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…ふん。勝手に行けばいいだろう。
[寝転がったまま、大河内に視線を合わせることは一度もなく。]
そういや。
こうなった以上、餓死することはないんだっけなぁ…?
[面倒な身体になったものだ、とぼやく。]
[演技を辞めた二人の様子に、議論していた顔ぶれも、真実を悟っただろうか。
冷たい、しかし意思を宿した目で彼女たちを見やった。]
ごめんなさい、こういうことなのよ……。
私は、もうとっくにそっち側の人間じゃ……ないんですよ。
[座り込んだ綾華に、ふわりと歩み寄り、頬に手を伸ばす。
優しい声で囁く。]
あなたも、こっちにいらっしゃい。
山科さんも……待ってるわ……
[願うことはただひとつ。
いつか、屍鬼を退治する者の手によって。
死にながら生きながらえる、このおぞましい肉体を破壊してもらうこと。]
[隠れ潜んでいたモノ達が、山から鬼が、降りてくる。
村にじわりと死が浸透していく。
――この村は、死によって包囲されている。
もうそれを阻む者はいないのだ。]
やっと、叶いましたね、雨宮さん。
[彼女をここに連れてきた青年は、いつからずっと"青年"なのだろうか。
彼女がずっと、三年前から見てきたあのひとに似た寂しそうな瞳。
癒せないあのひとの傷の代わりに、せめてその瞳の色を変えられないかと、自ら望んで血を捧げた。
もし、これが一時のまやかしだとしても。
静かな瞳で村を、眺めた。]
[仰向けになったところに圧し掛かられれば、いよいよ、と
自然に眉根が寄り、きつく地に爪を立てるようにして歯を食いしばる。]
―――、っ…?
[杭の先端が鳩尾あたりにずれるのを感じれば、
何故そんな事をするのか、真意を図るように相手を見上げ。
一瞬、相手が微笑んだように見えたのは、気のせいか。
振り上げられた木槌に、反射的にきつく目を閉じ。
衝撃と痛みに、悲鳴に近い呻きが漏れた。]
― 神社 ―
おやおや、また生きたまま連れて来ちゃったんですか。
痛いんですよ。
[宮田から差し出された肉体へ視線を向ける。
そう言いながらも、気持ちは赤い液体へと釘付けになって
新鮮な血が流れ出す胸元へ、むさぼる様に吸い付く。
空腹を満たしたところで、まだ生きているであろう和泉へ語りかける。]
痛いですよね、怖いですよね。
でもね、和泉さん、こうしてお迎えに来たから、心配する必要はありませんよ。
安心して、"眠って"下さい。
気持ち良いお目覚めを待ってますね。
[彼に意識があり、その声が届くか否かに関わらず
優しく呼びかけながら、首筋に牙を立てた。]
―神社―
[杭を打たれた箇所が、灼けるように熱い。
痛みで、気が遠くなる。
何かが、おかしい。
身体を引きずられて、痛みに何度も意識が飛びかける中、違和感を覚えた。
宮田は、明らかに自分を屍鬼と思って杭を打っていない。
――――まさか。
思考のまとまらない頭の中、その事がおぼろげに浮かんだ瞬間
何もかもが遅すぎた事を知った。]
―神社―
……おおこうち、さん。
[自分が杭を打ったはずのその人が、”起き上がって”いる。
きちんと心臓を打ててなかったのか。
自分の胸から顔を上げた大河内の口許は、血で濡れていて。
何か語りかけられたが、もう思考できる状態ではなかったけれど。
安心して、"眠って"下さい。
そう言われた瞬間、何故だか少し気が楽になった。
牙を立てられると、痛みが酩酊感に変わる。
そして、意識は闇に落ちた。]
離れ離れは寂しいでしょう……?
有無を言わさず連れて行く、それを許せとは言わないわ。
奪っておいてこんなこと思うのは傲慢だって分かってる。
それでも、私、残されたひとを見るのは辛いのよ。
だから、こっちに、一緒に、なりましょう?
[体温のない手で肩を抱き、じっと見つめた。]
[もう、きっと。
自分の知ってる、お兄ちゃんでは無いだろう。
そう思うと、自分も自分で無くなるのだろうという、そんな悲しさがこみ上げて来て。
葵を見詰める目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた]
[最初の"食事"を済ませ、眠りについた和泉の身体を起き上がるまで丁重に保管することになったが、その役割は他に任せて
屋敷へ戻る道のりを歩いていた。]
この村は……、何も変わっていない。
[たった数日前に、"生きた人間"として歩いたこの道も随分懐かしい場所に感じられた。
とある曲がり角にたどり着いた時、不意に誰かとぶつかってしまった。]
ごめんなさい、よそ見をしていたもので。
……夕凪さん?
[視線の高さが同じになるように、しゃがみこんで手を差し伸べながら、自分が"死者"であることをすっかり忘れて声をかけた。]
そんなに慌てて、どうしたんですか?
おやおや、しかもそんなに赤い目をして。何か怖いことでもありましたか?
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