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[結局母親がどうなったか、確かめる術もなく
皆の元に戻ろうと歩き出す。
ふと目を遣ると、飛び込んできたのは兼正の屋敷]
あいつらさえ…こなければ…。
[時がゆったり流れる…何の変哲もない田舎だった。
その変哲のない時間を、空間を
護りたかっただけだった。]
―黎明、溝辺町市民病院の駐車場―
[消防署を後にして、彼は早々に病院へ移動した。
もともと、町へ降りてきた目的が病院へ来るため、という事もあったが、それ以上に、村民たちがここに運ばれてくる可能性が高いのでは、と考えたのだ]
それにしても、今夜は、一体何が起きたというのデショウ…。
[山入での意味不明な覚醒から、現時点まで。
全ての事象は、自分の中で一本の時系列で繋がっている。
ひとつひとつの事象は、明らかなのだが、
その支離滅裂ぶりたるや、ひどいものだった]
[日の光を見て、自分の中の何かが叫ぶ。ハヤク、ハヤク、と。
それと同時に、山入の覚醒以来少しも感じなかった疲労と睡魔が、急激に彼へ襲いかかった]
カクレナクチャ。
ネグラハドコダ。
ネグラハドコダ。
ネグラハドコダ。
ア…ア……ア…、アアアアア。
[とりもなおさず彼はセダンのトランクを開き、下敷きのマットを引っ張り出して、それに包まるようになりながらトランクに入り込み、中からトランクの扉を閉めた。
トランクの中でリモコンのキーを操作し、ガシャン、という機械音と共に車のキーがロックされる。
そのまま、彼の意識は闇の中に沈んだ**]
さ。旦那。
早く行きやしょ。
俺が先に行きやすから。
[そう言って、また最上階へと足を向ける。
同じように樹に移り、そうして闇夜に紛れようと]
[男の足は兼正に向かっていた。]
あ、れ…は?
[一人の少女が目に留まる。こんなところに一人でいるのはあまりにもおかしい。
男はその少女に近づく。]
桜子ちゃんじゃないか。
なんでこんなところに…早くにげなきゃ駄目だろ
[逃げるように声をかけた]
[かりそめのグループ分け、情報網は、すでに機能しなくなっていた。
誰もが混乱し、誰もが何も知らず、誰もが夢中だった。
何度目かの「解らない」を聞いて、わたしはいら立っていた]
[……そのせいで、気付いた時には自宅からかなり離れた所にいた。これでは、万一兼正がすでに村を出ていた時に、追いつけなくなってしまう。
わたしはため息をついた]
[呼びかけられたのはそんな時だった]
……あ、先生。
解ってます。そのつもりです。
でも、やり残したことがあって。
……そう言う先生はどこへ?
喫茶店のマスター ディビッド・ライス
― 村→国道 ―
[村の出口、彼の車がタケムラ文具店の辺りに差し掛かった時。
その視界に、いつもは存在しないものが見つかった。車止めのようなものが道をふさいでいるのだ。
彼は、その手前で車を止めて、車外に出た]
コレは、一体何ですか?
[その声に応えるように、物陰からヘルメットを被った人影が表れた。大工の佐藤―いつもタケムラ文具店で井戸端会議をしている老人の一人だ。
元々は、もっと多人数でここを守っていたのだが、結局ここに屍鬼が出てくる事はなかった。そんな状態で火事が起こったことにより、他の面々はみな火事が気になって持ち場を離れてしまい、彼一人だけがここに残っていたのだ]
「あんた、喫茶店のとこの異人さんか。こんな夜中にどこへ行くんだね」
ワァタシィ、あの火事のこと、町に知らせに行くデスヨ。
こんなヒドい火事、電話だけじゃダメデス。誰かが行って話をしないとイケマセン。
[佐藤が『電話は線が切れて繋がらない』と伝えると、彼はさらに激昂して言った]
なら、なおの事、急いで町に伝えないといけないデショウ!
とっととコレをどかしマス!
[言いしな、彼は車止めを片付け始めた。
そもそも、本気で戦いになったとすれば、老人の佐藤と壮年の大男の彼では勝負にならない。彼が人ならば良し、もし「起き上がり」だとしたら、自分は無駄死にするよりも見た事をちゃんとみなに伝えなくてはいけない……。
そう考えた佐藤は、そのままやむなく一部始終を傍観し。
そして、彼は自分の大型セダンが通れるだけのスペースを作ると、再び車に乗り込み国道へ向かった]
コック 須藤暁
―屋敷―
おや、紫苑の旦那。
…伽耶さん、死んでしまったんですかぃ。
それとも…いや。何でもありぁせん。
[なりたくても屍鬼になれなかった娘の骸に、手を胸に当てて礼をした]
はい、村に、火を。
逃げるなら今の内でございやしょう。
[初めて目にしたときは、何処か濁った眼をした娘のように見えた。
自分達、いや、紫苑の旦那と行動を共にしてからは、生き生きとして。
こりゃあ、どっちの世界の方が活きているんだか、分かりゃしないと、笑って見ていた。
ただ寄り添い、ただ与え、ただ…]
いや。
今の内に、早く行きやしょう。
コック 須藤暁
さ。旦那。
早く行きやしょ。
俺が先に行きやすから。
[そう言って、また最上階へと足を向ける。
同じように樹に移り、そうして闇夜に紛れようと]
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