高くで瞬間、留まるように。
はたりと、視線が合って。美女は、引き攣った笑みをにこりと。直後、ゆっくりと放物線の頂点に達し、落ち始めた。
巨石をキロメートル単位で投げるタロスにとって、
たかだか××(世界の修正が入りました)キログラムのエウロパを投げることなど、造作もないが。
重力に逆らって浮き続けることは、エウロパには出来なかった]
――……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……――!!!
[哀れなパイロットは、恋に落ちて、すべてを忘れた。
――というより、あまりの非現実的な事態に操縦を忘れ、地上に墜落していった]
なんとっ!?
[見るも無残且つ見事な逃げ様。標的を完全に失い、着地する足場は灼熱の大地。]
これは一本取られたであるな…っ
[歯軋りをしながら、投じるように巨人の肩より落下する。そして落ち行く自分を捕まえようと振り回される巨人の両腕を蹴り、落下の勢いを変えながら大地へと着地する。]
――っ!
[前方を歩く姫倉の肩越しに、何かの大きな影が見える。
それと、同時に聞こえてきた ――聞き覚えのある、声]
……ひめ…
[思わず声をかけようとするも、彼の背中は
何か張り詰めたように 硬く、見えた。]
[遥か上空より聞こえる絹の裂けるが如き悲鳴に、あれ、狙ってやったんじゃなかったの?と一抹の疑問を覚えつつ。]
――それで。
[踏み潰さんと迫りくる巨人の足を避けながら、ポテトをほおばる英霊へと声をかける。]
そちらは如何するであるかね?
[生み出された第二の地獄。
誰の仕業かなど、火を見るより明らかだ。]
――どう見ても、あいつ、ですねえ。
[光景を見つめながら、静かな声を呟く。
細めた目は戻らず――けれど、口元だけ微かに笑っていた。]
……。
……………。参ったな。
エウロパ、生きとったんか。
[そして今度こそ、困ったように笑いかけた。
いや――ほんの少しだけ、嬉しそうだったかもしれない。]
[現場へと出れば、予想通りの惨劇。
潰れている物が在る。
拉げている物が在る。
紅に染まる物が在る。
かつて、生きていた者が、在る。]
―――くそったれが。
[感じる英霊は三騎。
いつかの黒衣の英霊と、ライダー。
そして謎の英霊。
恐らくアレは、ブライの変化したものか。
となれば、セイバーは今、
協力している二騎に対しているという事になる。]
[暴れる巨人。
その足元に落ちてきた、黒い影。
そこに見える気配は――いや、形は。
共に駆け抜けた夜の一つに、知っている。]
……。
[会話はここまでは聞き取れない。
ただ、その姿を一瞥して――踵を返す。
巨人も、犬も、天に舞った形も、振り返りはしない。
――ほんのちょっと、目を閉じた。]
[菓子まみれの天使が姿を変えて往く様を見て。]
ほほう、我が輩もなかなかの伊達男よの。出来れば美女であって欲しいが――ダメかね。
[現れる姿など、とっくに判ってはいるのだが。]
―樹那町/上空300m―
[眼下では、タロスがセイバーを追って、暴れている。
タロスは良い子だが、しかし、ちょっと単純なところがある。
先日、古書店で購入した神話にも、魔女メディアに騙され、眠らされて弱点を突かれたとあった。
いや、そんなことはいい。問題は、タロスが自分のことを忘れて、セイバーを追っていることだ]
――……着地、どうしよー……。
[当然だが、落ちれば死ぬ。耐久Eは伊達じゃない。
流石に下り坂でジャンプしただけでは死なないが、相手マスターの魔術でも死ねるレベルだ]
……仕方ない、か。遠慮なく、魔力、遣うわよ。
[ぱちり。指を鳴らせば――雷纏う白き牡牛が。
雲間より出でて、落ちゆく己を、その背に乗せた。
――宝具三つの同時展開。
発動こそしていないものの、ナルキッソスにはかなり、負担が掛かることになるだろう]
[意を決し、セイバーへと叫ぶ。]
其処のいつかの黒い旦那!
獲物の片方、俺によこしちゃぁくれねぇかい。
[心境的には、ライダーを討ち取りたい。
しかし横から獲物を掠め取る真似は粋ではないか。
ならばせめて、と。]
ただし、旦那がその女……ライダーと殺り合うってぇんなら。
―――ぜってぇ此処で、殺しきりな。
ソイツが居るってぇのを、
如何しても知られたくねぇ御仁がいるんですわ。
[変化する、黒衣と対峙する男の姿。]
分が悪い。
…退きましょう。
あの巨人がただの巨人なら、何とかなるかもしれません。
けど。
――あの目先のことを考えへんエウロパが。
何の隠し玉も持ってへんとは思えません。
[目先のことしか考えない自分と。
目先のことは考えないエウロパと。
そんなチームだったなと、数瞬だけ懐古した。]
――悪いが、我が輩は美女と語り明かしているところ。
いま暫くそこで見学などしていてくれぬかね。
[巨人のバランスを崩そうと、高く上げられた足目掛け真空の螺旋を穿ちつつ、憎憎しげに声を返した。]
生きて……
[言葉に、ならない。
そこにはかつて姫倉と共にいたエウロパが。
綺麗な魂の英霊が 街中を血に染めていた。
その体にはどす黒い煙のようなものが巻きついて、かつて彼女の内側から輝いていた光は、まるで見えなくなっている。]
……誰、に。
[繋がれているのか
それとも ――自分の意思なのだろうか。]
[契約主は未だ健在なのか。天敵の登場にこれ以上の手間は掛けられぬと歯軋りをしたところに掛けられた声。]
ほほう、有難い。
ならば任せよう、ひとつ貸しにしてくれる!
[ランサーへ応と投げ返し、大きく跳んで巨人より距離をとれば………上空に牡牛の姿が現れた。]
まるで宝具のバーゲンセールであるな。
[なんだか声が違ったような。]
[焼け付くような痛みに、動きを鈍らせるわけにもいかない。
無人の車のボンネットを踏みつけ、半転。
牽制に投げる手裏剣も物ともせず、ただその狙いは愚直なほどに真っ直ぐだ。
獣相手ではフェイントも有効打とは思えず、その狩に於いての身体能力は比べるべくもない]
そ、――んなに腕が欲しいなら、くれてやる!!
[がっぱり開かれた口へ、長い下がくねる咥内へ、拳を突っ込み上体を反らす。
勢いのまま浮いた狗の下方へ身体を滑り込ませ、逆手に構えた刀を喉元に突き立てた。
肉の千切れる感覚が両の手に伝わる。
太い牙に食いつかれ刳られた己の腕と。
首から前肢の間まで埋込み、血塗れた刃と]
[退きましょう、と言う姫倉に、少なからず驚く。
この光景を見て、何も感じないのだろうか
それとも――
相手の心を推し量ろうとするのを止めて、ただ、一つ息を吐く。
姫倉らしくない行動、言動のひとつひとつに
自分では量ることの出来ない心情を感じ、ただ、頷いた。]
何、俺も事情がありやしてね。
その女をこの場で倒してくれるってぇんなら、チャラですわ!
[瞬時、体は雷へ。
稲光は空を駆け、同じく空を行こうとする男の前に立ちはだかる。]
おっと、其処の兄さんよ。
花がたみを邪魔しようってぇのは野暮な話ですぜ?
……今夜は俺で我慢しちゃぁくれねぇかい。
[槍を構え、軽く振るう。]
―樹那町/上空200m―
[少し、息を整える。心臓に悪いとは、このことだ。
そうして、眼下を眺める。
タロスが暴れ、人が潰れ、ヘリの墜落で火災も起きている。
神々に――圧倒的な力に、翻弄される世界。
それは、ある意味で当然のこととして受け止め、諦めていた。
けれど、ああ。そちらの側に、立ってしまえば。
なるほど、神々が、人間の命を露とも思わず、戯れに地上を乱すはずだ。
ああ、本当にこれは――]
愉しいわね――……人が、ゴミのようだわ。
[黒い愉悦とともに、呟いて。くすりと、笑みを。
けれども、その笑みは、直後には凍り付く。
最も信頼する、天の猟犬。その終わりが、感じ取れた。
まだ息が在るのかどうか、いずれにせよ、受けた傷は致命]
邪魔なんてとんでもねぇ。
俺は埋れ木の笛竹を護ろうってぇだけでして。
後はまぁ……なんて言いましょうかねぇ。
[視線は、息絶えている人々へ。
死ななくても良かった。
死ぬ必要など無かった。
覚悟もなく、また必要もなかった人々。
首へと掛けられた大数珠を、左手で握る。]
この胸糞悪ぃ景色への……。
―――八つ当たりですわ!
[叫びと共に、槍を構え相手へと駆ける。]
I am a life. I am a justice.
White beast that hunts the dark
The blade of purification glitters in argent.
The clean world is requested putting it on the name of ”Kresnik”.
[――仕留めた。
そう思っても、絶命の瞬間まで、骨も砕けよとばかりの獣の強靭な顎力は緩むことがない。
顔面から猟犬の噴出す血に汚れ、刀をもう一振り。
さてどう引き剥がそうかと迷っているところで、コントロールを失ったヘリコプターが突っ込んでくる]
ちょっっっ、待――、
着陸なぞできぬぞ!!!!
[みるみる下がる高度、聳え建つビルに突っ込み、プロペラが周囲の電線を巻込む。
たちまち阿鼻叫喚の惨状となった。
人が去った後なのが幸いだが、パイロットは無事では済むまい。
派手な破壊音に、もう何が何やら、頭上から数多の瓦礫が雨霰と降り注ぐ]
[中央ブロックを離れながら、前を見据える。]
心配せんでも、大丈夫です。
あのおっさんと望月さんやったら負けません。
エウロパは――俺と契約してた頃ほど強くない。
[かつて弱いと自身を嘆いた英雄。
確かに、今の彼女は何か得体の知れない力を手に入れたのだろう。それでも。
竜殺しの兄――誇らしげに語り、槍を振るった彼女の方が、
今の数倍強いと、そう思った。]
[白衣の男は地面に降り立ち、そして腕を正面に突きつける]
・・・・・・人の意思の数だけの銀の杭、その身に受けろ。
[そして、空から無数の銀の杭がランサーへと降り注ぐ]
[燃料タンクに引火したのか、もうもうと黒煙が上がる。
ヘリコプターの当身を食らって折れ曲がったビルの中腹に、踊る火の手。
小規模な爆発が幾度か、重量に耐え切れず倒れた電信柱がまた一つ地を砕く]
――っ、…………、
[しつこい猟犬を腕にぶら下げたまま、限界まで開いた眼が全てを映していた]
――……レラプス?
