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聖杯を手に入れる為に、お互いがお互いを利用するんでしょ?
貴方と私はそういう関係。
[そうきっぱりと言い放つ。]
私に質問や要望があれば言って。
貴方の力を最大限に引き出す為に、出来る限りの努力をするわ。
正直……貴方の力は桁はずれみたい。
私の魔力だと、貴方がどれくらい動けているのかわからないし…。
――南ブロック・廃工場――
[瀬良悠乎が教会から現れた頃、バーサーカーは猫に別れを告げていた。一通りにおいを付け終わりでもしたのだろう。
自由となった小さな命は、振り返ることなく駆けて行く。
バーサーカーは座り込んだまま、影も見えなくなるまで見つめた。見つめながら、マントから取り出すのは再びの刃。]
それでいい。
[猫に帰るべき家があったのか、バーサーカーには知りようの無いこと。もしかしたら、帰るべき場所もなく、独り無残な飢え死にを迎えるかもしれない。
それでもバーサーカーは見送った。止めることはしなかった。
立ち上がり、剣を握ったまま廃工場の奥へと向かった。]
鎧も結局は俺の魔力の塊だ。
その流れを遮断してやれば消えるってわけだ。
[ああ、ちなみにコレも同じな?と着流しを指差す。
しかし、その後のアカネの言葉を聞いて不機嫌そうに肘をついた。
そして、何かを振り払うように頭を掻いた。]
……粋じゃねぇな。
そういう言い方やめねぇか。
ならアレか。
俺が魔力が足りねぇから更によこせと言えば、そこらの人間を攫うか閨を共にでもするのか?
そういう取引じみたの俺は好きじゃねぇな。
[不機嫌そうな様子の信長を、むっとして睨み付ける。]
粋とか……知らないわよ、そんなもん。
あんたの美学を、私に押し付けられても困るの!
ええ、私はこの戦いに勝つ為にここに居るんだから、その為には
……何だってするわ!
(それに…)
[あの時見せた、一瞬の狂気の目を思い出すと、体がぞくりと震える。あれは、何だったんだろう。]
…宝具って、使う度にあんなことになるの?
−未明 西ブロック・蒲生邸−
[仮眠していた延は、令呪の繋がりからキャスターの魔力行使を感知して目覚めた。]
愚か者めが……。
[キャスターの気持ちとは裏腹に、先ほどの行為によって二人の回路(パス)は当初より強固なものへとなっていた。その繋がりから、物理的な距離をおぼろげながらも感じ取る。]
恐らく今から駆けつけたところで間に合うまい。
……大人しそうな顔をして、俺の“楽しみ”を奪うとは、な。
[どこか嬉しそうに、くく、と笑った。]
……お前、生きてねぇな。
[ポツリと、そう呟く。
死んではいないかもしれない。
だがそれは……生きている事にはならない。
そう、"死んでない"と"生きている"は同義語では無い。]
だが、それを今言うべきではないのかもしれない。
そう考えて、喉まで出そうだった言葉を飲み込む。]
宝具……か。
[改めて考えると、あの時の自分は異常だった。
己の宝具、確かにそれは"知っている″。
どのような性能かも理解している。
だが何かがおかしい。
そう、そうだ…俺は…。
……っ。
[再び頭痛。
そしてその頭痛が治まると同時に疑問は消えていた。]
嗚呼、そうみたいだ。
あの宝具は俺の能力を爆発的に高めてくれるが、その代わりに使用を続けるとあのような状態になる。
更に、使用の解除は俺の意思でできない……。
[教会を出てしばらく。もう少しで廃工場が見える、というころ。信号待ちをしていた時だった。]
猫か。
[向こうからやってきた猫が、道路を渡りだす。とすぐ後に、道路の中ほどでその足を止める。見れば、別の稼動している工場からやってきたらしい、トラックの姿。
目をそむけた。何もする気はなかったのは一瞬前まで。]
Остановка!
[発した声と同時に、トラックが動きを止める。駆け寄ってくる猫に、手を差し出すと、何事もなかったようにトラックが通り過ぎて行った。]
助けるつもりはなかったのだけど。
[信長の呟きに、思わず顔がかあっと熱くなる。]
……あんたに、あんたなんかに私の何がわかるって言うの!
[膝の上に置いた手を、ぎゅっと握る。その手はわずかに震えていた。]
(―もう、大事なものを失うのはたくさん)
(ならば)
(…そんなもの、最初から、持たなければいい――)
……?
[信長の、続く言葉に不穏な空気を感じ、思わず顔を覗きこむ]
…解除、できない?
