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―南ブロック/姫倉邸―
じゃあ――……おやすみなさい。ちゃんと休むのよ。
[半ば、加藤に押し付けるような形で。己の主を、休養させる]
一晩で、治ればいいけど……あまり、無茶はさせれない、か。
[これからのことを思って。小さく、息を吐いた]
―南ブロック/望月邸―
何も思う暇なぞありはせぬ。咄嗟に身体が動いたんじゃろう。
[それは本能の裁決だ。人間と魔術師の間で揺れ動き、どちらに天秤が傾くかということ]
そうしたかったから、した。それだけのことじゃ。
魔術師は衝動を飼い馴らすための訓練もするが、
結局は勝てぬのじゃろうよ。合理性だけで人は動かぬ。
[だから気に病むなとは、続けられなかった。
むしろ、聖杯戦争に身を投じる限り、同じようなことが起こらぬとは限らない。
手を下した彼自身が、受け止めるべき一矢]
主である儂の責任にしても構わぬところじゃが、
おぬしはそういったところも、不器用で律儀じゃからな。
厄介な性分だとは、この短い間だけでも知っておる。
[アーチャーの手を借りて、まずは薬箪笥に囲まれた小部屋へ]
[月光差し込む廊下を歩き、
しかるべき場所へ胡蝶を送りながら、思う。
英霊は、消えてもまた“座”に戻るだけだ。
だが、人は、死すれば其処で終り。
マスターは生きていればその先が在る。
口には出さないが、
そう考えていた。
だが――誰が知ろう。
此度 魔術師が生き残ろうとも
ただでは済まぬ――否、
魔術師として“死んだほうがよかった”と
思えるような状態になる可能性があることを。]
ぐっ・・・・・・
[その天才的な舞踏を捕まえきれない。竜王の呪いを用いた代償、俊敏性の犠牲がここで仇を成す。
その身に毒をくらいながらも、腕を振るう。表皮は削られ、その身があらわになっていく。
魔槍の力も使い、そして竜王の力も限界を迎えようとしている]
対等、か。
それぞれのできることをする、
役割分担という意味では、然りじゃ。
マスターとサーヴァント、
どちらが欠けても、聖杯は手に入らぬからな。
[薬草や乾物を秘伝の比率で調合し、煎じて飲む。
緩やかな痺れが、裂傷の悼みを麻痺させるまで、しばし]
効果覿面なのじゃが、とにかくアレコレ鈍くなる薬でのう。
単独任務の内には、あまり服用せぬのじゃが。
おぬしという最大の味方もおるし……。
[味は表情が語っている。形相がひん曲がるほどに劇的な不味さ]
集中を要する魔術や、令呪での感知もままならぬかも知れぬ。
それでも昼くらいは表面上普通に振舞えよう。
―南ブロック/望月邸―
[胡蝶の声が月光のように、静かに降りる。
合理性だけでは動かない。
そうだろう、己も、そうした。
――身分を偽って。
――宿敵に届くために。
――不利な誓いを結んで。
選び、抗い、そして、《奇跡》を求めて此処に居る。
胡蝶の言葉に耳を澄ましていたカルナは、静かに頷く。]
――ひとがひとである由縁、かもしれないな。
[厄介な性分、と云われれば少々困ったような顔をした。
図星、なのだが。]
私のほうも。
…貴方が短気で意地っ張りで高い矜持を持つことも
この短い間に、よく、分かった。
[――意趣返しではないが、云っておいた。
薬箪笥の部屋に入れば、
あとは胡蝶の指示に従う。]
そういう薬か……、承知した。
だが、早く傷も癒すように、*努力はしてくれ。*
そういえば、毎晩不思議なのじゃが、
寝床は要らぬのか?
サーヴァントに睡眠は不要じゃろうが、
毎度寝ずの番をしておっても、
安まらぬじゃろう。
寝具なら離れの屋根裏部屋にでも用意しておくから、
気が向いたなら使うといい。
[一度は人の身で死を体験した英霊が、マスターの死をどのように解釈しているかなど、知る由もない。
黴臭い薬部屋で一通りの処置を終えると、傷口を庇いながら湯浴みで汗だけ流して、床に*就いた*]
―― 西ブロック/教会 ――
[主人の亡骸を抱え、辿り着いたのは監査役のいる教会であった。
無言のまま門を抜け、コツ、コツと閉ざされている扉をノックする。]
ブライの力が何と引き換えに得られたかと考えれば、それしかないことに気付くさ。
でも、そんなのはどうでもいいことだろう?