[いつだって、傍にいた。クレタに連れ去られてから、ずっと。
不安に震えていた頃も、ゼウスに抱かれることに慣れてきた頃も。
ゼウスが去って、王の妻となったあとも。ずっと、自分を護っていた]
うん――……そうね、レラプス。判ってる、判ってるわ。
[小さく、息を吐いて。眼下の――天の猟犬の気配が消えたあたりを、硬く見据える]
ちゃんと――殺すから。安心して。
だから、取り戻すとしたら。
――速くせんと、あいつ死んでまう。
[例え魔術師として未熟でも。
マスターとして間違っていても。
彼女がどう思っていようと、自分が喚んだ英霊なのだ。
どうして他と契約する算段を、今から考えようか。
彼女がいるから駆れる――勝てると信じられる戦場。]
あの場には、ナルキッソスがおらんかった。
…どっかにおるんでしょう。そっちを先に叩く。
魅了は厄介ですが、戦闘力は…まだ未知ですけど。
[立ち去ろうとする姫倉の後を追おうとした時――]
た……
[眩い雷光と共に、駆け抜けていく英霊の姿
それと同時に、魔力を吸い取られる痺れる様な感覚を感じる。
一瞬振り向いて、その姿を確認するも、しばし思案してから再度姫倉の後を追う。
――一人にするわけにはいかない。]
……強くない。
[あれだけの破壊ができるのに、まだ以前の方が強かったと言う。]
それは……
本来の彼女の力を、見てみたかった――
[あのような歪んだ姿では無く。
そう、本心から出た言葉だった。]
[けれど、と。常に忠実だった猟犬が、天にと還る。
その御霊を慰めるには、今少し、道連れが多いほうが良いだろう。
視線の先には、未だ事態を知らぬ人間が数多ひしめく、樹那駅]
――見せてあげるわ、ゼウスの雷を。
さあ――派手に吹き飛びなさい、愚民ども。
[宝具の名を、叫べば。
巨大な轟雷が、下り電車が滑り込んだばかりの、樹那駅のホームへと。
それは、全くの無駄な、魔力の消費。
いや――敵に心痛を与え、動揺させる効果はあるかもしれないが。
ならば、そもそも、胡蝶の位置へ叩きこめばいいだけの話。
感情で曇った、誤った行動。
往々にして、戦場では、感情的になった者から――]
[世界が、変わる。
心象世界を体現する魔術の到達点。
魔法に最も近い、元は精霊種のみが使えた禁呪。
―――固有、結界。]
こりゃまた、とんでもねぇモンが出てきたって話で。
[視界の半分近くを覆うであろう、杭の雨。
是ほどの数、過去の戦場の矢ですら凌駕する。
それでも……。]
―――起きな、蜻蛉切!
[二つに別れた槍で弾き、杭の間を駆け、また弾く。
神鳴となりし英霊は、動きを鈍らせながらも、
その歩みは決して止まらない。]
カルナの矢に比べりゃぁ、
こんなもん雨粒って話で……!
[避けきれぬ物でも、動きに支障がなければ放って置く。
血は流れ、朱色へと染まる、が。
この程度で止まるならば、戦で遠に絶えている。]
ナルキッソス…?
[初めて聞く名だ。
それが、彼の英霊の名前なのだろうか。]
……気をつけて下さい。
あれが……エウロパさんとの契約が、本人の死亡ではなく外部の手によって破棄されたならば。
(それは おそらく)
……それが、無頼の力です。
[――――魂砕き]
雨粒かもしれないが、お前に耐えられるか。
何しろ銀の杭は・・・・・・
人の数と同じだけ存在する。
[約67億本。それが銀の杭の弾の数。
そして、クルースニク本人も銀色の獣へと変化していく]
[ぜいぜいと五月蝿く乱れているのは己のそれか、虫の息の猟犬のそれか。
ごぷりと泡血を吐くのに、決して腕を離してくれない。
どこまでも忠実で哀しい、狗。
その本分が敵の探査で、人を狩ることでないとは知らぬまでも。
必ず獲物を捕えるとゼウスが下賜した猟犬は、主の命を違えはしなかった。
痙攣する四肢を見下ろすまでもなく、エーテル体と化して消滅するのは時間の問題だろう]
……ぜ、じゃ。なぜ、……。
[こんなことに、ならねばならなかった。
自分が最も恐れていた悪夢が現実に。
英霊の力は、こうした事態も引き起こせるほどのものだと知っていた。
けれど此処は本当に。
つい先ほどまで何ら変わることなく、当たり前の日常を謳歌していた場所なのだろうか]
下衆が……ッ、
[表情を歪めるのは腕の苦痛故では、無論、ない。
平和主義者に見えたエウロパを、ここまで変えてしまったのは何なのだろう。
頬は既に戦いの高揚も忘れて、涙で冷たくなっていた]
…まあ、でしょうね。
詳しい原理はさっぱり分かりませんけど、他のサーヴァント横取り出来るような力持ってるんは、無頼さんだけや。
俺が確認した限りでは。
[そして、あの場には無頼が扮したと思われる羽男もいた。]
…無頼さんは一人で戦闘に出るような人です。
となると、ナルキッソスは…というか。
無頼とナルキッソスは、役割が逆なんでしょう。
[恐らくは、無頼が前衛でナルキッソスは後衛。
この近くにいるはずだ――と隠れる場所の多いであろう商店街方面へ南下する。]
[半壊し、炎上した駅舎を。満足げに、見遣って]
――……さて、と。
コチョウ、逃がさないわよ――……?
[呟き、高度を落とす。
無論、上空から狙い撃っていれば、胡蝶もセイバーも、手が出せないだろうことは承知している。
だが、それでは駄目だ。胡蝶は、己の手で四肢を落としてやらねば、気が済まない。
レラプスの受けた痛みを、億倍にして味わわせて、殺してくれと懇願するまで生かしてやるのだ]
[そうして、牡牛の蹄に大地を蹴らせた。それは――またも、失策。
敵の刃が、届く場に。自ら降りる、愚かな行動]
それで、足りますかねぇっ!
[その叫びと同時に、無数の杭が弾かれ、地に落ちる。
人の数?上等だ。
こっちは最初から、人の頂点しか目指していない。]
―その頃。樹那駅・3番ホーム―
[――市川祥子、25歳。独身。
『ぱぱー』
『どうした息子よ』
『やぐちさんっておんなのひとからでんわー』
『あなた、まさか、まだあの女と……』
『ち、違う! 違うぞ!! これは何かの罠だ!!』
――ビール片手に、そんなドラマ観るのを楽しみに。
あとは、駅から歩いて十三分のマンションまで、帰るだけ。
そんな、いつも通りの夜は――]
「……なに、あの光――?」
[応えるものは、無論なく。ただ、直後に。
吹き飛ばされ、叩き付けられ――意識を失った]
――…!!
[背後で聞こえた轟音。天より落ちた雷がどれ程の地獄を創り上げただろう。
クルスニクとランサーの戦いの様子を見る暇もあればこそ。幾度か打ち込んだ真空の螺旋は青銅の巨人にどれだけの効果を上げたのか、未だその巨体は暴れ狂う。]
――……どこに隠れてる、のかしら。
[サーヴァントには。敵マスターの居場所は、掴めない。
元より、瓦礫と粉塵で、視界が極端に悪化していることもある。
ヘリの墜落に巻き込まれて死んだとは思えないが、しかし――]
いいわ、出てこないなら――……、
[己のサーヴァントが危険に晒されれば、胡蝶のこと、堪らず出てくるに違いない。
実際問題、タロスは、捕え所のないセイバー相手に、成す術がないようだった。
先刻、霞か霧かのように消えたのが事実であれば、いかなタロスの剛腕も、無意味に近かろう]
先に、セイバーを――……、
[そうして、駆ければ。巨体のあちこちに、凹みと穴を穿たれたタロスのすがた。
無論、青銅で構成された身体はその程度では斃れないが、なんとも痛ましい]
・・・・・・
[舌打ちをする。
その通りだ。
クルースニク・・・・・・その正体は幻想種。
本体が明確に過去生存していたわけではなく、人々が想像した中に存在する架空の存在。
黒死病が流行したヨーロッパにて、流行り病は悪しき吸血鬼が原因で、それが直るのはその悪しき吸血鬼を狩る清き吸血鬼が存在するからだとされてきた。その清き吸血鬼こそがクルースニクである。
つまり、彼にとって真の倒すべき相手は”悪”という定義である。
なら、本多忠勝という英霊は如何程の悪か。
そして、これこそが前戦争での敗北の原因でもあった]
[横転した車を背に、殺戮の園と化した中心街を眺める。
いつの間にか腕にかかる狗の体重は掻き消えていた。
それでも、痛みが失せたわけではない。
辛うじて腕の神経は繋がっているようだ。
あちらこちらから非常ベルは鳴りっ放しで、遠くからは救急車と消防車のサイレンが聞こえる。
空を裂く稲妻は、幾らか避雷針に散らされたものの駅の方へ落ちたようだ。
急速に膨れ上がる魔力も感じたが、自身から消費されぬ以上はセイバーの固有結界ではないらしい]
…………。
[一歩も動けない。
どこで何をしようというのか。
自分が聖杯を手に入れたなら、全てを蘇らせるから。目の前で潰えていく命を悲しむ必要などない。そんな思考に至るはずがない。
魔術師であることが、重くて苦しくて、感情などとっくに臨界点を突破して麻痺してしまっていた]
[白銀の獣が、降り注ぐ銀杭の中ランサーへと襲い掛かる。
その大きな牙がランサーへと襲い掛かる]
[しかし、その力はヴラドと戦った際とは大きく違っている]
―商店街、アーケードの上―
派手にやってんなあ。
[足下を多くの人々が走り抜けていく。
このさらに南には住宅地がある。]
こっちの苦労も知らないで。
[「存在を弱くする」というのは…
決して簡単なことではない。
下手をすると、本当に「なくなってしまう」。]
[視線の先には。
青銅の巨人を翻弄し、空を穿ち貫く、黒い影。
夜闇に舞い遊ぶ英霊は、遠い焔に映えて、怪しく揺らめく]
――待たせたかしら。
殿方をおいて席を外すなんて、失礼したわね。
[それは、戦いの最中にあるセイバーに、届いたかどうか。
いや、届かなくても構わない。
牡牛に吐かせたのは、辺りに転がる人間のあたまほどの雷弾。
それが、万言にも増して雄弁な、舞台に戻った挨拶となるはずだ]
[銀杭の中で吹き荒ぶ、稲光。
その姿は、例えるならば金の獣。
朱に染まりつつあろうとも、その嵐は止まる事無く。
咆哮を上げ、己を地に縫いつけようとする杭を弾き飛ばす。]
チッ、本当にキリがねぇって話で!
