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―中央区→東区―
[サイドカーでユダを回収した偽一は、出来るだけ現場から離れるべく、エンジンをふかしていた。
日が沈み、紅色の空がゆっくりと青紫に染まっていく。]
こういう時間帯を、日本では逢魔時と言うらしいよ。
さっきは日が昇っていて、魔に出会うには、早すぎた気がするんだけどな。
[偽一は、日の照る街中で、多数の人に構わず暴れ出した英霊と魔術師に、戦慄を覚えていた。
しかも、先に暴れ出したのは本来英霊を抑えるべき、魔術師の方だったように見える。]
あの2人とは手を組む要素も、利用する要素も無い。
そんなのはいつか暴発する爆薬を、胸元に抱えているようなものだ。
バーサーカーで間違いないだろう。
彼ら以上に、バーサーカーと言う単語が似合うコンビはいないだろうからね。
[この戦争は、彼らを放置したままで、継続可能なのだろうか。
偽一の中に、そんな不安すらよぎった。]
[逢魔が時。漢字は頭に浮かばないが、
響き特徴だけで何とはなしに意味を察する。]
やつらに時間は関係ないと見える。
……あの眼鏡の男、
逃がしたのは痛手だな。
[握った手を口元に当て、
口惜しそうに眉を寄せた。]
――あそこで殺せていれば…
[ざわり、落ちる影が沸き立つ。清濁正負混在した想いが沈んでは浮く。使徒にあるまじき行為を口にしながら、あの場で飛び出したのはあれらがひとを殺し始めたからだった。]
[ざわつく。
絡み付いた闇は荒縄のように離れない。
己をこの地に呼び寄せた、
その要因の1。
聖盃の穢れ、澱み。
願望器として機能はしながら、
その実すでに汚染されている、漆塗りの盃。
―――何故穢れたのか
それはユダの知るところでは、なく。
恐らくは「彼」も、また同じだろう。]
[闇がわらうようにざわつく。
ユダは首を横に振った。]
…違う
[己は願いを叶えるのだ、
そのためにここにいる。
叶えられないわけが
――ない、はず。
ひとつ息を吐くと、
ユダは眼を閉じた。]
―北区/青丹寺―
[男の姿は、寺院に在った。
澱みを引き連れる男を拒むように、山は啼く。
巨大な影で地を覆い隠し、赤旗を脱ぎ去った男を呑まんとする。]
―――ふん。
さすがに、堪えるであるな。
[表情に、一つとして違和は無い。
もしその半顔が、人の色をしたままだったなら、だが。]
[湧き立つ、熔鉄の半顔。
――起きた異変は刹那の間。
風が一陣横切れば、いつもの皇帝の顔に戻っていた。]
……まだもう少しかかるであるか。
参ったなあ。
想定よりも厳しいである。
[拒む"門"を隔て建つ寺院に望み、男は薄く笑った。]
んフ、相手のマスターでも居ればと思いましたが、さすがにサーヴァント相手では分が悪いですね。
うちの子はすっかりあちらに夢中なようですし……。
アタシは一足先に退散しましょうかね。
[そう言って逃げ出そうとした時、アサシンの放った槍が触手に命中した。
爆ぜたように肉片が飛び散り、右肩から先は無くなっていた。]
ぎゃっ!い、痛いじゃありませんか!
んフー、この借りは、か、必ず返しま……。
[捨て台詞を吐いて逃げようとした時、大量の魔力が消費された。
よろめきながら、辛うじて車まで辿り着く。]
……ん、フ……、ふぅ。
―北区/青丹寺―
[敷地へ入った男は、本堂脇に吊るされた梵鐘へ近寄った。
呪のように掘り込まれた古の文字。意味するところは不明。
呪をなぞり指を這わせ、目を瞑った。]
ふむ。
質、大きさ共に良好である。
[後方に、溶鉱炉は開かない。
機能の代価を果たすのは、皇帝自身の躯。
その腹から、湧き立つ泡と共に、一塊の鉄が流れ堕ちた。
宙を舞う、と呼ぶにはあまりにも相応しくない挙動。
重みに逆らえず、地へと吸い込まれた。
輪郭の曖昧な鉄は、鈍い紅蓮を発しながら、形を成そうとした。
滴る。
形を成そうとする度に、男の腹から、胸から、鉄が滴った。]
[腕が形を失い、肩にかけていた外套が落ちる。
男が背負い続けた血色に浮かぶ月が、鉄に触れて燃え盛った。]
この文字のせいであろうかな。
中々に繋ぎ辛い鉄である。
[――分解は、そこまで。
赤光が腕を壊し半身を壊し、半顔を呑みこもうとした時
鉄は、滴ることを辞めた。]
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