[相手の言葉を繰り返す。思わず、爪を噛んだ。]
いくら強力な宝具でも、…それでは意味が無い、わ。
[まさか、使用する度に令呪を行使するわけにはいくまい。無理して使ったとして……]
(あと、一回? それとも…)
[一つ減った令呪を見つめる]
……おいで。この辺りは危ないから。
[猫を腕に抱くと、道路を渡る。猫の餌は買っていなかったと思いながら、廃工場までくると、中へと入った。
荒らされた形跡もない。]
バーサーカー、今戻った。
服と食料と……それから。
[荷物をソファの上において、それから腕から猫を下ろす。]
[廃工場の中は影とは言え、涼しいとはいい難かった。
うだるような暑さが篭り、むしろ風が自由に吹く外の方が涼しいかもしれない。陽射しを差し引けば、だが。
廃工場を支配する影は静かだった。
よく見れば、端に寄せられた器具の中、影で沈む用済み達の中に、酷く打ち壊されたものがあった。
しかし猫は人の知覚より鋭敏に感じ取った。
少し奥まった場所。器具と壁との間。
壊れた窓に腰掛けたバーサーカーがそこにいた。
第一にはマスターの声に、振り向かず。
第二には猫の声に、振り返る。]
……奇妙な縁だ。
お前の帰る場所は、ここではないだろうに。
[呟きは小さなもの。
ただ、それはいつもマスターにかける、どこか皮肉めいて棘のあるものではない。安堵したような、呆れたような。
日溜りに浮かぶ新緑に似た穏やかさがあった。]
―― 古美術店・居間 ――
[左之助は、ソファに腰掛けながら店内で見つけた小刀で割り箸を削っていた。]
へっ、まさか隊服を見てここまで動揺するとはな……。
[新撰組の事を考える時、左之助の心は愛憎入り混じった複雑な心境に満たされる。
それは、左之助が自身の全てを費やし、同時に他の全てを犠牲にした組織だからだ。
その目的は徳川幕府を守る事、そして士道を貫く事。
そして左之助は士道を貫く事を重んじていた。
……だが幕府が倒れ、武士がいなくなった今、あれほどこだわっていた士道が一体何だったのか解らなくなり、省みる事の無かった家族への悔恨だけがふくらんでいる。
気づくと小刀で削った割り箸が、長めの楊枝へと姿を変えていた。
左之助は以前からそれを「高楊枝」と名づけ、自ら好んでくわえている。
だが、「高楊枝」と言う言葉は、悠然と楊枝を使うことを意味し、本来「高楊枝」と言う名の楊枝は無い。
何故自身がそのような事を好んでいるのか、左之助自身にも良く解らなかった。]
[
屋敷に辿り着いた頃には、既に夜は明け、陽が昇っていた。
途中、商店の連なる大通りの近くで、何人もの死体が発見されたのだと噂する中年の女たちの立ち話を、耳に挟んだ。
――……そういえば、死体の始末を忘れていた。
というよりも、わざわざ直接"殺す"必要などなかったのだ。
第二要素(たましい)と第三要素(せいしん)を喰らうだけで――存在そのものを失った人間は、抜け殻となって死ぬのだから。
あのような命を受けて、冷静さを失っていたのだろうか。
現界してから幾度目になるかも判らぬ溜息を吐いて、主の部屋へと続く扉を、小さく叩いた。
]
周辺の探索から、ただいま帰還しました。
幾つか報告があります……入っても宜しいですか、マスター。
へっ、くだらねぇ。
今はそんな事考えてる場合じゃねぇのによ。
[楊枝を手に、左之助は自嘲気味に笑う。
今考えるべき事は、聖杯を手に入れるため何をなすべきかと言う事である。
左之助は抱えていた煩悶を、心の外へと*追いやった。*]
[しかし、それは一時の幻のようなもの。
先ほどは隠した剣も、今度はマントの中へ戻さない。
猫も何事かを感じ取っていたのだろう。バーサーカーに近付こうと歩を踏み出したが、途中で止まってしまった。
まるい瞳がじっと窺う。
壊れた窓の桟に座る仮面を。
仮面は見つめ返すことをやめ、外へ視線を放った。
同時に、桟から降り、マスタ−へ歩み寄る。]
分かりはしない……だがな、想像はつく。
[震えてる手に視線を落として、そう呟く。
きつく握り締められ、震えてる拳に指先で触れる。
確かに、今言うべきではないのかもしれないが。
それでも、背中を押すぐらいはいいだろう。]
震えてるぞ。
誰よりもアカネ自身が"生きたい"って、叫んでるんじゃないか?
自分の内の風に耳を傾けてみろ。
それに素直に乗れば、周りから奇異の目を向けられ"うつけ"と言われる。
だが、乗りたい風に乗り遅れた奴はな……間抜けって言うんだ。
ああ、解除ができない。
その先にどうなるかは……俺も"知らん"。
[そこで静かに目を瞑る。]
だから、あの宝具は極力使わねぇ。
何よりもお前が危ない。
ただし……あの宝具の効果。
それ自体は俺のステータスの殆どをA相当にしていた。
使えば確実に有利になる。
……その事実だけは揺るがない。
[ノック音、続けて可憐な声が聞こえた。どこか落ち込んだような声色とは逆に、延の心は躍る。]
構わん。入れ。
[機嫌の良さそうな声で、短く答えた。]
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