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そうですねぇ。
[ニクスの顔がぱあっと明るくなるのを見て、まだ幼い子どもを見つめる親のような視線になる。]
僕はワルツは苦手ですけれど。
……なんて。冗談です。
ニクスさんは「ダンス」はお得意ですか?
ならば良かった。僕も楽しく「踊れ」そうです。
ザリチェさんの元にも、お誘いは来ているのでしょう?
誘い……さてね。
少なくともまだ来てはいない。
[興味をなくしたように、スッと目を細めた。
うっすらと笑みを刻んだ唇の、形は変わらずに冷たさが漂う。]
行きたければ行けば良い。
ジュアン。
良い相手に恵まれるように「祈って」いるよ。
そこのお嬢さんも……ニクス、だっけ。
皆で愉しくお遊戯を愉しんでおいで。
ええ、もちろん。
よほどおひとりが好きなのですねぇ…ザリチェさんは。
僕はあまり「ひとり」というものが得意ではありません。
だから騒がしい場所に行きたがる。
[琵琶の瑠璃が、一斉にまたたく。
キロリ、キロリ、キロリ。]
……もし僕と遊んでいただけるなら、是非後ほど。
大勢の前が苦手ならば、ふたりきりでお会いするのも構いませんよ。
シャイなお方も好きですから、僕は。
[ザリチェにくるりと背を向けて、すっとニクスに手を差し出した。]
どうぞ、お嬢様。
ダンスパーティにエスコートいたしましょう。
せっかくおめかししたのですから、少しくらいカッコつけてもおかしくはないでしょう?
[にこりと、笑った。]
嘘ばっかり。
[冗談と口にしたジュアンに、眼を細めて言う魔の面差しには、幼くはあれど無邪気というには、僅かに艶が滲む]
さて、踊りは、どうだろう。
音を奏でるのよりは、ずっと得意ではあるけれど。
[ザリチェの冷たさを孕んだ笑みとは対照的に、拗ねたような色を含ませて]
お嬢さん、じゃあないよ。
お坊ちゃんでもないけれどね。
ザリチェはもっと愉しいことを知っているのか、
それなら、いつかそれも教えて欲しいな。
あは。
それでも、エスコートされるのは悪くはないかな。
[淑女を真似てスカートの裾を摘み、腰を屈めて一礼すると、差し出されたジュアンの手へと、少女の如く細い手を乗せる]
[ひらり、と傍らの闇馬に跨る。
ローブに入った深いスリットから、すんなりした足が覗き、太腿の付け根まで露わになる。
慇懃に馬上から二人に向かって一礼すると、愛馬の横腹を軽く叩く。
合図を受け取った夜色の馬はいなないて、宙へと駆け上っていった。]
[ザリチェに背を向けたまま、小さく首を傾げた。
かれの赤い髪が、うなじをサラリと流れる。
――首のあたりの肌が、ざわりと騒いだ。
――目で「視る」よりも鋭敏に、耳はザリチェの衣擦れの音を察知し――]
ダメですよ、ザリチェさん。
そんな刺激の強い乗馬姿であちこち廻られては。
ニクスさんの「教育」によろしくないです。
それに……つまらぬ者から、要らぬ味を食べさせられることになるやもしれませんから。
[ふっと口元を歪め…]
……呉々も、お気をつけて。
さぁて。
[すうっと目を細め、ニクスに笑いかけた。]
お待たせして申し訳ございません、ニクスさん。
そろそろ「ダンスパーティ」の会場に行きましょうか。
せっかくそんなに可愛らしい恰好をしているニクスさんを、皆さんに見せないのは勿体ないですから。
では僕が手を取る間は、「リトル・レディ」で居てくださいね?
[眼差しだけを天駆ける馬とその主へと向け、晒される白い脚を目にしても、性無き身体ゆえか幼き思考ゆえか、何ら感情の動きを示さない。返らぬ答えをつまらないと思う程度だ]
うん?
