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>>+83
ああ、まぁ、そうなんだが…。
[過ごした時間が…というのには納得しつつ、
でもこれで引っ込んじゃいけない気がする。
そんな思惑を知ってか知らずか、見上げる眸はまだ疑心がある。]
――……
[そして、畳み掛けられるように態度で示せとか言われれば、そりゃもうやらないわけにはいかなくて…。]
――…お前、そんな厳しい顔して、
なんてこと言ってるんだよ。
[でも、むっつり無表情の女でも、やっぱりもう
……なワケで…。]
[引き寄せる身体の力を途中で抜くと、
自らもベッドに座って、小柄な人を抱きしめた。
その人はそんなに細いくせに、言うことはいちいちはっきりぱきりと強すぎる。
でも、だからこそ、柔くしたい、その姿もみたいと思うわけで。
とりあえず、返事が返ってくる前に、いや、返ってる途中でも構わず、その顔を引き寄せて口付けた。]
[そして、しばしの時間のあと…。
目の前に人に……。]
確かに、過ごした時間は少ないが、
その割には、
の割合は高いと思うぞ。
[なんだかんだで今晩でキスするの何度目だ?]
はっは、―――はっはっは。
別に身勝手だとは思わないよ。
どうせ、人生に意味など無いから。
だからこそお前には、『色々大事なモノを失ったけれど、それでも一人の少女の命を救う事は出来ました』―――そう云う意味を、くれてやろうと思ってたんだけどな。
[右手の羊を取り出す。そこから出て来たのは、何て事は無い工作用のハサミ。]
それで、たった一つの意味に縋り生きて行くお前を見て。
大笑いしてやろうと思っていたのに。
何せ―――人様の人生を掻き回すのは、最高に最高に愉しいからな?
[ゆっくりとベルナルトへ近付いて行く。その命を、奪う為に。]
それにしても、この列車には死にたがりばかりだったな。
死を恐れ、生きたいと願わない限り、手に入らないモノはいっぱい在ると云うのに。
体面を気にして、実利を取らない奴等が多過ぎた。
お前もそうだよ、ベルナルト。
私を殺したいので在れば、どうして後ろからやらない。
何故、声を掛ける。
己への云い訳をしたいのであれば、背後から忍び寄り、首を絞めながらだって出来るだろう?
なのに、何故わざわざそういうお喋りをするのか。
答えは簡単だ。迷っているからだよ。
本当に、殺して良いのか?
助けられるはずの少女を、自分の意志で殺して良いのか?
お前は迷っている。
自信が無い。
だから、己の感情、理論、内側―――そう云ったモノを吐露する事で、決意を固めて行かなければならない。
[ゆっくりと。ゆっくりと。飛び掛かる為に間合いを詰めて行き。]
その引き金は重過ぎて。
ゆっくり、少しずつ、『自分は間違って無い』―――そう云い聞かせないと引けやしないんだ。
下らない。サーシャを殺した時のお前は、もうちょっとマシだったぞ。
……。
[人狼を冷たい目で見ないことが嬉しいと。そう言ったユーリーの言葉を反芻する。
人狼の悲しみを考えたことがあるのかという、ロランの言葉を思い出す。]
……あの人は。人狼を、楽しんでたけど。
[自分に祝福の爪痕を与えた狼を思い出す。村を滅ぼすのが愉しいと言った彼の言葉しか、その表面の部分しか、そういえば自分は知らなかった。
狼が嫌われるものであることは知っている。周りの会話で、事件の記録で。
けれど自分にとっては救い主で……でもロランが狼に食べられたとしたらどうだろう? 信仰を保ったのだろうか?]
……わかんない。
[なんだか難しかったし、ロランたちの様子は見えないけど受信する電波がなんだかおもしろくないし、とりあえず毛繕いに集中してみた。]
[しばらく立ちすくんでいたが、ゆっくりと、サンドラに近づいていった。
途中ベルナルトから制止されようと構わずに。
そして、サンドラの肩に手をおいた。
拘束するほどの力はいれず。]
ねぇ、また黙って見てるだけなの?
