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あまりアジアの伝説には詳しくないのよね。知らない名前だわ。
けれどその名前……この国の英霊ね。
[召喚の際、特に媒介を使ったわけではなかった。ならば事前に調べた情報に依れば、サーヴァントは召喚者に似た英霊が選ばれるはずだ。
けれど目の前の男……どっかりとあぐらを掻いたひげの男が自分に似ているとは、少し思い難くはあった。
が、それはそれとして、男がもたらした情報は朗報ではあった]
刀使い―――セイバーか。
まさか最優のクラスを引けるなんてツイてるじゃない。
これからよろしくね、タカウジ。
……だろうな。呼び出すにしてもわしなんぞよりもう少し良いのは幾らでもいそうなものだ。戦に勝つなら楠木殿の方が滅法強いし、北畠卿なんぞは実に見目麗しくも勇壮であったし、新田……新田はまあいいか。
[至極面倒そうに男は呟いて、もう一度ため息をつく]
それで、わしにお主の下で戦をしろというのだろう。
[目の前の少女をじっと見つめる。見た目はまだ年若いが、魔術師ではあるのだろう。もっとも、どの程度の力を持つものか、それは自分にはわからない。だが、いずれにしても]
…………………ずいぶんと面倒臭い事になってしまった。
[悪びれる様子もなく、本当に心底面倒臭そうに男はこぼした]
面倒?
[目の前のサーヴァントから出たその言葉は意外で、だからこそ引っかかる]
あなた、この国の英霊なんでしょ?
ここって原始時代から17世紀くらいまでずっと内戦してた、蠱毒壺のような島国じゃないの?
そんなクレイジーな国の英霊が、戦争を……それも万能の願望器を奪いあう聖杯戦争を厭うなんて、冗談だとしてもシュールすぎるわよ?
まあ………確かにここは日本国なのだろう。だったらそうなるな。
[話をするのも面倒だと言いたげな表情で男はまた口を開く。]
いや、昔はどうか知らんが…確かにわしの頃は帝も二人おったしな。
わしも随分あちこち戦った。北条殿を滅ぼしたし、帝に弓を引いたわな。それに……
[少しだけ遠い目をして、またけだるそうな目が少女を見つめる。]
死ぬまで戦い通しよ。三十半ばで隠居してあとは詩でも詠んで暮らそうか、地蔵の絵でも描いて暮らそうかと思うておったらそれだ。
……だいいち、わしには望みなんぞないぞ。まあ、あると言えばない事もない、が……
毎日何もせずにのんびり死ぬまで安楽に暮らしたい、というのが望みといえばそうなるな。うん。
5人目、赤い竜 がやってきました。
薄い闇に包まれ始めた森に、赤い竜が舞い降りた。
辺りを見渡した後、幼な子のような小さい体を、左右に揺らしつつ歩き、少し開けた場所に出ると、尻尾を器用に伸ばして魔方陣を描き始めた。
描き終わった後、器用にのどの奥を震わせて、いくつか言葉を紡ぎ始める。
言葉が進むにつれて、竜の腹が波打ち、剥ぎ取られた皮膚の一部のようなものが浮かび上がる。
その皮膚に記されているのは令呪。
マスターの証である。
令呪の、脈打つような赤い輝きと同時に魔方陣も光を増し、大きくはじけた。
……へぇ。
[その、おそらくは歴史を左右する苛烈な経歴には想うこともあったが……それよりもその英霊が口にした望みを聞いて、少女は目を細める。
白々と、冷ややかに]
あなた、それだけやっておいてそんな望みしかないの?