今までの退屈していたのに比べたら、ずっと短い時間だよ。
[それでも「遊び」の場に行けるのだと知れば、気は逸る。
先んじて踏み出しかけた足は、触れた手の温もりを感じて止まった。対する幼き魔の手は、水に触れていたためか、冷たいが]
褒めても何も出はしないけれど、
代わりに、ジュアンの言うことを聞くことにしよう。
[悪戯めいた表情に柔らかみを帯びさせ、小首を傾げて深い青を揺らす]
――それでは、連れて行ってくださる?
[下から覗き込むように、*見上げた*]
[夜の馬は黒い矢となって、輝く雲を貫く。
獣の首を抱き、その背に身を預け、自らも空を裂く矢の一部となる。]
……別にシャイな訳でも独りが好きな訳でもないんだが。
[物憂く独りごち、獣の膚に頬を寄せた。]
……ええ、もちろん。
可愛らしい「レディ」をエスコートする役割をお任せいただき、光栄にございます。
[恭しく一礼すると、血色の良い爪を持つ方の親指で、ニクスの冷たい指先をそっとなぞった。]
ですが今日は「エスコート」までですよ。
それ以上の「遊び」は、また今度。
淑女の「色」があなたの瞳に宿ったら、その時にお願いいたしますから。
[屈託のない笑みを浮かべると、ニクスと共に何処かへと*消え去った*]
―ヴァイイ伯邸 広間―
――…。
[葡萄酒色の液体が満たされたグラスを手にする。
すいと飲み干してテーブルへ。
同じ思惑で観察する視線を向けてくるものも居るが
さして意に介さず。
黒いコートはするりとほどけて消える。
天鵞絨のような風合いを持つ燕尾の上着は矢張り黒。
白と黒、薄い素材の手袋は外さず。
長椅子に腰掛けると両の指を絡めて、
脚を組んだ。]
村の設定が変更されました。
なあ、物欲しげに阿呆面晒して死びとの城に群れ集うなどぞっとするよ。
そこに集まる大勢の魔のうちの一体になって、何が愉しかろう。
「ああお前も」と肩を叩いて談笑しながら殺し合うのか。
「誰でも良い」のは大嫌いだ。
[形の良い眉を顰め、吐き捨てるように呟いた。]
己はただ一人(いちにん)、己だけでありたい。
天の下、地の上、地の下に、比べるもの無く己だけで。
[聞き様によっては神や魔王の怒りを買いかねぬ、恐ろしく不遜な呟きを風に流し、目蓋を薄く閉じた。
長々と溜息が、唇から零れた。]
……退屈で死にそうだ。
[その時、疾駆する闇馬に必死で追いすがる小さな使い魔の姿を、視界の隅に認めた。
毛玉に鳥の羽が生えたような姿の使い魔が、懸命に翼をばたつかせてこちらに追いつこうとしている。
愛馬の首を叩き、速度を落とさせると、使い魔と並んで飛翔する形となった。
すると、絶え間なく毛玉の奥から洩れていた叫び声がはっきりと聞こえるようになった。
それは、明瞭にザリチェの名と一続きの文章を繰り返しているのだった。
さっと手を振り呼び寄せると、よたよたと使い魔は羽ばたいて、更に近付いて来た。]
それは、あらゆる手段と形を以って等しく後継者「候補」達に伝達された。
門扉の前の石版、使い魔が運ぶ伝書、覗いた水鏡の中に結ぶ画像、開いた書籍の頁に浮かぶ文字として。
『……故ヴァイイ伯居城大広間の、銅鑼が5度打ち鳴らされるを以って、開始の合図とする。
期限は無期限。
戦闘領域は魔界全土。
闘いは候補者がただ一人となるまで続けられ、
伯の居城にて、見届け人が勝者を確認した時点で終了となる。
見届け人は、偉大なる魔王陛下の命により、公爵バティンが務める。
候補者の名は以下の通り。…… 』
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