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[横転した車を背に、殺戮の園と化した中心街を眺める。
いつの間にか腕にかかる狗の体重は掻き消えていた。
それでも、痛みが失せたわけではない。
辛うじて腕の神経は繋がっているようだ。
あちらこちらから非常ベルは鳴りっ放しで、遠くからは救急車と消防車のサイレンが聞こえる。
空を裂く稲妻は、幾らか避雷針に散らされたものの駅の方へ落ちたようだ。
急速に膨れ上がる魔力も感じたが、自身から消費されぬ以上はセイバーの固有結界ではないらしい]
…………。
[一歩も動けない。
どこで何をしようというのか。
自分が聖杯を手に入れたなら、全てを蘇らせるから。目の前で潰えていく命を悲しむ必要などない。そんな思考に至るはずがない。
魔術師であることが、重くて苦しくて、感情などとっくに臨界点を突破して麻痺してしまっていた]
[白銀の獣が、降り注ぐ銀杭の中ランサーへと襲い掛かる。
その大きな牙がランサーへと襲い掛かる]
[しかし、その力はヴラドと戦った際とは大きく違っている]
―商店街、アーケードの上―
派手にやってんなあ。
[足下を多くの人々が走り抜けていく。
このさらに南には住宅地がある。]
こっちの苦労も知らないで。
[「存在を弱くする」というのは…
決して簡単なことではない。
下手をすると、本当に「なくなってしまう」。]
[視線の先には。
青銅の巨人を翻弄し、空を穿ち貫く、黒い影。
夜闇に舞い遊ぶ英霊は、遠い焔に映えて、怪しく揺らめく]
――待たせたかしら。
殿方をおいて席を外すなんて、失礼したわね。
[それは、戦いの最中にあるセイバーに、届いたかどうか。
いや、届かなくても構わない。
牡牛に吐かせたのは、辺りに転がる人間のあたまほどの雷弾。
それが、万言にも増して雄弁な、舞台に戻った挨拶となるはずだ]
[銀杭の中で吹き荒ぶ、稲光。
その姿は、例えるならば金の獣。
朱に染まりつつあろうとも、その嵐は止まる事無く。
咆哮を上げ、己を地に縫いつけようとする杭を弾き飛ばす。]
チッ、本当にキリがねぇって話で!
[足は止まってはいないが、それでも牛歩の如く。
隙間を縫い駆けるにしても、
その隙間が前方にあるとは限らない。
前後左右へと駆ければ、結果的に進む距離は少ない。
その様子に少し苛ついたときに、それは現れた。
―――銀の、獣。]
[銀の獣は、金の獣へと杭と共に襲い掛かる。
その牙を分離した柄の方で受け止める。
忠勝の筋力は、A。
これは今回の英霊の中でも他の追随を許さぬ高さ。
しかしそれも、万全対万全での話。
杭を弾き飛ばす為の、不安定な体勢。
更に、受け止めるのは片手のみ。
受け止めようとも、圧されるのは当然の帰結。]
グ――――ッ!
[片腕が塞がった事により、
弾き飛ばすことが出来なかった杭が、体を掠り、貫く。]
――――ふ。
[振り返る事無く、背後から迫る雷球を跳んで避ける。
未だ健在であった電柱の上に立つと、牡牛に乗った美女へと大きく礼を取る。]
待ち兼ねていたよマドモアズェル。
だがそろそろ幕引きとせぬかね。そちらの退場によってな。
[タロスの腕が振り下ろされる。またひとつ大きく跳んだ――]
[商店街へと向かう途中、多くの怪我人とすれ違った。]
…。
[目で追いそうになる彼らを、傘を握ることで我慢した。
――我慢出来る。耐えられる。
あのまま放っておけば、被害は街全てを飲み込むかもしれない。否――あの状態のエウロパなら、最期に自棄を起こして全てを破壊せんと目論んでも、おかしくはない。]
『芳醇は空に帰す』
[準備(セット)の詠唱。
座標計算を頭に叩き込み、火急あらば出来るだけ早く括れるよう、魔力を可能な限り回路に流し込む。
――また頭痛がした。だが、顰めている暇など無い。]
……。…くそっ…
[傘を強く握った。
掴もうとする端からこぼれていく――でも。
まだ、棄てて離すわけにはいかない。]
・・・・・・
[魔力に耐性が無いのか、目の前のランサーは食いに貫かれ揺らぐ。
しかし本来の銀杭の効力を考えれば、それでもランサーを倒すに足りない威力]
ならば、喰らい尽くしてくれる!
[銀色の獣がまさに閃光となり、ランサーとその周囲の大地や空間ごと喰らいつくさんと襲い掛かる。
まさしく、閃光の獣のようになって]
[そうして、滝川と共に商店街の入り口へたどり着けば。]
―――。
[天を覆う上にある、不自然な形。
立ち止まり、じっと見上げた。
薄い気配。まるでただの人間が黄昏ているかのよう。
目を細めた。]
――そうね。どれだけ楽しい喜劇にも、幕引きは必要だわ。
[セイバーの言葉に、頷き、微笑を返す。だが、頷けない部分がひとつある]
だけど、退場するのはあなたよ――焦げなさい!!
