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くっ
[獣の鼻は確実にそこにロランがいることを確信していた。
完全体だったら、そんなドアを壊すなど、そう難しくもなかっただろう。
しかし、現段階では、それは、おそらくはかなりの命を削る作業だったが…。
自分でもなぜそうするのかわからない。
だけど、気がつけば、ドアに体当たりを繰り返す。
やはり傷は新たに破れ、赤黒い血が飛び散った。
が、幾度めかの、何十回めかの体当たりで、ドアが開けば…]
ロランッ
[床に血だまりを作っている白い女を発見しただろう。]
けーだーもーのー…。
[そう呟きながら、ベッドのシーツを引っぺがし、
肉片と血だまりばかりのシュテファンにふわりとかけた。
それは、すぐに血が染みだして、赤黒く染まっていく。]
…気休めにもならないわね。
……ぅ
[ナイフを無理矢理投げたところで、力尽き、ずるずると壁伝いに崩れ落ちた。
誰か女の人の声が聞こえる。ナタリーか、サンドラか、いずれにせよカチューシャのしたことを信じてもらえるとは思えない。]
……ろら、ん……
[戻らなければ。手当てしないと。ゆっくりと食堂車に背を向ける。ロランが別の部屋に逃げ込んだことなど知らないから、一歩一歩、シャノアールの部屋へと。]
痛い……痛い……
[うわごとのような、うめき声。
この間の人狼騒ぎはあんなにも幸せだったのに。さっきまであんなに昂揚していたのに。
狼がそばにいるのに、どうしようもなく辛かった。]
[鍵の破られる音を、遠く、聞いていた。
間近に黒い影が差せば、重たげな眼差しが見上げる。]
――……ミハイル、
[薄闇の中、女の顔色は蒼褪めて。
頬は赤黒く血で汚れて、ひどい有様だったけれど。
それでも少し微笑ったように見えたかもしれない]
[怖いおにーさんに投げられたナイフは、肌をかすめていきました。
それに塗られた毒によって、少女はいずれ命を落とすかも知れません。
それでも少女は後ろを振り返ることもなく、銃を羊さんの内側へと隠し、食堂車に向かって走り続けます。傍目に映るこの光景を利用するため。捕まって組み伏せられて殺されるのを防ぐために。
生きるために走り続けました。文字通り、必死なのです。
食堂車へと着くと、怖いお兄さんは諦めたのか、追って来る様子はありません。とりあえずそこで一息つくことにしました。]
…ごめんなさい。
[そう呟いて、足元の燭台を手にして、ゆっくりと廊下に出た。
隣の、シャノアールの部屋から冷たい風と話し声が聞こえる。]
そういえばガラスの割れる音や銃声がした、ような?
[何処か上の空で呟いた。
状況を把握しなければ、とシャノアールの部屋に足を運ぼうとしたが、
食堂車の方からうめき声と何か引きずるような重い音が近づいてくるのを感じた。]
なんで、お前が、
[撃たれているんだと…顔を歪める。]
――……誰だ、やったのは。
[殺すと言っていた相手が実際死に掛かって、それに激しい怒りを感じている。
いろいろ矛盾をしている。
だけど、感情は止められない。
白い女が薄く微笑んだことに、背中の傷よりも胸が痛んだ。]
[抱き起こされれば、その体温が優しくて。
まどろみの中に誘われそうになる、けれど]
……カチューシャ、
[問いには答えなければ、と
色のない口唇が、ゆっくりと動く]
……そう、あの子、
サーシャを撃とうとし てた……
サーシャ、は……?
[どこの傷口が開いたのか、もう把握できない。足下に、ぽつぽつと血の跡。]
ぁ……
[前方に明かりが見えた。燭台の炎。誰かが居る。]
ろらん……?
[友人の元気な姿を、一瞬期待する。けれどそこに立っていたのは、数刻前に薬をくれた少女だけ。]
なたりー……
[足を速めようとして、前に倒れる。手当が出来ると言っていた、先ほどは拒んでしまったけれど。]
おねがい、ろらん、たすけて……!
あのこ、カチューシャ、ピストルで、ろらんのこと……
[途切れ途切れな説明。赤黒く汚れた指が、すがるように彼女の腕をつかんだ。]
>>150
カチューシャ、だ と?
[一瞬、耳を疑う。
あの子どもが撃ったというのか……。
だが、この場で嘘を言うとは思えない。
そう、カチューシャの中がシャノアールだということにはまだ気づけず…。]
サーシャ?
いや、サーシャは見ていない…。
[その声に力がない。
それは、確実に死の予感を感じさせていた。]
-回想:シュテファンの部屋前-
[何があったのかと部屋の中を覗こうとし、ナタリーからの説明で足が止まった]
…な に
シュテファンなの…?
[アナスタシアを捕縛したいと。武器はないかと問うてきた姿を思い出す]
ぁ…
[何かを告げようとしたが、口元を抑え頭を振る。…の顔は酷く青ざめていた]
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