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………! こいつ……ッ ……!!
[尋常でないサーシャの力。腕一本では支えきれない。
後ろからサーシャを止めに入ってくれているのだろう、ユーリーの悲鳴が聞こえた気がしたが、何が起きたのか分からない。
滅茶苦茶に振り下ろされ続けるナイフが首を、腕を、彼方此方を掠め。
視界が霞む。腕が痺れる。意識が遠のく。]
―――ぐ、う…!!!
[不意にサーシャの力が弱まった。
これが最後とばかりに押し込んだ腕、その刃は反転し。
彼の体へとずぶりと深く沈む。
―――眼前に、真紅が散るのを見た。]
[カチューシャに違和感を感じたのは…。
そんなのは俺の気の迷いで。
今はただ、この男を止めるのが先だから。
あぁ、嫌なんだ…]
…!…ユーリー!
[...は、態勢を崩したユーリーを庇う様に前に出る。サーシャの更なる攻撃を予想したが、ただ、彼は目の前の少女…を血走った眼で睨みつけ…]
[べちゃり。サーシャの躰から溢れ出る鮮血が、少女の顔にかかります。それはとても熱く。そう、人間の血って、暖かいんだよなぁ。そんなことを、賢者は考えていました。]
[赤。あか。
突き立てた刃を伝い、ぽたり、ぽたりと降り掛かるのは。
雨のような。涙のような。]
[サーシャの手が空を切っている。
色の無い唇から、声なき声が漏れている。
呼び続ける名は、ひとつ。
「ろらん」―――]
[サーシャに突き立てられた果実ナイフは。
どんなに彼の身が薄かろうと、刃の先が背に届く事はなく。
ただ、サーシャの体を抑えていた腕に、手に、零れ落ちた血が……]
……あぁ、なんだ、俺の方こそ気が触れそうなんだが……。
あぁ、どうする…?
この場に居るのは、今にも死にそうなベルナルトと、エーテルだけだ…。
[遅れて後部車両へ到着した。もみ合う男達。その先で後ずさる少女。
刺されても尚、少女に止めを刺そうと足掻く青年、そして、
白刃が、少女ののど笛を切り裂いたようにみえたのは…。]
ベルナルトを、このまま襲ってしまうのも、少しもったいない気がしてな…
なら、エーテルか…と。
ジョーカーに任せても、いい。
/*
ん、じゃあこのまま任せるか。
候補がエーテルしか、思いつかん。
まぁ、エーテル乗っ取っても、カチュの死体が出来上がるしなぁ…。
[崩れた床から、虚ろな瞳の青年の顔をじっと見上げる。]
サー…シャ。
[最早上がらない腕を、ゆっくりと伸ばす。
ぽふぽふと、小さな子供を宥める時のように動かして。]
お前は頑張った。
今度は、しあわせに――――
[サーシャを見つめ、表情を緩める。
囁きは、目の前の男と、遠い遠い誰かに向けたもの。
そうして、長く息を吐くと、そっと双眸は伏せられた。]
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