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[目の前の男が、よく響く綺麗な声で、自分の苗字では無く名前の方を呼ぶのを聞いて、少し微笑む。]
…ありがとう。
私、そう呼ばれるの、好きよ。
[その後に続く男の言葉と、その鎧姿に目を見開く。]
セイバー……?
あの、もっとも優れたサーヴァントと言われている…?
[確かめるように尋ねた。思わず、声が震える。
そんな彼女の肩に、蛾がゆっくりと止まった。その蛾に向かって、どこか恍惚とした表情で呟く。]
……聞いた?
セイバーですって…。これで……何の文句も無いわよね。
[指先に蛾を移動させると、そっと両手で包み込んだ。そのまま、ぐっと力を込める。]
後は……私の好きにやらせてもらうわ。
[ぐしゃりと小さな音がして、蛾がぴくぴくと痙攣すると、その姿は何やら文字の書かれた札のようなものになった。
もはや、ただの紙屑と化したそれを、地面にぽとりと落とす。]
ふふ……あはは…。
[くすくすと笑いながら、セイバーと名乗った男に手を差し出す。]
よろしく。必ず…聖杯を手に入れましょう。
ならアカネって呼ばせてもらおうか。
そしてひとつ訂正するが、セイバーだから強いんじゃねぇ。
――俺が俺だから、強ぇのよ。
[腕を組み、ハッと笑う。
しかし、その後のアカネの言動に若干表情を硬くした。]
……。
嗚呼……宜しくな、アカネ。
[差し出された手を確りと握りかえす。]
……。
[自分の体温が下がっていた為か、握り返された手が、熱い。
少し不思議な顔をして、目の前で不敵なセリフを吐き、からりと笑う男を見上げる。]
(そういえば…こんな風に誰かの手に触れる事は、いつ以来だっけ…)
[一瞬、どこか遠くを見るような目をしたが、セイバーが表情を固くするのを見て、はっと気付いたように頭をぷるぷると振った。]
…じゃあ、行きましょうか。案内するわ。
[感情の無い声で告げ、繋いでいた手を離すと、くるりと体を反転させ、森の出口の方に歩き出した]
つれねぇなぁ、器量好しっつーのに勿体無ぇ話だ。
[出口のほうへと振り返るアカネを見てため息をつくと、アカネの横へ並んで共に歩き始めた。]
……もう、本当に大丈夫そうだな。
んな無理しねーでもいいだろうに。
人生たかが50年。
止まってられるほど長くもねぇが、そんな死に急ぐほど短くもねぇぞ?
無理なんかしていない。
見くびらないで。
[そう言い放つと、しごく当然のように横に並ぶサーヴァントを見て、言いようの無い苛立ちを感じ、小さく溜息をつく。]
…あんたみたいな人、苦手だわ。
[その感情が、ただの八つ当たりに過ぎない事は充分承知していたが、あまりに無遠慮に自分の領域に入ってくるその行為に、思わず吐き捨ててしまう。
そして、そんな自分に、また嫌気がさす悪循環。]
人生50年…。
[どこかで聞いたようなフレーズに、少し不思議な顔をする]
英霊も、時を語ったりするの?
そんなものはもう、達観していると思ってた。
そりゃ残念。
[だが「嫌い」とは言わないんだな、と心の中で付け足す。
それと同時に、何故か笑いがこみ上げてきて、顎に手を当てクッと笑う。]
阿呆か、達観できてりゃ世界に縛られたりしねぇよ。
英霊ってのはな、誰よりも過去って時に縛られてんのさ。
人間誰しもうつけなんだよ。
その上にごちゃごちゃと面倒なもん飾り付けて必死に賢い振りすんのさ。
[笑う相手に、少しムッとした顔で睨み付けたが、続く言葉を聞き、歩を止めて足元を見る。]
…そう。
私と、変わらないのね…。
[傍らの相手に聞こえるか聞こえないかの、ごく小さな呟きを漏らす。
しばらく下を向いていたが、何かを振り切るように顔を上げると、森の出口に向かって歩き出した。]
…そういえば
[まっすぐ前を向いたままで、尋ねる。]
貴方の、名前は?
