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[そう思ったはずなのに、私は生きていた。
生き汚く生きていた。夢に逃げても生きていた。
忘れたかった。憎しみも 愛情も
忘れてしまえば楽だった。
けれどできなかった。
ハルのように忘却の彼方へ想い出を押しやることはできなかった。
だって忘れてしまったら
あの子をあの子と思えなくなって
私がもう私ですらなくなるのだから]
[覚えていたい。愛していたい。
幻の中でもいい、ずっとずっと一緒にいたかった。
見ていたかった。
言葉だけはいつも拒んだ。
憎まれ口も叩いた。拒否もした。
けれど、私は一度として
追い出そうとはできなかった。
それが彼を苦しめ続けることだとわかっていても
私を苦しめることだと分かっていても。
永く永く近くにいたかった
それが私の業だ。
清廉からほど遠い、醜悪な私の姿だ。
だから腐りたかった
朽ちたかった]
[酷い私だ。汚い私だ。
欺瞞だらけの私だ
そんな私は── もういらない
いらないのに]
助けて……グレイヘン
私を助けてよ。
私をどこか知らない世界に連れて行ってよ。
私を私から解放して。
怒りも憎しみも愛情も忘却も
何もない世界で 最後に逝きたいよ
……それだけ、大事だったんだろ?
忘れていないと、夢さえ紡げないほど。
そんな風に、自分を卑下するこたないさ。
[寝転んだまま、ハルが言う言葉に
調書で見た名前を思い出す。
彼方。それは、今も彼女の意識にはなく。
渡された花冠。白と、赤が揺れる。]
軽い、もんじゃないけどね……
あーあ、仮面、かぶるのは面倒なんだけどなー
[使用人”たち”のこと、そう言われて
花冠、受け止めながら肩をすくめ
ちょっと、駄々をこねるように
頭に花冠をおいてぼやく。
残る、右手には、仮面。
それは普段のものではなく、無表情の。]
[ちょっと、グーグルに「ブロア家」と、入れて欲しい。
すぐに出てくるだろう?
そう、それが俺と姉の生まれた家だ。
ブロワといったほうが有名かい?
中世から続く王様までいる家だ。
何故道化師なのか?
何故仮面が必要なのか?
何故……………]
[少女は世界の秩序を知らない。
ただ知っているのは自己基準の情と歪な視点。
語られる彼女の生は、思い描けばとても苦しい。
この冷たい風はきっと。
愛も憎もひっくるめた全ての感覚を麻痺させるための風]
汚くて醜くたって。
綺麗なままのリヴリアなら。
私はリヴリアには会えなかった。
私は今のリヴリアしか知らない。
[醜さを見詰めて、自分を捨てたくなるほどに
苦しみに溺れても命灯を断つ事ができない]
……わからない。
忘れちゃったから。
[ダハールの言葉に、穏やかな笑みを浮かべて少女は答える。
"たち"が指す言葉。誤解が生じていることが悟れるほどに少女は聡くはない]
後悔してからじゃ、遅いんだよう。
[もう後悔することもできない少女は、そう言って笑う]
うん、やっぱり花冠、ダハールちゃんも似合うよう。
でもそれは、リヴリアちゃんのだから。
ちゃあんと、渡してあげてねえ?
生きるのって、苦しいね。
心を掻き立てられずにはいられない。
静けさを求めても、手に入らない。
――……いこう?
皆、現実の世界に戻ってる。
それはリヴリアの望む人、全員にできるかは判らない。
それでも。
まだ、会える、触れられる。
[背伸びして両手で頬に触れる。
白蛇は手首に巻き付いて主をじっと見詰めていた。
ベリーはただありのままの少女を映して。
涙を掬い、腐り凍り付きかけている体を抱き締める。
幼いままの体で、精一杯に、強く]
ずっと、生きていかなくたって良い。
終わりの場所を探すためだけの生だって、良い。
リヴリア=ブロアはここで死ぬ。
そうすれば、貴女はただの貴女になれる。
そうして。
ただの貴女として死ねる場所へ、旅立つの。
それが何処か、私にはすぐには答えられない。
だから、今すぐ貴女をその場所に連れて行く事はできない。
でもね。
貴女がそこを見つけるための場所に。
私は連れていってあげる。
それが、私にできるたった一つの事だから。
………そっか……
[聡くても、俺はここでブロアを名乗っていない
だから、気づかないのは当然だ。
きっと、家族か誰か、と思ったのだろう。
実際は、現在空白となっている
ブロア家当主と言う 役割、なのだ。]
後悔って言うのはね、
IFを思って夢見るから、できるんだよ。
もう、俺には現実しかない。
[もしも、あの時〜していたら。][それが後悔。]
[最初から、俺には夢はなかった。
姉の夢で知ってしまった、
それは別世界、IF世界。
現実は、ただただ事実が横たわるのだ。
そこには反省とその反映しかなく。
後悔の甘く苦い自己嫌悪という名の
自己憐憫に浸る余裕などないのだ。]
[望むなら、渡り鳥は。
リヴリアという名の少女を殺めよう。
そしてただの少女を連れて帰ろう。
家も苗字すらも何も持たないただのグレートヒェンは。
誰かを殺したって、平気。
どんな批難も責任も。
受け止めて傷がつくものはないし失うものも何もない]
ここは、寒いよ。
それに、疲れたでしょう。
[凍えた心。
暖めるにはこの場所はきっと彼女には苦しかったのだ。
夢の中でも仮面を被り続けて。
安らぐ事もできず今まで磨り減ってきたのなら]
……だから、俺は男だって。
[俺は、身体を起こすと
仮面をかぶる前に、ハルに笑って
頭を一つ撫でて。
そうして、仮面をかぶる。
花冠……いや、ブロア当主として
最初の仕事]
[そこから掬い上げて。
暖かい場所へ、眠らせて上げる事を。
ねえ、かみさま。
もし存在しているのなら。
無慈悲な貴方だって待っていてくれるでしょう?]
[家族というのは、時に身勝手である。
延命治療の拒否をする本人に
延命治療を施すが如く。
”どんな姿でも生きてほしい”
美談でもあるが
……当人を苦しめる枷ともなる。]
[けれど、除名により
リヴリア=ブロアは死ぬ。
残るのは、私には名も知らぬ女だ。
生も死も、好きにすればいい。
noblesse obligeとして
治療費の施しが必要ならば好きにすればいい]
[2人を包むように広がる翼を丸めて。
少しの温もりを分け合いながら、少女を促す。
この風の止まる場所へ。
まだこの世界に留まる者がいるであろう場所へ。
まだ。
花畑の形を保つその場所まで]
→ おはなばたけ ―
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