[そ、と指を神父の唇にあてる。]
誰か来たようだよ。
君は来客に対応しなきゃならない。
僕はまた、聖杯のところへ行く。
挨拶に行くだけだ。分かるよね。
…ここには君以外誰もいない。
いいね?
[ヒドラの毒血。
かの大英雄をも殺したその毒は、暗殺者にとって最高の武器だった。
神の血を継いでいようと、特級の媒介があろうと、人の身でそれを完全に再現することはできなかったが、それでも強力であることは疑いようがない。
そして、彼女が使う技を選んだのは、この父親]
私も……驚きです。自分でも、勝てないかと思った。でも、私はちゃんと戦えている。
これは私の手柄じゃないですね。
あなたは一点、妄執が素晴らしかった。
あなたの創り上げた最強は、ここまで完全だった!
[竜王の動きが鈍る。その隙を突いて跳躍した。目指すは巨躯の頭部。
叩き潰せば、竜でも死ぬ場所。
空中で羽のように腕を広げ、竜の双頭を操る。ゲロのようにグチャグチャにしてやれと、自らの宝具を繰り出した]
ぐををををを!!!!
[頭部への直撃は免れたが、その一撃によって竜化の呪いは崩壊する。
頭を手で押さえた竜人は、次第に下のハサン・サッバーハへと戻っていく]
くっ・・・・・・まさかこれ程とは。
私は間違っていなかった、という事だ。
だが、お前がハサンになった事でハサンは終わってしまった!!
結局私がハサンの歴史に幕を下ろしたようなものだ。
[扉を開けると、はたしてそこには監督役の姿。]
夜分にすまない。
此度の聖杯戦争の脱落者を連れてきたである。
弔いをお願いしたい。
[抱いていたジュリアの亡骸を差し出せば、教会の空気に触れて黒く燻ったものが一条、伸ばした腕より立ち昇る。]
・・・・・・分かりました。確かにお預かりしましょう。
きっと、神の元へ、召されるでしょう。
[少しゆるい表情で、ジュリアの亡骸を受け取る]
[その表情の向こうに何があったかなど気付きもせず、ルーサーにジュリアの身体を預けると深く一礼する。]
よろしくであるよ。
それでは、失礼するである。
[顔を上げ、踵を返せば教会を振り返ることなく立ち去った。**]
[頭部に直撃こそしなかったが、元の姿へと戻っていく父親。前代のハサン・サッバーハ。
かつて見た貌に想いを馳せて、その仮面に目を伏せる]
それについては……謝ります。
私は死ぬ間際、誰でもなく死ぬのが嫌だった。私も名が欲しかった。後世に語られる名が。
[ハサン・サッバーハは貌の皮を剥ぎ、仮面を被り、誰でもなくなって名を継ぐ。
それは、死んだら速やかに首領をすげ替えるため。
その名を持つ者が19も存在するのは、成る者が全て死んだからに違いなく、そして死を怖れなかったに違いない。
故に、彼らは貌を無くし誰でもなくなることで、使い捨ての王となる]
私も、自分の神性などで割り込みをかけたりせず……そうすれば良かった。
[これは、そういう悲しい話。
貌を持つ彼女は、誰でもないハサン・サッバーハではなく、ハサン・サッバーハである誰かとなってしまった。
そんな言葉遊びのようなイレギュラーのために、魔術的にまでその儀式を昇華させていたハサンは概念的にすげ替えが効かず、完全に死んでしまったのである。
こうして。
一族の再興を願ったハサンが創り上げた最強は、
一族を完膚無きまでに殺し尽くしたのだ]
[傾げた体を建て直し、娘へと向き直る]
私の最高傑作にして、私の過ち。それがお前だ。
だが、今の私ならお前を今一度ハサンのひとつへと押し上げる力があった。
もう一度言おう。私と共に来い。
お前はこれ程の力を持っている。だが今のままでは英霊として・・・・・・否、アサシンという概念を背負う英霊としても、神性を持つ英霊としても異端でしかない。
私と共に、同じ英霊の座に戻るのだ。そうすれば、お前はハサン・サッバーハに。私の真の意味での最高傑作になれる。
そして暗殺教団は真の意味で復興する。私が聖杯をつかむことによって。
お前はただ、今のマスターの令呪を私に差し出せばいい。それだけの事だ。
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