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[ふと背後から声をかけられ、言葉が止まる]
絵崎…君。
[四人との間に立つように一歩前に出て、嫌な笑いをする青年を見つめる]
何、ちょっと遊んでいただけよ。絵崎君こそ、今までどこにいたの?
[その視線は真っ直ぐと東吾を捉えて、離さない]
― 寝物語の昔ばなし ―
むかーしむかし、片腕をなくした鬼がおりました。
だいじなだいじな右腕、どこにいってしまったやら。
鬼は、ながいながーい間、捜し歩いておりました。
どれほど月日が経ったでしょう。
ある時ある村にたどりついた鬼は、なんとまあ!
村の真ん中の祠にその腕がまつられているのを見つけたのです。
『やい、これはどういうことだ』
『あれは天から落ちてきてのう、ブキミがっておったが、ふしぎと良いことが起こるようになったので、いまでは守り神になっておるんじゃ…』
それから、鬼は……
うぐッ
[光に突き飛ばされ、地面に身体を強かに打ちつける。
身体は悲鳴をあげているはずなのに、淡雪を睨みつける視線の強さだけは変わらない。
起き上がろうと腕を立てる
が
がくり、その腕は、身体を支えられないようで、がくりと折れる。]
[……チッ、使えない男]
[何気ない昔話を語って聞かせたことは覚えている。小さな手のひらも。でも、それ以上が掴めない。取り戻せない。
知っているはずなのに。ぽっかりと穴が空いたように大切な何かが抜け落ちている]
[どこに、どう、ぶつければいい。
いまさら、いまさら、いまさら……。
黄の祭服と颯太がぐるぐると目の前にちらつくも、淡雪の不思議な力で忽然と消え失せてしまった今、どうすることもできない――
悲しみと怨みとがじわりじわりと身を侵し、様々な悪霊のそれと混じり合って溶けて行った]
[突き飛ばされてもなお、翔太の瞳からは憎悪の炎が消えない。この世の全ての憎みを凝縮したと思えるような、強い敵意。それはよく見ると、ヒカルではなく、背後の淡雪に向けられているようだった]
ハァー、ハァー。
[気は動転し、呼吸はいつの間にか荒くなってる。現実に飛び出してきた異世界の魔物に襲われたような恐怖。足はガクガクと震え、心臓はバクバクと波打っている]
――……、……、
[帰ってきた、はずだ。あんなところは、知らない。
あんな怖いセカイは別のもので、私とは何の関係もないはずで。
だから、私は元の私であるはずで。だけど、でも。
……多美に守られるように、その背を眺めて座り込んで。
東の腕を抱きしめて、震えていて――、
でも――そんなのって、そんなのが、石川美奈だったろうか?]
――……違う。
[両腕で抱いていた東の腕を、放して。
パーカーのポケットに、両手を入れる。
左右の指先が、煙草のパッケージとライターをそれぞれ、探り出す]
――私は、石川美奈は、こうじゃないか。
[パッケージの隅を、とんと叩く。
反動で箱から飛び出した煙草を、流れるように咥えて。
やはり、ライターの着火から、最初の紫煙を吐くまでも、一動作]
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