[足は止まってはいないが、それでも牛歩の如く。
隙間を縫い駆けるにしても、
その隙間が前方にあるとは限らない。
前後左右へと駆ければ、結果的に進む距離は少ない。
その様子に少し苛ついたときに、それは現れた。
―――銀の、獣。]
[銀の獣は、金の獣へと杭と共に襲い掛かる。
その牙を分離した柄の方で受け止める。
忠勝の筋力は、A。
これは今回の英霊の中でも他の追随を許さぬ高さ。
しかしそれも、万全対万全での話。
杭を弾き飛ばす為の、不安定な体勢。
更に、受け止めるのは片手のみ。
受け止めようとも、圧されるのは当然の帰結。]
グ――――ッ!
[片腕が塞がった事により、
弾き飛ばすことが出来なかった杭が、体を掠り、貫く。]
――――ふ。
[振り返る事無く、背後から迫る雷球を跳んで避ける。
未だ健在であった電柱の上に立つと、牡牛に乗った美女へと大きく礼を取る。]
待ち兼ねていたよマドモアズェル。
だがそろそろ幕引きとせぬかね。そちらの退場によってな。
[タロスの腕が振り下ろされる。またひとつ大きく跳んだ――]
[商店街へと向かう途中、多くの怪我人とすれ違った。]
…。
[目で追いそうになる彼らを、傘を握ることで我慢した。
――我慢出来る。耐えられる。
あのまま放っておけば、被害は街全てを飲み込むかもしれない。否――あの状態のエウロパなら、最期に自棄を起こして全てを破壊せんと目論んでも、おかしくはない。]
『芳醇は空に帰す』
[準備(セット)の詠唱。
座標計算を頭に叩き込み、火急あらば出来るだけ早く括れるよう、魔力を可能な限り回路に流し込む。
――また頭痛がした。だが、顰めている暇など無い。]
……。…くそっ…
[傘を強く握った。
掴もうとする端からこぼれていく――でも。
まだ、棄てて離すわけにはいかない。]
・・・・・・
[魔力に耐性が無いのか、目の前のランサーは食いに貫かれ揺らぐ。
しかし本来の銀杭の効力を考えれば、それでもランサーを倒すに足りない威力]
ならば、喰らい尽くしてくれる!
[銀色の獣がまさに閃光となり、ランサーとその周囲の大地や空間ごと喰らいつくさんと襲い掛かる。
まさしく、閃光の獣のようになって]
[そうして、滝川と共に商店街の入り口へたどり着けば。]
―――。
[天を覆う上にある、不自然な形。
立ち止まり、じっと見上げた。
薄い気配。まるでただの人間が黄昏ているかのよう。
目を細めた。]
――そうね。どれだけ楽しい喜劇にも、幕引きは必要だわ。
[セイバーの言葉に、頷き、微笑を返す。だが、頷けない部分がひとつある]
だけど、退場するのはあなたよ――焦げなさい!!
[タロスに打ち砕かれた、瓦礫の破片の嵐。
それを縫うように、いや、足場にでもしているように、空を舞う英霊。
まともには、狙いは定められない。出力を落とした、拳大の雷撃を五つ。
当たれば僥倖と、垣間見えた黒い影を中心に、扇状に掃射する]
── 回想 南ブロック:カフェ ──
[ハインリヒが、ワラキア公ヴラド3世が現代で如何な存在かを知れば、複雑な心中となるだろうと思われた。]
私はおそらく善行を成した英霊とは思われておらぬ。
寧ろ、文献を見た所、歴史ごと忘れ去りたい暗黒の記憶とされているらしき。
そもそもこの土地のキリスト教徒の人口は国家全体の1%と聞く。
──クルスニクとの、相性は如何だろうな。
相手も英霊なれば、問題無いかもしれんが。
願いを叶える事の本質以前に、
願いの道徳性を問いたい者はいるかもしれない。
私の言葉で言うなら信仰心だが。
そちらは、闇を引き受けながらも神に恥じぬと言う……。
奇妙な男め。
[セイバー達と別れ、一度拠点に戻る事になる。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
[帰り道では野良猫には会わない。
拠点に戻り、一日放置された食品を選り分けて冷蔵庫に入れたりする作業を手伝う平和。
今朝方、活動を停止してる時に見えた幻覚──夢>>148が。ラナの灰銀がバーサーカーの視界から消えると生々しく甦る事に気付く。聖杯から繋がった力を得て、そしてマスターが無事な今、力は満ちてる。]
『七つの災い』の一つに似たでも今なら
呼び寄せられそうな……。
神に願うべき、粛正を私自身の手で──?
[嗚呼と呟いて、骨張った指をギクシャクと折り曲げる様にして、手のひらを握り込む。最終的に無頼達を倒す足がかりにもなり得る取引が偶然持てたのも、幸運であったはず。だが胸の裡は、酷く空虚だ。ざわめく不安が消えない。]
否、──…酷い臭いのする
卵と牛乳だけゴミ捨て場に出して来よう。
[そう言って何かを否定するように首を横に振り、バーサーカーは一軒家の外にあるゴミ捨て場を目指して出た。ゴミ捨てに当然時間は掛からない。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
──… ハッ
嗚呼、
深い 闇に のみこまれそうになる……。
[壁に寄りかかり、空に手をかざす、夢に見た黒い太陽が、女神の像が有るバビロニアに似た景色の巨大な都市に落下する風景を思い描いた。
その瞬間──スティグマに似た真紅が浮かび上がる手のひらから、膨大な力が放たれ、樹那町から航空機で3時間分ほど離れた距離にあるアジアの一都市に隕石に似た漆黒の球が落下する。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
今の力は、何処へ 行った。
メイアル・ユーリの力は、幻覚の召還……か?
これではまるで、私自身が世界の終わりを望んでいるかのような。
否、聖杯が望んでいる……から、 か。
……クックック
おそろしい な。 ひどく恐ろしい──。
[震えを止めて、ラナと話さなくては、と双眸を光らせる。
使われたのはおそらく聖杯から得た魔力。令呪で繋がるラナにも、そして別の糸で繋がる無頼やナルキッソスにも知れたかもしれない。]
[痛みは、覚悟していたほどではない。
この宝具、もしかすれば相性的な物が強いのか。
耐久が落ちている現在で、このダメージ。
それならば……。]
―――力勝負と、いきましょうや!
[杭に貫かれるなら耐えて見せよう。
相手は獣となり、此方へと向かっている。
僥倖だ。
体は人の身へと戻り、
分かれた槍も一つにもどる。
両の手で確りと握られた長槍は、渾身の力を以て
襲い来る銀の獣へと振るわれる。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
[今起きた事が君にも分かったかと尋ねてから、]
私は、前回戦争に繋がるあの聖杯が、
世界の終わりを望んでいたとしても。
令呪を先に聖杯にくべて魔力を得る事の代償が、
敵である無頼達に力を注ぐ以外にもあったとしても。
君と私だけが残れば良いと考えている。
そして、目的の為に手段は選ばない。
君がそう言った手段を望まなくとも。
私は、何よりも 君の願いを叶えなくては成らない。
──その事だけを信じて欲しい。
ぐむっ!?
[つきたてた牙が槍で止められ、なおかつ獣の体躯ごと跳ねのけられる。
一度地面に転がり、すぐに体制を起こす。
明らかに力が弱まっている。
つまり世界は、本多忠勝を”悪”とはみなしていないという事になる]
ならば!!
[人間の姿に戻り、右手を忠勝のほうへ突き出す。
降り注ぐ銀の杭よりも数段ず太い杭を右手の手のひらの中心から射出する]
これ以上に焦げるのはご免被るであるな…っ
[砕かれ飛散した瓦礫を足場にさらに跳ぶ。放たれた雷球は放射状。一方向へと跳べばひとつ避けるだけで問題はない――が。]
――――…?!
[突如、足場にしようとした瓦礫が砕け散る。着地点を失ったセイバーの前に雷球が迫り………ギリリと噛み締め、目の前の猛威を左腕で殴り払った。]
く、くく。
[バランスを崩しながらなんとか地面へと着地する。
こぼれる笑み。左腕は軽く炭化している。]
やはり慢心はいかんであるな。
――それとも、これも幸運の女神の成せる技かね。
[言って、エストックを突きつけるように構えなおした。]
慢心は王の倣い、っていうけど。あなたもそのクチ?
ま――……あなたの運が悪いのも、ありそうだけど。
[鋭き切っ先には、視線を。虚空を貫けば、風の槍が生じる魔技。
決して、莫迦には出来ない。
距離がなければ、牡牛の機動力とて、回避は難しかろう]
[銀の獣を押し返せば、天よりの杭が腕を刺す。
それでも気にする事は無く
逆に気圧すが如く打ち払う。]
効かねぇ……ってぇんだよ!
[視界の向こうでは、人へと戻る獣。
天よりの銀杭に紛れ貫こうと、
数倍もの大きさを持つ杭を此方へ打ち出す。]
そんなんじゃ、トンボすら打ち落とせねぇですわ!
―――気張りな、蜻蛉切!
[真っ向から切り伏せようと、槍を振るう。]
[英霊の使いっ走り一匹相手にこの有様。
そも、逃げ足に特化した忍者に、マスターならいざ知らずサーヴァントを止める術などない。
避難の手伝いがせいぜい、箍を外した英霊の暴挙を、見ているだけしかできないとは]
……公、頼むぞ。
儂にはできぬことじゃ、魔力なぞ儂が倒れるまで使うて構わぬ。
絶対に、絶対に――!
[巨人の相手をしているところに、白き獣から霆が迸る。
純粋なる英霊対決。
ライダーの気がそちらに向いている以上、戯れに新たなる犠牲者を増やす結果にはなるまい。
嗚呼こんな時、無力なこの身は祈ることしかできないなんて。
けれど、カルナと本多の時に感じた、神世の再来のような戦闘への畏怖は、これっぽっちも湧いてこない]
いやなに。
攻撃が少々単調であったのでね、些か気が緩んでいたようであるよ。
運は――確かに無いであるな。
[振り下ろされたタロスの両腕を掻い潜り、地を駆けた。真っ直ぐではなく、左右へと幾度も切り替えし、狙いを定めぬように………ライダーへと奔る。]
――ッ、速い!
[放つ雷弾は、セイバーの動きに幻惑されて、明後日の方向へ。
あろうことか、タロスの立てる土埃もが、狙いを定める邪魔をする]
冗談じゃ――、
[構えたのは、槍。投じるのではなく、切っ先を前に。
頭に昇った血は、霞と消える特性などはとうに忘れさせる。
猛らせた牛は、敵手とは正反対の、ただ直線にと]
私は、滅ぼさないといけないのよ、全部を――!!
[叫んだのは、知らない願い。あれ、と。疑問に思う暇もなく]
くっ・・・・・・まだだ!!
