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―翌朝・談話室―
[自分を…還れぬ夢の故郷の桜の下に、埋めてほしい。
それが終わったら―――お前を解放するよ、自由になれ。
そんな残酷な遺言を残して、ひとり、置いて逝った養父。
自由になど、なりたくなかったのに。
望みは、ただ――あんたの為に、死ぬことだけだったのに。
解放されてなお、囚われたままだった狂った心]
―翌朝・談話室―
……ごめん、なあ…。
[微かな囁きは、かつて―――そして今、
自身のせいで殺してしまった帰らぬ人々にだったのか。
それとも、守れなかった大切な人狼にだったのか。
目の前の最後の人狼を、一人残していくことにだったのか。
薄れ閉じゆく空色の視界の端。
愛おしんだ淡い薄紅の最後のひとひらが、
幾人もの血の香りの残滓を漂わせ、
昏く澱んだ空気に溶けるように、はらり、*散った*]
―??―
願いたいことがある。
幹に刻まれた年輪のように、積み重なった記憶が“これまで”になって、そのひとを形作ってゆくのだろうと思う。それは、その人を見つめたときに目の奥に見える痛みだったり、強さだったり、優しさだったりもする。
あの最後の日、昔のことを話してくれた棗。
冷静で、頼りになって、そんな姿の奥に寂しさと優しさを隠していた、大切な仲間。
ずっと支えてくれて、最後まで頑張って、生き延びてくれた。
誰がなんて言っても、僕は棗の味方なので、これからも生きていってほしいと思ってる。
このことが始まった夜明け、この不器用な手は、一冊分の紙束を支えられる力しかない、そう思ったので――
その手でできる分のことを、やってみた。
ただの自己満足、随分と身勝手な性格だ。
だって、一緒にいるといったけれど、それでもやはり――残して置いてきた。
だから、もう何も出来ない。言葉も届かない。
それでもやはり、願わずにはいられない。
今は難しいかもしれないけれど、いつか、生きていて良かったと、一度でもいいからそう思ってほしいと――そんな、どうしようもないきれいごとを。
出来るなら、別れたあの日のように抱きしめたいけれど、腕がないからかなわない。
あんな手でも、いま、こんなにも欲しい。
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2月3日
図書館に行った。
脚立から落ちて本をばらまいて、司書さんに注意される。
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そのときのことは、この二行から思い起こすことしか出来ない。
たぶん、すごく迷惑をかけたんだろうな。
なんて言われたんだっけ「図書館ではお静かに」、ちがう、これは別のとき。「どいてください」――本を下敷きにしてしまったんだっけ、たぶん、そんな感じ。
驚いた様子はなかったと思う、少し迷惑そうだったかな、どうだっけ。ただ、投げかけられた目線が、落ちて打った箇所にちらりと落とされた、そんな気がしたので。
たぶん、本当は優しい人なんだな、と思った。
―シモン襲撃後―
[徐々に男の身体から血の気と、力が抜けてゆくのを感じた。
完全に動かなくなったのを確認し、そっと牙を離す。
これで、この閉ざされた村から、人間はいなくなった。]
―――……あは…あはは…
楠、柳、勝ったよ…
…ハッピーエンドだよ…
[形見の絵本とぬいぐるみ。
そして、手帳を抱きかかえ、仲間に報告する。
散って行った仲間達の死を無駄にしなかった。
人狼の勝ちだ。喜ぶべきことだ。
しかし、感じるのは虚しさのみ。
なぜ?勝ったのに。望み通りに、なったはずなのに。]
― 回想/ヨアヒムの死後―
[友人だと思っていた人狼を、その手にかけた瞬間、
脳裡を過った、幾つもの記憶とも夢ともつかぬ断片>>4:77]
初めて逢った時、雪道の溝におっこちていた青年>>4:58
どこか、心許なげで、放っておけないような気がして.
彼が働いていると聞いたから、様子を見に宿へ行った.>>4:59。
手帳を使っている様子と、常の物忘れから。
記憶に困難を抱えているのは気づいたけれど。
いつも一生懸命で、周りを思い遣ってばかりで、
無理にでも笑おうとする彼に。
大切だった養父を亡くした心の奥の、
冷たくなっていた何処かが、あたためられるような気がして。
食事の為といいつつ、宿に通う頻度が増えた自分に気づいていた]
― 回想/ヨアヒムの死後―
[記憶のことだけにとどまらず、慣れない村の生活で、
色々と心細かったり、ままならぬと思うこともあるだろうに。
『大丈夫』が口癖の彼に、
いつのまにか自分もそう口にできるようになっていて。
その変化が、嫌ではないことが、不思議だった]
[彼が、友達がほしいのだと、零したのはいつだったろう。
思わず、きょとんとした様子で、見返してしまった。
一般的には、この村で彼がよく話す人達や、
自分は、友達という範疇に入るのではないかと、想っていたから]
― 回想/ヨアヒムの死後―
『…こら。友達が欲しいなんて言われたら、ちょっとさびしいぞ?
俺は、ヨアヒムのことを、
とっくに友達だと思っているんだから。
一人でいるとき、ふっとヨアヒムの顔を見たいと思う。
どうしているだろう、会いたいな、と考える。
ヨアヒムが笑っていてくれると、嬉しい。
楽しそうに笑う声が好きだ。
ただ、料理したり掃除したりを、見ているのも好きだ。
何か困っていたら、頼ってほしいと思う。
助けになりたいと、守りたいと思っているよ。
―――これは、友達じゃないか?
ヨアヒムにとっては、足りないか?
[微かに不安そうな空色をむけて、首をかしげれば。
彼はどんな顔をしたのだったか。]
― 回想/死ぬ直前―
[舞い散ったひとひらの薄紅とともに、
男の命の灯火が掻き消える瞬間。
心に浮かんだのは、友達だと告げた時の友人の顔。
それから、泣きそうな顔で笑った、あの夜の微笑み。
その理由を、きけることがあったなら……。
そう願いながら、空色を閉じた**]
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