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検分…まぁ…下々の私達に伝わっていて上に伝わっていない方が不思議、ですか。
若宮様…?
へぇ、あのお方が。
[同じように目を向け。遠目でしか見えぬが微かに目を細め]
若宮様も私の様に物好きなのでしょうか。
…何、早めに話を聞けた方が…逃げるにせよ、除けるにせよ。
良いと思いまして、ね。
屋敷の近くで鳶尾様に逢いまして…
[そう言って後ろを見やるも。
既に歩みを止めていた鳶尾は後ろにいるはずもなく。
…こめかみを掻きつつ視線を戻した]
…先ほどまではいらっしゃったのですが、ね。
[小さく苦笑いを零すと、部屋から離れる様に。
門の方へと足を向け]
使いも走っていたしな。
[向けた視線の先では
橘が富樫のちかくの墨染めのおとこに何事か問う横、
若宮と影居が伴って出て行っていた。]
……目の前で見る機会に遭うとは思ってなかったねえ。
なるほど、どちらにせよ知っていたほうが得策ではあるか。
鳶尾、――ああ、影居の式か。
不意に現れて不意に消えたりするもんだからな、
気にしてないさ。
[謂いながら、汐の後に続いた。]
永漂、殿とおっしゃるのですね。
…お父君が…そのように?なんだか、そのような評価を頂くと、照れてしまいますね。
ありがとうございます。
[少しだけ照れたように微笑むと、そのまま安倍を促して人気のないあたりへ。
庭へと降りることはなかったが、人気もほとんどないあたりを知るは何度過去の屋敷で迷子になったことがある故に]
…こちらなら、人の耳もまずはありません。大丈夫でしょう。
[そこまで来て足を止めれば安倍のほうを振り返り、少しだけ微笑み]
花山院の方でしたか、これは大変失礼した。
某、こちらの若宮様にお仕えする富樫影秀と申します。以後お見知りおきを。
して永漂様、となると大殿を亡き者にしようと犬に呪いを掛けたものがいる、という事でしょうか。
[さて、人々が件の大殿のところに集まると見えて、
狐もその後ろから様子を伺いに参りました。
ところが、足が竦んで中には入れぬのです。]
…犬、とは。
[その残る気配に、すっかり怯えてしまっています。]
[急に話しかけられるようになったと、口の中で呟く。
が、気色は変えず。中将に、]
都に戻ったばかりの夜。
千切れたまま空を飛び、うらめしげな犬の生首を──
と、こう云った怪異の話を、そのままお役人の方に話してよいものか……
[周囲の空気に頓着せず話していたかと思うと、おとこは急にもごもごと口ごもりはじめる。昨日の薬売りでも傍に居れば、と思うものの、汐がこの屋敷に入り込んでいるとは思いもよらないのだった。
どう話したものか、首を捻った後、]
ああ。
廊下にはり付いた血まみれの手のかたは…人のものに見えますねえ。犬の形ではないのは誰がみても明らかで。
・・・色んな呪が。
入り交じって居るのじゃないですかねえ。
私は市に居たのですが…飯が終わった後で。
もう、噂は広まりつつありますからねぇ。
[知るものもいるものの。何やら皆、話をしている様子に視線を戻す。
ある程度部屋から離れれば箱を背負い直し。
白藤の方へと向き直る]
…あの方が…式?
はぁ、全く分からないものですねぇ。
確かに、兄さんの鳥なら見たけど…
[顎に手をやりつつ、思案していた様だったが]
…とと。兄さんに聞きたいのは鳶尾様の方じゃなかった。
結局…あのお方はどういった事でお亡くなりに?
何やら…呪にしては、陰の気が残っているのが気になるのですが…
[陰陽師を見る少年の表情は、少しだけ緊張したような色合い。
琥珀の瞳を少しだけ伏せたあと]
…お聞きしたいことが、あるのです。
先日、中将殿が邸にいらして大事ないかとお尋ねになりました。
なんでも、彼の方の笛の音が濁りを見せたとのことで…琴の清浄に異変がないかと、そうお尋ねになりました。
結論としては、異変あり、ということになります。
ちょうど、中将殿のいらっしゃる半刻ほど前に、変えたばかりの琴の弦が一本、切れてしまいました。
…ひょっとして、今回の異変を察知したものではないかと、そう思っています。
……貴方様なら、どうお考えになりますか?