[降りしきる銀の杭をさらに激しくし、そしてその右手には銀色の弓。右手には矢]
[そして、銀の矢を忠勝に向けて放つ]
― 商店街 ―
[アーケードの上にある人影は、こちらに気付く気配はない。
まるで月見酒をしている趣味人ようだ。
あれが、目標の人物である確信はないが――]
…滝川さん、ちょい待っててください。
迂闊に近づくんは、危険かもしれん。
[魅了の効果。その意味は未だに分からない。
しかし、いかに彼女に防御結界があるとは言え、精神干渉系である魅了相手にどうこう出来る、とは言い切れなかった。
納得しない様子なら、魅了について説明する。]
…じゃあ、周りに気をつけて。
[頭に用意していた座標計算の一つを引き出す。
腕から巡る魔力。触れた空間は、総数30の球体になった。
背後にあった酒瓶も、いつの間にやら消えうせていた。]
[人影の真下へ近づく。そして――。]
ナルキッソスさん。
…あっちでは派手に暴れとるのに、随分と暇そうやないの。
[遙か高みを眺め上げるように、彼を見上げて言った。]
事はエレガントに運べ、であるよ。エレガントに…レディ。
[猛けるライダーの姿に小さく呟く。
牡牛とすれ違うように前へ跳ぶ刹那。手にした切っ先は槍持つ美女の右の瞳へと突き出された。]
[巨大な杭を切り伏せたと同時、矢が大腿へと突き刺さる。
足元には既に朱色の小さな溜まり。
それを、ビチャリと音を立てて、踏みしめる。]
足りねぇ……足りねぇですな。
こんなもんじゃ、まだ山を登りきるには余裕ですわ!
[流れ出る血は拭う事無く。
山の寒さに凍り止ると云わんばかりに、
相手へと目掛け再び駆ける。
振り上げる愛槍は、相手を断ち切るべく振るわれた。]
――いやっ!
[聖杯が注ぐ狂気も、恐怖心は消せなかった。
迫る剣の光に、顔を背ければ。
脳髄を刺し通されることだけは、なかれど。
――視界に閃光が奔って。ごりりと、頭のなかに響く、骨を削る音]
あっ、ぇ――……っ
[黒い英霊の切っ先は、瞳を掠めるように斜めに抉り。
その勢いで眼窩を砕いて、耳をも貫き通して、千切っていった。
――潰れた右の瞳から、紅の涙が、ばたばたと垂れ流れる]
くっ・・・・・・・!
[とっさによけたつもりが、その切っ先がアーチャーを根深く切りつけた。
この蜻蛉切という槍の特性を理解できなかったのが、このクルースニクにとっての致命傷となっていた]
ば、ばかな・・・・・・この固有結界内で敗北など!!
[力を振り絞り、突剣のようになった銀の杭をランサーにむけて突き出した]
[見つめる方向からぱらぱらと人が逃げてくる。
時に人を突き飛ばし、時に自分の目を疑い、時には逆に興味を引かれ近付いていく。]
僕の姿よりあっちに興味があるかい。
[ちょっと不機嫌。
存在を弱くしている上視界に入りにくい場所にいるのだから、仕方のないことではあるのだろうが。]
あーあ…。
無駄なこと、やってるな。
勝って帰ってこなかったら、説教だ。
[意味がない。
例えば人質として使いたいなら、殺すのは最小限でいい。やり過ぎて逃げられるのは最低だ。]
闇に――
侵されてしまったかな。
[ライダーに「闇」を見せてはいない。だが、ブライを介し伝わるということがあったのかもしれない。]
彼女にも、警告しておくべきだったか。
── 西ブロック:噴水前 ──
[離れた場所の大きな異変を感じてラナと急ぐ道の途中。商店街に佇むナルキッソスと雑踏ですれ違いそうで、幸か不幸か、すれ違わない。もし存在の薄くなった彼を見付けていたら、彼を真っ先に攻撃していたはずだが。ただ、影が薄くなっていたようだ。
西ブロックへ行けば、ライダーの巨人が土埃を舞い上げ──惨事が起きていた。聖杯の力を惜しみなく使った破滅的な戦闘。
空中戦は土埃で見え難いが、セイバー優勢の模様に見えなくも無い。
街の被害を口にするラナに、]
──…
巨人を?
―中央ブロック/駅前―
生きておる。
……ああ、まだ生きておるな。痛い。
[呆けていたのは、どれくらいの時間だろう。
最早周囲には焼け落ち崩れる瓦礫以外動く物も者もない不毛の大地で、漸く足を踏み出した。
ライダーが何を企んでいるかは知らないが、胡蝶はサーヴァントを庇うような甘さは有していない、それはアーチャーでもセイバーでも同じこと。魔術師として忍者としての己の領分は、自身が一番痛いほどに弁えている。どうせあの戦場へ駆けたところで何もできないし、むしろ胡蝶を庇うという手間をセイバーに強いることになるだけの愚行だ。それを思い留まるだけの我慢はできる]
――っふ、敵うならあのお綺麗な面を、一発殴ってやりたいがな。
[一撃で倒すことなど最初から望んではいない。
善戦しているようだし、アーチャーのようにもう敗けることは、自身を置いて消えることはないと信じよう。
戦場の仔細は胡蝶の視力では見通すことはできなかったが、丁度殴りたかった顔をセイバーの剣の先端がやってくれていたところ]
ごちゃごちゃ五月蝿ぇって話で。
[目の前の男から、鮮血が飛ぶ。
蜻蛉切の能力、それを見抜けなかった結果。
自分にとっては当然。
相手にとっては想定外……故に、動きが止まる。
この隙を見逃す筈が無く。]
―――強い奴が勝つ、それだけですわ!
[相手が突き出す杭。
それすらも纏めて断ち切るべく、
槍は渾身の力を持って振り被られ―――。]
痛……痛い痛い痛いっ……――!
[知らない。こんなのは知らない。
アサシンの少女に打たれた腕も、こんなに痛くはなかったはず]
な、なんで……なんでよ、私、聖杯の力で強くなったのに――!!
[視えない。右の眼が、視えない。
血が出ている、何故? 私は神の血族なのに。貴い血が、何故流れる?]
あ、あ……あなたのせい! みんなみんなあなたのせい!!
[朱に染まる右の目は、それでも、紅玉のごとくに。
無傷の瞳も、破裂した毛細血管で、赤く赤く輝いて。
その激昂のままに、立て続けに雷球を放つ。
双眸ですら捉えられない相手に、片目では。
結果も無論、知れていようが]
[瞳を穿つも浅い。攻撃の手を緩めぬままにビル壁を蹴りライダーの頭上より襲いかかる。
――が、牡牛がそれを許さず切っ先は地面へと。]
………む。
[切っ先を引き抜けば、タロスの足。後ろに跳んで避ける。]
……………。んなわけ、あらへんやろ。
[笑い返そうとして、目を細めるだけに留まった。
なるほど、確かに言葉を聴くと、倦怠感が湧く。
強引に流している魔力のお陰で、意識は保てるのだが。]
…なんであいつがああなったんかとか。
聴きたいことは山ほどあるけど。
今日は、あんたを倒しに来た。
…なんだかんだで未知数で、サーヴァント相手にどこまで通じるかは、分からんけど。
今夜だけは、退くわけにはいかんのよ。
[見えない球体を、自分の周囲にぐるぐると回し始める。]
固有結界は固有結界、
ライダー戦も、両者の消耗を考えると
加わる必要は無さそうに思うが……。
[エウロパのダメージに合わせて、動きが激しくなる巨人に寄る、街の被害の事を強い調子でマスターに繰り返され、頷いた。
発動させる魔術は、]
『秩 序 の た め の 檻』
哀れなる罪人たる巨人を、処刑の為に拘束する。
叡智なる鎖を──。
[現れるのは、巨人の大きさに合わせた巨大な拘束結界。
天から降り注ぐ、長い長い鎖が、巨人の手足を絡めとり、左右へ張り付け動きと止めんと。]
[猟犬に食われた左腕は、完全に握力を失って役に立たない。
剥き出しになった大事な令呪が目に入る。
混乱と激痛のあまり朦朧とした意識を鎮めるように]
はぁ、……あ、……ぅく、止血を、せねば……ッ、
[肩の噛み傷も相俟って、もたもたと時間がかかる。
かつて、今は己がサーヴァントとなったセイバーたちと対峙した夜の教訓を経て、痛止めの薬は懐に備えてきた。
さて、今自身の魔術を使えなくなるリスクを冒して、飲むべきか否か]
……まともに動けぬでは、命を守りながら逃げることもできぬ、か。
[手についた血の味もするそれを、口に含んだ]
くっ・・・・・・
[肉体を持たないクルースニクの体は切り裂かれ、その切り口からは魔力の残光がもれ始める]
ま、まだだ・・・・・・私にはまだ狩らねばならない悪があるのだ・・・・・・
[だが、もはやクルースニクという存在を維持出来るだけのエーテルは残っていない。
固有結界が解けていき、世界は元の姿へと。
そして、クルースニクはそのまま聖杯へと*戻っていった*]
戦いは、己の力でするものであるよ。
[狂い叫ぶ美女へと淡々と答える。無数に放たれた雷球など当たるべくもなく。
だが――]
………邪魔であるな。
[タロスが、行く手を阻む。まずはこちらを倒すべきかと見上げるも青銅の巨人はすでに巨大な鎖によって動きを封じられていた。]
[視線の先には、数多の鎖に囚われ足掻く、青銅の巨人。
それに、それを操る目隠しの――ルナのサーヴァント、バーサーカー]
――タロスまで、私から奪っていくつもり!?
させない、そんなことさせない――……!!
[宝具には、宝具を。
最大出力で、繋ぎ止める鎖ごと、バーサーカーを吹き飛ばさんと]
ヴァルカン・
『鍛冶神の――
[魔力の集中と共に、タロスの身体が、白熱を帯び始める。
霊体を灼く、神の焔を全方位に放つ、己の持つ最大火力]
[が。言葉が、最後まで紡がれることはなかった]
――……っ、駄目ッ!!
