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……ん。
[トイレで念入りに手を洗って毒を落とし、適当にコートで拭う。左手首の傷が開いて、水がしみた。]
……いたい。
[人狼にもらった傷はあんなに嬉しいのに。ふつうの傷はなんで痛いだけなんだろう。そんなことを考えながら手洗い場を出る。]
……あ。ロラン。
[食堂車に向かう彼らに丁度出くわしたか。マフラーがなくなっていることに気づくほど、青年の観察力は鋭くなくて。]
……食べられて、ないの?
[イヴァンとシャノアールの死の様子を聞けば、後者にだけひどく反応するだろう。
……わからない。占い師の組み合わせがわからない。]
……いたい……。
[これは本当に仕えるべき相手? 胸の傷が痛んで、ぎゅうとコートを押さえた。**]
……ロラン、だ。
[ローラ、その呼び名はやめてほしい、と暗に告げたのは、
大分遅れてのこと、恐らく動揺していたのだ。
涌いた疑心と……指先一つ、動かせなかった自分自身に。
いまだ苦味が残る、無意識に唇に触れながら歩いていれば、かけられた声に顔をあげた]
サーシャ……
[無事な姿に“死んだら食べてもらえる”という
彼の望みが叶っていないことに安堵すれば、ちりりと複雑な感情が涌いた。
ミハイルはサーシャにどのような視線を向けていただろう。遮るように両者の間に立てば、いたい、という呟きが聞こえた]
……また、痛い?だいじょうぶか?
[反応の偏りを怪訝に思えど、とりあえずは同行を促した*]
[人狼に対処することに慣れた人たち、一部はおののくよりも、生き生きとして動いているように彼女には見えて。それは人の生存本能のあらわれかもしれなかったが、彼女にとっては嫌な記憶を掘り起こすものでしかなかった。]
あたしも、あんな顔をしていたのかな…。
[もう、何も見たくない、聞きたくもない。他者に気遣いすらもできず、後退りをすると、気付かれないようにそこを後にした。]
―一等車両・自室―
[ぎゅ、と唇を引き結んだまま、シャノアールの部屋から自室へと戻り、ベッドの上にどすん、とトランクを置いた。
ばさばさっ、とずた袋から衣類をぶちまけ空にすると、閃光機(ストロボ)とマグネシウムの閃光粉が入った箱とを一緒に突っ込む。
が、少し思い直して旅行用石鹸のブリキ缶から中身を捨て、丁寧にぬぐった後、閃光粉を少し取り分けて、撮影器材とは別に上着のポケットに入れた。
その後、再びライカを皮ストラップで首に下げると、その他細々した物をずた袋に追加してから外に出る。
ベッドの上には、几帳面な彼にしては珍しく衣類や生活雑貨が散乱し、トランクからはいつぞやの、茶色い狼のパペットが半分、挟まれた形で飛び出している。]
―機関室―
…人狼達の、今晩の前菜は、ラビットのハギスだったようですねぇ…。
[以前町では、凄惨な現場であればあるほど、警官達はその手のブラックジョークを言い合っていた物だったが]
………面白くありませんねぇ。
[少しも気は晴れなかった。
気分が悪くなった時のために、バケツを傍らに、閃光粉の残量を気にしながら、ポイントを絞って「現場写真」を撮影してゆく。]
こんな事なら、仕事用の極東製のカメラを手荷物に入れておけばよかったですねぇ…。
[ぶつぶつ言いながら、撮影を終えるとベルナルトに倣ってラビをシーツで覆い、次の現場へと赴く。]
―一等車両・シャノアールの部屋―
[シャノアールを前に、勢いで引き抜いてしまったナイフの重みに気づき、しまった、と思うものの後の祭りである。
いつぞや警官たちに指示された手順を思い出しながら、傷口を、仕方がないので一度ハンカチを開いて兇器のナイフの撮影をする。]
はて。
[ナイフを包みなおしながら、今さらながらにシャノアールが食い荒らされていない事に気づく。
が、それは「占い師」という特殊な立場と何か繋がりがあるのだろう、と無理に自分に理由づけて、もう一枚、二枚フラッシュを焚きつつ引いて撮影をしている。]
[イヴァンの側から離れたいと。だが下半身が思ったように動かず。後ろにと捻った上半身だけが動き、どぅと床に倒れこんだ]
…くっ
[強かにぶつけた腕の痛みに顔を顰める]
……あぁ、もう1人…居るのか?
[人狼が居るなら、被害者は…]
―→食堂車―
[手慣れた作業をこなしているうちに、だんだんと気持ちが落ち着いて行くのを感じる。
やがてベルナルトから掛けられた言葉>>20を、ぽん、と叩かれた肩の感触と共に思い出した。
それは元より向かうつもりの先だったので、否はない。
食堂車に着くと、イヴァンが死んでいる、と誰かに告げられ、再び撮影器材を取り出した。]
外傷はありませんねぇ。
[撮影しながら、誰にとはなく語りかけている。]
もっとも…、僕にできるのはこうして現場の様子を記録しておく事だけですから…。
いずれ夜が明けて、列車が駅に到着したら、その場でしかるべき機関の方々にお任せしましょう。
そうすれば、イヴァンさんの死因もはっきりする事でしょう。
ところで、どなたかアナスタシアさんかどこに居るか、ご存知ないでしょうか?
僕は彼女を捕縛しておこうと思うのです。
[カメラから目を下ろすと、ぐるり、と周囲を見渡した。]*
―食堂車―
[食堂車についたところで、イヴァンの亡骸がまだあることを漸く思い出した。少女の目に触れぬように、とすれどやはり気遣いは少し足りなかったか]
……子供がいる。
出来れば、彼を目に付かぬようにしてほしい。
[シュテファンが亡骸の様子を撮影しているのなら、
多少動かした問題はないだろう、と言外に口にすれど自分が触れる気には到底なれず]
[ユーリーの傍らにはダニールの姿があっただろうか。
笑おうとして失敗したような引き攣るような表情が、目に入る。大してシュテファンは酷く冷静に見えた]
……捕縛?
アナスタシア、彼女が怪しいというのか?
おそらくは一人でいるだろう、と思うが。そこに至る理由はなんなのだ。
[言葉は事務的に零れる。
理屈をなぞるのは、感情を表現するよりずっと楽なことだった]
[このままへばっている場合じゃないのかもな、と思い…]
ダニール、すまんが、手ぇ貸してくんない?
1人じゃ無理っぽい。はは、みっともないな…。
[立たせてくれ、と手を差し出した]
>>63
ああ、わかったよ。ロラン
[伸ばした手は空を切り、名は呼びなおす。
笑みは止めて、先にカチューシャを連れて歩く。
すると、そこに、あの狼に対して笑みを浮かべる青年…サーシャがいた。]
――……
[ロランが彼に話しかける。
その様子をそれまでと同じく興味深く見ていた。]
―廊下―
[ロランの手を、きゅぅと掴んだ。柔らかな手、真っ白な手……それが示すことに気づくことなく。]
……おおかみ、ほんとうにいるのかな。
[逃げたかもしれないだとか。誰かが言っていた気がする。
……まるで人間に殺されたかのような、シャノアールの死に方。]
賢者の人、狼だって言われたのに。
[逃げたのならまだいい。殺されてしまったんじゃないか……そう考えると不安で、悲しくて。
カチューシャやミハイルはその言葉の意味に気づいただろうか。取り繕う余裕は、ない。
払われなければその手を握ったまま、食堂車へついていく。]
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