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[白薔薇思わせるアナスタシアの笑みに瑠璃色がふっと和らぐ]
纏まらぬ思いでも――
知らぬより知っておいた方が良いか、と、ね。
[如何にもほおっておけぬ彼女の兄と彼女に対しての城主のお節介。
彼女が駄目ねぇと紡いだその人の最期が
ユーリーが釦を落として其れを追ったように
『取れたボタンを階段から落として、
拾おうとした拍子に自分も転落した』
だなんて、城主も未だに知らない事なのだけれど**]
―本塔→外へ―
[見えぬ空は既に、瑠璃から菫へ変わっているのか。
霧深いこの場所でも闇夜は淡く色を薄め、
赤や白の薔薇を、白百合を、――全てを、包み込んでいる。
葉から落ちる透明な水滴はきらりと光った]
…………。
[白い薔薇の茎。立ち止まり、無造作に指を滑らせれば。
鋭い棘は白い肌に朱の珠を浮かばせ、
ゆっくりと伝い花弁に落ちる間、傷は既に塞がり始める。
ほんの少し前とは、もう違う生き物なのだ。
吸血鬼ほどではなくとも人間よりはるかに早く、治癒して。
娘はそれを噛み締めるように見届け、
赤に染まった薔薇を摘むと足は城門へと]
[ナタリーの消えた場所。
風に舞っていた白銀の灰は、そこに残ってはいなかった。
跪き、地面に手を触れさせる。
吸血鬼となり、最期、何を想っていたかは分からないけれど、
グレゴリーとユーリーに向けた叫びは覚えている]
私、貴女ともっとお話したかった。
初めてだったの。あんな笑顔を、向けてくれたひと。
――――。
[ナタリーは死に、グレゴリーは吸血鬼となり、
自らは人間ではなくなり、そしてグレゴリーを殺した]
[生を望んだだろう、者ばかりだと]
[なのに何故自分は。
そう考えることは、死者への冒涜なのだろうか]
[血に染まった薔薇を手向けはしない。
娘の幻想かもしれない、でも今どこかにナタリーがいるなら、
似合うのは太陽を向く草原の花だと思うから]
[彼女が、アナスタシアが、グレゴリーを噛まなければ]
[そしてそのナタリーが――。
考えても何もかも遅く、ただの自らへの慰めだと分かっている]
[絡まった思考は、もう解けることはない]
――今の私は、人間? 吸血鬼?
そのどちらでもない半端もの、ということかしら。
[アナスタシアの口ぶりでは、そうなのだろう。
誰も来ないなら礼拝堂へ赴き
静謐な空気の中、ただじっと椅子に座り祭壇を*眺め*]
ダニールは、ここまで読んだ。 ( b25 )
― ??? ―
[どこからか聞こえてきた言葉を胸の中で思い返し]
燃やしたい……ね。随分と過激だな。
そうしたら、お茶会ができなくなってしまうんだが。
[目をむくことはなく、疲れたように呟いた。]
[檻の向こうで輝いているであろう星さえもが
いつかは消えうせる定めなのだから、
ここもいつかは――。
できれば今はそうはならないでほしいが、
もしかなわぬならばここと運命を共にしてしまおうか。
などと慣れぬことを考えつつ、溜息をついた**]
ダニールは、ご城主様から逃れたいとは思っておらぬよう。
それでも…死者が囚われた我が身を少しでも恨むことがあったなら、私はそのような檻は毀れるべきと、思うのです。
[今回の宴について語ったときに、城主に憂いの翳りを見た気がした。見誤りと思えずに、その心は如何あるのかと]
死した魂まで囲い込む「理」は、
まこと貴方の望む呪縛でしょうか?
僭越ながら
[ぬばたまを瑠璃に据える。永遠にも等しい時間を経て来たのだろう、城を統べる者へ。慈しみに似た柔らかな闇を宿して]
最前、死者を絡め取るからくりについては言葉を濁されましたね。
私にはそれは、イライダ様の、孤独を――恐れる稚けき心が、生み出したもののように思えます。
[カチューシャを傲慢と評した口は、自らも傲慢に己の思想を垂れる。笑うなら笑えと]
この城は、黒き檻ではなく
「開かれた庭」であっては、いけませんか?
[一年前に城に踏み入った吸血鬼狩りの者が為した行為をアナスタシアは知らない。
語るのは甘怠い夢。絶望の縁で一度は拒絶した幸福な結末だった]
…私が死なせた若者は、今もこの城にいるのでしょうね。
[名は何だっただろう。聞いた気もするけれど]
宴とは本来楽しむもの
城主も、眷属も、集ったみんなも
食べ、飲み、踊り、交流を深めて
しあわせに。
[名も思い出せないのに、井戸のほとりで聞かされた夢物語ははっきりと胸の裡にあった。
どこか遠くを見るような青年の声音を甦らせる]
――死せる魂が牢獄の中にあるなら、許せないと思った。悲嘆と怨嗟の声の上に立つ楼閣なら、燃えて灰になってしまえばいいのにと。
だけど…そうやって過ごすのは、悪くないわ。
ここが開かれた庭であるなら。
[ヴォッカの瓶に眠る灰をゆるりと揺らし、斃れた吸血鬼達を思う]
私は海が見たい。潮の風を感じてみたいわ。
ナタリーの故郷のお祭も、見に行こうと決めたのよ。
[生きたい、と言う代わりに、望みを口にする]
それに、うちの陰気臭い両親のところへ、ダニールを連れて行って――安心させてあげないとならないし。
ここに囚われたりはしたくないの。
気紛れにほっつき歩いて――イライダ様が望むなら、いつか土産話を肴にお茶会を。するのよ。
[誰にという響きは、特に問い詰める風でもなかったから、曖昧に笑って黙秘した。
もし教えて万が一イヴァンに迷惑かかっても困るし…とは内心の弁。
――そして申し訳なさそうに眉を下げた。
嗚呼馬鹿だな俺……なんて、酷い。
漆黒に滲む哀。
言葉を繋ぐ穂を探すように、幾度か唇が開いては閉じて、]
貴方は、…――まさしく主、なんだなあ。
[守ることを当然とする、其れはまさに王という存在に似て。
城主。当たり前のように呼んでいた其の二つ名に、急に重みを感じた]
宴が終わったら
ご城主様――客人をかえすだけでなく、どうか
[叶わないとしても、言うならタダだといっそ強引に]
迷い込んで出られなくなった死者達の魂を――にいさまを、自由にしてくださいませんか。
[深々と頭を下げた]
[城主はアナスタシアが吸血鬼となった事は知っている。
けれど彼女が何をなそうとしているかまでは知らずにいる。
闇を通じて聞こえた呟きに誰かが何かを燃やそうとしている事だけは
伝わってきたのだけれど未だ何の事か問うていないから
点を繋げる為の線は描けはしない]
――…何が正しい道かは私には分からない。
それでも、然様な言葉が聞けるなら伝えに来て良かったと思える。
[何を思い伝えにきたかはなどは言葉にしない。
自らの事は問われぬ限り言う必要がないと思っている。
アナスタシアの心の変化に気付かぬまま名を呼ばれぬばたまを見詰めた。
紡がれた理と彼女の意思に一つ頷くは相槌にも似て]
そう……。
なら、聞かせて頂きましょう。
[彼女の性分を少しだけ羨ましく感じるも
如何して羨ましく思うかまでは分からずに
ただ、少しだけ眩しげな眼差しで彼女に先を促した]
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