[霧散する、魔力。それも、当然だ。
焔は、灼く相手を選ばない。主の自分でさえも、逃れられない。
――そう。半分となった視界には。
固有結界を展開し、ランサーと争っていたはずの、無頼が]
………。
[動きを止めたライダーを見て、疾駆。
その切っ先は他へと意識を向けてしまった美女の胸へと目掛けて間違う事無く――――――]
…色々あるけど……。
あんたを倒しとかんと、無頼と揃ったら厄介やし。
[事実、公園での夜は、不意に無頼が召喚したナルキッソスに背後を取られた。まともに二人が組んで戦闘をしたら、難しいだろう。]
無頼倒して、あいつをあいつの本来の願いに立ち返らせる。
そんで――あいつとこの戦争を勝って、願いを叶える為に。
[回す球体の速度を、徐々に速めて行く。
よく見れば、球体からは飛沫が振り撒かれていた。
飛沫の匂いは――酒。
ラベルの色は赤。意味する属性は炎。
振り撒かれた飛沫は、ナルキッソスへ向かって飛ぶ。]
そんなこと言われてもなあ。
努力する方向、間違ってるんじゃないの。
それに、ここで君が僕と戦って…
君の言う「あいつ」がどうなっても知らないよ。
[帽子の水仙に触れる。
自分の存在を世界へ知らしめる感覚。]
来るんだ。
[水を呼ぶ。
その水で飛沫を巻き取る。]
[薬が効果を発するまでの僅かの間。
膨大な魔力が弾け空間が歪むを感知したが、そこから何体のマスターやサーヴァントが解き放たれたかは不明。
じきにその反応を追うことすら困難になるだろう。
片腕が辛うじてくっついてる怪我で、手負いであっても誰かを倒すことなどできるとも思えない]
あ、……れは……っ
[停電した一帯を、燃え盛る炎が照らす中。
突如、茜色を反射する巨人の動きを拘束する鎖が顕れて、瞬いた。
セイバーの宝具ではない。魔術の規模とも思えず、他のサーヴァントがいるようだと]
[気付いたときには、既に遅く。
いや――それでも、万全ならば、致命は避け得たかもしれなかった。
唐突に喪われていった魔力が、回避を試みることさえも、赦さなかった]
――……あ、ぇ、っ。
[いつだったか――そう、あの林でだ。あのときも、セイバーがいた。
セイバーの、元マスターの胸を。私の元マスターが、弄ったとき。
女の顔と胸は、駄目だと――頭を引っ叩いたのだったが。
せめてものという、神の加護か。
ほんの僅かに揺らいだ切っ先は。
左の胸を貫くことなく、二つの丘の合間を、綺麗に刺し通した。
心臓を外れた、それが――幸運だったのかは、誰にも判らないけれど]
――……なに、これ?
[柄まで突き刺さったエストックに、呆然と。
黒い英霊へと、奇妙に平淡な、視線を]
ほうか。
なら、もっと上手い方法あったら教えてくれや。
[素直に言う。
着弾した酒。埋もれるは水の中。
飛沫は魔術を再現し、炎の蛇を形成する――も。]
…ちっ。
[同様に魔力を纏った水だからか、すぐに鎮火した。
休む間もなく、回していた見えない球体の半分を放つ。]
[広がる鮮血が、白い衣を濡らし、染めてゆく]
――そう、そうね。
死神はいつだって、喋らない。あのときもそう。
[少し、微笑えば。
ごぼりと、赤黒い血の塊が、喉奥から逆流していった。
力の入らぬ四肢が、揺らいで。
牡牛の背から、転げ落ちれば。役目を終えた牡牛は、光と消える]
[鎖が白熱に押し返されそうとする力を、宝具の拘束を強め、ゴリ押しの力で押し返す。異端審問時代の暗黒を感じさせる漆黒の波動が周囲に広がる。大量の金属が擦れるような不快な音が町中に響く。
放出されかけた熱波は、景色が湾曲してみえる程、空気をうねらせたところで止まる。それでも焦げ焼かれる感覚が広がる。市民への被害はラナが結界で食い止めるのだろうか。
止まるライダーの詠唱。そして、女神の胸に吸い込まれる様に突き刺さるセイバーの切っ先。]
・・・・・・?
[固有結界が解けた世界では、ライダー最後の風景が広がっていた]
ライダー!
[次の瞬間、イカロスの姿へと変わっていく]
自分で考えるんだね。
ただ、少なくとも今の君は状況が見えていないし、例えば聖杯戦争を勝ち抜く気があると思えない。
自分の望みに対する決意が感じられない。
[思っていたよりずっと楽に魔力が流れ込んでくる。
対になるはずの存在が弱いのだ。]
っち。
[舌打ち。]
― 商店街 ―
[近付くな、と言われて、ナルキッソスという名の元となった神話と能力を聞かされる。]
魅了……ですか。
[それが自分に対する即座のダメージで無い限りは、おそらく防御壁は発動しないだろう。
彼の魅了が効きがたいという姫倉の背中を見守り、少し離れた場所から周囲を窺う。]
[つ…、と、顔を一筋の汗が伝い落ちる。
魔力の消費量が激しい。
相変わらず――彼は容赦が無い。
それはイコール、彼が無事に生きている事の証でもあるのだけれど。]
……。
[ふぅ、と一つ、息を吐いた。]
馬鹿か。
戦に悪も糞もねぇよ。
在るのは"立場の違い"……それだけですわ。
[消えてゆく、世界と英霊。
それを静かに見やれば。
英霊の姿はいつか見た男……無頼へと。]
やっぱ、アンタですかい……っ
[世界が元に戻り見えた風景。
其処には、ライダーが今にも倒れる瞬間。
同時に目の前の男の姿は再び変化し、
姿を広げる天使へと。]
[落ち方が、悪かったのか。ひとつ、鈍い音。
左の腕が、奇妙なかたちにと捻じれた。勿論、それは。既に、何の意味も成さないこと。
ただ、その痛みが――痛みが必要な段階など、とうに越してはいたが――意識を繋ぎ止め、輝く翼にと気付かせた]
ああ――……イカ、ロス?
丁度、いいところに……来たわね。
[紅玉と化した右は、当然、視えない。
残る瞳も、半ばまでは闇に覆われて]
…今、それどころじゃないんだけどな。
[水塊を周囲に撒き散らす。
残る水は身体に纏わせる。]
いいの、本当に。
僕をこのまま攻撃して、
僕を本気にさせても。
[自分の存在を徐々に強くしていく。
対となる存在は、その分弱くなっていくはずだ。]
[また、あの感覚。
この身体が、他人のもののように、離れて操縦している操り人形のように、動かしている実感がない。
神経を直接削るような鈍痛が薄まり、漸く人並の速度で歩けるようになる。
そして直後に後悔した。
聴覚がイカれて、瓦礫の合間で人が助けを求めていても、聞き分けることができない。
尤も、周囲にまだ息のある者が、例え怪我人だとしても、残っているとは思えなかったが]
――――お、おお……?
[雷を喚ぶ白い獣の光が消えた。令呪から辿るパスは、何事もなかったかのように其方へ向かって流れている。宝具を使った様子もない]
やった、か……?
[到底喜べる状況ではないが。どっと冷や汗が噴出し、その場にへたり込みかけた。
振り仰げば原型を留めていない町。煤っぽい黒煙にぼやける朧月夜]
なんでこんなことになっているんだ!!
僕に断りも無く消えるなんて許さないぞ!!
[ライダーを抱き寄せるほどの体躯も無く、ただ肩をつかんで叫んでいる。
神霊であるはずのイカロスがこれ程不安定な精神を持っているのは、まだ彼が人間であったという概念が存在している事でもある]
[飛んでいく球体を眺めながら、息を吐く。]
無頼といい…
[ぐるぐる回していた球体を、全て構わず射出する。
それらは見えない弾の壁となって飛び、ナルキッソスの上方から降り注がんと旋回した。]
俺の願いは、誰に引きずられたもんでも――
[周囲に巻き散る水塊。強まる気配。
重かった体は、また少し重くなって行く。]
―――どういう、意味…
[言って、鼓動が一つ跳ねた。
ナルキッソスは、無頼のサーヴァント。
そしてライダーは――今、どのような状態で契約を?]
なんで、って――……。
[聖杯の力を借りても、自分が弱かった。そういうことだ。
最後、魔力の流れが変わっていったのも、付け足しでしかない。
けれども、そんなことを長々と説明する気力も、時間もなく。
だから、微笑んで。ただ、伝えなければいけないことだけ、伝えた]
今なら――まだ、間に合うわよ。
あの子の、ミノスの母親だから……、
すべてを赦せないなら、まだ、間に合うわよ。
――っ!
[ふいに、彼の英霊の姿が一回り大きくなったように見えた。]
あれは……
[エウロパの周りに纏わりついていた、黒い靄のようなもの。
それが、徐々にナルキッソスと呼ばれている英霊の周囲を、侵食していく。]
姫倉さん…っ!
[気付いたら、そこに向かって走り出していた。]
っ……
[答を聞くより早く、傘を広げて縦にしながら転がった。
はじける水音。――勿論、その程度では防げない。
いくつかは破け、一つは腕を掠った。
続いて聞こえる駆けつけてくる足音。
傘を畳み、急いで魔力を展開する。]
[痛みは、既になく。ただ、痺れたような感覚だけが、全身を満たす。
供給される魔力は、既に一滴もなく。
むしろ、この身体を構成する魔力さえも、吸い取らんばかりに、貪欲に。
冷えゆく身体に、微かな熱が、イカロスの掴む肩にだけ、残っている]
いま、私を、殺さないと――……次の機会なんて、もう。
聖杯戦争に……私を喚ぶ、物好きなんて。後にも、先にも。
……きっと、あの莫迦、ひとりだけだから。
[また、笑めば。ごぼりと、血が。
けれども、吐いた血は直ぐ、エーテルと化して霧散する。
終わりの近い、明白な証]
・・・・・・そういうことじゃない。
そういうことじゃないんだよおお!!!
[肩をゆさぶって]
エウロパはこれからもずっと僕の下僕でいればそれで満足なんだ!!
だからもっと僕の身の回りの世話をしろよ!!コーラも一生分買って来いよ!!
エウロパがいなくなったら・・・・・・
また僕は・・・・・・一人になっちゃうじゃないか!!
………。
[とん。と着地したは目隠しの英霊に程離れぬ地点。]
助力を感謝するであるよ。
[言いながら、しかし眼差しは厳しく構える右手には血の滴りしエストック。
休戦の約定は………8組目のサーヴァント、1騎消滅まで。]
[虚空に、手を延ばす。
そこには 何も無い。――いいえ。]
(存在することをやめた過去が
どうして自分自身によって 保存されうるのだろうか)
(ここには紛れもない矛盾があるのではないだろうか)
[掌に、確かな重量を持ったものが集まっていく。]
哀しいな。
闇に飲まれるなんて。
[対になる存在が、もはや何もせずとも弱まっていく。流れ込む魔力の強さの調整に苦心する。]
自分を見失って暴れて、挙句負けか。
情けない。
[牛に続いておそらくは時間差で光となって消える巨人。拘束する対象を無くした鎖の山だけがそこに残ったのを確認してから、『秩序のための檻』を納めた。
近くで散って行くのは、P.アーチャーの霧散した光の渦。
バーサーカーは、ラナにイカロスに用心するよう合図を送ってから、セイバーを振り返る。]
──…
サーヴァント一体の約束はこれで良いのか?
