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[黒狐は、獣が毛並みを整えあうが如く、
もしくは添うてむつみあうが如く、
法師が胸に身を寄せ、そっとその肌に舌を這わせて、
時折クスクスと笑むのでした。*]
[ 嗚 呼 ]
[ に く ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ]
[ に く し や ]
[薄い靄かかるように澱みが京の空気を侵す中
大路をしずしずと歩み 穢れを胎(なか)に請け負うてゆく
破れている墨色の衣ゆえか 人ならぬような目か それとも片頬にまで刻まれゆく徴ゆえか
人は声もなく見送る]
―花山院邸・奥座敷―
いつか、そなたが消えゆく日まで、
共に在りとうございます。
[その日が来ることをその式は、願って居るのか居ないのか。
狐には分からなかったのです。
二つの式去り、座敷は広く。]
身勝手でしょうか。
共に在りたく願うのは、弱いわたくしが誰かに縋りたいが故か。
[茫としたまま、乱れた襟も正さぬままに、
そのままそこに居るのでした。*]
「いい気味よ。」
「鬼が出たと」 「血の池が」 「あそこの邸にも犬がの」
「もう京は駄目じゃ」 「朱い鬼が出た」
「あそこの婆様の仕業よ」 「鬼の所為にして」
―― 朱雀大路 ――
「様のお邸を見られたか?」 「がお亡くなりに」
「続く怪異はもしや先の…」 「六条の」
「攫われたと」 「供養をしなかったから」
「はよぅ帰れ。鬼が来る」
[澱み広がる]
[既に京は 鬼も怨霊も棲み易き場 か]
――・・・→羅生門――
[屍(かばね)も材木も朽ち果てた中
奇怪な聲厭いもせず 真ん中に座し
大路の方角へ面を向け 己が役目を果たさん*]
[路端で 人には見えぬ影にすがり まぐわうがごとき]
[おとこの姿は ただ狂人のそれに見えただろう]
… ふ・ ふ ・ふ …ふ
あ は は は は は は は は は は
は は は は は ・・・……
は あ は は は は は は は は は は
は は は は は は は は は は
は は は は は は は は は は
[おとこの肩はうつむいたまま、ただふるえる。
そのまま、ながくわらい続けていたが、やがて「記憶はもどらぬが良かったのだろうよ」と小さく呟き、]
────…
わたしが、閉じ込めてしまった銀の狐…
どうやれば、おまえを──
今更に山に返してやれるのだろうねえ
――羅生門――
[大(Oo)]
[禍(Maga)]
[時(Toki)]
[ あ な に く し や ]
[ あ な く や し や ]
[ ひ も じ や ]
[蟲 蛇 をはじめとし 這うものつばむもの啜るもの齧るもの
鬼に現出す闇を胎(うち)に集め
肌は既に奇怪
虹ともいえず 歪みと呼ぶ相応しき 極彩ひしめく徴ばかり]
[ ずるぅり ずるぅり と 衣の下に潜り寄せ集められる穢れの脈動止まることなし]
[四方八方より迫り来る 白藤死した時如くの蛇蟲 濁流覆われるが前の高く覆われる壁に面向け
今こそ 徴満ちゆき 空に消え去るか … ]
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