[じ、と琥珀の瞳でまっすぐに安倍を見つめ]
あぁ、静かにされていた所を騒がせて申し訳ない。
怪異等はなれている。誰かのせいでな。
これも職務、申し訳ないが色々聞かせて頂こう。
[勿論誰とは言わないが]
呪…交るもの、か。この手の呪いとは一人がするものか、それとも不特定多数の者の恨みが集まりこうなるのか…。大殿の場合どれも思い到る故に面倒だな。
[ちらり、と外の鷹をみた、緊張は解いていないようだ。
だが鷹が潜めた妖気を感じ取れるのは朝の清浄な空気の中でだけ。
今は恐らく無理だろう。あまりにもこの空気は汚れすぎている]
[おとこの記憶が無いのはちょうどおとこが出家をしたあたり、数年前からだ。そして、大人になってからの兄に関する記憶が思い出せない。出家前、父が亡くなる前後の記憶まではあるのだった。
目が暗い所為で、おとこには若宮の表情までは視界がぼうとして読み取れぬのだが、五月のころの若芽をおもわせる宮の髪色、瞳の色の薄さは、うつくしく感ぜることができた。
微笑んだ気配に、]
おやさしい声をしておられる。
大殿はもはや魂の残らぬ抜け殻、とは云え、外にいかれるがよい──ですなあ。
この場は、確かに穢れている。
[と云って、若宮と出て行く影居を見送った。]
・・いや。
花山院と云っても、俗世を捨てた身ですゆえ。
富樫どの。そう堅くならずとも…
[かしこまられると、すぐに困ったように背を丸める。
一度、影秀から顔を背け、若宮の去った方角を見やり、また顔を戻した。]
…………。
ああ、若宮さまは。
お守り甲斐のありそうなおかたですな?
[少し、ひそやかな声でそう云ったのは、空気を崩そうという意図か。]
[汐が、気付かぬまま歩いて行ったあとも暫く鳶尾はその場に佇んで居たが、奇しくも白藤の言ったとおりにすう、と急に消えた。]
[次に鳶尾があらわれたのは建物の外だった。
桜の樹のした。
指に犬の毛をつまんでいる。]
……おや。
お前はいつぞやの……つねひとと言ったか。
人の口に戸は立てられぬ、かねぇ。
[薄笑み、眼を細めて]
あぁ、そうか。知らなかったか。
無理もない、そういう風には見えやしないしな。
なに、おおむねは人みたいなものだ。
おれの式と違って話すし世話も焼く。
[いまだ式はいくつか飛ばしていた。
橘の鷲に見つかったら追われるだろうか。
腕を組み、汐を斜に見た。]
……大殿さまは、まぁ、さっきの酷いにおいにも関係あるんだがね。
呪いと祟りに殺されたんだな。
酷く澱んだ陰の気が集まったようだ。
けもののように暴れ吼えて、事切れたよ。
[少年らしい真っ直ぐな式部卿宮の問いに、少し考えるような素振りを見せ、]
そうですね…
確かに此度の異変との関わりはござりましょう。
その予兆と申しますか、余波のようなものをお感じなったものかと。
正味のところ、大殿を害し奉った呪は、ただ一人(いちにん)に拠るものにあらず、このみやこそのものの成り立ちと今の有様に深く関わりがあるものと、影居は考えておりまする。
故に、水面を渡る波の様に、その影響は大小を問わず広くみやこに現われて参りましょう。
…余波、ですか…。
[ぽつり、呟く言葉は苦く]
……都は…いえ、この国は…このまま、荒れてしまうのでしょうか…。
[彼を見上げていた視線は落ち、そのまま足元へと落ちて]
……主上のお心乱すようなことになってはほしくないのに…。
[呟く言葉は、父を案ずる純粋な思いその物で出来ていた]
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