[肩を竦め、口元には歪んだ笑みがある。]
各組がそれぞれ一体を倒せたら
──でも此方は良かった。
嗚呼、でも戦いたいな。
そうでなくては、何の為に聖杯戦争に
参加しているのか分からない。
[水が魔力を感知し壁を形成していく。同時に水塊が自衛のため攻撃を仕掛ける。
が、相手が退く気配はない。]
やる気ってことでいいのかな。
君を醜いとは思わないけど――
[そう言えば、まだ名前を知らない。]
邪魔だったら、除けるし。
役に立つなら、喰うよ。
[既に、足先は光の粒子となって、消え始めている。
だから、腕が己の意志に従って動いたのは、きっと、ただの奇蹟]
――大丈夫、大丈夫よ。
ひとりになんて、ならない。ブライも……ナルキッソスも、いる。
[イカロスの頬に、そっと。震える手を、伸ばして。撫ぜて]
でも、駄目よ……世界、滅ぼしたら。
そんなことに、聖杯、遣うくらいなら……、私を、喚びなさい。
コーラくらい、幾らでも、買ってきてあげるから……。
[勿論――座に、一度還れば。同じ"私"が召喚されることは、ない。
嘘になると判っていて、だけど。かける言葉も、見つからなかった。
黒い魔力が抜けたいま。自分が破壊した街が、それ以上になることは、避けたくて]
何の事だね。
[問われたものは、すでに興味のない話。
だが、最後の一言には同意する。]
そう………。
この聖杯戦争。まだあと何騎残っているのであろうな――っ
[すでに、駆けていた。]
[置いていかれることを怖れる、子供の顔。
そんなものを、もう、見たくはなかったのだけど]
――……参ったなあ。
そんな顔の子、残していくなんて……後悔、残るじゃない。
[小さく、溜息ひとつ。苦労して、笑顔をかたちづくる]
――笑いなさいよ、イカロス。子供は、笑顔が一番なんだから――
[最期の言葉だけは、掠れることもなく、はっきりと**]
ナルキッソスを倒す為に、
あちらと繋がっている此方を利用しよう
とは考えなかったのか?
……クックック、 まあ良い。
そう言った思考はマスター達に任せよう。
[夢(正確にはサーヴァントは夢を見ない為、バーサーカーが呪いと聖杯の影響で日常的に見えるようになった幻覚の類い)に見たものを召還出来る空想具現化能力は、一度切り。聖杯の力を経由して、メイアルの能力の秘めていた可能性が、使用制限の枠を大幅に飛び出したとしても、使用回数の制限は変わらない様子。
故に、此処でセイバー戦に向けて『魔女に与える鉄槌』で召還するのは、何時もの拷問具である。真紅のスティグマに似た十字の印が浮かび上がる手のひら。]
──…
私は、
誠実に
罪の赦しを願おう。
私も また限りない願いを持って。
『魔女に与える鉄槌』の力により、処刑拷問具を召還する。
負け…?
[何の話だ、と聞くまでもなく、球体が水に弾かれて壊れたのを聞いた。…いかに速度のついた空間圧とは言え、水圧に阻まれては意味が無いらしい。
傘で作り出すものは、分厚く、厚く。]
世辞ありがとさん。
せやけど、俺はあんたに喰われるほど安くないんで。
[やってきた志乃には――振り向かない。
自分のやるべきことは、前衛だ。]
『心落とされ貴方は眠る。
体生かされ貴方は眠る。
御姿(みすがた)は空を食らう御柱となれ。
数え訊ねし心は――五つ。』
[横向きの四つの見えない御柱が集り、巨大な一本の柱となる。
腕に、肩にのしかかる空間重量。
重さに耐えながら、傘を振るう動作で、思い切り撃ち放った。]
[この場には、英霊が五騎。
その内一騎……ライダーは今にも消える直前だ。
目的は果たした。
これで、道程はどうあれ"ライダー"は消える。
ならば、それで良い。]
チッ……良くもまぁこんだけ刺してくれたモンで。
[杭の一本を無造作に抜く。
魔力のお陰で、みるみる内に塞がる、が。
内面の回復には暫く掛かるだろう。]
あ・・・あ・・・・・・・
[光と消えたエウロパを見つめ、言葉を失った。
彼にとって、歴史から名を消され、人間の両親に育てられたとはいえ道具としてしか見ていなかったダイダロスに愛着も沸かず、ただ孤独を感じ続ける歴史だった。
天使でいる時に持たなかった感情は、人間という存在が混ざったイカロスにとっては衝撃的であり、その分彼が手に入れた孤独感は並々ならぬ物であった。
物への執着。愛憎。それらがイカロスの心の大半を占め、彼の精神状態や行動理念はまさに子供のそれに見間違うほどであった。
それ故に、エウロパの喪失は彼にとって大きな衝撃でもあった]
――現在は単に「成るもの」であるのに
あなたは現在を「存在するもの」と勝手に定義している
[掌に集まった力は、その姿を糸状の物に変え、お互いが絡み合い、形を形成していく。]
現在の瞬間ということで
過去を未来から区別する 不可解な境界のことを考えているなら
このような現在ほど 存在しないものは何もない
――境界など 存在しない
[詠唱と同時に、集まった力は宙に散らばる。]
―中央ブロック/駅前―
[少なくとも、あの巨人を拘束したサーヴァントは、敵と考えなくていいだろう。
今はこの惨事から、できる限りの被害者を救出するが先決。
そろそろ騒ぎを聞きつけて、教会も動き出したかも知れない。
まずはセイバーの無事を確認しようと、ふらり無防備に巨大な塊の方へ。
薬で麻痺し鈍った感知力では、ルナの存在に気付くことすらなく]
判ったよ・・・・・・世界を滅ぼすのはやめよう。
[ゆっくりと立ち上がる]
僕をこんなに悲しい思いをさせた神々だけを滅ぼす。
そして僕は・・・・・・
新しい世界を統治する、絶対神になる!!!
[彼にとってのエウロパとの約束。守らざるを得ないもの。
しかし、彼の恨みの感情はそれでも止まらない]
さよなら。
[簡単に、別れを。]
くっ…。
[と、それに呼応するかのように。
さらに流れ込む魔力が揺れた。]
こんな時に…。
[水を目の前に迫る巨大な魔力の塊にぶつける。
空間ごと周囲が揺れた。]
重いんだよ。
こういう労働は、僕向きじゃないッ!
[ぴし、と音がして、爪が割れた。]
――彼の者を捕らえよ
ホワイトインプリズン
『 無 実 の 罪 に よ る 投 獄 』
[空に散らばる不可視の投網が、ナルキッソスの上空に広がる。]
『拷 問 の 車 輪』
[水車小屋から取り外して来た程の大きさを持ち、人を轢き殺し、押しつぶすだけの刃を外周に付け、高速で回転するそれは、拷問具であると同時に処刑具。
大きなそれは獣の咆哮に似た音を立てて、飛来するセイバーを狙って正面から放たれる。]
──追って、『鋸(ノコギリ)』
[二つ目のそれは、前回戦からセイバーの武器は剣と言う先入観から召還される。]
[ナルキッソスが見えない巨大柱を防ぐ。
その魔力の衝突は、風のうねりとなって周囲を巻き込む。]
『がらんどうの壷に座して、貴方は眺める。
届かぬ縁を見上げて、貴方は手を伸ばす。
打ち付ける鉢の響きは、空座よりの雷に似る。』
[正面からの衝撃を防ごうと、そちらに魔力と水の壁を動員する隙を見計らったかのように、傘から片方の腕を離し、懐から扇子を取り出す。
取り出すままに、右から左へ。
先ほど詠唱し、作成した柱の最後の一本が、彼の側面から打ち付けられる。]
そんなもん、知るか――!
[志乃の投網と、奇しくも同時。]
・・・・・・
[振り向き、周囲を確認する]
結局それは、世界を滅ぼすことになるのかな。
でもきっと、エウロパも判ってくれるよ。
[睨むような瞳で、外の景色を睨む。
何もかもが憎い。自分を一人にしたこの世界が憎い。自分を天界から落とした神々も、そんな自分を異物として見ていた生前の人間たちも、そして今こうやって戦っている敵たちも全て憎い]
[駆ける黒衣の影。迎え撃つ目隠しの男。しかしその戦地へと駆け寄る姿がまたひとつ。]
………っ?!
[不意に目蓋に広がるはいつかの晩。注がれる光矢の雨、現れた一人の影、それを庇おうとした我が身はしかし――。]
――く、ええいっ
[駆ける足を横へと跳ばす。放たれた車輪を避けるもそれの行く先へと身を翻す。そう、即ち駆け寄ってきた胡蝶の元へと。]
[揺れる魔力を速やかに支配する。
一言、ブライに断わっておく。]
弱っているところ、悪いね。
[ふわ、と帽子から水仙がひとつ浮く。]
来るんだ。
[声と同時に、水仙が宙に弾け、
同時に大量の水が寄せた。]
……!?
[戦闘が終わってはいなかった。
魔力の流れにまで疎くなった身、気付いたのはバーサーカーがセイバーに向けて見るからに物騒な拷問具を召喚せしめた時]
――しまっ――、
[瞬発力も既になく、息を呑んだ瞬間にはもう、此方に気付いたセイバーが猛スピードで]
──…ッ
避けたはずの軌道に 何故ッ
[飛び込んで来た無防備な胡蝶の姿を感知するのが遅れる。『拷問の車輪』は唸りをあげて回転しながらセイバーへ。
追撃として、容赦なく振り下ろす『鋸(ノコギリ)』。間合いを詰めた分、返される反撃があれば全面的に受ける位置から。]
[紳士の外套の裳裾が一度は避けた棘つきの車輪、けれどその軌道上には自分。
回転の勢いは止まらない]
公ッ!!
[サーヴァントの交戦中に身を晒す愚を、犯しはしないと。
けれどそれ以上にあってはならない油断をした。
セイバーはそうして、相手に無防備な背を晒すことに]
[大量の水が付近の魔力に片端から寄せる。
敵意を持つ魔力を弾き飛ばしていく。]
エコー、おいで。
[水辺にふわりと妖精が舞う。]
[半ば炭と化した左腕で胡蝶を庇い、右腕に構えたエストックを背中へとまわして車輪を受ける。
鋼が軋む音、肉をえぐる音、骨を削る音、鈍い音が暫く響けば、狂気の車輪は勢いを失い横へと転がり倒れた。
そして襲い来るはバーサーカーの手にせし巨大鋸。だが――]
―――― ayros "Tepes"
[詠唱は、そこで終わった。
世界が血煙の荒野へと写り変わる………。]
はっ
上等――ッ…!!