……なんてつまらない。おもしろくないわね。
[声には怒気がはらむ。
自分でも理不尽だと思ったが、止められなかった。
媒介無しに喚び出されるサーヴァントは、召喚者に似る。
ならば、このつまらない男の姿は自分の鏡なのだ。それに腹が立った]
……まあ、いいわ。聖杯には昼寝にちょうどいい陽気でも願いなさい。
あなたにはどうしても戦ってもらう。わたしのためにね。
そうだ。わしの望みなんぞそのぐらいしかない。
………良いだの悪いだのと、皆わしの事をとやかく言うが、わしの心中などわからん。お前も、その一人だ。それだけの事だ。
[目の前の少女が自分に対して気分を害した様子を見せていることは分かる。その心中までは察しえなかったが]
わしはただ静かに暮らしたいだけだ。お前にはないのか?そういう望みが……聖杯なんぞ呼び出そうとするのだろう、ならば…
[男はなおもぶつぶつ呟いていたが、諦めたように肩を落とした]
まあいい。話していてわしも自分がほとほと嫌になった。わしなんぞよりもう少し目に叶う相手でも選べ。
ああ……!京の六波羅を滅ぼし帝を笠置よりお救いしたあの壮麗なる尊氏はいずこへ……!!かくも情けない生き様を晒すくらいなら、今ここで潔く自害してくれようぞ……!!!
[そう言うと男はやおら腰にさした脇差を抜き放ち、腹へとめがけて突き立てようと振りかぶった]
御免………!!
6人目、鴻 みちる がやってきました。
ー住宅街、古びた洋館ー
[かち。こち。かち。
ぽーん、ぽーん、ぽーん。
古い屋敷の中で柱時計だけが忙しなく動いている。
柱時計の傍らには古い形の鳥籠。
籠の扉を開くと、中から青い羽の鳥が羽ばたいて古い机の淵に止まった。
マホガニーの机の上には古びた紙のようなものが広げられる。
古びた磨りガラスの向こう側に月があって、
遅い時間に起きているにはあまりふさわしくない子供がひとり
広げた上にこれまた古い金属の塊を置いた]
ちるちる、みちる。
ちるちる、みちる。
まほうの、ぼうけんのー、はじまりー。
[小さな手を塊に伸ばし、精巧に刻まれた金属の針を小さな爪が弾いた。
いつもは何も起こらない少女と籠の中の鳥だけの眠れない夜の夢見る遊び。
それが、まさか"ふしぎなこと"のはじまりになるなんて]
はじまり、だよー。
[きらきらと月明かりの中で忙しなく針は巡り、巡って
マホガニーの上に広げ、描かれた線がまるで星図のように煌めきを伴うのを
驚いた顔の少女と青い鳥が瞬きも忘れて見つめた]
7人目、?? がやってきました。
―???―
―――、
[遠くから己を呼ぶ声に、 はく、と少年の口唇が戦慄いた。
その空気の震えが韻になるよりも先、
視界は己を浚う風に飲み込まれていく。]
[暴力的なまでの霊力で己の身体を叩くだけだった風に、次第微かに冷気が混じる。
…その空気が孕み始めた緑の香りに気付き、僅か一度瞬いた。
己の。否、己の故郷と似た――馴染みが深く、それでいて異なる、森の気配。]
――選定に従い、馳せ参じた。
[ようやく視界が晴れる頃。
齢十六、十七の風貌をした少年は、聊か不釣り合いな剣を抱えるようにして、魔力の奔流の名残を金色の髪に孕ませながら、その地へ降り立った。]
…俺を呼んだのは、誰。
8人目、??? ??? がやってきました。
― 南ブロック 住宅街、古びた洋館 ―
[煌めきの中、マホガニーの机の上に広げられた古びた紙。
更にその上に乗った金属の塊の傍らに光が収束する。
徐々に人の形を模りはじめ、
星が散り光の奥に色が見え始める。
素足に薄布一枚の姿の男の姿が
青い羽の鳥とは対角線上の机の端に現れて、]
…、私を呼んだの
〜〜っ
[落ちた衝撃で机が傾き、
鳥が羽ばたいた音が耳に聞こえた。
足と尻に痛みを感じた。
上体だけ起こし、膝を曲げる。
右腕で腰の辺りを摩りながら、]
あぁ、えぇと…
[左半身を確かめる。
五指を動かし拳を握る。
なるほど、と何かを確かめる間。
視線はゆっくりと腕をのぼる。
見覚えのある囚人服だった。
眉間に皺を寄せるのは一瞬。]
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