[その問いが、これからの戦いに必要であったからなのか。それとも、セイバーというクラス名で呼ぶ事に、何故か抵抗を感じ始めていたからなのか。
自分でもよくわからないまま、男の名を問う。
もう、目の前には鬱蒼とした森の終わりが見えていた。]
ああ、そういや言ってなかったな。
[その前の呟きに、セイバーは答えなかった。
それが単に聞こえなかったからか、それとも……あえてなのか。
それは彼にしかわからないだろう。]
俺の名前は……。
――上総介だ。
[セイバーがそう呟くと同時に、森の鬱蒼とした景色が*終わりを告げた*]
…上総介。
[告げられた名を、繰り返す。]
……良い名前ね。
[実を言うと、その名前に心当たりは無かったが、セイバークラスの英霊、それも和名と来れば、おそらく名の知れぬ者では無いはずだ。
だが、知らない、と言うのも自分の無知を曝け出すようで抵抗がある。]
……じゃあ、二人きりの時は「上総介」って呼ぶわ。
いいでしょ?
[少しふくれながら、誤魔化すようにそう言い放つと、ふいっと顔を背けた。
いつの間にか夕暮れも間近で、蝉の声はひぐらしの鳴き声に*変わっていた。*]
4人目、??? がやってきました。
??? が村を出て行きました。
4人目、梧桐 曹 がやってきました。
………消えろ。
[ 部屋の奥の暗がりから、低い呟くような男の声に。女の姿は跳ねた水のように消え去った。
trrrrr... trrrrr...
鳴り続ける電話の音にため息をひとつ。そうしてから男は重い腰をあげ受話器を手に取り口を開く。]
…はい。
………ええ、これからはじめます。バックアップの方は、打ち合わせどおりに。
…もちろんです。必ずや、梧桐の血を本流へと。…はい。では。
[ 務めて、短く会話を打ち切り受話器を置く。そして、深く息を吐いた。]
[ 梧桐の血を本流へと。
それが、梧桐 曹(ゴドウ ツカサ)に託された願いだった。だが、しかし。]
行ってくるよ、マナカ。運命を変えるために…君の力を借りる。
[ テーブルの上にあるフォトスタンドに語り掛ける。そこに写っているのは、さきほど闇に浮かび上がっていた女性の姿。
フォトスタンドの横に置いてあった、正円に一文字が入っただけの家紋が刻まれた懐剣を手にすると、ツカサは部屋を出て行った。]
[ ――深夜:流廻川 河原
ツカサの周囲は不自然なほどに濃い闇が降りてきていた。
創り出された闇の中で、河原に迷うことなく召喚陣を描いていく。右手に握る絵筆で左手に持つパレットより望みの色を取り出すと、ひと振り。
数度これを繰り返した後には、淡く光る召喚陣が描き出されていた。]
………さあ。
[ ポケットから取り出した懐剣を、召喚陣の中央へと捧げる。正円に一文字の家紋が、鈍い輝きを発する。]
我が願いの為に、英霊よ…我が前へと………。
[ 聞こえ難い声が、魔力を持ちマジナイを生み始めた――]
5人目、ランサー がやってきました。
[召喚陣がひときわ輝いた後、光が弾けた。
まず現れたのは空中で回る長槍、続けて弾けた光が集い、それをつかむ男の姿を形となる。]
よっしゃあぁぁ!久方振りの現世だぜ!
お呼びとあらば答えよう!原田左之助、ここに推参!
[そう名乗りつつ頭上で回していた槍を、力強く傍らに突き置く。
河原に乾いた音が響く中――]
名前は隠しておいた方が良いんだっけか……?
まあ、いいか!
[と言い、からからと笑った。]
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