[手ごたえ――は鈍い。
扇子を持った手に、水に防がれた柱の衝撃が伝わる。
だが――振りぬくことは出来ず、破裂し、空間圧は毀れた。]
―――…。
[ナルキッソスの魔力が急激に上がった理由は、何か。
無頼は、他のサーヴァントに変身する技能は持っている。
しかし、ナルキッソスと――彼女だけが例外なのだ。
元ある形のまま、独立サーヴァントとして、戦える。
つまりそれは、多重契約による魔力の分配。
――薄々とは、分かっていた。
唇を噛み締める。
―――願いは、また少し、変わったかもしれない。]
[次の魔力を練ろうとする隙に、現れた気配。
それは――妖精、と呼ばれるものだったか。]
…このままやとジリ貧か。
[懐へ扇子を戻し、傘を両手で握る。
ナルキッソスに起こる変化を見逃すまいと見つめながら、傘の先端に形を作り始めた。]
――っ
[彼の者を捕らえるべく空に舞った網は、その姿に届く前に散開する。]
……あれは、妖精?
[ナルキッソスの周りにふわりと舞う、淡い光を放つ何か。]
[びくり、と。
まだ十分な距離があるはずなのに、耳元で囁かれた様に声が響く。
思わず耳を手で塞ぎ、一歩後ろに飛びのいた。]
……滝川志乃。
ご挨拶もせずに、申し訳ありません。
[内心の動揺を隠すように、微笑を浮かべる。]
――は?
[身構えていたのも束の間、ナルキッソスのような、そうでないような声が、耳に響く。]
……。姫倉達生。
[空間圧の凝縮は止めず、それだけ答えた。]
[詠唱を感じて、間合いを取る──隙間はない。
赤く染まる大地 それから、大地から突き出る漆黒の杭。
串刺しの丘を築いたその杭は腹部を貫き、『鋸(ノコギリ)』を持った片腕を抉って、そびえ立つ。]
──…グ ァッ
ッ ハッ
[真紅に染まる視界。飛び散る唾液は血混じり。
そして、バーサーカーの嗤いは深く成る。腕に掛かる下からの圧力に正面から抵抗してそのまま『鋸(ノコギリ)』はセイバーに振り下ろされる。
正確には、セイバーが守る胡蝶に向けて だが、杭で身体を貫かれ上昇させられる中、そこまでは武器は届かない。]
[それがあの日の繰返しのようだと、頭の隅で考えた。
嘗てカルナの矢により倒れたジュリアの在った場所、ヴラドの腕の中に自身。
そうして、紡がれる――串刺しの死が香る、心象世界への入り口]
[くし刺し、貫いた手応え。しかし相手の絶命には至っていないのだろうか。
ぐらりと倒れるようにして。軋む身体を動かし胡蝶を抱えたままにノコギリを避ける。]
………く。
[そうして、なんとか半身を起こし、目隠しの英霊の姿をにらみつけた。]
[こんな愚かなマスターは捨て置けと、半ば自棄になるが、彼がそうできぬことはジュリアの件からも知っていた。
マスターを守らぬサーヴァントがどこに居るだろう。
ならば自分は、守られるだけの価値がなければならないのに]
――っは、――、
[呼吸すら許さぬほど、抱きすくめられ動けぬ身体から吸い上げられていく魔力。
感覚も失せたはずの左腕が、刻まれた令呪の箇所が、内側から爆けそうに震える]
――い、
[いや、実は。
そんなことを言いかけそうになって、頬を叩いた。]
…………。っ……!! 志乃さん…!
[彼の魅了は、何も姿だけのものではない。
傘を強く握り、意識を保つ。
だが、代わりに作り上げていた空間圧の凝縮が止まる。]
[錯綜する両者の叫びと兇器。
何が起きているか視界に収めることもままならぬまま、ただセイバーにしがみついて耐える。
ぱたぱたと降るのは、誰の流す血潮か]
[千切れる肉と吹き出す血も構わず、己を串刺す杭を無理矢理外す。]
──… ッ ァア
クックックッ
ハハハハッ ハッ!
[嗤いながら、飛び降り着地せんとする先はセイバーの上。同時に再び急速に回転を始める車輪の切っ先は、セイバーの首を狙わんと湾曲しながら迫り、]
何 だ?
……?
[相手の言葉に眉根を寄せる。
本当も、何も――
自分は紛れもないこの名前で、姫倉さん………も?
ふいに極小さな引っ掛かりを感じた気がした時、名を呼ばれて振り向いた]
[戦いの邪魔とならぬよう、せめて彼の背後で待機しなければと思うのに。
地に伏せる。ただそれだけで傷に響く。
当然、固有結界の主の周囲は杭は生えてこないが]
ぁ、……、
[抱える腕の力が弱い。見ればそこは炭化して肉色はどこにもなく、袖はないのに黒く崩れかけていた]
……
[黙らせるには今しかない。
だが、このままでは取り返しのつかないことになるだろう。]
埒が明かんな。
[凝縮していた空間圧を、浮かせたまま保留。
代わりに、頭上から落ちてきた酒瓶を一本、手に取った。
ラベルは白。意味する属性は――「空」。]
そこまで言うなら、特別サービスやナルキッソス。
――ええもん教えたる。
[酒瓶の蓋を開け。
――その中身を、一気に飲み下した。
顎を伝い、幾滴かは羽織をぬらし、地に落ちる。]
[魔力が足りぬ。ひと波で止まった黒杭にギリリと歯軋りをし、杭の山より降り立ったバーサーカーを睨む。
と、再び動き始める狂った車輪。狙うは当然我が首か。
咄嗟に腕の中にしがみつく契約主の腕をとる。その腕に流れる鮮血を舐め啜れば――]
ぅぅぅぅううるわぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!
[再度、瞬間的に得た魔力を猛り振るわせ己が周囲全てに黒杭を穿ち突き立てた。]
今のうちに――
いつぞやの質問に、答えようかと思ったんだけど。
[溜息。]
揺れろ。
[音の波が空間を揺らす。空になった瓶が割れ、圧縮された空間が大きく揺らぐ。]
[最早垂直に限らず、総ゆる方向から獲物を串刺しにせんと、切り取られた世界が唸る。
相手も無傷ではなかろう、だのに反響する耳障りな哄笑は止まない。
――戦闘狂。バーサーカーの名の証のように]
な、……あぁ、……。
[瞬間、セイバーが己に牙を剥き、何事かと目を見張る。
くらりと、陶酔に蕩ける。
血が。魔力が。身体を支えるべき生命力が、奪われて]
[酒に宿る魔力が、体に巡る。
回路に染み渡る瓶に集められた「想いの欠片」。
その一つ一つが、泥濘のように流れ込む。]
痛っ…
[痛いのは、回路であり、脳であり、――許容量を越えて外から流れ込む魔力であり。
人智を超えた速度で叩き込まれる、魔術理論。]
[ぐらぐらと揺れているのは、ナルキッソスのせいだけではない。
脳全体が、体全体が、揺れている。]
づっ―――
[揺れる空間が、内から壊そうと、迫り来る。
――真っ先に、伸ばしていた腕の骨が、壊れる音がした。]
[音波が脳を砕く、その前に。]
―――た、き川、さん。は、なれといて。
[千切れそうになる意識の中で、そう呟き。
瞬間、真っ白な濃い靄が、姫倉の立っていた位置に広がった。
遅れて音波がそれを砕けど、そこに彼女の姿はなく。
音波に破られた靄からは、――酒の臭いがした。]
[『鋸(ノコギリ)』を振るった腕は、奇妙な角度に捩じれたまま、だらりとぶら下がり動かない。己の身体が壊れていると言うのに、腹の底から沸き上がる愉しさ。腹部から血を流しながら、『拷問の車輪』の側面に身を預ける形で地上から付き立つ黒杭を避けた。
バーサーカーが乗った横からの加圧によって車輪が描く軌道はずれる。
肉を轢く感触を身体の下で感じた後、そのまま、弾き飛ばされるように車輪ごと空高くへ。]
……っ
[思考回路が重く沈み込む。
彼の――ナルキッソスの言葉が、まるで全身を拘束していくように、四肢へと伝わって行く。
だから 判断が遅れた。]
ひめくら……さんっ!!
[咄嗟に彼の前に立ち、盾になろうとするも、まるで泥に足を取られたかのように、まるで思い通りに動かない。]
……っ…
[歯痒さに、思わず唇を噛んだ。]
[そこが、世界を保つ限界であった。
偽りの世界が揺らぎ、そして溶けるようにして消え失せる。後にはまた、崩れ落ちた廃墟の如き街並みが広がる。]
く。
決着、は………あずける、ぞ…。
[バーサーカーが地面に落ちる様へと言葉を投げ、胡蝶を抱え、残る力を振り絞り虚空へと沈むように消え去った**]
[「飛んで」いる間に、どうやらあばらも折れたらしい。
空間ごと揺らすのは厄介だ。それでも。
次に靄が現れたのは、ナルキッソスの周囲。
ゆっくりと靄が、ナルキッソスを取り囲むと、
景色が変わった。
何もない草原を、ただ酒の靄だけが包んでいる光景が。]
[腕を伝っていたのは既に体内からは失われた血液。
だた、ドラキュラが吸うのはそれを媒介とした生命力そのものだ。
伝承の通りならば、それはパスを通して魔力を送るより、効率よく彼の力を補えるはずで、]
――――ふっ、……、
[血液と酸素の不足した頭がまともに働かない。
返り血で汚れた顔は、それを拭き落としてしまえばきっと白蝋の如き色だろう。
また決着を見届けることも適わぬまま、意識はかすれ*途切れてしまう*]
君、変わってるよね。
[水が靄とせめぎ合う。
やがて靄がしびれを切らすようにして広がり、水ごと周囲の空間を取り囲んでいく。
その向こうには、断たれた空間の先。]
人間の所業じゃないな。
僕が弱いんだ、けどね。
それでも、
こんなところで、
こんな君には。
負けられないなあ。
[エコーを呼ぼうとした刹那――]
ひめ――
[落下した姫倉の姿が視界に入る。]
た――
[ぶるぶると震えながら、動かない唇を、死ぬ気で開いた。]
――忠勝さん !!
ここへ !