[タロスに打ち砕かれた、瓦礫の破片の嵐。
それを縫うように、いや、足場にでもしているように、空を舞う英霊。
まともには、狙いは定められない。出力を落とした、拳大の雷撃を五つ。
当たれば僥倖と、垣間見えた黒い影を中心に、扇状に掃射する]
── 回想 南ブロック:カフェ ──
[ハインリヒが、ワラキア公ヴラド3世が現代で如何な存在かを知れば、複雑な心中となるだろうと思われた。]
私はおそらく善行を成した英霊とは思われておらぬ。
寧ろ、文献を見た所、歴史ごと忘れ去りたい暗黒の記憶とされているらしき。
そもそもこの土地のキリスト教徒の人口は国家全体の1%と聞く。
──クルスニクとの、相性は如何だろうな。
相手も英霊なれば、問題無いかもしれんが。
願いを叶える事の本質以前に、
願いの道徳性を問いたい者はいるかもしれない。
私の言葉で言うなら信仰心だが。
そちらは、闇を引き受けながらも神に恥じぬと言う……。
奇妙な男め。
[セイバー達と別れ、一度拠点に戻る事になる。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
[帰り道では野良猫には会わない。
拠点に戻り、一日放置された食品を選り分けて冷蔵庫に入れたりする作業を手伝う平和。
今朝方、活動を停止してる時に見えた幻覚──夢>>148が。ラナの灰銀がバーサーカーの視界から消えると生々しく甦る事に気付く。聖杯から繋がった力を得て、そしてマスターが無事な今、力は満ちてる。]
『七つの災い』の一つに似たでも今なら
呼び寄せられそうな……。
神に願うべき、粛正を私自身の手で──?
[嗚呼と呟いて、骨張った指をギクシャクと折り曲げる様にして、手のひらを握り込む。最終的に無頼達を倒す足がかりにもなり得る取引が偶然持てたのも、幸運であったはず。だが胸の裡は、酷く空虚だ。ざわめく不安が消えない。]
否、──…酷い臭いのする
卵と牛乳だけゴミ捨て場に出して来よう。
[そう言って何かを否定するように首を横に振り、バーサーカーは一軒家の外にあるゴミ捨て場を目指して出た。ゴミ捨てに当然時間は掛からない。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
──… ハッ
嗚呼、
深い 闇に のみこまれそうになる……。
[壁に寄りかかり、空に手をかざす、夢に見た黒い太陽が、女神の像が有るバビロニアに似た景色の巨大な都市に落下する風景を思い描いた。
その瞬間──スティグマに似た真紅が浮かび上がる手のひらから、膨大な力が放たれ、樹那町から航空機で3時間分ほど離れた距離にあるアジアの一都市に隕石に似た漆黒の球が落下する。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
今の力は、何処へ 行った。
メイアル・ユーリの力は、幻覚の召還……か?
これではまるで、私自身が世界の終わりを望んでいるかのような。
否、聖杯が望んでいる……から、 か。
……クックック
おそろしい な。 ひどく恐ろしい──。
[震えを止めて、ラナと話さなくては、と双眸を光らせる。
使われたのはおそらく聖杯から得た魔力。令呪で繋がるラナにも、そして別の糸で繋がる無頼やナルキッソスにも知れたかもしれない。]
[痛みは、覚悟していたほどではない。
この宝具、もしかすれば相性的な物が強いのか。
耐久が落ちている現在で、このダメージ。
それならば……。]
―――力勝負と、いきましょうや!
[杭に貫かれるなら耐えて見せよう。
相手は獣となり、此方へと向かっている。
僥倖だ。
体は人の身へと戻り、
分かれた槍も一つにもどる。
両の手で確りと握られた長槍は、渾身の力を以て
襲い来る銀の獣へと振るわれる。]
── 夕刻 南ブロック:拠点 ──
[今起きた事が君にも分かったかと尋ねてから、]
私は、前回戦争に繋がるあの聖杯が、
世界の終わりを望んでいたとしても。
令呪を先に聖杯にくべて魔力を得る事の代償が、
敵である無頼達に力を注ぐ以外にもあったとしても。
君と私だけが残れば良いと考えている。
そして、目的の為に手段は選ばない。
君がそう言った手段を望まなくとも。
私は、何よりも 君の願いを叶えなくては成らない。
──その事だけを信じて欲しい。
ぐむっ!?
[つきたてた牙が槍で止められ、なおかつ獣の体躯ごと跳ねのけられる。
一度地面に転がり、すぐに体制を起こす。
明らかに力が弱まっている。
つまり世界は、本多忠勝を”悪”とはみなしていないという事になる]
ならば!!
[人間の姿に戻り、右手を忠勝のほうへ突き出す。
降り注ぐ銀の杭よりも数段ず太い杭を右手の手のひらの中心から射出する]
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