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【軍本部】
[村には到底不釣合いな物々しい施設が並ぶ。
殺気立ち、空気は重く]
報告いたします。
東からの敵国部隊は一旦撤退した模様。
決定的な攻め口を探している様子。
[守りを固めよ、攻めは別働隊に。
指示にキャロルは敬礼を返す。]
……はっ。
了解いたしました。
ところで……捕虜の様子はどのようですか。
何か新しい情報は得られましたか。
[事のあらましを司令官が告げる。
人狼は既に解き放たれた、とそう謂ったと]
―――そうですか。
カルヴィネン准尉が。
了解致しました。
それでは、失礼いたします。
〔尋問室を離れる際には、くれぐれも捕虜に暴力を
振るわないようにと言い置いた。背後で下士官達が
冗談か否かと戸惑うような気配もあったが、構わずに退出し〕
…村の様子が、気になりますが…
〔敵方の暗殺部隊が潜入したというのが、よりによって
自らの故郷とは。――思案げに、視線を教会のほうへと馳せる〕
…――と、これは…スペンサー少尉。
〔丁度行き会う上官たる彼女へ、ひたと折り目正しく敬礼を向ける。
尋問の報告は届いているだろうが、改めて直に話も交し〕
――然様な次第でありますので…
村で民間人との接触が必要であれば、
お申し付け下さい。
〔避難禁止に伴うパニックを軽減できればと…
村民との橋渡しを*申し出た*〕
…………。
シャーロット様。
[呼び声に応えはなく]
[少しの沈黙]
[仄昏い屋敷に少女は佇む]
……居ないのね。
我が侭なお嬢様。
[呆れともつかぬ、色のない声を漏らし]
[屋敷の外へ。]
[夜空を見上げれば億千万の星]
振り返っても
あの頃には
戻れない
ただあの頃 振り返る 無邪気に笑えた
汚れも知らないままに
[静かに歌を口ずさむ]
【軍本部】
[件の准尉の姿を見止め、敬礼を返した]
任務ご苦労、カルヴィネン准尉。
ふむ。
[直に受けた報告は事細か。
考えに沈むキャロルは眉を寄せた]
……そうだな。
早めに知らさねばなるまい。
その際は頼む、准尉。
[頷いて、民間人へ知らせる為の方策へと
*思案をめぐらせた*]
[布で明かりを抑えたランタンを手に、
重い扉を開け、門の方へと歩む。
何処かから聞こえる歌声は
慣れ親しんでいて、何処か懐かしい。]
お屋敷の令嬢。
捕虜にすれば幾許かの金が手に入るだろうか。
――なんて考える不埒な輩に捕われても知りませんよ。
[尤も、戦場と化したこの村の屋敷に、
それ程の名声があるとは思えない。]
[ハッと声の方に振り向く]
ネリー・・・、驚かせないで。
[強張っていた表情が緩み胸を撫で下ろす]
ごめんなさい、あまり寝付きが良くなくて。
やっと眠れたと思ったらあの時の事が夢にでてきてしまって。
だから・・・少し夜風にあたっていたの。
驚かせる心算は――……
無かったと言えば嘘になりますけど。
[ゆるり、小首を傾げ、硝子玉のような瞳でシャーロットを見る]
悪夢、ですか……
このような状況で、安眠出来る方がおかしいのかもしれません。
あの時と言うと、ご友人の?
[彼女の問いに小さく頷けば]
どうしてもあの時の事が忘れられない。
忘れろというのも無理があるし、
そんな事をしてしまうのは私が人である事を
捨てるような気がしてならない。
私のせいで、死んだのだから。
でもこうして引きずっててもダメ、なのよね・・・?
……。
……さぁ。
[ゆる、と首を横に振り、曖昧な答え。]
私は身近な人を失ったことがありません。
ですから、何かアドバイス出来る程の経験者ではない。
けれどそのご友人からしたら、
お嬢様が生きて、ご友人がお嬢様の中で思い出として生きて
――私が亡き者となれば、そう望むでしょう。
・・・そう。
でも、ネリーがそう言ってくれるのなら、
そうする事が良いのよね。
ネリーにはこんな経験してほしくないし、
そんな思いを私はさせたくない。
経験者ではないと言うけど、
ネリーは私の思いを汲んでちゃんと考えてくれる。
そういう所が私は救われるわ。
そう、ですね。
私の身近な人は、お嬢様だけですから。
お嬢様が死ぬようなことだけは。
あってはならない。
[とん、と地面を踏む。
手にしたランタンが揺れて、辺りにランダムな光を散りばめた。
辺りの静寂は偽りか。今もどこかで人が死んでいるのか。]
救われているのは私の方。
身寄りの無い私を置いて下さったことには感謝しています。
こんな私でも、少しはお嬢様のお役に立てているのなら――
幸い。
うん、私も。
私が死んじゃって
ネリーが悲しむような事にはしたくないし、なりたくない。
[柔らかく笑む顔はランタンの灯りに淡く照らされ
より柔和で神秘的な表情を見せた]
ううん、ネリーはね、
自分でも気づかないと思うけど、
色んな事を私に教えてくれたし、気づかせてくれた。
少しなんかじゃない、とっても役に立ってる。
大事な人よ。
それなら。
危ない所に一人で出歩かないで下さい。
……ね。
[とん、とまた一つ踏んでは、
シャーロットに向き直り、ほんの僅かに相好を崩した。]
……?
そうですか?特に何もしていないのに。
でも、そう言って頂けると、嬉しいです。
[シャーロットに向けていた視線を、夜空へ移す。
黒くて、ぼやけた、曖昧な輪郭。]
うん。
[その表情はバツの悪そうな、そして甘えるような笑顔]
気づかないのも無理ないわよ。
それが普通なんですもの。
大切な人はいてくれるだけで、
それだけで心を許せるし気持ちを暖かくしてくれるの。
[甘えるような表情は、何処か子供っぽくもあって。
しゃんと背筋の伸びた、大人びた面と。
相反した二つの表情が彼女らしいのだと、思った]
お嬢様は……
[言い掛けて、続く言葉が出てこなくて。]
[代わりに相手の言葉を聞いては、緩く瞑目する]
居てくれるだけで、……ですか。
気づかないものなんですね。
時には邪魔に思えるような存在も、
省みるととても尊いもの。――か。
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