[下腹部の令呪が熱を持って、光る。]
[秘奥・酒呑童子。
空間に蓄積された重みを飲み下すことで
水泡と化し、空間に漂っていた想いを汲むことで
発動する――魔術理論の高速理解。
今の彼女になら、達政が遺した無限空間とて再現してみせただろうし、己の属性とも違う魔術も、空間を包む靄から引きずり出して発動出来たに違いない。
――ただ一点、不運だったのは。
彼女の起源が、姫倉の魔術に適しすぎていたこと。
空間の想いを飽きるほど呑み、食らう。
―――起源の名は、「酔飽」。
そのように、根源より決定付けられた彼女の方向性は、計らずとも彼女の性格と、願いをも決定付けていた。]
[揺らめく赤黒い世界が途切れ、見えるのは廃墟のような町並みと、街が壊れても変わらぬ星の小さな夜空。
随分と離れた場所まで飛ばされ。
倒れたのち、再びセイバーを追おうとするが間に合わない。]
──…ッ
待て …… クッ。
その胸にこそ杭を──
[敵の存在が遠ざかった事により、意識は明瞭になり、供給される魔力量が減って来ている事に気付く。敵を追うよりも先に──探すのはマスターの姿。
ラナに傷や損傷は無いが、魔力が急速に減った状態である事は確か。倒れる寸前でギリギリ立っている彼女を見付けると、動く左腕を差し出した**。]
[瞬間、体が光に包まれる。
景色は反転、混ざり合うように別の物に。
突然の事に瞬きをすれば、既に移動は完了していた。
傍らには当然の如く、志乃の姿。
杭に各所を貫かれた体で、大地を踏みしめ顔を向ける。]
―――嬢、何か大事って訳で?
[戦争の最中。
他者の重き想いを汲み取り続けた彼女の脳は、一時的にだが許容量では到底及ばない「起源」へと繋がりかけ――。
そして、今、酒呑童子の発動によって、必要以上に開いた魔術回路に起源より様々なものが流れ込んだ。
それは人の脳などでは耐えられるものでは到底なく。
回路は破壊し尽され、――19年、培った魔術が。
身に染み付いた魔力が、暴発して――霧散した。
ナルキッソスを包もうとした魔術、もとい
魔法たる「空間転移」の痕跡も、気配すらもうない。]
[周囲の圧力がふつり、と切れる。]
あれ。
[行き場を失った水がぐらぐらと揺れながら広がる。その先に地へ堕する姫倉の姿。]
…本当に、これでよかったの。
[無為な。
すっきりしないな。
不機嫌。]
[背より打ち付けられ、地に転がった。
それでも、傘は離さなかった。
――羽織は、脱げる音がして、
壊れきった体で――薄っすらとだけ目を開いた。]
[本当の「声」が望むもののために決意を持って戦うなら、それでいい。
壁になるなら、打ち破るしかない。]
…でも、君のはそういうのじゃないな。
[傍らに、光と共に現れた英霊。
その姿を見るや否や、痛々しい姿に眉を顰めたが、それも一瞬の事。]
姫倉さんを、助けて…!!
[彼が落ちた方向を、指し示す。]
[息が上手く出来ない。
ただ――空と、ナルキッソスが遠いな、と想った。
声は出るだろうか。
――まだ、自分の名は伝えられるだろうか。
口を開こうとして――何も動かなかった。]
[空間ごと、体が揺れる。
――どこか遠い他人事のよう。
それでも、伝えなければいけないことがあった。
もううごかないとわかっているカラダでも。]
――な、は
[それは「私」の願いなのだと――伝えたかった。]
……名は、兄より
力は、父より。
心は、母と、……数多の、英雄より、いただきました。
[呟くような声。かすれるようなこえ。
声にならない息の音だったかもしれない。]
姫倉さん、ですかい?
この体で何処まで出来るかわかりませんが……っ!?
[突如響く、動くなという拘束の命令。
その言葉に縛られるように、体が上手く動かない。]
こりゃ、拙いって話で……っ。
[元より、全身は既に満身創痍に近い。
それでも動けていたのは、ランサーの屈強なる意思。
それが体を後押ししていたからだ。
そこに、外部からの圧力が掛かれば、
流石にランサーと言えども即座に拘束を破ることは叶わない。]
――――……
[誰かが、わらっているのが見えた。
何かをいっていたけど、よく分からない。でも。
死の際に、笑顔がみられてよかったと――笑い返す。]
[……ちゃんと、わらえたかな。
ほっぺたを伝うへんなものは、知らなかったことにしよう。
きっとそれも、…気のせいということで。]
く……ぅ…
[振動が空気を伝わり、その場に倒れこみそうになるのを必死で耐える。]
ひめ……
[見えているのに
身体はぴくりとも動かない。
もどかしさに、声だけが先を急ごうとして喉が鳴った。]
もう聞こえないかもしれないけど。
約束だ。
本当に意思を持たないものはない。
一見そう見えることがあったとしても。
ただ、それを貫くために何かをできるのは、生きとし生けるもののみに与えられた特権だ。
ブライの力は、前戦争があったからあるものだ。
何の代償もなく力は得られない。
僕の願いは、救いだ。
ブライのも多分似たようなものだろう。
そして、力を得る方法だけど…
今から、見せてあげよう。
[ひび割れた指を姫倉の頬に添える。
そのまま下へと肌をなぞっていく。]
あった。
[令呪だ。]
君の意思の力。
それは、十分に代償になりうる。
そう思わないかな。
[ぐ、と爪を喰い込ませ、一気に令呪を剥ぐ。]
――――らぁっ!
[血が流れ出るのも厭わず、拘束を破ろうと力を入れる。
それは、自然に解けたのか。
それとも己の気合ゆえか。
体の自由が戻れば、
ナルキッソスが消えた方へと飛び降りる。]
グ……ッ。
[着地時の振動。
いつもならなんと言うことはないものだが。
今は全身の傷へと伝わり、顔を歪ませた。]
ナル……キッソス。
―――――ッ。
[何かを言おうと思ったが、言葉を飲み込む。
倒れている姫倉。
其方へと、警戒を解かぬまま歩み寄り、声を掛けた。]
姫倉さん。
生きて、ますかい……?
………。
[ナルキッソスの言葉に、無言。
傍にしゃがみこめば、そっと抱き上げる。]
ナルキッソスさんよ。
アンタまだ、姫倉さんに何かするつもりかい?
[抱き上げられ、視線が傘を捉えられたのは、偶然か。
兄と父に貰った、真っ赤な蛇の目。
ゆっくりと瞼が閉じて行く。
世界が遠退いて行く。]
俺は別にありませんわ。
ただ、アンタがまだ何かするってぇんなら。
ちぃっとばっか、話が変わりますな―――。
[姫倉を抱き上げている、忠勝自身。
抱き上げる為に、傍に刺した蜻蛉切り。
互いに呼応するかの如く、
普段よりも鮮烈な稲光が包み込む。]
何もないなら放っておいてくれるかな。
君に関係ないことだ。
何もね。
[不機嫌。]
やる気かい。
その身体で…
[既に現出した水を周囲へ集める。]
…っく。
[魔力が大きく揺れる。]
ちっ。
[舌打ち。]
[魔力が、定着していないのか。]
ブライも弱っていたからな…。
[溜息。]
仕方ない。
尻尾を巻いて逃げるか。
[大量の水、そのほとんどを霧へ変える。
周囲の視界がほぼ失われる。]
生憎、退く事を知らねぇ猪武者でしてね。
[やる気か、と言う問いには、眼光を以て。
体が気合に答えてくれている。
最悪"名を捨て"れば……可能性はある。
その末に起こる事も覚悟の内に入れるが、
どうやら、相手の状況が変わったようだ。
逃げるという言葉と共に、霧へと。]
じゃあね。
その人は、なかなか貴重な人だった。
侵すような真似は、しないようにね。
ふふ。
[笑い声が周囲に響く。
幾度も反響を繰り返し、その反響が消える頃には、ナルキッソスがどこにいるか、判別はつかない。*]
……チッ。
[聞こえ、反響する言葉には舌打ち。
それでも、正直退いてくれた事自体は有難い。
例え気合で動いても、満身創痍なのは変わらないのだ。
回復には、少なくない時間が必要だろう。]
よぉ、姫倉さん。
したい事があるなら、生きろっつったでしょうに。
[まだ体は冷たくはない。
抱き上げたまま、静かに声をかける。]
[閉じかけていた瞼が、寸前で止まる。
その細くだけ残った奥で、瞳はおとこを映す。]
――――、
[何かを言おうとしても、口が動いてくれない。
最期に何を伝えるべきか、思案して。
笑っていない彼の顔が、気になった。
ああ、それはきっと、死ぬまで変わらない願い。
死ぬまで変わらなかった、「したい事」。
笑っていない顔を、笑顔にしたい――と。
願い続けた。]
[最後の力で、そっと彼の頬に顔を寄せる。
ごめんなさい、と囁くべきか。
ありがとう、と囁くべきか。
泣かないで、と囁くべきか。
…生きて、と囁くべきか。
結局、口が動かないのでどれも意味がなく。
そのままそっと、――頬に、触れるだけの口付けをした。]
[母さん。…扇子、少し汚れちゃった。
山田。ちゃんと正月くらいは親孝行するんだよ。
石川。……最初に会った時のあれは、本当は嬉しかった。
福井。今年の墓参りは、何を持っていくの?
加藤。……あんたがいるなら、大丈夫だよね。うん。]
[父さん。兄さん。
私は、立派な姫倉の跡継ぎであれましたか。
オルグロス。
……約束、守れそうも無いや。…ごめんな。
エウロパ。
……やっぱり呆れられるかもしれないけど。
私はそれでも、――あなたの笑顔も見たいと、想ったんだ。]
[最期に、表情は、穏やかな笑みを形作った。
頬には、一筋の涙の跡だけが残った。
地には使い古した赤い傘が、静かに役割を終えていた。**]
[戦闘の跡だろう、服は破け肌蹴ている。
其処から覗き見える体から、本来の性別の予想はついた。
恐らく様々な事情があるのだろう。
その重みも、理由も自分にはわからないが。
其処に篭められた覚悟だけは、伝わった気がした。]
[ふいに、抱き上げている姫倉が身を動かす。
休んでいろ、という言葉は。
頬に触れる何かによって、遮られた。
少しの、呆然とした瞬間。
その間に姫倉の体からは力が抜け。
頬に一筋の涙が伝う。]
馬鹿、野郎が。
死んだら何も……ならねぇって、話で。
[彼は……いや彼女は。
一体最後に何を思ったか。
そんな事、解る訳もないが。
願わくば……例え幻想であろうとも。
幸せな時を過ごしていれば良い、と。]
阿呆……そんな、笑顔で逝きやがって。
[そんな事を想える程に。
その笑顔は、とても穏やかだった。]
[その後降りてきた志乃に、ゆっくりと首を振る。
志乃は、それで全ての意味を理解し、
姫倉から零れ落ちたものを拾い上げた。]
教会、で
良いんですかね……。
[小さく、そう呟いてから。
腕に抱く者を弔う為に、教会へと。]
−教会−
・・・・・・判りました、お預かりします。
[死ぬつもりはないといった青年の姿。
胸の前で十字を切り、姫倉の体を預かった]
―西ブロック/教会―
……お手数お掛けしやす。
[教会、その中に居た人物に姫倉を渡す。
宗教が違いますが……と一言だけ断り、
最後に数珠を以て、手を静かに合わせる。
そして最後に、一度だけ教会を振り返って―――
志乃と共にその場を後にした*]
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