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村は数十年来の大事件に騒然としていた。
夜な夜な人を襲うという人狼が、人間の振りをしてこの村にも潜んでいるという噂が流れ始めたからだ。
そして今日、村にいた全ての人々が集会場に集められた……。
[湖のほとりに佇む宿。
酒場も兼ねた食堂に、ひと気はなく。]
― 宿 食堂 ―
[カウンターの向こう側で、黒髪の女はひとり、息を吐く。
その表情は冴えず、雪色の頬に睫毛が重い影を落とす。]
まさかこの村でも、あの噂を聞くなんて――……
[女は知らず、胸元で揺れる金緑石を握り締めていた――]
真夏であろうと、けして融けない氷の湖。
常冬の寒さに見守られた村に、蒼白い月が昇る。
凍れる水車は時を刻まずに。
再び流れるそのときを、ただじっと、待ち続ける。
ロラン が参加しました。
― 墓地 ―
風の音が、変わったな…。
[...は耳が千切れそうな勢いの寒風の中、毛皮のコートの襟を立てながら厚手の革靴の足跡を作りながら、村外れへと向かっていく]
聞いたか、――。
[いつしか足を止める。彼の目の前には他と変わりのない無骨な墓石。生者に語りかけるかのように、彼は話しかける]
隣村で騒がれていたあの噂、
この村にも伝播してきていたらしい。
[白い息と共に淡々とした口調。白い毛皮に隠れたその表情にも感情らしいものは窺えない]
こんな退屈な村は嫌だと旅に出たお前が、
隣村から凍った骸となって戻ってきた今頃になって、だ。
白い村が嫌いだと、緑のコートを着こなしてたお前はどう思う?
あの噂。気になるんじゃないのか?
[墓石に刻まれた名前はまだ新しく、はっきりと文字と為している]
ああ、そうか。
[暫く黙り続けた後、微かに眉を動かして言葉を続けた]
ここにはまだ、噂は届いていなかったか。
[村外れの墓地。しかも普段そう人が来る場所でもない。人の気配も、影も、言葉も、まだ何も届いていない]
出たらしい、――が。
[だから彼は報告した。墓石に伝える最初の人間になるべく。]
お前が死んだ原因の、な。**
フィグネリア が参加しました。
― 自宅 ―
[女は昼なお暗い部屋の中、
ロッキングチェアーの心地好い揺らぎに身を任せている]
ねむれ、ねむれ……
ははのみむねに……
[その唇が囀るは子守唄。
そっと下腹を撫ぜ、愛しげに眸を細めながら。
キィ…っとなる椅子の調べに合わせて、
唄を歌う]
早く早く……。
逢いに来ておくれ。
あたいの可愛いあかちゃん……。
[腹を撫ぜる手は、優しく慈しみに富んで。
この身体に宿る命への愛に溢れている]
[女は村の男と手と手を取り合い、
この退屈な村を逃げ出したのは何時の事だったか。
あの頃は、まだ若く。
愛する人さえいれば、どんな所でも幸せになれると思っていた。
そう。こんな退屈で辺鄙な村ではなく、
刺激に富んだ喧噪姦しい街にこそ、
幸せは有るものだとばかり]
[だけど、逃げ出した先で知ったのは。
裏切りと絶望。
ずっと一緒だと誓い合った手は、何時しか他の女へと絡められて。
帰らぬ男を待ちながら、
眠れる夜に枕を濡らし続けた事を知る者はいない]
[幾月幾年。
帰らぬ男を待ち続けて。
涙が枯れた頃に、女は漸く村へと帰る決意をする]
幸せは……あの人と共に、街にこそ在るのだと思ってた。
けれど……。
[眸を縁取る長い睫毛を震わせて]
幸せは、此処に――――
[いつの間にかこの胎の中、宿っていた命。
それを育む場所は、街ではなく生まれ育ったこの村だと。
裏切られ、ぼろぼろになって初めて理解する]
[身勝手な娘だと言いながらも、
受け入れてくれた両親の優しさに感謝しながら。
女は産まれてくる命に逢う事だけを夢見て、
今日もロッキングチェアーに身を揺らす]
ねむれ、ねむれ……
ははのみむねに……
[村に忍び寄る噂など知りもせず、
子供の為の子守唄を口ずさみ*ながら*]
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