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ハルのところには、やっぱりいかない。
リヴリアはいけばいい。
[そして、そこへ行こうとしている弟も。
今顔を見れば腸が煮えてしまいそうだったから]
ぐれいへんは。
おせっかいしか、してないね。
[間延びした口調は相変わらず胡散臭くて、
黒いワンピース、白い肌、
夜を思わせる姿は未だ苦々しい。
けれど――握りこまれて告げられた彼女の「望み」。
夢のまた夢だと言いながら、
確かにこちらに求めていること は]
君は………。
私といっしょに、 『 いきたい 』 って言うのか?
[重ねられた手元で触れ合う太陽と星を見下ろしながら、
肯定でも否定でもなく、その中間の位置で
困り果てたようにぽつりと呟いた]
― そら ―
[もう涙なんか零れるわけないと思っていた。
だけど。
ベリーの瞳から粒が零れて、零れて]
……カスミと。 ミズキを。
つれて、いって。 それで。
それで――。
[もう、終わりにすれば良かったんだ。
所詮は他人なのだから。
所詮は、自分だって要らぬ世話しかしていないのだから。
だから、もう。
きっと、この世界で朽ちる事なんて、できなくなった。
彼女達のいる世界で。
静かに朽ちる事なんて、できない――そう思った]
[本当は結論はとっくに出ていた。
ストラガン爺さんが戯れであんなことを言わない人だって
俺だってよく知っている。
むしろ、言葉も行動も慎重で。
それでも、彼は言ったのだ]
[仮面をかぶり、単純に姉を心配し
生きてほしいという気持ち。]
[けれど、結論を出そうとしなかった。]
[それでもいいと言えるほど
両親を殺した姉を
そのまま、なかったことにして受け止められるほど
家族中、悪かったわけじゃない。
母と姉は折り合いが悪かった。
姉も母も気が強かった。
きっと、自分がいないことで狂った歯車もあるだろう。]
[だから、これは、自分の罪であり罰であり
姉に対する罪であり、罰であり。]
[単純に姉だけを断罪することもない。
彼女だけを恨むなんてこともない。
自分も主原因の一つだ。
それが家族というものだ。
家族内での深い問題に関係ない人間などいないのだ。
草葉の陰目を開ける。
普段の介入とは違い、
今は、姉の手を握って介入している。
ハルはまた花冠を作っているかな。
そう思いながら
桜の木あるはずのそこへ足を向けて。]
そうかい……
[飛び征く小鳥を振り返ることも出来ずに一言呟く。
怒っているのだろう? まあ当然だ。
私なら胸ぐらを掴んでぶん殴っているところだ。
望めば何でもできる夢の中で
素顔を隠し心を隠し
生きもせず死にもせず
ただ逃げ回って流されて廻って廻ってここまできて]
ごめんね
[渡らせたかったのだろう。救いたかったのだろう。
届けたかったのだろう。私を遠い光の先に
それに応えることはできなかった。
実を晒せば傷つける
真を晒せば苦しめる
だから仮面をし続けた。
泣いているのだ
笑っているとき
自分でもわからないその思いをひた隠し
仮面は嗤う──]
[この世界は夢物語で。
例えば俺が単純に手を伸ばして、
願いの一つでもすればまた違うだろうことは
そんなことはわかっている。
仲がいい兄弟だったのだ。
追いすがって、掴まえて。懇願して、
思いのたけをぶちまけて。
苛烈な性格は姉の性格だけれど
その苛烈さがないわけではないのだ。
けれど、それをずっとしなかったのは?何故か。]
[現実は夢物語ではいないのだ。
簡単には救えない。いや、救う、その言葉が
そもそも傲慢にかわるのだ。]
[唇を噛み締めて、少女は都合の悪いことを"なかったこと"にしようとする。
お花畑の花が、しおれるなんて、ありえない。
だからこれは、なかったことだ。
作りかけの、しおれたレンゲの花冠から顔を背けて、少女は自分にそう言い聞かせる]
……ほら、やっぱりハルの勘違いだった。
[そうして顔を向けると、作り掛けだったレンゲの花冠は、跡形もなく消えていた]
――ぐれいへんなんかが。
だれも、あいしてない。
だれにも、あいされない。
そんな、まいごで、ぼっちの、ただのとりが。
だれかを。
すくえるはずなんて。
なかったのに。
[空の上で、何度も何度も目をこする。
視界が霞んで見えなくなって。
風の声も聞こえなくて。
何処を飛んでいるのかすら、わからない]
[そうして、少女はまたレンゲを摘み始める。
いつもぽかぽかのお日様が、雲に隠れてしまったのには、気づかない振りをして。
いつもより髪を揺らす風が、ずいぶん冷たいことには、気づかない振りをして]
桜の花びらで首飾りを作るのもいいねえ。
誰が似合うかなあ……。
[ふわふわの、わたがしのような女の子の姿が、一瞬脳裏を過ぎって、すぐに消えてしまった。
そんな子は、知らない。
消えてしまった。
忘れてしまった。
覚えていなければ、もう会えないことを寂しいと思うことはないのだから]
― 常春の花畑 まだ、桜の木はあるだろうか ―
[たどり着いた常春……花の様子、
今はどうだろうと
領域の端植物を確認する。
ハルはこの世界から枯れたものを排除しているか否か
それは、いま、俺の目に映るだろうか?]
[桜の木の下で、レンゲを摘む。
心なしか、お花の元気がないのは、お日様が雲に隠れたから。いや、今日はいい天気のはずなのだから、そんなことは気のせいだ。
かすかな違和感を誤魔化し、誤魔化し、少女はせっせとレンゲを摘む。
お花畑は、一見大して変わっていないように見える。
しかし、お花畑は広い。
よく見れば、くったりと元気のない花々を見つけることができるだろう。
普通のお花畑では当たり前のこと。
けれどここではありえないこと]
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