[耳元で囁きかける。
それはサンドラにしか聞こえないほどの小さな声。]
生き残るためには、それが一番賢明かも。
でも、ベルナルトさんの持っている銃、
もう弾が入ってないのよ。
このままだと、彼、死ぬかもね。
…どうする?*
[ナタリーの小さな悲鳴に反応して耳をぴくり]
………もぅ弾入ってねーだろ。
ベルナルトも、気付かねぇ程てんぱってるのか?
ありゃもう立派な『鈍器』だよ…
…祈りみたいなもんだ。
お前みたいに頭が良くねえ、色んなモンを割り切れるほど長く生きてもねえ。
言葉にするとしないでは、大違いなんだよ。
それに地獄に行ってからじゃ、何考えてたか伝える術がないだろ。
[シャノアールの言葉は何一つ否定せず、肩を竦めた。
しかし、意味を与えてやらなくもないと言わんばかりの言葉にだけは眉が跳ねる。]
何だそりゃ、憐れみか?
俺は人から施しを受けるのは、何より嫌いなんだ。
[ほら、もう一つシャノアールを殺す理由が出来ただろう。
言い聞かせるよう、胸の漣に溶かし込んで行く。
殺せるはずだ、迷わず殺せと。]
[羊の中から出てきた鋏に、ほんの少しの困惑が浮かぶ。
少女と鋏、それに羊が、命の掛かった場には余りに不釣合いで、更なる迷いを生む。
が、工作用と言えど、命を奪うつもりで使えば十分凶器になるだろう。見誤るな、あれはシャノアールだ。]
………殺して良いのかと。
他に方法はねえのかって。
お前の事は見て見ぬフリしてでも、残りの生を取り戻せればって、
ああ、迷ってる。迷ってるさ!
[じりじりと間合いが詰まる。
余り近づかれると、リーチの長さが逆に不利。
喉の奥が引き絞られ、小さく鳴った。]
でもな。
聞いてりゃ、お前はお遊びが過ぎるぜ。
人の人生を弄ぶしか愉しみがねえんなら、そろそろ隠居のし時だ――!!
[指に力が籠る。
照準ぎりぎりで、銃爪を弾く。]
[―――銃身は、光を放たない。*]
[ふぁあ、と背伸び]
………というか。
上手いよな……
躾られた?
ははっ、他ん所もしてくんね?
[返事は待たず、狼の姿になる。ミハイルの黒狼よりもやや小さかった。寝そべり、サーシャに背を向けた**]
……やれやれ。
[特に何かを云う訳でも無く。引き金を引くのと同時に飛び掛かり、その胸へとハサミを振り下ろした。明確な殺意と経験に裏打ちされたそれは、何者の邪魔も無ければ躰へと突き立てられるだろう。少女に迷いは無い。そんなモノが在っては―――此処まで来られなかったからだ。]
[...は困惑と混乱の極みにいた。目の前のことをどのように理解していいのか分からなかったのだ。
自分に少女を託した男は、明確な殺意をもって少女に対峙をしている。
男を見る、少女の冷ややかな視線を見て、男が本当に守りたかったものをようやく察した。]
あたしは…どうすればいい…?
[心のままに動くこと、それこそ生きる証かもしれない。
それなら、彼を止めるのはお門違いだろう。
迷いながら、ただ、呆けたように見守っていたら、肩を誰かに触れられ、我ながら大きくびくりと震えた。]
[ナタリーが告げる事実を、頭の中で咀嚼する暇など事態は与えてはくれない。
ただ、目の前で、鋏の銀色の光を見た瞬間に、...は走り出していた。]
やめてっ!!
[安全な止め方なんて知らない。ただ必死の捨て身でカチューシャに体当たりをして切っ先を反らす。
ハサミがその拍子に肩口に触れて燃えるように熱かったが、流れ落ちた血液が自分だけのものかどうかはわからない。]
ははは…。
カチューシャは軽いね。ウエイトの差は伊達ではないだろ。
早くダイエットしなきゃいけないって思ってたけど、役に立ったかな。
[軽口をたたいて痛みを紛らわそうとした]
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