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――何故?
[瞬く。傷は拭われるに任せていたが
そっと止めるように手を重ね]
問題ない、傷は修復はされる。
そのようにできている。
[傷は確かに、塞がり始めていた。]
…、…
インターフェースである私が傷つくのは、
ヴォルバドスとの感覚共有に起因している。
共有することにより動きの精度が上がる。
必要だと判断したが
切り離しがうまくいっていなかったのも
また事実だ。
ッ……。
[その言い分に思わず言葉に詰まった。
傷口は徐々に、だが人では考えられない早さでふさがっていく。
重ねられる手、触れる肌。
もはや何回も感じている、低すぎる体温。]
修復だとか、必要だとか。
そういう問題じゃねぇだろ……。
……――では、
お前は何を問題にしているのだ、
ソウマ。
[ごく僅か、首を傾けるような仕草。
表情は余り動かないが、何処か困ったようにも見える。手は、振り払われなければ重ねたままだ。]
……痛かったんだろうが。
[確かに、痛みに顔を歪ませていた様だった。
搾り出すような声とともに、
重ねられている手を取り、握り返す。]
苦しかったんだろ?
なんでそれを問題にしねぇんだよ!
辛かったら逃げればいいだろうが!
避けて通って、危険のない道を進めばいいだろうが!!
―――なんで、自分から……
死にに行く様な真似するんだよ。
−夜/ホテル付近表通り−
…他に、何にも
[ぽつん、と繰り返す。
澄んだ金色を手に小さく息を吐き出した]
何にも
[考えたことがないのか、それとも忘れているのか。
世界にもうまく馴染んでいないことはわかっているし
欠落したたくさんの記憶はどうやったら帰ってくるのかもわからない]
……ちょと、歩いてくる
[ホテルの外壁を見上げ、これが目印だと記憶する。
それからポルッカに背を向けると、少しだけ足早に踵を返した]
…、――
[蒼真の剣幕と叩きつけられる声に
イステは眼を確かに丸くして]
…、…ソウマ
[何と謂うべきか。
唇を薄く開いて逡巡するような間がある。]
…避けて通る、という選択は
私の中に ない。
痛みにも 意味がある。
…私の痛みを問題にしながら どうして、
[手に触れていた指先を、
そろりと頬の辺りに、伸ばした]
お前の方が、
痛そうな顔をしているのだ、…ソウマ。
−夜/通り−
[ショートブーツの爪先が、カコン、と小石を蹴飛ばす。
それは、街路の植木の中に飛び込んで見えなくなってしまった]
不恰好、かー
[呟く。そのまま空を見上げる。
人工の光、空を飛んでいく飛行機の光。
この街の空は、酷く明るいと感じる。
沢山の音、沢山の人、それなのに感じるのは]
…さびしい
[独りぼっちになったような、そんな気分。
記憶の淵で淡く揺れているのは、星の光。
今よりずっと暗くて静かな夜だった───ような、気がする]
[『蒼真、父さん達は医者なんだ。
たしかに危険かもしれないけれど……。
沢山の人が傷付いてるのを放っておくなんて出来ない。』
『そんな事をしてしまったら、僕達が医者という道を選んだ意味がなくなってしまう。
だからね、見て見ぬふりをして放っていくっていうなんて選択は、父さんと母さんにはないんだよ。
この危険には……意味があるんだ。』
『大丈夫……半年もしたら戻るさ。』
――……そういって。
困ったような笑顔で駄々をこねる俺の頭を撫でた。
それが、最後。]
[かこん。もうひとつ石を蹴る。
今度の石蹴りはうまくいって、二度、三度、と
人の間をすり抜けていく。
六度目の蹴りで側溝の隙間に挟まってしまった]
願い
[なんだろう。歩きながら考える。
もう少し記憶の欠片が残っていたら、わかるのだろうか。
でも、記憶なんてものはもうさっぱりだ。
まるで、必要最低限のこと以外は与えられていないかのようでもある。
リュースが言葉でも喋れるものなら聞くというのもあるが]
わっかんねえよ、くそジジイ
[昔はわからない事をどうしていたんだろう。
かすかに唇を尖らせながら思い出そうとするのだけれど]
そんな簡単に、見つかるわけ、ねえだろ───────!!!
[往来であることも忘れて、遠慮ない腹式呼吸。
気づいたときには遅く、人々の視線が
こちらに向かうのがわかる。
慌てて持ち上げた指先から、ぽたん、と雫の落ちる音。
金色は街路の舗装に落ちて染みこむ。
ショーウィンドーの前、大光量のそばであったことが幸いと
考えるよりも先に走り出して路地裏へと引っ込む。
とりあえずはホテルまで戻ることを優先しながら、
その中で気づいたことがひとつ]
…こうなったら、意地でも見つけてやる
[自分に与えられている義務。終焉への反逆。
与えられているそれが一先ずのゴールテープだというなら
その先に何を見出すかは、まだ───いくらでも**]
似たようなもんだろうが……。
[死ににいくわけではない。
それは両親も同じだったはずだ。
死のうとして戦場に向かったわけではない。
……それでも、戻ってこなかった。]
嗚呼。
忘れてた古傷抉られたもんでな。
[揺れる眸を真っ直ぐ見ながら。
小さく舌打ちをする。]
―――なんでまた、こんな……。
違う。
私は―…、…
[形よい眉を少しだけ寄せる。
傷はもう、薄皮で塞がっていよう。]
使命を果たすまでは、
戦わなければならない。
だから。死にはしない。
死ぬわけにはいかない。
お前も死なせはしない。ソウマ。
――古傷?
なにが、あった。お前に。
……。
[死なない、死なせない。
信じられたらどれ程楽だろう。
だがどうしても、楽観的になれなかった。
過去に失ったという事実が
希望的観測を過剰なまでに否定する。
それでも……きっと縋りたかったのだろう
自分より目線が低い彼女の頭を、
そっと触れるように撫でた。]
――個人的なつまんねぇ話だよ。
気にする必要なんか、ねぇさ。
…?ソウマ…?
[動きの少ない表情に、
やや狼狽えたような色がさす。]
何故、そのように、触れる。
[イステはゆるく己の手を握りしめる。]
…お前が言葉を荒げるほどのことが
つまらない話だとも、
気にする必要がないとも
私には、判断できない。
すまん。嫌、だったか?
[頭に触れていた手を引っ込めるようにして、
本当につまんねぇぞ、と前置きをしてから口を開く。]
……親父は一言でいえば自由な奴でな。
「思った通りにやれ」
「自分の世界は自分で回せ、他人に乗っかるな。」
が口癖だった。
俺もそんな親父が好きだったし、俺自身もそういう風に育ってたよ。
[どこか懐かしむように、
少しだけ笑みを浮かべる。]
でもな、ある日他の国で戦争が起こった。
……医者として放っておけなかったんだろうな。
いくら周りが止めても聞かなくてなぁ。
お袋と一緒に行っちまったよ。
――……そして、帰ってこなかった。
[静かに目を閉じて、夜空へと顔を向ける。]
周りの皆は悲しみながらも言ってたよ。
「普通にしていれば、危険な場所にいかなければ。」
「皆の言う事を聞いていれば。」
……本当にその通りだ。
変な信念やこだわりなんか捨てて、普通に暮らしてれば死ななかった。
俺も、独りにならなかった。
誰も不幸になんてならなかった!
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