812 凍れる水車と奇跡の夜
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キリル
［妖精の唄は、終わり
最後の一説を終えれば、耳の痛くなるような静寂に落ちる
雪の降り注ぐ音だけが鳴り響く
しんしん
しんしん
キーラの周囲をくるくると回っていた赤いひかりが
螺旋を描いて昇華する］
キリル
［―――――ギイ］
［ゆっくりと、ゆっくりと
音を立てて、門扉が開いた ］
［おまつりが おわってゆくような
せつない おとだった］
キリル
欲しいものが有るんだ
良いかな？
［問いかけるは、ルサールカ
笑顔で催促するは美少年］
リンゴが欲しいんだ
甘い、蜜たっぷりのリンゴ
昔ね、お父さんとお母さんが遠くから仕入れてた
あの、リンゴが
［留守がちの行商人の両親と共に食べた
優しい味のコンポート
数少ない、家族団欒の記憶］
キリル
［両手を差し出せば
紙袋いっぱいの、真っ赤なリンゴ
赤い夢の続きのような、艶やかな赤
ルサールカが、淡く微笑んだように見えた］
ありがとう
完成したら、ちゃーんと振舞うからさ
キリル
［キッチンへ戻りがてら、袋から一つ取り出し齧る
甘い甘いその味は、昔味わったそれのまま
両親と過ごした時間は、まるで楽園のよう
楽園の暖かさを、皆と一緒に――**］
死に損ない ロラン
カツカツカツ。
[重い革靴の音。視界に飛び込んでくるのは、横の床を歩く制服姿の男]
（ああ、そうか）
[自分が横たわっている頃に、のんびりと気づいた]
――……。
――…？
――……っ！
[自分を見下ろすその男の口ひげが揺れる。何を言っているのだろうか。わからない。聞こえない。格子一つ隔てた先の景色が、どこか遠くの世界のように思える]
░▓▒▓█▓░░▓▒！
[何か叫んだと思えば、誰かを呼んでいるらしい。が、それよりも彼の足元にいる一匹の蛙の存在の方が今は気になる]
死に損ない ロラン
░▓▒▓█▓░░▓▒！ ░▓▒▓█▓░░▓▒！
生憎、何を言っているのか……わからない。
[男の足元で喉を鳴らす蛙に答える。口は動いていなかったが、動かずとも話はできる。"彼女達"とは、そうであったから]
それは――だれ、だ？
[直後に沸く疑問。彼女達とは誰の事であったか]
俺は……しても、いいの……か。
[笑い声。楽しそうに話す声が遠く、そして近く]
ああ、わかった。
[望まれた気がして、手を伸ばす。その時、その手に何かが触れる。赤くもなく、黄色くもない。橙色の石――が
砕けた]
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